再会
「うわ…綺麗だなぁ…」
頭上には雲一つない快晴の青空がどこまでも広がり、眼前には新緑の香りと共に風に吹かれてなびく草原が地平線の彼方まで続いていた。
それにしても何故僕はこんな大平原に立っているのだろう。
そもそも記憶が無い。
断片的には残ってはいるが思い出せるのは、辰巳叔父さんの案内で試験会場の研究所に行ったところで途絶えしまっている。
「……もしかして…ここがサードワールドの中?」
確かにそれなら幾分か納得することが出来る。
「うん…そう割り切るしかないよね…」
ジュンはそう独語すると、自分の体を確かめた。
「思いっきりRPGの初期装備ってカンジだね」
服装は簡素な麻布で作られたもので、腰には銅製の短剣がさしてあった。
試しにそれを鞘から引き抜いてみるが、切れ味は悪そうで装飾も施されてない。
「そう言えば…仮想空間のはずなのに視覚も聴覚も嗅覚も…五感全てここまで再現出来るなんて凄いや…」
軽く屈伸や準備運動などをしてみたが、全く違和感はなかった。
ぐっと息を止めて腰を捩った瞬間、後ろに何か建物のようなものが見えた。
「んっ…あれ?何だろう。掘っ建て小屋…?」
特に目的も現状では無く、とりあえずその小屋に向かって歩き始める。しかし段々と気分が高揚し始め、いつの間にかジュンは走り出していた。
「はぁ…はぁ…なんか…気持ちいいなっ」
現実には滅多に味わえない世界。高層ビルも煩い自動車も存在しない、新鮮な空気と清々しい風が体を包む。
「とーちゃくっ!!へぇ、意外と大きいな」
遠くからは大して大きくもない急ぎ仕事で作られた小屋に見えたが、目の前に立つと一家族が生活出来そうなログハウスだった。
「…お邪魔します…」
そう呟いて入口の木製の扉を押し開くと、奥でガタンと物音がした。
「…誰だ?……あれ?もしかして…ジュンか?」
中から聞こえた声は、聞き覚えのあるものだった。
「そうですが…ってアツシ!?」
静かに部屋に入ると、ジュンと同じ服装をしたアツシが笑顔で立っていた。
「あぁ、良かった。随分はやく合流出来てさ」
「だね。けどアツシ違くない?久々だからかな」
茶色く染めた短髪、眼鏡を掛けた端正な顔立ち。身長もジュンと同じぐらいで体格もリアルと変わらなかったが、どこか雰囲気が違った。
「多分VRの中だから補正掛かってるんだろ。そう言うお前もかっこよくなってるし?」
「…はいはい。でもやっぱりここってVRなんだ?」
にやにやしているアツシを無視して、会話を続ける。
「あ?何言ってるんだ。ちゃんと説明あったろ?ほらイデアとかいうAIから」
「何それ…全然覚えてないよ…いきなり草むらに突っ立ってたよ…」
「ははは、脳天気な奴。とりあえず座れ」
やや埃が積もった屋内には、机や椅子などの家具が一式あった。その一つにアツシが跨がって、反対の椅子を指差す。
「えーと、まず何から説明するか…あ、VRならではのアレか」
そう言うと彼は右手を前に突き出し、指を鳴らした。
「これがPW。所謂メニュー画面な。出してみ?」
アツシの目の前に突然青い窓枠が現れる。それを見倣ってジュンも指を鳴らしてみたが、何も起きない。
「ん?あーそうそう。指は関係ない。心の中でPWって唱えるだけ」
嫌な顔でアツシを見返したジュンは、面倒くさがりながらPWと呟く。
すると、軽い電子音がして半透明な画面が浮かび上がった。アツシのPWが半透明に見えなかったのは、多分他人から見えないようにするためなんだろうと思った。
「ステータスやら色々載ってるから、後で教えるよ。と言ってもイデアから習ったのはこれだけだが」
ジュンの耳にはそんな言葉は届かず、何度もPWを出したり閉めたりしていた。