表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

スズメバチの目覚め

作者: oga


「 私は眠ることと死ぬことは同意だと思うの 」

 女は言った。

「 私はこれから眠ります 私はこれから死にます 何も違わないでしょ 」

「 いやいや 眠ったら目覚めるけど死んだら目覚めないじゃん 」

「 そうよ たったそれだけの違いなのよ 」

「 あのさぁ たったそれだけって そこが重要な部分じゃんか 」

「 重要じゃないわよ 例えば悠吏(ゆうり)君が今から眠るでしょ その間に私が殺して悠吏君に目覚めが訪れなくしたらなんか困ることある 」

「 困るもなにも2度と目覚めないんだから困りようがないじゃんか 」

「 でしょ ただ眠ったまま目覚めないだけよ 逆に起きる必要がないんだから永遠の幸せな睡眠を貪れるのよ よく心行くまで眠りたいって愚痴ってるじゃない 」

「 幸せって感じる事が出来るのはあくまでも意識が覚醒してる時だろ 別に眠ってる間に幸せを感じてるわけじゃないよ 目覚めて初めて意味をなすんだろ 」

「 フフ 」

「 なんだよ 」

「 かわいいなぁって思って そんなに幸せを感じたいの 」

「 ああ感じたいさ 僕は貪欲なんだよ 心地よい目覚めを迎えた時 美味いモノを食べた時 楽しい時間を過ごした時 優越感に浸った時 お金が儲かった時 七星(ななせ)にいっぱい射精した時 僕は沢山の幸せな時間を味わいたいんだよ 文句あんのかよ 死んだら何にも出来ないじゃん 」

「 うわぁぁ 俗の塊ね でも そんな悠吏君が大好きよ 」

「 なっ 何 告ってんだよ 」

「 何よそれ 僕も七星が大好きだよ とか言えないわけ いっぱい射精とか最低 クズ ゴミ ケムシ 」

「 何だよケムシって 子供の頃 山道でケムシの大群に襲われた事があってさぁ あれは怖いぞ ピンピン跳ねて集団で襲って来るからな 」

「 やっ やめなさい その話しは 引っ掻くわよ 」

「 で 結局何が言いたいんだよ 」

「 昨日スマホを機種変したの 」

「 いいなぁ 僕のなんてもうバッテリーが2時間くらいしか持たないぞ 」

「 悠吏君のあれ何年前のやつなのよ それでねデータを移したんだけど別にたいして何も変わらないのよね 前のスマホとほぼ一緒なの 」

「 そりゃ数年前に革新的な進化は終わってるからな 現行タイプが最終形態だろ 新機種と言ってもカメラとか画素数とかがほんの少しアップした程度で普段使いにはあんまし意味ないもんな 」

「 それで古いスマホを下取りに出して思ったの 私がスマホだったらどうなのかしらってね 」

「 何だそれ 」

「 例えば悠吏君がスマホだったとするでしょ 」

「 ぼ 僕はスマホじゃないぞ 」

「 いいから聞きなさいよ それでね 最近SEXのバッテリー持ちが悪くなってきたから 」

「 なっ なっ なっ そんなことないだろ さっきだって 」

「 それでね新機種に機種変するの 凄い高性能なヤツよ 」

「 き 機種変しちゃうのか 」

「 そうよ それでねデータを移行すれば あら不思議 高性能悠吏君をゲット出来るの ニューバージョンよ バッテリー持ち3倍なのよ スッゴイの そして要らなくなった古い悠吏君は下取りに出すわ これってどう思う 」

「 どうもこうもないだろ 僕下取りに出されてんじゃん 」

「 それは要らなくなった悠吏君でしょ 私の手もとには最新機種の悠吏君が残るのよ 」

「 待て 待て 待て 早まるな七星 それは僕じゃないだろ 僕のデータを移行した別個体だ 」

「 でも私にとっては悠吏君よ 」

「 いや いや 」

「 結局 個というものは記憶でしかないのよ そこで古い個体が残るからややこしくなるの 例えばこの作業を悠吏君が眠っている間に実行して 古い要らなくなった個体を処分してしまったらどうなるかしら 」

「 はぁ そしたら僕は死んでしまうだけだろ 」

「 本当にそうなのかしら 」

「 だって命は一つしかないんだぜ 」

「 その命という定義が曖昧なのよ それを記憶或いはデータという言葉に置き換えたらどうなる 命とか魂とか呼ばれるものが存在しないと仮定したらどうなる もしその考えを受け入れる事が出来るなら 新個体として眠る前までの記憶を引き継いで目覚める悠吏君は悠吏君以外の何者でもないのよ 」

「 なんかわかんねぇよ 」

「 私はね 眠ることと死ぬことは同意だと思うの 人は毎日眠りという死を迎え 毎日死ぬ前までの記憶を引き継いだ目覚めという誕生を迎える ただそれを繰り返すだけの存在なんだと思うの 」

「 七星のそういう考え方は危ういよ もっと生というものに固執するべきだ もっと命というものに執着するべきだ 」

「 心配してくれるの でも十分執着してるわよ だって悠吏君がいるんだもん ねえ もう1回しようよ 」

 そう言って生暖かい剥き出しの身体でしがみついてくる七星を仰向けに返して白く細すぎる彼女の身体にのしかかる、手のひらに収まる彼女の柔らかい胸を掴んで唇と舌と唾液を絡み付かせる。彼女の命を感じながら。


