オモテ_疑念
「相浦、どうしたんだ?」
「この船を乗っ取ったあの男を探してきます。あの男は私の両親の仇なんです。私はあの時無力だったけど、今なら……」
相浦の表情は怒りで染められていく。
「相浦。復讐なんてやめておいた方がいいって。それに、俺は君を殺人者にはしたくない」
「そうだよ。復讐なんてしたって、なんにも残らないよ」
二人は柔らかな言葉で相浦を止めようとしたが、それが逆に相浦の勘に触った。
「貴方達に何が分かるって言うの!?私の気持ちなんて分からないくせに、勝手なこと言わないで!!」
「私にもね、復讐したい相手がいたの。でも、その相手が目の前で死んでも私は嬉しくなくて、ただ嫌な気持ちしか残らなかった。だから―――」
相浦の怒りが言葉を遮る。
「それでもいい!!それでもいいから、私は仇を討ちたいの!!」
相浦はその言葉を最後に走り去っていった。
「くそっ!!追いかけるぞ!」
――絵は人を魅了し、人の心を奪う。それを忘れるな――
不意に漣の脳裏に眞田の言葉が思い出された。しかし、漣はすぐにそれを振り払い、相浦を追うことに思考を切り変えた。
漣が市ノ瀬と共に走り出そうとした時―――――銃声が響き、その足が止まる。
銃声はここにいる全ての者の耳を一瞬、支配した。
漣は聞こえる筈のない銃声が何も撃ち抜いたのか、視界の中で見ていた。それは、江澤だった。銃弾は正確に江澤の額と胸を捉えている。
漣は上を見上げ、二階の渡り廊下を見回した。渡り廊下には立ち去っていく誰かの人影がそこには確かにあった。しかし、漣がそれを見付けることはなかった。
――誰なんだ…?なんの目的で…
漣は直感でその誰かが、川崎を撃った人物と同じだと感じていた。
相浦のことを思い出し、再び市ノ瀬と共に駆け出した。その時、不意にその銃撃の犯人が浮かんだ。
――まさか、まさかな。
あくまで想像ではあるが、その可能性が否定できるものでもなかった。
――いや、でも…
そして、すべての辻褄が合った時、漣は背筋が凍りつくような思いをした。
――まさか、塚矢が…!?
――でも、この会場へ来る時の作戦、そして自分は参加せずにどこかへ消えたこと、有り得ない話じゃない。
――だが、なぜ…なんの目的で…
二人はしばらく追いかけた後ようやく立ち止まっていた相浦に追いついた。
しかし、そこには相浦だけではなく、塚矢がいた。
――なっ…?!このタイミングで…
想像に更に真実味を持たせるには十分な事実ではあった。
「塚矢君!どうしてここに?」
「いや、今たまたま仁巳ちゃんがあの紫村とかいう男を探しに行くっていうから、止めたんだ」
「さっき言ってたことは本当なんですか?」
「うん。あの男は死んだ。僕はたまたまなんだけど、死ぬ所を見ちゃってさ」
「そう……なんですか」
相浦はやり場のない怒りをどうすることもできなかった。そんな相浦を尻目に漣は塚矢に疑念を向けていた。
――すべて、こいつに操られていたのか?しかし、なぜこんなことを…
考え込む漣はその視線を塚矢から外すことはなかった。
「それよりさ、市ノ瀬に聞きたいことがあるんだ」




