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代償の絵  作者: 水芦 傑
25 years later
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力を欲する女

「早く出港してくれないのかなぁ。もうここに居たくないし、早く調べなきゃいけないこともあるのに……」

 船底にある貨物室で一人の女が息を潜めて、出港を渇望していた。

 貨物室にはコンテナが一つだけあり、その他には端に作られたプールのようなところでモーターボートが何隻か浮いている。緊急時に使われるのだろうか。

 その女は長めの黒髪を邪魔くさそうに縛り、端整な顔立ちは男か女かの判断を迷わせる中性的な印象を与える。

 力を欲する女、市ノ瀬渚いちのせなぎさ

 市ノ瀬は自分を裏切り、見捨ててきた者に復讐したいと考えている。

 市ノ瀬には全てを捧げてもいい恋人がいた。その恋人といる時間は幸せで何物にも代えがたいものだった。

しかし、そんな日々は長くは続かなかった。ある日、その恋人が自分の親友と歩いている姿を見てしまった。その場で問い詰めると、市ノ瀬はただ遊ばれていただけで、それを親友と二人で笑っていたという。

 そんな風に男に騙され、親友には裏切られていたことを知った時、心の中に芽生えたものは悲しみも辛さも寂しさも絶望も飲み込む程の色濃い復讐心のみだった。

 その日から復讐が人生の全てになった。

 市ノ瀬は力を求めて行く内に裏社会と呼ばれるものに染まっていった。

 それから、幾許かの時が流れて市ノ瀬は代償の絵の存在を知った。

市ノ瀬は血眼になってその絵について調べ、今日この日に絵の持ち主がオーシャン・シップに乗るという情報を掴んだ。しかし、分かったことはそれだけで誰が絵の所有者なのかまでは知らなかった。

 所有者が誰なのかは調べても分からなかったので、直接船に乗り込むことで所有者を特定しようとしていた。

 情報をくれた知り合いが、この船へと乗る手筈も整えてくれていたのだが、まさかこの閑散とした貨物室だとは夢にも思わなかった。

 不意に、貨物室で物音が静かに聞こえてきた。

「えっ…?」

 刹那、何かの影が動いた姿が見えた気がした。

「だ、誰か居るの?ネズミ?」

 市ノ瀬は焦燥と恐怖の入り混じる表情を浮かべる。その影は市ノ瀬には人影に見えたからだ。

「ゆ、幽霊なんてものじゃないよね―――」

 市ノ瀬の言葉が終わりを紡ぐのと殆ど同じくして、再び物音が聞こえてきた。今度は姿こそ見えなかったものの、その物音は明らかに鼠などの小動物ではないことを示していた。

「う、嘘でしょ……」

 市ノ瀬は貨物室から出ていく訳にもいかず、隅で体を丸めた。

「早く出港してよぉ…」


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