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代償の絵  作者: 水芦 傑
25 years later
32/50

オモテ_地獄から蘇った男

時刻 二二:四〇


一階 パーティー会場


「ちっ。藤堂の奴、遅ぇな。何やってんだ」

 紫村が藤堂に連絡を入れようと無線機に手を伸ばした瞬間に―――――このパーティー会場に一人の男が足を踏み入れた。

 紫村はそれに気付き、伸ばしていた手を止める。そして、男の存在に驚嘆した。しかし、端から見れば、紫村は眉を一度だけ動かす程度の驚きにしか見えなかった。

「江澤、なんでてめぇが生きてるんだ?てめぇは俺がしっかりと殺してやったはずだぜ…?」

「そうだったよな、紫村。だけどよ、俺はお前を殺す為に、復讐する為に地獄から蘇ってきたんだよ!」

 江澤の話はあまりに非現実的なのだが、今の紫村はそれを信じてしまいそうな程、目の前の男の存在に疑いを抱いていた。

「クックック……ハッハッハッハアアァァァーー!!」

 江澤は突如、なんの前触れもなく笑い始めた。

「何笑ってやがるんだ?」

「おいおい、これが笑わずにいられるかよ。紫村、てめぇは本ッ当にめでてぇな!てめぇの脳みそはアリ以下か?」

 実に愉しそうに江澤は笑みを浮かべている。

「何言ってやがる?」

「気が付かなかったのか?お前はな、片腕の藤堂に裏切られてたんだぜ?それもかなり前からな!だから、俺は生きてんだよ!!あの時、藤堂は俺を生かす為に毒ガスを撒くふりしてもらったんだよ!」

