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妖視点のお話

暗い森の中。


腐臭が漂う。


無数の化け猫の骸を、無機質に見つめる青年がいた。


青年は異様な出で立ちをしていた。


草が生い茂ったような深緑色のゴワゴワした、背まである髪。


褐色の肌。


瞳の色もまた緑だ。


ひょろりと背も高く、圧巻の存在感を放つ。


青年ははっと天を仰いで呼びかけた。


「天狗?天狗?」


青年は目を細めて猫なで声で呼びかけた。


頭上の枝を飛び移り、視界に飛び込んできた金色の髪の少年にパッと顔を輝かせた。


「天狗!気配したと思った!」


緋陰は青年の顔を見てあからさまに表情を歪めた?


「げ、(りゅう)じゃん」


思わず踵を返しかけるが、何処からともなく現れた生き物のように動く蔦にあっという間に絡め込まれる。


「天狗ー!」


柳と呼ばれた青年の前に降ろされるや否や、ぎゅーっと熱い抱擁を受ける。


「んだよ、離せよ」


もがく緋陰。


暫し抱擁を楽しんだ柳は漸く解放した。


「頭が呼んでる」


柳の言葉に緋陰は片方の眉を上げた。


「何だってアイツが」


「アイツ、駄目。敬意払って」


柳は困ったように緋陰を(たしな)める。


「いいんだよ。別に」


生意気はいつもの事。


柳は軽々と少年を肩に乗せて、跳んだ。


木の枝を次々と飛び移り、闇ははだんだん深くなる。


少し開けた場所には圧巻とも言える一本の巨木、神が宿るとされる(くすのき)が立っている。


樹齢は優に200年は越えるのではないかと言われる樹だ。


「遅かったな」


手始めに迎えたのは黒い短髪の青年だった。


髪の色と同じく、切れ長の黒い目には冷徹な鋭さを宿している。


すらりと背が高く、淡い水色の衣に身を包んでいる。


名を静遠(せいおん)という。


「頭がお待ちだ」


緋陰は黙ったまま歩いて巨木の方へ近づく。


そして、皆片膝をついた。


「只今戻った。玫瑰神楽」


ぶっきら棒に言うと、巨木から抜け出すように人の形をした者が現れた。


長身で、年齢不詳の若き青年の顔立ち。


地に引きずる程長い真珠色の癖毛に、溶け込むような白い肌。


垂れ目がちな目を開けば、蛇のように瞳孔が縦に開いた赤い瞳。


纏った衣装は狩衣(かりぎぬ)


「可愛い雛、待っていたよ」


その甘ったるい低音の声に、緋陰はあからさまな嫌悪の表情を浮かべた。


「その呼び名、気に入らない」


玫瑰は苦笑を滲ませた。


「全く我が儘な子だ」


玫瑰は緋陰の前でしゃがみ込む。


長い爪で小さな顎を持ち上げた。


「では、こう呼ばれる方が良いかい?緋陰(・・)


その言葉に、緋陰は僅かに瞳孔を開いた。


しかしそれは一瞬で、動揺を悟られまいと気持ちを立て直す。


「確かにいい名だね。でもね、言い付けを破って貰っちゃ困るよ。お前は私の大切な子なのだから」


「誰が、いつ、あんたの子になった」


「雛」


その一言で、場の空気が張り詰める。


身体が萎縮する。


「話したことがあるはずだよ。お前の実の父、(ひさかき)が散らされた理由を。もう私にあんな悲しい目を見させないでおくれ」


「俺は…(ひさかき)のようなヘマはしない」


「私の愛しい雛。わかってくれるね」


その言葉に緋陰はキッと玫瑰を睨め付けて手を払いのけた。


「それと、あんたの下で飼い殺されるのは御免だ」


重圧のかかる空気に逆らい、緋陰は打ち掛けをずらして背中を出す。


そして、その背はミシミシと音を立てて盛り上がった。


そして現れたのは大きな鷹の翼だ。


軽く翼が波打てば、大風が舞い起こる。


緋陰はそのまま嵐のように飛び去った。


「親子揃って仕方の無い天狗だ」


やれやれと言わんばかりの玫瑰は巨木の根元に腰掛けた。


「頭よ」


そう冷たい声で発したのは静遠だ。


「天狗の態度は目に余ります。何故庇うのですか」


「雛の生意気は親譲りだよ」


玫瑰は愉しげにさらりと返す。


それに納得がいかないのは静遠の方だ。


「では、天狗をあのままにしておくのですか?余りにも危険過ぎます」


「ただ放っておくのではないよ。あの子には少し痛い目を見てもらう必要がある」


何も許したわけではないと、暗に言う玫瑰に静は押し黙った。


玫瑰は腹の内を全て明かさない。


何か考えがあってのことだと察した。


その時、纏わりつく空気が変わった。


微かに風に乗って漂う鼻に付く血生臭い匂い。


(あかざ)出ておいで」


その言葉に応じて木から舞い降りたのは一人の女。


彼女もまた異様な出で立ちをしていた。


長い髪は結い上げ、耳は獣の形をしている。


丈の短い赤い衣からスラリと見える脚は艶めかしい。


手足には装飾のついた薄い金属の装甲を纏っている。


玫瑰は3人の顔を順に見た。


「さぁ、今宵も忙しくなる。血に酔い、理性を失った者共を狩る時間だ」


蛇のように鋭い目がぼうと不気味に光った。


「御意」


声を揃えて彼らは一礼を取った。


生臭い臭いが漂いはじめ、森が一斉にざわめき始めた。

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