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代償の絵  作者: 水芦 傑
25 years later
47/50

表裏一体_最後の招待客

「てい!やあ!とーりゃあああ!」

人里離れた山奥に掛け声が響き渡っていた。

「もういっちょ!!」

 掛け声の主、和達は目の前の巨木に対し、武道とも取れる形で次々に衝撃を与えていくが、何百年と育った巨木はそれでもビクともしない。

「そろそろ休憩にしよう」

 そう声を掛けたのは、時代錯誤な男、眞田煉だった。

「そうだね、煉君。でもさ、こんなんでほんとにいいのかな?」

「あぁ。構わん」

 必要以上に言葉を発すことのない眞田にも、和達は気に掛けることもなかった。

「いい汗かいたなあ!気持ちいい!煉君も一緒にどお?」

「俺には必要ない」

「そっかあ、残念。気持ちいいのになあ」

 和達は天を仰ぎ、空を見詰めていた。

「いい天気だねえ。ピクニックにでも行きたいなあ」

「おい」

「ん?なに?」

「俺はもう行く。あとはお前次第だ」

 眞田は和達に背を向ける。

「あぁ、そっか。残念だなあ。またどこかで会えるといいね。会った時は優しくしてね」

 意味深な言葉を和達はどこまで理解できているのだろうか。

「いいか。その絵は全てを狂わせ、覆す。それを忘れるな」

 その言葉を最後に眞田はその場から立ち去って行った。

「さぁて。続きをやろーかなあ」

 和達はその言葉を最後に無言となり、ひたすらに巨木と向き合っていた。

「まったく、こんなところにいるとは。苦労しましたよ、探すのに」

「え?」

 和達は声に辺りを見回すが、人の姿はない。

「こういうところに来るのは今後一切勘弁したいものですね」

 巨木の裏側から、姿を現したのは藤堂だった。

「君は…?」

「私が何者かということは重要ではないですよ。問題は何をしに来たのか、ということです」

「んー、確かにそれもそうだ!じゃあ、A君でいいかな?」

「お好きにどうぞ」

「で、何しに来たの?ここなら人は来ないからって煉君は言ってたのに」

「ほう。煉、というのは絵の管理者とも呼ばれる、あの眞田煉ですか?」

 藤堂は怪訝な表情で逸れた話を進めた。

――彼だけはどう探しても見つけられなかったですからね…

「うん。さっきまでいたよ。もうどっかに行っちゃったけどね」

「そうですか。残念です。では、話を戻しましょう」

「そういえば、何しに来たの?」

「私は、貴方をあるところに招待したいと思いましてね。これをどうぞ」

 藤堂は内ポケットから一つの封筒を取り出し、それを和達に差し出した。

「これは?」

 和達は受け取ったそれを太陽と重なる位置まで持ち上げ、日の光で透かして中身を見ようとしていた。

「開けていただいて構いませんよ」

「えっ、そーなの?!」

 なぜ開けてはいけないと思ったのかは置いておこう。

「それは貴方への招待状です。ぜひ、お越しいただければと思います」

 和達が封筒の中を取り出すと、入っていたのはオーシャンシップの記念航海のチケットだった。

「これ…もしかして…」

「お分かりになりますか。それは―――――」

「これなに?」

 まるでわかっていたかのような口ぶりをしていたのに、和達の表情は疑問符だらけだった。それでも藤堂は乱されることなく、話を続けた。

「ええっと。説明します。それはオーシャンシップという船の記念航海の乗船券です。そこにお越しいただければきっと貴方の求めるものがあるかと思いますよ」

「そーなの?楽しそうだなあ」

「ええ、楽しい船旅になるかと思います」

「そっか!ありがとう!!きっと行くよ」

「いえいえ、感謝したいのは私の方です。では、私はこれで」

 藤堂は巨木の影に隠れ、そのまま姿を消した。

「うーん、今日はなんかいいことが起こるなあ。いい人とも会えたし。楽しみだなあ船旅」

 和達は記念航海に思いを巡らせ、にやにやと笑みを零した。

 最初から、最後まで和達は藤堂に対してなぜ自分を招待するのか、なぜこの場所が分かったのか、などという疑問をぶつけることはなかった。

 いや、ぶつけるほどの疑問ではなかったのだろう、和達にとっては。



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