オモテ_彼らの航海
その後、オーシャン・シップは近くの港に行き着き、待ち構えていた警察によって事件は終焉を迎えていた。
オーシャン・シップが乗せていた命運も秘めていた争いも。
既に夜は明け、朝日が綺麗に空を染める頃だった。
この事件でオーシャン・シップを乗っ取った組織の人間を除き、乗員乗客合わせて八人の死亡が確認された。その中には、船員達を裏切った船長や副船長も含まれている。しかし、その他の乗員乗客は傷一つなく、無事に保護された。
首謀者であった組織の人間は三十三人いたのだが、その確認は取れていた。しかし、行方が分からない者が二人いた。
一人目は、眞田煉。
眞田はあのパーティー会場を後にしてからは誰一人として見た者はいなく、警察が船内を隈なく調べても見付かることはなかった。つまり、眞田の行方を知る者は誰一人としていないということだ。
まさに神出鬼没という名の通りだった。
この事件が明るみに出ても代償の絵のことについては一切触れられなかった。故意に公表が避けられたのか、それとも警察すら知らなかったのか。
ただ、一つ確実なのは代償の絵は確かにそこにあり、争いを巻き起こしていたこと。
そして、もう一人は―――――
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漣、相浦、市ノ瀬の三人は簡単な事情聴取を受けてから、再び集まっていた。三人は塚矢の姿を探していたのだが、見当たらなかった。
「これから、二人はどうするんだ?」
「私は家に帰ろうかな。なんか、いろんなことがあり過ぎて疲れちゃった。それにいろんなことから足洗わないとなぁ…」
市ノ瀬は何やら考え事を始めようとした。しかし、その思考はすぐに漣によって遮られた。
「なぁ、足洗うって何からだよ?」
「うんとね、私なんか暴力団っていうよりテロリストかな?そんなような組織に入ってたんだ。色々あってさ」
「そうなんですか!?」
「本当にか?」
漣と相浦の二人は市ノ瀬の告白に驚きを隠せないでいる。
「……うん。ほら、二カ月くらい前かな?なんかテロリストが捕まったって言う事件があったでしょ?」
「確か、大臣のお家に火を付けたとかいうやつですか?」
「主犯はまだ十八くらいのやつだった事件だろ?」
「そうそう。あの組織仕切ってたのが斎松君だったんだけど、結構優しい人で私もちょっとお世話になったなぁ」
「い、意外だ」
漣は今にも口をあんぐりさせそうになっている。
「でも、そんなに驚くことかな?」
「だってよ、お前みたいな惚けた奴がそんな危ないとこに入ってたなんて驚く以外にないだろ。でもよ、そういう所に居るのにクルーエルのことは知らなかったんだな」
市ノ瀬は漣の指摘に僅かな間、言葉を失っていたが、すぐに漣に反論した。
「うるさい、うるさーい!いいじゃん、別に」
反論と言うにはあまりにも幼稚な返しだが、漣がそのことに取り合うことはなかった。
「ところで、二人は塚矢のこと見かけなかったか?」
「あー、そういえば見てないなあ」
「私も見ていませんね。どこに行ったんでしょう、塚矢さん」
「聞きたいことがあったんだけどな…」
「んー、でもまだどっかにいるんじゃない?ほら、事情聴取受けてるのかもしれないし」
市ノ瀬が辺りを見回している。
「そうだな。それで、相浦はどうするんだ?」
「私ですか?私は……」
相浦は言葉に詰まった。それは復讐が果たせ、言葉を取り戻した今、自分が何をするべきかに迷っていたからだ。
「とりあえず、家には帰りたくないです。あそこだけには……」
「相浦はまだ中学生だろ?だったら、ちゃんと学校行かないといけないよ。だから、帰るべきだよ」
「でも……」
相浦の表情には躊躇いが見受けられる。
「生きてれば、いいことなんてたくさんあるって。両親が死んだのは確かに悲しいことだけど、いつまでもそれから逃げてたらなんにも始まんないだろ?だから、少しずつでいいから、それを受け止めることから始めた方がいいよ。ほら、俺だってなんかあったらいつでも駆けつけてあげるからさ」
「本当に?」
「あぁ、約束する。俺は相浦のような人の為に生きてるんだからさ。だから、そんな暗い顔してないで笑ってくれよ」
漣は相浦に笑い掛けた。それにつられたかのように相浦も笑みを溢した。
「はい」
そうして、彼らの航海は終わりを迎えた。
が。