「なん…だと…?」

 組織の中でも唯一、信頼を置いていた人間に裏切られていたことを知った紫村は表情に僅かな絶望が見受けられる。

「嘘吐くんじゃねぇ!!あいつが裏切る訳ねぇだろ!!」

「最高だな、その顔。まぁ、真実を知るなら本人に聞くのが一番なんだが、その本人ももう死んじまったから聞けねぇか!はーっはっはぁ!!」

 江澤は望んでいたこの状況のせいか、何を口にしても最後に笑って終わらせている。

「てめぇ、藤堂を殺したのか?」

「その通りだよ!あいつはもう必要なかったからな!!」

「江澤、てめぇ腐ってるな」

「お前のようなクソ野郎に言われたかねぇな。さてと、そろそろ話はお終いだ」

 江澤の表情から笑みが消える。

「おい、てめぇら」

 紫村が部下たちに合図を送ると、一斉に全員の銃口が江澤に向けられた。

「この状況でどうやって、俺達を殺そうって言うんだ?」

「それは今に分かるぜ」

 その時、その場にいた誰もが意図していなかったことが起きる。

 会場に暗闇が溢れた。すべての明かりが遮断されたのだ。

「くそう!なんだ!!やりやがったな!?」

 いち早く声を上げたのは、江澤だった。それに呼応するように乗客たちが悲鳴をあげ始める。

「てめぇの仕業じゃねえのか、江澤!?」

 紫村も威圧的な態度こそ崩さないものの、焦りを言葉にした。

 暗闇の中で、物音が聞こえた。それは江澤が不意に受けた後ろからの衝撃によるものだった。

「くそっ!!誰だ!?」

 ざわつく会場の中で江澤は倒れたまま振り返り、背後に銃弾を放った。

 銃声に、より一層乗客たちの悲鳴がざわめいた。

「くそ。何も見えねえじゃねえか!!」

 起き上がった江澤は更に銃弾を浴びせたが、そこに何かがいることはなかった。

 そして、点灯。

 何事もなかったかのように会場に光が溢れる。

 江澤がまだ明るさに慣れない目で辺りを見回してもその方向に人の姿はなかった。

「なにしやがった、てめえ」

 紫村が江澤を凝視するが、江澤は何かを探すばかりで紫村には興味が向いていなかった。乗客たちも徐々に落ち着きを取り戻していき、会場には静寂が戻りつつある。

「ったく、なんだったんだ。まあいい。俺は今、人類最強なんだ」

 江澤にあった若干の焦燥が消え、再び自信が満ち溢れた表情で紫村の方へ向き直った。

「さて」

 江澤が首を回し、余裕を見せていることに紫村は苛立ちを覚えた。

「片付けろ」

 紫村の言葉に反応して部下たちは再び江澤に銃口を向け、その全てが火を噴いた。

 幾つもの銃声が重なり合い、まるで爆発音のような銃声がこの会場内に満たされた。その中で人質達が悲鳴を上げていたのだが、銃声の前にかき消されていた。

 放たれた全ての銃弾は江澤を捉えていた。しかし、江澤はその全ての銃弾を把握し、そして、それをいとも簡単に回避していった。江澤には銃弾がまるでコマ送りのようにゆっくりと向かってきていると感じていたからだった。

「これが代償の絵の力か…!ハッハッハ!」

 銃弾は全て目標である江澤の体を通り抜けるようにして背後にある壁に行き着いた。

「なっ……!!」

「嘘だろ…」

「ば、化け物だ…」

 誰もが無傷でその場に立つ江澤の存在に脅え、恐怖していた。

「う、う、うわああぁぁぁあああ!!!」

一人の男が感じたことのない恐怖に耐えかね、正気を失い、持っていた銃を乱射し始めた。

 銃弾を向かった先は、標的である江澤に飛んでいく。しかし、その数ある銃弾の内、江澤をしっかりと捉えたのは僅か数発だった。江澤その銃弾をあっさりと掴み取って見せた。

 銃声が鳴り止み、男の持っていたサブマシンガンは銃弾が切れているのだが、その男は錯乱状態に陥り、必死に何度も引き金を引いていた。

 江澤は掴み取った銃弾を見せつけるように床に落とす。その行動は更に男達に恐怖を与えた。

「な、なんなんだよ……?」

「本物の化け物だ……」

「さぁて、狩りでも始めるか」

 余裕の表情で江澤は動き出した。次の瞬間に起こった出来事はあまりにも一瞬で、誰もがそれを理解するのに数秒を要した。

 江澤は近くにいた元仲間達数人に次々と死を齎していった。一人はその首を跳ね飛ばされ。一人はその頭を握り潰され。

江澤が動き出しから次にその姿を捉えられたのは三人目の男の胸に腕を貫いた時だった。そして、その凄惨な出来事は僅か五秒足らずの間で行われていた。

 その光景を目にした紫村は驚嘆することすらできない程の恐怖をそこで初めて感じていた。

「ふっふっふ………ハ――ハッハッハッハァァ!!凄いぞ!最高だ!!代償の絵がまさかここまで凄い力があったとはな!」

 江澤は血で赤黒く染められた片腕を介することなく、高揚した気持ちを高々と笑い上げた。

「どうした、紫村?さっきまでの余裕はどこに行ったんだ?」

 紫村からの返答はない。江澤の存在の異様さと圧倒的さにただただ無言で黙りこんでいた。

「ひ、ひゃああぁぁぁあああ!!!」

「助けてくれぇぇぇ!!!」

 男達も恐怖に我慢が追い付かなくなり、その場にいることさえ嫌だと言わんばかりに逃げ惑い始めた。

「おいおい、逃げるんじゃねぇよ。どうせ、一人残らず死んじまうんだ」

 江澤は逃げ惑う男達を満足そうに見渡してから、再び動き出した。そして、次々と自分の言葉に沿って、実行していった。一人、また一人、と。

 派手に一人ずつ殺している為、腕こそ血で塗れているが、江澤は返り血を一滴も浴びていなかった。返り血が届く前に江澤は次の目標へと動いているからだ。

 そして、この場に残ったのは、人質である乗客達と紫村と江澤だけだった。しかし、最初の銃声の時に全ての乗客が頭を伏せ、恐怖に震えていた為、何が起きているのかを見ていた人はいない。

