さー、っちゃ!
眼鏡っ娘のターシャは農家の出身ということで、ココの群生調査と『日持ち』について調査することになりました。
土が軽くてほどほどに浅いところで埋まっているから、片手でも作業はできるとのことです。私も近くで様子を見守りながら、使えそうなものが出てこないか土を掘り返していきます。
壊れていない装飾品がたまにでてくるけれど、実用品は中々出てきません。
まずは雨を凌ぐための布類が欲しいです。もしもこのまま雨に降られてしまうと、今の私たちではずぶ濡れになるほかありませんから。
布があれば、木の枝を森で採ってきて、簡単なテントを作れます。もし布が見つからないようなら、どこか雨宿りできる天然の場所を、探さなければなりません。
他には、お鍋とかお皿とかがあると、きっと助かるんだけどなあ。
「…………妙ですね」
「どうした?」
ターシャの呟いた言葉に、問いかけます。
遮るものがないから、呟く程度の声も通って聞こえました。
「あっ、いえ……。どうもココは、レコが崩れた土の中だけに群生しているようです。――でも」
「……崩れたのは、昨日の午後だろ?」
崩れた土は軽くてサクサク掘り進められるけれど、元々大地だったところに関しては、普通に土としての重さと堅さを持っているわけで。
昨日もココは軽い土の層から出てきたから――。
「ココの収穫量が激減したのは千年前――。レコとスライムの有効活用が始まった時期とそのまま重なります」
「レコの中で育つ作物……ということか。それも、異常なほど急速に」
「人も物も土に還り、そしてココが生まれた――。そういうことかもしれませんね。土の栄養分が豊富ということもありますし」
ちょっ……。それじゃまるで、昨日亡くなった人の栄養をそのまま飲んでるみたいじゃ――!
………………いや、でも。
土に還るというのは、そういうことなのかな。
この世界グリフィールドでは、循環スピードが速すぎるだけの話。前の世界でだって、命はちゃんと巡り巡っていたはずだ。
「他に考えられるとすれば、スライムの影響――でしょうか。一階では実物のスライムを使った講義を受けていたんですよね?」
「ああ。一匹だけだが。――しかしスライムがどうなったのかは、わからないな」
「スライムは極端に脆い生命体です。武芸の経験者であれば手刀一発で潰せちゃうぐらいなので。あの爆風なら木っ端微塵になったことでしょう」
よわっ……。経験値も二とかだもんね。そういうところは、しっかりスライムなんだなぁ。
「大凡ですけれど、ここは教室があった辺りだと思われます。リタ様が埋もれていたのもこの辺りだったので……。スライムの神聖な水がレコに含まれたことで、ココが育った。そういう可能性もありますよ」
「……確か先生は、スライムを接着剤にするためには、擂り鉢で粘り気が出るまで擂る必要があると言っていた。擂らなければ別の作用がある――と受け止めることもできるのか」
んんー。でもスライム、死んじゃってたかぁ。
どこかで生きていてくれたら、接着剤にして雨風をしのげる建物も作れたかもしれないけれど。
……可哀想ですけれど、この状況なら、いくら私だって謝りながら擂り潰します。背に腹は代えられません。
あとスライムって、今ではもの凄く珍しいんだったよね。
いきなり『スライムがあらわれた!』という展開には期待できそうにないかな。
――――それから一時間ほど経って、ターシャはココの保存について一つの結論を導き出しました。
まずはココを違う条件に晒して、変化を記録。
1,土から掘り出したココを、割った状態で保存
2,土から掘り出したココを、割らずに保存
まずは一と二について、変化が出ないことが確認できました。たった一時間で両方とも同じぐらい風味が落ち、腐敗臭が漂い始めてしまいます。
この臭いが鼻にツンと刺さって、ココが売り物にならない理由を痛感しました。こうなってしまってはもう、飲む勇気はないです。
そして――
3,完全に埋まっているココ
4,半分埋めた状態のココ
5,一旦掘り出してから再度埋めたココ
3と4は一時間の間では変化無し。お昼前の休憩時間と確認のタイミングが重なったので、四人でとてもおいしいスープを頂くことができました。
5はアウト。
これができれば、一旦掘り出してから特定の場所の土へ埋めて管理と保管をすることも、できたのだけれど。自然の循環から外れた――ということなのかな。
そもそもココは根菜ではなく、果実に分類されているわけですが。
農家出身のターシャによれば、その分類も学術的なものではないそうで。根とか葉とか枝や茎、種、そういう一切の概念から外れた存在なのだそうです。不思議。
あっ、ちなみにお昼より早い時間に休憩を挟もうと提案したのは、私です!
