神出鬼没な男
乗船客の殆どは船に乗り込み、パーティーの招待客達も既に乗船を終えた頃。最後の乗客と思われる一人の男が乗船の手続きを行う係員のもとに歩いてきた。
それは時代錯誤、いや、世界錯誤と言うべきか。そんな服装をした男だった。
神出鬼没な男、眞田煉。
その服装とは黒い外套のような全身を一枚の布が包み込む、ゆったりとしたものだ。その外套の襟は目元まであり、眞田の顔の殆どを隠している。
顔立ちはどのようなものか分からないが、襟の上から覗かせている鋭い眼光を持った目は見る相手を威圧するようだった。それに、黒髪であるということだけは分かる。
眞田は代償の絵がある所、絵の争いが起こる場所には必ず現れるという。しかし、神出鬼没な眞田の目的を、その正体を知る者はいない。
「あ、あの。チケットはお持ちでしょうか?」
係員が眞田の持つ威圧感に脅えながらも自分の仕事を行う。
眞田は無言でチケットを取り出し、係員に渡した。係員はチケットを確認しながらも何度か眞田に視線を送っていた。
「で、では、良い旅を…」
係員が確認を終えてチケットを返すと、眞田はやはり無言で受け取り、階段を上がっていった。
「ふぅ。なんだったんだ?今の人……」