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辺境の道具屋  作者: 丸亀四鶴
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55.眷属と従魔の非日常


正方形の防護壁で囲まれた自由都市国家ラプトロイでは、交通の要所たる大通りが王城を中心にして東西南北に延びている。

この四本の大通りは、道幅は30mにもおよび王城に向かって緩い上り坂になっており、馬車道と歩道が分離されていた。


大通りの両側には大手商会やその倉庫、または店舗型の商店が立ち並び、人の姿が途切れることはない。どの店でも入口の扉を開け放ち、外からでも中の商品が見えるように上手に陳列してあった。

一方、大通りの中央部分のスペース、馬車道と馬車道の間は公園のように街路樹が植えられ、花壇やベンチが置かれた遊歩道には、数多くの移動式店舗(屋台)が並んでいる。

ここの場所で営業できるのは、商業組合に場所代を払っている屋台だけである。扱うモノは自由で、串焼きやスープ、果物などの食料品売りから、服や靴の修理屋さんまでいて、皆が逞しく日銭を稼いでいる。彼らの夢は早く屋台を卒業し自分の店を持つことなのだ。


都市国家の玄関口ともいえる西大通りには、大手の商会直営の商店や高級宿、高級食堂が軒を連ねており、店舗では特産品の塩や魔獣素材の装飾品、魔石等を扱っている所が多い。農民町から届く新鮮な野菜類を売る店もある。

中央緑地部分は、半分ほどが外国や衛星都市へ向かう馬車の停車場になっていて、ここで商売をする屋台は土産物や旅の携行食などを売る店がおおい。


反対側の東大通りは、職人町と探索者町に挟まれているので、探索者向けの武器防具を扱う店、実用品や魔道具、薬品類の店舗が多く、中央緑地の屋台は串焼き肉や煮込み等の食料調理品を売る店が多い。


農民町と職人町に挟まれた北大通りは、農作物を扱う農業組合の倉庫や直売所で、屋台は殆ど出ていない。

他の通りに比べて閑散とした印象はぬぐえないが、朝夕の農民達が農場から帰ってくる時間帯だけは、急に人口が増えるのだ。


探索者町と商人町に挟まれた南大通りは、飲食店や宿泊施設、素材屋や商会の倉庫が多い。

中央緑地では、探索者達が地べたにシートを敷いただけの「露店」を開いて、魔境や迷宮で得た素材や魔道具を直接売りに出している。意外な掘り出し物も出たりするので、探索者のみならず一般人も訪れる人気の場所であった。


商売をやる上でほとんど制約がない国。それが「自由都市」たる所以なのであろう。



路地裏の「道具屋」の主ロウと、ビギナー探索者のリル、イシュル、リンセルの三人が迷宮に入っている頃、店に置いて行かれたロウの従魔ディルとハク、そしてリルの従魔(仮)フーコの三匹は暇を持て余していた。

店の扉には「閉店」の札が掛けられているので、当然のことながら客が来ることはない。


ディルは相変わらずカウンターの上で寝そべり、ハクはストールに座って笛の練習、フーコはハクの真正面に立ち、ずっとハクを興味深そうに見詰めている。

笛の音だけが流れる店内はいつもと同じ光景である。ただ主がいないだけだ。


やがてディルがモゾモゾと動き出す。ハクの笛の音を聞いていると、いつもはとても心地よいのだが、なぜか今日は落ち着かないのだ。

普段から暇な店なので、何もすることがないのは一緒のはずだが、主がいないだけでこんなにも余計に暇に感じるとは、ディルもハクも思ってもいなかったようだ。


「シャアァァア・・・」

「ピ~♪・・・」

「ホ~・・・」


もちろん、種族が違う三匹では「会話」することは出来ない。だが、ディルとハクはずっと一緒なので、何となくお互いに意思疎通できている様子なのだが、本当にそれがお互いに正しい認識なのかは誰にも判らない。