大工仕事をされているかたは、昼前と昼過ぎの二回休憩を取る――という話を、日本で耳にしたことがあります。肉体労働ですから、休みはしっかり取ったほうが良いのでしょう。
今の私達も体を使ったことをしているわけで、それに倣ったほうが効率的なのかな、と考えました。
四人で輪を作るように集まって、ココを飲みながら少しお喋りをします。
「ニコはどれぐらい進んだ?」
「全然……」
「無理はしなくていいからな。一番大変な役割だって、みんなわかってるから」
「……はい」
気遣うと、嬉しそうに、はにかみながら答えてくれます。
ニコの仕事は、崩落前のどこにどんな建物があったかを、地図ではなく実際の大地に記すこと。こうすることで服飾や布生地を扱うお店の場所を把握し、そこを重点的に調べよう――という狙いです。とにかく布が欲しいので。
正直、そういったお店の跡に何も残っていなければ、布類の期待はできそうにないです……。
昨日の捜索で人が埋まることのできる程度までは掘り下げましたけれど、元の大地に触れるほど低いところまでは、まだ全てを調べきったわけではありません。
「ニーナはどうだった?」
「いやぁ、全然見つからないさー!」
…………さー?
腕を骨折している彼女には、一番安静にして欲しかったのですけれど。
動かずにはいられない――とのことなので、近くの岩場で洞窟……とまでは言わずとも、雨風をしのげる場所がないかを探して貰っています。
しかし山岳地帯は隣町と変わらないぐらい遠いわけで。近くに観光名所的な岩場があるので、まずはそこへ行ってもらったわけです。
ちなみに彼女、結構遠くの生まれだそうで。肩肘を張らずに普通に喋ってもらうと、方言みたいなものが出て、ちょっと面白いです。
「ふむ――。岩場が無理となると、森へ行くことを考えたほうがいいかもしれないな」
「雷雨を考えたら、そのほうが良いかもしれないさー。んー……、本当は獣とかが怖いから行きたくないんだけど。ま、なんとかなるさ!」
なんか沖縄っぽいような……。
「ニーナ、ちょっと『なんくるないさー!』って言ってみてくれないか?」
「へ? ええっと……、な、なんくるないさーっ! …………ってこれ、なにさ?」
さすがに沖縄出身の人間が転生した――、なんてオチでは、なかったですね。
「いや、『なんとかなるさ』みたいな意味の……。南部地方の方言、かな」
「へー。うちも南部のほうだけど、知らないさーね」
きょとんと首を傾げるニーナの横で、ニコが面白い見世物を見ているかのように笑っている。
「あーっ、ニコが人の方言で笑ってるさー!」
「……だ、だって。いつもはそんな喋り方してなかったから、面白くて…………。ぷふっ」
どうもニコには、ニーナの方言が笑いのツボに嵌まるようです。この過酷な状況で吹くほど笑えるというのは、とても好ましいことでしょう。
性格が明るくて、真っ先に私との間にある身分差の壁を取り払ってくれたニーナは、開拓チームのムードメイカーになれるかもしれません。
サバイバル環境になってしまって、水分と幾らかの栄養はココで確保できたけれど、住居が確保できていない。安全地帯と呼べる場所がないとなれば、どうしてもメンタル的に苦しくなってしまいます。
そんな今だからこそ、明るさは大切です!
あっ、あとこの二人は、元々お友達だったとか。
それぞれ特徴的な育ちや経験があるので、折角ですから農家出身のターシャにも話を振ってみましょう。
「ターシャには、方言とかはないのか?」
「私は結構近いところの出身で、六歳からここの育ちなので……。でも、そうですねぇ。たまに帰省すると『にゃ~』とか『みゃ~』みたいなのは、みんな使ってますよ」
今度は名古屋ですか!?
和やかになるからいいけどゲフンゲフン。
この町は大陸の端のほうにある、辺境の地です。ただ、海の先に島がないので海上貿易ということもなく海からは結構離れています。
漁業を営んでいなければ、海の近くに住む人はいません。
隣町は西にありますが、南の方向へ三倍かそれ以上は離れたところに、海岸と小さな漁村があるはずです。歩いて一週間ぐらいの距離でしょうか…………。この状況でそこへ向かうのは、あまり現実的ではないですね。
でもこうして話をしている感じでは、四人の関係が朝に比べて打ち解けた気がします!
「よしっ、じゃあ作業を始めようか!」
そして私はこの時、最も身近な場所にあった秘密を、まだ知らずにいました。




