始まりの街
「ねーアツシ、まだかかりそう?」
ジュンとアツシは出会ったログハウスを出て、街道と思わしき畦道を歩いていた。
理由はいくつかある。
一つは活動拠点としては何もかもが足りなかった。
家具一式と二階には寝具があったが、食糧などは一切なかった。それに初期装備の短剣では狩りに行く気もしない。
二つめは目的。
アツシが言うに、基本がプロトタイプと同じならば、必ずRPGなりのゴールがあるはずとのこと。
序盤でのんびりして他のプレイヤーに差をつけられるのは、彼がもっとも嫌悪する行為だ。
「それ5分前にも聞いた。さっき看板があったんだからつべこべ言わず歩く!」
「はいはい。まぁでも散歩でも気分は良いよね」
小一時間ほどは歩き通しだったが、やはりVRならではの幻想的と比喩できそうな世界を歩くのは楽しい。
「本当暢気な奴。俺だけなら走ってるのに」
アツシは軽く愚痴ると、前を向いて黙々と歩みを進める。
「そんなこと言ったってさぁ…」
時は数十分前に遡る。
元々せっかちなアツシが、徐々に歩く速度を早めるものだからジュンが負けじと追い越し、追い越されを繰り返すうちに走り始めていた。
結局は二人とも全速力になってしまったが、突然何故かジュンだけ急に動けなくなって地面に倒れこんでしまった。
原因はステータスだ。この世界では、移動速度や攻撃速度は敏捷という数値で補整され、行動限界値は持久力に依存している。
「魔法タイプの僕が物理タイプの君に勝てるわけないじゃんか…」
PWではステータスが二つに大きく分類されている。筋力・持久力・敏捷・感覚の身体特徴と、魔法技術の生成・収束・操作・特性。総数値が前者が高ければ物理タイプ、後者なら魔法タイプと二人は呼んでいた。
「…まぁな。俺も悪かったよ。後半はお前に頼りがちになるんだしな」
「でも考えてみるとプロトタイプとこの世界は色々違いがあるね。前作ったキャラ育成方針とかもまた考えなきゃね?」
「だろ?そうだよな?俺はやっぱり物理タイプは…」
この手の話にはいつもアツシは食いついてくる。
まだ始まったばかりだし、ここで気まずい雰囲気は遠慮したかったジュンは仕方なくこの話題をふった。
……長くなるし途中から訳分からなくなるけど、まぁ暇潰しにはいいかな。
アツシを適当に頷いたり聞き流しているうちに、ようやく目的地へと辿り着く。
辺境の街エスニア。
そこは大陸の極東に位置し、この世界に訪れた旅人達が休息や装備の支度をするために出来た、都までの言わば中継地点。
「ふぅ…やっとここかぁ」
「ああ。あの時はここからスタートだったから苦労しなかったよな」
「それにしても寂れてるね、こんなとこだっけ?」
簡単な杭で紡がれた木枠が囲むその小さな街は、建物も数えるほどで、道行く人影すら辺りには見えない。
「……ちょっと早く着き過ぎたのかもな」
アツシは景観を楽しむジュンを置いて、一人で黒い看板を掲げた店へ入ってしまった。
「ちょっと!?置いていくなよぉ」
慌ててジュンもアツシについて店の中へ続いた。