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代償の絵  作者: 水芦 傑
25 years later
48/50

表裏一体_オモテとウラの、その間


時刻 二一:四〇


「それで、依頼というのは?」

 明らかに敵意を見せて、伴場はそう尋ねた。

「そんなことより、なぜ殺戮を始めたのですか?私はまだ合図を出していませんよ?」

 藤堂の表情は厳しいものとなる。

「貴方には関係ないわ。それに、最終的に彼らが全員死ねばいいんでしょう?」

「まったく。計画に支障がないからよかったものの…」

「まさか、そんな話をするために?」

「いえ、貴方が入れ込んでいる和達という男についての情報ですよ」

 伴場は一瞬、驚嘆を見せるが、すぐに表情を戻し、更に敵意を強めた。

「そんなに殺気立たないでください。決して悪い情報ではありませんから」

「そもそも、なぜ貴方がそれを知っているの?」

「それはどうでもいい話です。それより、情報を」

 藤堂は一呼吸の間を置いて、それを口にした。

「和達は生きています。彼は代償の絵の現所有者なんです」

「なっ…!それ、本当なの!?」

 伴場の驚嘆は今度こそ表情を戻せないほどのもので、すぐに藤堂への敵意も失われた。

「えぇ。これから、それを確かめに行きましょう。そして、お願いしたいことは一つ」

「なに?」

「彼の代償の絵を私に譲るように説得していただきたい」



―――――――――――――――



時刻 二二:四〇


四階 エレベーターホール


「大したことじゃないけど、ちょっと気になることがあるんだ。終わったらすぐに追いかけるよ。それじゃあ」

 漣の返答を待たずに塚矢は廊下へと走り去っていった。

「なんなんだあいつ…」

 漣は最後まで怪訝な表情は変わらず、しかしその足を階下に向け、進んでいった。

 そして、再び静寂に包まれる。

 血の海に浸る藤堂のその体が起きるはずがない。そのはずだった。

 しかし―――――藤堂の死体がゆっくりと起き上がったのだ。

「まったく、本当に殺すとは思いませんでしたよ」

 藤堂は嬉しそうに口元を歪ませて、呟いた。

「死ぬ時というのは痛いものですね」

 楽しそうに更につぶやく。藤堂は立ち上がると首を軽く回した。

「さて」

 一呼吸吐くと、藤堂の表情が引き締まる。そして、藤堂が目を瞑ると体中の銃痕がみるみると塞がっていった。

「では、始めましょうか」

 そして、漣の後を追うように藤堂は階下へ向かった。



――――――――――――――――



一階 パーティー会場


「この状況でどうやって、俺達を殺そうって言うんだ?」

「それは今に分かるぜ」

 紫村と江澤のやり取りを、藤堂は二階から見下ろしていた。

「さて、そろそろですね」

 藤堂は小型の端末を取り出すと、それを操作し始めた。

 次の瞬間。

 会場に暗闇が溢れた。すべての明かりが遮断されたのだ。

 藤堂は二階からパーティー会場へ舞い降りた。乗客の悲鳴と紫村たちの怒号が響き渡る中で藤堂がその場に舞い降りた衝撃音など、誰の耳に届くこともなく掻き消された。

 藤堂は暗闇の中でも迷いなく江澤の背後へと歩を進める。

 そして、江澤を突き飛ばした。それと同時に代償の絵の受け渡しを完了させた。

「くそっ!!誰だ!?」

 ざわつく会場の中で江澤は倒れたまま振り返り、背後に銃弾を放った。

 銃弾は藤堂の頬を掠め、壁へと命中する。

――おっと、危ない。もう死ねませんからね。

 藤堂は江澤の殺気を感じ、瞬時にその場から離れる。

「くそ。何も見えねえじゃねえか!!」

 起き上がった江澤は更に銃弾を浴びせたが、そこに藤堂がいることはなかった。

――さて、あとは江澤に頑張ってもらいましょうか。

 藤堂はやはり迷いなく歩を進め、パーティー会場を後にした。

 そして、点灯。



―――――――――――――――



一階 ロビー


「てめぇには借りがあるからな。死ね」

川崎はハンドガンの銃口を漣に向けた。

「やれやれ、川崎すら倒せないとは…期待はずれでしたかね?」

 川崎と漣から遥かに離れた場所で、藤堂はそれを見守っていた。呆れた様子でその銃口を川崎に向け、安易に銃弾を放つ。

 その銃弾は綺麗に川崎の後頭部を捉え、簡単に川崎の命を奪った。

「様子を見に来ておいて正解でしたね。あとはなるようになるでしょうかね」

 藤堂は漣の状況を見届けることなく、二階へと戻った。再び、パーティー会場を見下ろす形となった。

「さて、江澤はしっかりと働いてくれているでしょうかね。クックック…」

 藤堂はこの船で初めて感情を露わにし、笑った。階下で起こる惨状を見詰めながら、自分の思う通りに事が運ばれていくのに、藤堂に満足そうな表情は見られない。

 そうなることがまるで当たり前のような、そんな表情だったのだ。

「さて、そろそろですかね…」

 おもむろにハンドガンを手に取り、その銃口を江澤へと向ける。パーティ会場の全員の視線が江澤から外れたその好機を逃さず、二発。

 銃弾は狂いなく、江澤の額と胸を撃ち抜いた。川崎と同様に、実に簡単に江澤の命を掠め取った。

 藤堂にとって、他人は本当にただのおもちゃでしかないのだろう。

 未練も後腐れもなく、計画を完遂した藤堂は静かにその場を後にしたのだった。




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