「シャアア。」

「・・・」

「シャア、シャシャ!!」

「・・・」

「シャアアア、シャ!?」

「・・・」

「ホ~」


そのうちディルとハクが何やら相談を始め、その会話に無理矢理フーコが混ざろうとしている。

ハクの目線まで鎌首を上げ、尻尾でカウンターを叩きながら何かを訴えているような様子のディルと、当然のことながら無表情のまま首をコテンと傾げるハク。


しばらくすると二匹の相談がまとまったようで、椅子から降りたハクがディルの首に主持ちであることを証明する「従魔証」を結わい付け、ハク自身もどこからか取り出したネックレス型の従魔証を首からぶら下げた。

もちろんフーコの足にもタグ型の証が装着されている。


ハクがカウンターに取り付くと、早速ディルがハクの身体に身体を這わしていく。

一見、小さな子供に大蛇が巻き付いている恐ろしい姿であるが、時々主と一緒に買い物に行くときは、こんなふうに従魔同士で歩くことも多々あるのだ。


そして、ハクが自分の頭を指差すと、今度はフーコが飛び上がり、ハクの頭の上に止った。


蛇と梟に取り付かれた状態のハクが、そおっと店の扉を開けていく。

空いた扉の隙間から一旦辺りを確認し、静かに店の外に出ると、主から預かった鍵をちゃんとかけてからトコトコと裏路地を歩いて行った。


三匹が最初に向かったのは、店の正面にあるハブスの店だ。


まだお昼には少し早い時間である。朝食はいつも通り食べたのだが、店を出た途端、お肉がこんがりと焼ける匂いが漂っていてディルが我慢できなくなったのだ。

店はまだ空いていて、円卓席に一組、カウンターに二人の客がいるだけだ。ロウがいつも座る席へ向かう従魔達の姿を給仕のヨナが目敏く見つけて声を掛けてきた。


「あら、ディルちゃんにハクちゃん。今日はロウさんはいないの?」


ハクがコクコクと頷いて普段から主が使っている席にちょこんと座る。

いつもならば、主は大銅貨を一枚渡してお釣りをもらっていたはずである。ハクはどこからか大銅貨を取り出してヨナに渡した。


「お昼定食でいいの?肉が良いんだよね?」


ハクよりも早くディルが頭上下させ、肯定の意思を表現する。

ヨナが笑みを返して店の奥へ戻っていき、ほとんど間を置かず大きなお肉の塊が乗ったお皿を持ってきた。


「おまちどお!お肉は少しおまけだって!ゆっくりしていってね!」


今日のお昼の定食は、フォレスボア肉のじっくり焼きとふかしイモ、鳥骨出汁スープ肉団子野菜入りだ。もちろんおにぎり付きである。

ハクは早速お肉を大きい塊と小さい塊に切り分けていく。もちろん大きい方はディルのモノで、小さい方はフーコのためだ。


器用にナイフとフォークを使い、食いしん坊の蛇と梟にお肉を食べさせていく。

いつもはディルだけなのだが、今日はフーコもいるので大忙しのハクは、腕とは別に触手も伸ばしておにぎりを掴み、肉だけに偏らないよう時々野菜とおにぎりを二匹の口の中へ放り込んでいく。


そんな奇妙な人外の姿を、周りの客は特に気にする風でもなく、自分達の食事を楽しんでいた。


あっという間に食事を終えた三匹は、きちんとお皿をカウンターへ返して店の外へ出て行く。

狭い路地をすり抜けて、次に三匹が辿り着いた場所は、東大通りの屋台が立ち並ぶ一角であった。


肉を焼く匂い、鼻がとろけるような甘いモノの香り、甘辛いスープの湯気。雑多な匂いが混ざり合って、通りを歩く者のお腹の虫を刺激してくる。ここでは何人もの人あちらこちらに置かれているベンチに座り、屋台で買った食べ物を美味しそうに食べていた。


