第二話 必殺!! 初デート即オチ決め顔ストレート作戦
サブタイトルの発案者、男子校一イケメンの英娚院月尽。彼が通う男子校と女子校一の美女、美麗美美美が通う女子校にはあるルールがあった。
『男子校は女子校の生徒と交際してはいけない。逆もまたしかり』
彼らは立ち上がる。そのルールを粉砕するために…更なる面白さを追求するために…
―僕は今、知らない女子と歩いている。下は肌色褌、上は紺色のジャンパーに中は黒白の縞々(しましま)シャツを着た僕に、全身薄ピンク色のナース姿を着た女子はぎこちなく手を繋いで、緊張しながら足を前に出す。ちらりと横を見ると、女子の方も顔や体に汗を流して、絶対に僕に目線を合わせないようにして歩いていた。肩まで伸びた三つ編みポニーテール姿の眼鏡女子は、僕が生まれて初めて手を触れたとても綺麗な女性であった。僕には到底似合わない、超絶美人の同い年の女子生徒。
彼女を最初に知ったのは僕が自殺しようと屋上へ来た時のこと、屋上で彼女と鉢合わせしたのがきっかけだった。彼女も僕と同じように死のうとしていた。そして僕は女性と話したことが殆どない。家族にいる長女次女すらだ。だが薄っすらと母親と話したことが頭の片隅にあったが、非常に微かだったので母親の顔や声はもう忘れた。
そして僕は彼女と話が出来なかった。だからもう一度死のうとした場所で飛び降りようとした。その時――
「お前は本当にこのままでいいのか」
「ここで死んだら、家族に一生笑われるわね」
「「私があなたを世界一のモテ男にして、(あげる!美美)・(あげよう!月尽)」」
突然僕と彼女の間に入ってきたかと思えば、男子校一イケメンの月尽と女子校一美女の美美が僕に言い放ったのだ。そして僕がきょとんとしているうちに月尽と美美の背後から現れた黒服面の集団に睡眠ガスを浴びせられ、僕の意識は虚空の彼方へ消えて行った。
そして小鳥の鳴く声と日の暑さで目が覚めた。そこは初めての僕が五十人くらい入ることが出来るふかふかのベッドに寝かされていた。更に周りを見渡すと、赤い絨毯が僕の家が丸々入るほどの部屋にいることが解った。更に驚いたことは己自身の服だった。制服姿から褌ジャンパー(中に縞々シャツ)姿に変わっていたのだ。明らかに似合わない服に気が動転していると、突然室内に入ってきた【英娚院月尽】が威勢よくこう言い放った。
―お前は今日からデートをする。
―は……い?
―午前十時に【見闇変菜子】が噴水広場で待っている。姿はナース姿だ。覚えておけ。
―ちょ……
バタン。と月尽は言いたいことを言い残してドアを閉めた。その時の僕は、ただ茫然と大きな部屋と大きなベッドを見下ろしていた。だがふと隣に置いてある金ぴかの棚の上のプラチナ目覚まし時計に目がいき「わあっ」と飛び起きると、噴水広場に向かった。午前九時五十九分五秒を過ぎていた。
僕は死ぬ気で走った。噴水広場は女子校と男子校のちょうど間にある場所だ。僕が寝かされていた場所は男子校と噴水広場の相中にあり、そのお陰で一分足らずで噴水広場に着いた。
男子校と女子校にはルールがある。絶対に守らなければいけないルール。それは――男子校は女子校の生徒と交際してはいけない。逆もまたしかり――である。だから普段の女男子は変装をしてバレないように交際をしているのだ。ということはだ。僕が男子校の生徒ならば、彼女は女子校の生徒でなければ変装する意味はないに等しい。
僕は噴水広場に着くと、必死にナース姿を探した。だが必死にならずとも、高級白石で造られたサーベルタイガーの噴水前に、そのナース姿の彼女が…身を竦めるようにして待っていた。ナース姿を見られたくない。そう訴えかけるさまが目に見えるようだ。僕だってこんな姿で外に出るなんて絶対に嫌だ。だがナース姿を見てみたいという下心には勝てなかった。
彼女は僕の方を見ると、真っ赤に染めあがった顔で助けを求めるように見つめてきた。僕は何も言えなかった。ただ黙ったまま彼女の傍まで近寄ると、右手を前に出した。その手は緊張で小刻みに震えていた。だが彼女は差し出された手にすぐに反応して手を握り返してきた。何故あの時手を差し出したのだろう。話すよりも楽だったから、…そうかもしれない。
そして今に至るわけだ。
僕と彼女はお互いの名前も知らないまま、行く当てのないまま歩き出した。手はお互い指先同士を付け合って、掌まで触れると互いに驚き手が離れる。だがこの姿の前に一人ぼっちでいたくないがためにまた繋ぎなおす。それが数回繰り返される中、僕は周りの嘲笑の眼差しを忘れるように、必死で会話をしようと頭の中で考えた。彼女も時々目を閉じながら考えているようにみえる。
その時、胸元にある中服の襟から聞いたことのある声がした。
―おい! 貴様、何故何も言わないのだ! 折角の美人の前で!