「さぁて、俺の復讐劇もラストを迎えたぜ」

 江澤は余韻に浸るようにゆっくりと紫村に歩を進めていく。紫村は腰を抜かしたのか、その場に座り込んで後ずさっている。それでも、僅かにしか後ろに進めていない。

「く、来るな…」

 江澤の前では、いや、代償の絵の前では冷酷な紫村も赤子同然な程、無力だった。反抗しようと思えば、腰に携えたハンドガンで出来たのだが、それは無駄なことだと無意識に理解していた。

江澤は紫村の元まで行き着くと、体を少しだけ屈めて紫村を見下ろした。

「クックック……無様だねぇ。あれだけ冷酷だった紫村でさえ、こうして命の危機が迫るとそこら辺のガキと変わらねぇな。だけどよ、てめぇのようなクズにもチャンスをやるぜ。三か月前に俺も貰ったからな」

 紫村は恐怖のせいか、言葉を紡ぎ出すことも出来ず、ただ江澤の言葉を待っている。

「これはゲームだ。楽しめよ。それより、紫村。痛みは好きか?」

 それが好きな人間がいるとは思えない。

江澤は紫村の片足を掴み上げ、膝を思い切り踏み付けた。その足は生々しい音を響かせる。足は本来曲がる筈のない方向にくの字に曲がった。江澤は更にもう片足にも同じことを繰り返し、再び生々しい音が聞こえてきた。

紫村の表情は苦痛に歪み、その痛みを物語っていた。

「まだまだだぜ」

 江澤は次に紫村の太腿を握るとそのまま肉を掴み取った。掴み取られた箇所は血肉が見え、酷く出血している。痛みのせいか、紫村の声が僅かに漏れた。

「ぐあっ……」

 江澤は更に脇腹に血に濡れた腕の拳を突き付けると、そのまま貫いた。

「――――!!」

紫村の表情が更に苦痛に歪み、悶絶している。脇腹からは太腿とは比べ物にならない程の出血が見受けられた。そこから鮮血が地面に滴り落ちる。その上、内臓が今にも零れ落ちそうな程に剥き出しになっていた。

「これじゃあ少しバランスが悪いな」

 江澤はもう片方の太腿を掴み取った。紫村はもう痛みがなんなのかさえ、分からなくなっていた。

「もう片方の脇腹をやっちまうとすぐに死んじまうからやめておくか。よし、これからがゲームスタートだ。いいか、この状態で逃がしてやる。それでもし生きてられたら、お前は見逃してやるよ。多分だが、三十分くらいは生きてられるんじゃないのか?」

「くそがっ!!て、めぇ…覚え、ておけ、よ……俺を生き……て、逃がし、た…ことを………後悔、させ、てやる…」

 紫村は朦朧とする意識の中、地べたを這いつくばりながらロビーとは反対側にある通路に続く扉へと向かっていった。

「せいぜい頑張れよ。ボス」

 紫村はゆっくりとだが、確実に地面を進み、なんとかこのレストランを抜け出した。その通り道に多くの血液を残しながら。

「ありゃあ、確実に死ぬな」

 俯いていた乗客達が漸くこの状況に気付くと、誰もが自分は助かったと思い、喜んでいた。しかし、江澤は不愉快そうにその乗客達を見詰め、大声をあげた。

「おいおい!ちょっと待てよ!!」

 江澤の言葉は乗客達を沈黙に追い込んだ。

「お前らは分かってねぇようだから言っておくが、次はお前らの番だぜ?代償の絵を持ってることを知ってる人間は一人でも少ない方がいいんだ。だから、お前らだってここにある死体のような末路を送らせてやる。動いた奴から順に殺してやるから覚悟しておくんだな」

 乗客達はその言葉を聞いて、誰ひとり動かなくなった。

「誰から殺そうか……」

 江澤が吟味をしようとした時に電気が落とされて、一瞬でパーティー会場に二回目の暗闇が満ち溢れた。



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