そんな中、ハクはディルの首が伸びる方向へトコトコと歩いて行く。ハクにとって先輩であるディルの命令もまた絶対なのである。

向ったサキは、いつもディルがロウにおねだりする串焼き屋だ。


「いらしゃ・・・って、道具屋んとこの黒ヘビと銀スラじゃねえか。ご主人はどうした?はぐれたのか?」

「・・・」


ハクはゆっくりと首を左右に振って応え、いつも主がやっていることを真似て、銅貨六枚(600ギル)を取出して店のおじさんに渡した。


「なんだ、串焼きが欲しいのか?ほらよ!二本ともう一本はオマケだ!仲良く食えよ!」


ハクは両手と触手を一本伸ばして三本の串焼きを受け取ると、ディルとフーコの口元にもって行く。

すると、二匹とも勢いよく串焼きを食べ始めた。ディルは串についた肉を一口で呑み込み、フーコは器用に足と嘴を使って串から肉を外しながら食べている。


「黒ヘビちゃんは相変わらずだねぇ。初顔の梟様も中々美味そうに食ってくれるな。」

「・・・」


もちろんハクが食べることはない。三本の串焼きのうち、二本はディルが食べてしまうからだ。

それにしても、ディルの涎でハクの首回りはベトベトだし、フーコが溢したタレもハクの頭の上から垂れてきている。傍から見れば、動かないハクに取り付いた蛇と梟が、本能のまま串焼き肉を貪る異様な光景だった。


だが、串焼きを売った主人も、周りの屋台の店主達も、危険な魔獣が街中で串焼きを食べる様子を見ても恐れる風でもない。

それは、今日は主がいないだけで、この辺りでは時々見かける当たり前の風景だったのだ。


ディルが尻尾を振り回すので、ハクがもう一度銅貨を取出し、串焼き肉を追加で焼いてもらう。残念だが、今度はおまけは無しだ。


こうして串焼き肉を堪能すると、また別の屋台に移動する。


ここは固く練ったムギ粉を油で揚げて柔らかくし、細かく結晶化させた蜂蜜を塗したお菓子アゲパンを売る屋台だ。この店ではアゲパンに切れ目を入れ、レモンバターを挟んでくれるので、ディルの一番のお気に入りなのである。


「あらま!あんた達だけで出てきたのかい?御主人の方が留守番かね?」


少し年増のおばさんが、従魔達だけでやって来たお客さんに目を丸くして言った。


コクコクとハクが頷くと、頭に乗ったフーコまで揺れている。それでも振り落されないのは流石である。


ハクはまた銅貨を三枚出しておばさんに渡す。この辺りの屋台の商品は、大体一つ300ギル(銅貨三枚)が相場であり、みんな薄利多売で精一杯の商売をしているのだ。


フーコは油で揚げたモノは食べないので、この屋台で買うのはディルの分だけだ。

屋台の食べ物は、ほとんどが串を刺してある。紙が高級品であるこの世界では、なんでも串刺しで売るのが一般的なのだ。だが、アゲパンや飲み物などは植物の葉を上手にまとめて器にした入れ物を使う事が多い。


