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リタ=ロメール



 私はまだ歩行禁止ということで、病室に置かれたベッドの背もたれを起こしてもらい、痛みを我慢しつつもゆっくりとしながらニコとニーナを待ちます。

 この世界の医療は日本に比べると、とても先端とは言えません。

 ですが木製品やその加工技術に比べれば、その差は遙かに少ないです。千年の間に人類は平均寿命を取り戻したわけで、その立役者が医療ですから。

 鉄関係が発展して切り味の鋭い刃物があり、天然の植物が強力な麻酔として利用されています。

 自発呼吸を止めることはできないそうですが部分麻酔と意識が(もう)(ろう)とする程度なら実現できるようです。


「マリーさんがお医者さんになるまでに、何年ぐらいかかるのでしょう?」

「うーん。極端に早くて四年だな。十年かかった程度の人ならいくらでもいる」

「じゃあ四年ですね」

「おいおい」

「信じてますから」


 ニッコリ(ほほ)()んで言うと、彼女はこめかみを()きながら「参ったな……」と言いました。

 難しいのでしょうけれど、崩壊を経験して家族を失った私たちは強いですから。

 一度は(たもと)を分けても根っこの部分は同じのはずです。


「……二人からも事情は聞いたよ。君の中にある別の人格が崩壊の犯人だった――と」

「別の人格……ですか」

「ああ。実際にその場に居なかった私には、正しさを判断することは難しい。だが二人は『絶対に普段のリタではなかった』と言っていた」

「そういう風に信じてくれるのは、とても嬉しいのですが……」

「重たい――か?」

「…………自信が無いです。第一、私に(ひと)(かけ)()も責任が無いかと言えば、絶対にそれはありません」


 そう言い終えたところで、扉の向こう側からコツコツと人の歩く音が聞こえてきました。

 二人分。

 一つは大きく鳴って、きっと大股で歩いていそうだなあという感じ。

 もう一つは聞き逃しそうなほど小さくて、(うつむ)きながら小さな歩幅で歩いていそう。

 二つの足音はドアの前で一旦収まり、次いで『せーっ、の!』というニーナの声が聞こえました。

 ドンッと勢いよくドアが開いて。


「「リタ!」」


 行動を予想していたマリーさんがドアの前で仁王立ち。

 手に持っていた薄い木製のボードで、二人の頭をズバンッ! ぺちっ――、と(たた)きます。


「病院では静かにと何度言えばわかる!?」

「痛ったぁ……。私にだけズバンッて強くやることないさー!」

「ニコくんは断れなかっただけだろうからな!」

「なんでわかったさ!」

「あれだけ長く一緒に生活して、わからないはずがないだろう?」

「まあ……そうさね」


 横でニコが苦笑いをしています。

 なんだか久しぶりに見るなあ。マリーさんと私たちが一緒に居る光景。


「ふふっ。あははっ――――」


 (すう)()(げつ)前と何も変わらなくて、思わず笑ってしまいました。

 ニコが近寄ってきて、不思議そうな顔で見てきます。


「……リタ?」

「はい」


 不安と期待を見せつつも遠慮なく表情を覗き込んでくる姿が可愛すぎて、思わずキュンとしてしまいました。


「本当に……リタでいいの?」

「はいっ。――あ、まあちょっと(しやべ)(かた)が変わったというか、思い通りに喋れているというか……そのっ、前と違う風にも見えるかもしれませんけれど!」

「いえ――。ふふっ、その表情を見ればわかります」

「表情?」

「はい。リタは普段()()しくても、紅茶を飲んでくつろいだりしていると時折(ほお)が緩んでいましたから。今はその時と同じ顔です。――――『あの人』には、それが一度もありませんでした」

「……そうです、ね」


 ニコは私とボクの違いを理解してくれている。

 きっとニーナだって……。

 それでも、言わなければなりません。


「みんな……。あの崩壊の犯人は私でした。――――本当に、ごめんなさい」


 痛むお腹をできるだけ前に(かが)めて、頭を下げます。

 ですが。


「リタじゃありません!」

「そうさ! 違う人だった!」

「私も、君が望んで崩壊させたなどとは到底思えないな」


 三人はそれぞれ違う言葉で、私の謝罪を否定してくれました。

 それはとても暖かくて、力強くて。

 でもやっぱり、この体がやったことで、私にはもしかしたら防ぐことができたのかもしれなくて。


「……許してほしいとは言いません。――みんなの気持ちは嬉しいのですが、せめて、私の知ることができた全てを伝えさせてください」


 それから私は、人格が入れ替わってから起こった離脱体験やエリカとの再会など、できる限り事細かに全てを伝えました。

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