 岬七星(みさきななせ)は都内の高校に通う17歳の高校3年生である。七星との付き合いは古く彼女が小学生のころからだ。

 七星はもともとある児童養護施設にいた、僕が出会ったのもその時である。なぜか僕に対してだけは生意気なクソガキで悠吏君悠吏君と付き纏われた記憶がある。ある事件をきっかけに施設は閉鎖され七星は里親に引き取られていった。

 再び七星と会ったのは彼女が中学2年生の時である、再会した七星は右眼を失っていた。学校の昼休みに自身でシャーペンで抉り出したらしい。中学に入り激しいイジメを受けていたらしく、七星曰く 相手を殺さずに解決する唯一の方法だったそうだ。

 高校生になりウチでバイトをするようになった。( 僕はセブンスマートというコンビニを経営している コンビニと言っても誰も知らないマイナーチェーンでほとんど個人商店みたいなものなのだが ) 学校では相変わらずイジメの対象になってるようだが本人はさほど気にしてない様子だ。中学での事件は知れ渡っているようで危険人物視されているらしい、どこか人を寄せ付けない雰囲気と異常に頭が良いのも原因の一つなのだろう。

 七星と只ならぬ関係に陥ったのは彼女が高校3年生の時である。

「 悠吏君 どうやらクラスの数人の男子が私をレイプする計画を立てているらしいの 」

「 はぁ 誰だ教えろ 僕が半殺しにしてやる 七星がOKなら皆殺しだ 」

「 いいわよ 学校にはもう行かないから 」

「 あのなぁ 」

「 大丈夫よ 出席日数はもう足りてるの あとは大学を受験するだけよ 」

「 やっぱダメだ それとこれとは関係ない ぶっ殺す 」

「 悠吏君 本当に殺しちゃうからなぁ それよりね 私SEX経験しとこうと思って 」

「 はぁ 七星君 何言ってんのかな 」

「 だって私 こんなじゃん 何かと恨みも買ってるし いつそういう目にあうかわからないでしょ 知ってれば最善の対処が出来るじゃない 」

「 ならまず彼氏を作れよ 」

「 ムリムリ 出来るわけないじゃん 」

「 そんなことないだろ おまえ可愛いしスタイルいいし 」

「 もし学校の男子なんかと付き合ったら翌日には全校生徒にSEX動画が配信されてるわよ 」

「 じゃあ大人と付き合えよ 」

「 学校の教師でたまに誘ってくるのならいるわよ 結局そういう目でしか私を見てない クラスの男子と同じよ 片目の女子高生とまともな恋愛なんて考える男なんていないわよ 世の中なんてそんなもんでしょ 上部で綺麗事で取り繕ってるだけ 取り繕ってないだけクラスの男子の方がまだマシよ 」

「 今はそうかもしれんが実際社会は厳しいぞ そんなヤツらは弾かれる 教師なんて中途半端に勉強したヤツらの底辺じゃないか ちゃんとした場所まで登ればちゃんとしたヤツらが集まってるもんだ おまえトップの大学に行くんだろ 今のクラスメイトみたいなヤツらは1人もいないぞ おまえのクラスメイトなんて底辺まっしぐらじゃないか 焦るな おまえは誰よりも高い所まで登れる人間なんだから 今は焦らずに構えろよ 」

「 やっぱり悠吏君は優しいわね でも焦ってるのは悠吏君じゃない 私はただSEXを経験するって言ってるだけなのに 話しが脱線しすぎよ そんなに焦らずに構えなさいよ 大人でしょ 」

「 あのなぁ 」

「 それで悠吏君 彼女いないでしょ バイト終わったら相手になってよ 」

「 はッ な な 何で僕が七星と 」

「 だって悠吏君ならカッコイイし安心だし 悠吏君が断ったら出会い系で適当に見つけるわよ もう今日するって決めたんだもん 」

「 いやいや おまえ小学生の時から知ってんだぞ さすがにムリだし 」

「 そんなの試して見ないとわからないでしょ 今の私はもう女なのよ 」


 七星の性格から断れば必ず見ず知らずの男と実行することはわかっていた。こっそりつけて行って危険がないように見張っていればそっちの方がいいようにも思えたが、どうしても七星からの彼女流のSOSのように思えてしまい断ることが出来なかった。

 当然 一度きりで終わるはずもなく、それからは当たり前のように互いに求めあう関係に堕ちていく、彼女の言葉通り七星は1人の女だった。

 いつしか好奇心旺盛な彼女と過ごす甘美な時間は大切な時間へと変化する。七星を守りたい。


 終わりは突然に訪れた。

 大学の進学も決まり 彼女が18歳の誕生日の日、里親にチクったのだ。バイト先の店長が猥褻な行為を強要してくると。ケーキとプレゼントを買って浮かれて待っていた僕はその場で警察に捕まった。示談金を支払うことでなんとか被害届けは取り下げられたが店は半年閉めることになった。

 僕はこの日から岬七星という大きなトラウマを背負って生きていくことになる。




 

 悠吏君 悠吏君 悠吏君 悠吏君 悠吏君 悠吏君 悠吏君 悠吏君 愛してる。

 ごめんね、ああしないと悠吏君から離れられなかったの。

 私は悠吏君に言われた通りに 誰よりも高い所まで登りつめるわ、その為には悠吏君が邪魔だったの、おかしな話しよね、悠吏君の為に悠吏君が邪魔になるんだから。

 でも、これが私の悠吏君への愛なのよ。


 岬七星はこの日から毒針を持つスズメバチへとなった。




舌切り雀の番外編です。ユウリ店長とあらがいの団ホーネット岬七星の禁断の過去。

宜しければ本編も。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