「ところであんたたち、ちゃんとご主人に言ってから出てきたのかい?」

「・・・」

「おや?ヘビ子は目を逸らしたね。おおかた店の留守番を言い付けられてたんだろ?後でご主人に怒られても知らないからね!」

「シャアア・・・」

「言い訳はご主人へするんだね!ほら!ヘビ子の分だけでいいんだね?!毎度あり!」


ハクがリププの葉に包まれたアゲパンを受け取ると、早速ディルが齧り付く。さっきの小言も忘れたかのように、顔中を蜜粉だらけにして満足そうであった。


そして、さらに一行が別の屋台へと行こうと歩き出した時、背後から男達が騒ぐ声が聞こえてきた。


「おい!街中なのに魔獣がいるぞ!なんでこんな所に!?人に化けたスライムだと!?」

「よく見ろ、従魔証を持っている。誰かの従魔が逃げ出してきたんじゃねえのか?けど、人を襲ったらどうすんだ?」

「おう、人様を襲う前にぶっ殺した方がいいんじゃねえか。魔核を採れば幾らか金にもなるぞ。」

「それもそうだ。放し飼いにする従魔使いが悪いんだ。へへッ、酒の一杯でも呑めればいいか。」


一目で探索者とわかる三人組である。

この三人、まだルーキー級を卒業出来ていないにも拘らず一人前の探索者気取りで街をうろつき、安い屋台の商品をさらに値切ったり、売り子の女の子に言い寄ったりと、最近この辺りでは評判の悪い探索者だった。

すでに三人のうち二人は腰の剣を抜いていた。


辺りの屋台の店主達が息を呑む。いくら気風の良い商売人でも、武器を持った探索者を止める事ができるような一般人はいないのだ。


ディルもハクも、今の姿のままで戦ってもこんな連中に後れを取ることはないのだが、従魔が人族に怪我をさせれば、その責任は主が負う事になるので、戦闘行為はおろか抵抗する事も出来ない。

ディルがハクへ尻尾の先で『逃げ』の合図を送っていると、この騒ぎでできた人混みの後ろから涼やかで良く通る声が響き渡った。


「私の知り合いの従魔に何か用か?その刃をその子達に向けるのなら、私が代わりに相手になろう。」

「何を・・・!!ら、雷滅の黒蝶!?」「何!!」

「誰にも迷惑をかけていない従魔だ。それをお前達が傷付ければ立派な犯罪だぞ。」

「い、いや・・・俺達は、その・・・」


騒動に割って入ってきたのは、リミテッド級探索者シモン・ヴェルモートルとその従者サンだった。


ラプトロイの探索者で五指に入ると云われている実力者から放たれる威圧は、血に飢えた魔獣すら動きを止めるという相当なものだ。

この三人のように実力のカケラも無い探索者など、一瞬で戦意を喪失させるのは言うまでもない。。


「ま、魔獣が暴れてたんだよ!!それで・・・」

「では、ここにいる店主らにも証言してもらおうか?彼らが何と言うのか、自分達の日頃の行いを顧みて答えてみろ。」

「・・・」

「失せろ。お前達のことは私から組合に報告させてもらう。ルーキーが()に乗るなよ。」


もはや先程までの傲慢さも消え失せ、三人は脱兎のごとく逃げ出していった。


屋台の店主達もホッと胸を撫で下ろす。野次馬達も余りに速い収束に波が引くように散って行った。


ゆっくりと歩み寄ってくるシモンに、ハクは最近覚えた「笑顔」を作って見せた。これでもハクは精一杯の感謝の気持ちを表わしたつもりである。


「・・・」

「・・・ハク、無理に笑うとちょっと不気味だよ。そんな満面の笑みではなくても良いと思うぞ。」

「・・・」


ハクは笑顔を止めていつもの無表情に戻る。だが、すこし悲しげに見えるのは気のせいだろうか。


「それにしても従魔だけで出歩けば、さっきみたいに余計なトラブルに巻き込まれるぞ?ロウはどうしたのだ?」

「シャアァ・・・」「・・・」「ホ~」

「・・・何を言っているのかはさっぱり分からないが、やましい事があるというのは理解した。」

「・・・」

「まぁ、私もロウの店に行こうと思っていたのだ。その前に君達の買い物に付き合ってやろう。」

「シャアアア!!」「ピ~♪」「ホ~」


シモンが水魔法を使い、串焼きのタレや蜜粉でベトベトになっているハクを綺麗にしてあげると、ハクは再び「笑顔」を作って見せた。

そんなハクに、シモンは探索者仲間には絶対に見せないような本物の笑顔を見せる。


そして、ハクからディルを受け取るとハクと並んで次の屋台へと足を向けたのであった。










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