犬が鳴く
君の犬が鳴いているぞ。
戻らない君をただひたすらに待ち続けて。
犬は知っている。
もう二度と君に触れてもらえないことを。
犬は知っている。
もう一度、君に触れてほしかったのだと。
楽しい思い出ばかりを覚えている。
君の声も。
君の匂いも。
君の温かさも。
寂しい思い出ばかりが増えていく。
雨の日も。
風の日も。
陽だまりの暖かい日も。
笑う君の顔を覚えているのだ。
幸せそうな君を見ていたのだ。
君は振り向かない。
君は戻ってこない。
それでも待たずにはいられないのだろう。
愚かな犬だ。
なあ、
なあ、
なあ!
見えているのか?
君の犬が泣いているぞ。
クーン。