オモテ_始動
相浦が漣に駆け寄って抱き付いた。
「そうだよな。怖かったよな」
「結局、あの人ってなんだったんだろうね?」
「さぁな。まぁ、みんな無事だし、良かったんじゃないのか?なぁ、塚矢」
漣は塚矢に話を振ったが、塚矢からの返答はなかった。それどころか、その表情は真剣に何かを考え込んでいた。
「おい、塚矢。どうかしたのか?おい!」
「…………ん?何?」
「いや、様子が変だったから。お前、どうかしたのかなぁって思ってよ」
「別になんでもないよ」
塚矢は笑って見せるが、どこか感情が感じられない、無理矢理作ったように思える笑みだった。
「それより、今はどうやって乗客達を助けるか考えなきゃいけないね」
「あぁ。そうだな」
「三人とも、何かいい案は浮かんだ?」
言葉の発せない相浦は当たり前なのだが、他の二人からも返答はなく、沈黙を守っていた。
「やっぱり……そんな事だろうと思って、俺がちゃんと考えておいたよ」
「どんなのだ?」
「まぁ、とりあえず座ろうよ」
塚矢の言葉に四人はそれぞれソファーに腰を下ろした。
「作戦って言う程のものじゃないんだけどさ、まず誰か一人が第二甲板にある電気系統が集約されてる場所に行って、電灯のブレーカーを落とすでしょ。それで、それより前にもう一人がレストランの前で待機しておいて、電気を落とすと同時に中に入る。それで、中に入った人が全員を倒し終わった所で電気を戻す。全員が倒せなかったとしても中に入った人が逃げるには暗闇は最適だしね。タイミングを合わせる為に腕時計とかがあればいいんだけど……持ってる?」
漣は左腕を上げ、手首にある時計を見せた。
「俺は持ってるぜ」
「二人は?」
「私、時計ってしないんだ」
相浦は首を横に振って答えた。
「腕時計を持ってるのは漣君だけか……まぁ、そう思ってこういうものを用意しておいたから」
塚矢が後ろ腰辺りから無線機を二つ取り出して、テーブルに置いた。
「これって…無線機?」
「そうだよ。さっき二人を縛り上げた時に何かに役立つかなと思って貰っておいたんだ。一応、この船の中だったらどこでも届くみたいだよ」
「なるほどね!これで連絡を取ってブレーカーを落とすタイミングを合わせるってことでしょ?」
久々に話に付いていけた市ノ瀬は自慢げに話した。
「そういうこと」
「よし、それじゃあ作戦はそれで行くとして、あとは誰がどの役割を担当するかだな」
漣は思考を始めようとするが、塚矢がまだ自分の話が終わっていないと言わんばかりに言葉を紡ぎ出した。
「それももう決めてあるよ。この場合、レストランに突入するのはあのクルーエルと渡り合うことの出来た漣君で、ブレーカーを落とすのは市ノ瀬が最適だと思うよ」
「だったら、相浦とお前は加わらないのか?」
漣の疑問を塚矢に投げ掛け、相浦もそれに賛同したように頷いた。しかし、塚矢は予測していたかのように説明を続けた。
「これはここにいる四人が生きて帰るって言うのを最低条件に入れて考えたんだ。だから、仁巳ちゃんを参加させる訳にはいかないよ」
言葉を発せない相浦は抗議しようと塚矢に詰め寄る。
「仁巳ちゃん、分かって。僕の馬鹿な作戦で仁巳ちゃんが命を落としたら、僕は悔やんでも悔やみきれないよ。仁巳ちゃんにはまだまだ将来があるからね」
塚矢以外の三人にはその真剣さを受け取ったが、実際にこの男がその言葉を本気で言っているのかは定かではない。塚矢にとってはこの三人を騙すことなど、眠ることと同じ位容易なことだからだ。
その言葉を真剣に受け取った相浦は僅かに俯いたが、了承した。
「それで、お前はどうするんだよ?」
「僕も漣に加勢するよ。さすがに一人だと心許ないだろうと思うし」
「そうか。ありがとう」
「そんな感謝されるようなことはいってないよ。それにそういうのはすべて終わったあとにしよう」
「そうだな。よし!!それじゃあ行こう!!」
漣の合図にその場にいた全員が表情を引き締めた。




