ウラ_行き先
「ねぇ、どこに行こっか?」
「どこにって?」
「いや、だって僕、自分の家とかないし、ずっとこうやって旅してるからさ。貧乏旅行なんだけどね」
「へぇ、そうなの」
和達と伴場の二人は警察の事情聴取を受ける前に姿を消し、港町を歩いていた。
「うん。だからさ、クルーエルはどっか行きたいとことかない?」
「和達、私はもうクルーエルじゃないって言ったでしょ?ちゃんと名前で呼んで」
僅かに伴場が不機嫌そうに語気を強めた。和達もそれをすぐに察し、慌てて謝る。
「あっごめんね、初音」
「初音って…いきなり下の名前で呼んだりする?」
先ほどよりも更に語気は強くなっている。
「嫌なの?」
和達は伴場の前に回り込み、顔を覗き込んだ。伴場はその行動にか、真っ直ぐに見詰めてくる瞳なのかは分からないが、照れた表情のまま視線を逸らした。
「べ、別に」
それは女性というより、まるで少女のような表情に見せる。生きることだけで精一杯だった伴場にとって、恋愛ということには全く無縁であった為だろうか。
その新鮮な感情はまるで今までいた世界とは全くの別世界のように思われた。表情には出さなかったものの、伴場はそんな些細なことに喜びを感じていた。
「じゃあ、初音って呼ぶよ。それに僕のことは朔って呼んでね」
「う、うん」
「それでさ、初音はどこか行きたいとこがある?」
「私は…」
一度言葉を区切る。
「朔が行きたい所ならどこでもいいわよ」
これが一般的には臭い台詞だと伴場は知らないのだが、そこで笑顔を見せた。これは和達に見せるのも初めてであり、伴場が人生で初めての笑顔だった。それは年相応の、いや、和達に似た子供のような、無垢な笑顔だった。
「あっ!初音、笑ったね!」
「えっ、嘘?」
その笑顔は意識したものではなく、自然と溢れ出たものだった。伴場自身、和達に言われてそれに気付いた。
「良かったぁ。やっと笑ってくれた………あっ!でも、これじゃあ一生掛けて笑わせてあげるって言った僕の役目は終わりってこと!?」
和達は落ち込む素振りをする。
「そんなことないわ。朔はもっと私を笑わせてくれるんでしょ?」
「そっか!もっともっと笑わせばいいんだね!じゃあ、僕はもっと頑張らないと。一緒にいる間にどれだけ笑わせれば、納得してくれる?」
「それじゃあ、一生分くらいかしら」
一生分というのは、どれ程なのかということを、そしてそれがあの実質的プロポーズの返事であるということを和達は考えもせず、言葉を返した。
「分かったよ!」
伴場が和達の話に付き合ったせいで既に話は路線変更されている。
「じゃあ、とりあえず行き先は風に聞いてみる?」
「ふふっ……そうね」
「あっ、また笑った!この調子だね!」
「頑張ってね」
「よーし、張り切っちゃうぞ!そしたら―――」
二人にとって、既に行き先などどうでも良くなっていた。