僕は吃驚して襟元を見た。だがただの襟。――いや、僕は襟の裏を捲ってみると、蟻サイズの通信機が付けられていた。ふと彼女を見る。彼女の方も驚いていた。僕の方ではなく、僕と同様襟元の方に目をやって――。
―あなたも自己紹介の一つでもしてください。相手はあなたのことを何も知らないのですよ。どちらかが話を切り出さなければ、一生話すことは出来ません。……言っておきますが彼には期待しないで下さいね。彼は今まで女子と話したことがない、故に! 彼はあなたから話し始めるのを待っているのですよ? さあ、名前から!
僕の所にも聞こえる大きな女性の声。彼女も聞いたことのある、あの【美麗美美美】の声だ。彼女の顔はいかにも美美の声に怯え慄き、目から涙が今か今かと落ちる寸前まで来ていた。だが僕も月尽の口から彼女の名前を聞いたような気がしたが、全く思い出せない。出来れば早く一目の付かない、不人気の店に行って落ち着きたいところだ。
彼女は目を見開いて、意を決したように僕の方を見て言った。僕には到底できない凄いことを、彼女は数秒で熟して見せた。
「【見闇……変…菜子】。見闇変菜子です!」
「!」
僕は驚きながらも頷いた。彼女の必死の自己紹介で僕の方も、目と目が合った瞬間に彼女に釘付けになっていた。だが僕はまだ…何も言えなかった。今が彼女に自己紹介できるチャンスだったはずなのに…
すると僕の心を見通したかのように、襟元からあの男が声高らかにこう言った。
―ならば、これはどうだ。俺の恋愛指南術第1023948番・ラブホテルへGO! だ。
「らっ、ラブホテル!」
僕は思わず叫んだ。周囲の人々の目線が一気に僕に集まった。見闇さんの目も。僕は居ても立ってもいられずに、見闇さんの手を強く握って駆けだした。
行く当てもないとされたはずの、僕の行きつけのあの店へ…
「やるな…あの男。本当にラブホテルに向かって行ったぞ…」
「いや、私の見解から言わせていただくと、―――多分その隣の喫茶店かと…」
諸鬨モテ男の奔走を楽しそうに見る男女二名はそこにいた。美麗美美美は女子校の校長室を乗っ取って、英娚院月尽は男子校の校長室を乗っ取って観ていた。二人は緩みきった靨を画面に向ける。月尽は校長室の入口に映画のスクリーンを作り上げ、校長の机の上に足を組んで、ブラックコーヒー片手にこう呟いた。
「楽しませてくれる…諸鬨モテ男よ」
「そうですね…ですが、私の見闇変菜子も凄いと思いますよ」
ビデオカメラ片手に、もう片方でシナモンティーに口づけを交わす美美はほくそ笑んだ。ビデオカメラの映像に映る変菜子に集中して、授業中のはずの美美は「ふぅ~」と一息吐いた。同じく授業中の身である月尽は足を組み換えて笑みを零した。
「昨日初めて会ったというが、俺達は中々悪い奴だな。授業中にこんなことをやるとは…くっくっく」
「いいじゃありませんか。私達はナンバーワンの美貌の持ち主であり、学業もトップの身。少しくらい遊んだって罰は当たりませんよ。後あなたよりも私が一番美しいですから、そこの所お忘れなく…」
「ふっ、俺もそこは譲る気はない。もっとも気高く高貴な主はこの俺だ…」
二人の声は喧騒するかのように見せかけ、それを隠すように小さく罵り合う。それがいつもの二人の日常であった。だが今回は互いに顔合わせをして、他の生徒を巻き込んだ初のケースとなる。モテ男を選んだ月尽、変菜子を選んだ美美。二人の壮絶な勘違い恋愛バトルが、いよいよ始まるのであった……
漸く一話完全版が完成しました。…てまだ作戦終わってなかったですね。まあそこは置いときましょう。とりあえず、一息ついてまた描きたいと思います。今の所月尽と美美の顔はまだ決まってません。ただ超イケメンと超美少女であることは確かです。名前の由来は月尽は…お笑い芸人の人で、美美は…適当です。