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騎士団の取調室。

怒れる様相で現れたジェラルドの後ろから、


「お嬢!」


ファシオが現れ、駆け寄ってくる。

ジェラルドは実家と連絡を取ったのだろうか?



「ファシオ、どうしたの?」

「どうしたのとはご挨拶っスね。……ウン? なんかされました?」

「ええ、ちょっと殴られたわ」

「……は?」


あごの腫れはラインハルトに癒してもらったのに、ファシオは何かに気づいたらしい。

立ち上がり、真後ろにいたセラヴィ老に向き直って拳を握った。


「ぶっ殺していいっスね?」

「駄目に決まってるでしょう。それにその方にされたのではないわ」

「じゃあどいつっス?」

「もういないし、きっとここの方々が何か罰を与えてくださるわ」

「ならずもンに襲われたお嬢さんを拘束するような奴らが、正しい何かをするなんて信じてねえっス」


正論過ぎて、さすがのメレディアも言葉に詰まった。

話題を変えよう。


「ええと、あなたどうしてここに?」

「ああ、お嬢さんの冤罪を晴らすために、あの親玉野郎の首を証拠として回収したっス」





曰く。

メレディアの父から状況を聞いたファシオは、ならずもの達を引き渡した警ら隊の詰め所に行ったそうだ。

しかし、彼らの対応はひどいものだった。

ならずもの達を逃がしたばかりか、そのような事件はなかった、と言い切ったのだ。


言わされている、と感じたファシオは、すぐに、あの襲撃現場に引き返したと言う。

何が起こっているか分からないが、証拠を保全しなければならない。

そう考え、自分が切り殺した、あのリーダー的な男を回収しに行ったのだ。


幸い、遺体はまだ残っていた。

首を落とされ、二つに分かれてはいたが。


もう一人連れて行った部下と手分けして、その二つを持ち帰ったところで、ジェラルドが現れる。

そして、そのリーダーの顔と、身に着けていた鎧等々から、逃げた手下たちの素性を調べ上げたらしい。






「よく思い出したわね、遺体のこと。えらいわ、ファシオ」

「いや、結局、その先はお嬢のダンナに任せちまったっスから」


言われてようやく、メレディアはジェラルドを見た。

ひどく、不機嫌そうだ。


「あの、手を煩わせてしまって、申し訳ありません。動いていただいてありがとうございます」


彼はますます目を険しくし、


「なぜ礼を言う、君は俺の妻なのだから、当たり前のことをしただけだ」

「はあ……はい、でも、感謝いたします」


ファシオがメレディアに手を差し出す。


「さ、帰りましょう」

「ええ? でも、私はまだ拘束中だわ」

「大丈夫っス、捕獲した手下どもが、お嬢さんを襲ったことを証言したっス。アリバイがとれたってことっスよ」


戸惑いつつ、ふと気づけは、セラヴィがいなかった。

責任者に確認をとりたかったのだが。

そう思ううちに、ばたばたと足音がして、セラヴィが戻って来た。


「リャナザンド卿のお連れになった者どもですが……正式な手続きがとられたうえで尋問が行われておりました。

 ひとまず、奥様の疑いは薄くなったと申し上げてよろしいかと。

 その、この度は手違いをお詫び申し上げます、どうぞ、ご帰宅なさってください……」


我知らず、安心のため息をつく。

立ち上がり、メレディアは言った。


「お詫びはいただかなくて結構でございます。

 それよりも、そのような手違いがなぜ起こったのか、その原因を突き止めてくださいませ。

 私を冤罪に仕立て上げることで、誰か得をする人間がいるのです。

 有体に申し上げれば、真犯人を早急に見つけ出していただきたいという話です」

「もちろん、もちろんでございます」


深く頭をさげるセラヴィ老の横を通り過ぎ、ジェラルドがメレディアに手を差し出す。

しかし、メレディアはすでに、ファシオの手を借りて立ち上がっていた。

少々の沈黙が落ちる。


「帰宅を許可された。つまり、帰宅、ということだ」

「あ、はい。そうですわね」


ジェラルドのほうに寄ろうとしたメレディアだったが、ファシオに強く手を握られ、つんのめるようにして止まった。


「ファシオ?」

「こっからだと、中心部まで三刻はかかるでしょう。シェルラインのお屋敷なら、すぐっス。お疲れなんスから、今日は帰り(・・)ましょう」


ジェラルドとファシオが、お互いを見ている。

なに?

なにこの雰囲気。


「従者の出る幕ではない」


そう顔をこわばらせるジェラルドに、ファシオは言った。


「いまだにお嬢さんに敬語を使わせてる御仁のお宅じゃ、お嬢さんも気づまりでしょう。今日くらい気を抜いて休ませてやったらどうです?」


それを聞き、なぜか、ジェラルドは目を見開き黙り込んだ。

動きが止まり、それから、差し出されていた手がゆっくりと降りていく。


「さ、行きますよお嬢さん」

「え? ええ、そう? そうね……あの、旦那様、本当にありがとうございました、旦那様も自宅でお休みください」

「いいダメ押しっス、お嬢さん」

「え?」


それから、メレディアは、ずっと黙っていたラインハルトを見た。

彼は面白そうな顔をしてたが、すっと真面目な顔になり、


「使いを出すよ。僕らは少し、話をしなくちゃね。どこに使いを出せばいいか、彼に確認しておくよ」


そう言って、ジェラルドを指さした。


「あ、はい」


ファシオに手を引かれ、メレディアは実家に戻り、倒れこむようにして眠った。









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