オモテ_ランダムの真相
「ちょっと待って。ランダムってどこかで聞いたことあるような……」
市ノ瀬は塚矢が口にしたその単語に聞き覚えがあった。
「五年前、日本の殺人事件史上で最高の犠牲者を出した連続無差別殺人事件が起きた。被害者の腕や足は引き千切られたようにバラバラになっていて、更に目撃者は誰もいなくて警察は複数犯の線で捜査をしていたんだけど、動機が全く分からないせいで捜査は暗礁に乗り上げていた。だけど、最初の事件から半年後に急に事件が起きなくなって、未だ犯人も捕まってない。それで、その事件の犯人をマスコミが面白がって無差別殺人だからランダムって名前を付けたんだよ。結局、その犯人、ランダムは六十八人もの犠牲者を生んだ。あの時はかなり話題になってたから知ってるでしょ?」
「……嘘ぉ!?あの事件の犯人が漣君だったの!?」
市ノ瀬の驚き方は喜劇を思わせる程、過剰なものだった。
「あぁ、俺がやったんだ。その後、俺は自首してもいいと思ってた。だけど、自首すれば死刑は確実だ。これだけの罪が俺一人の命で済むなんて思わなかったんだ」
漣の表情は悲しみと苦しみを掛け合わせたような複雑な表情を見せる。
「俺は……俺は生まれてはいけない人間だったんだんだ」
殺してしまった人間に対してできることは自分を責めることしかないと漣は思っていた。
「漣君って今何歳?」
漣は今の話にそぐわない上、意図の掴めない塚矢の質問に困惑しながら答えた。
「こないだ二十一歳になったけど……」
「そっか。それで、その事件と乗客を助けるのと一体どういう関係があるの?」
「俺はこの罪が一生掛かっても償えない罪だってことは知ってる。それでもあの事件の後、俺は人の為に生きてきた。誰かの為になるなら、この命を惜しむつもりはないんだ」
「なるほどね……だから、乗客を助けたいって訳」
塚矢は漣の話に納得した様子で頷いた。
「相手は軍隊じゃないとはいえ、しっかりと武装してる上に人数も多い。俺一人じゃどうしようもないんだ」
「話は分かったけど、俺には協力できないなぁ。さっきも言ったけど、こういうことに巻き込まれるのはごめんだからさ」
塚矢は腰を上げ、この部屋から出ていった。
「待って!」
市ノ瀬はその後を慌てて追いかけ、漣はその背中を見送った。
「ねぇ、ちょっと待ってよ!!」
「何?」
塚矢は歩を止めず、振り向きもしないまま市ノ瀬の言葉に答えた。
「なんで協力してあげないの?私、漣君の話を聞いて、協力してあげてもいいって思ったの。それにこの船を占拠した人達だって気に食わないし……」
「それで?」
塚矢の言葉には感情が一切含まれていなかった。
「だから、断るにしてもあんな冷たい言い方はないじゃない!漣君は漣君で一杯悩んでるみたいだし、あの話を聞いて少しは協力してあげようかなとか思わなかったの!?塚矢ってもっといい人だと思ってたのに!!」
市ノ瀬の最後の言葉に塚矢はその足を止めた。しかし、その時既に塚矢は演じている人間ではなかった。
「一つ、勘違いしてるようだから言っておこう。私は貴様の思ってる程、まともな人間などではない。それと、人を外見や喋り方などですぐに見極めようとするな」
「なっ……?別にそんなことしてないよ!」
塚矢は再び歩き出したのだが、市ノ瀬はそれを追わなかった。しかし、塚矢は何かを思い出したように足を止める。
「言い忘れていたが、貴様は代償の絵を追っていたんだったな?だったら、あの漣という男に聞いてみるといいだろう」
「なんでよ?」
塚矢は振り返り、無表情で言葉を紡いだ。
「あの男の話を聞いていて、気付かなかったのか?あの男は―――」
塚矢は一度言葉を区切る。
「代償の絵の元所有者だ」
「えっ…?何言ってるのさ、そんな訳―――」
塚矢は市ノ瀬の否定を介せず、遮った。
「あの男は今二十一歳であれは五年前の話だ。まだ十六歳の高校生がたった一人で警察に捕まらずに六十八人もの人間を殺せると思うか?」
「そうだけど、それだけで決めつけるのは安易なんじゃない?」
市ノ瀬の疑念はその説明だけでは晴れなかった。しかし、塚矢の説明はまだ終わっていなかった。
「あの男が元所有者だったという確信はもう一つの理由があったからだ。五年前の連続殺人でランダムが行った殺害方法は知ってるか?」
「ええっと……確か、手や足を引き千切って殺した筈だよ」
「そこまで分かっているのに何故気が付かないんだ?」
「もったいぶらないで早く教えてよ」
市ノ瀬は答えを催促する。
「あの時、警察が調べた限りでは、刃物によって切られた可能性は極めて低いと断定された。これが、警察が頭を悩ませた謎の内の一つだが、貴様は人が自分の腕力のみで人間を引き千切ることが可能だと思うのか?仮に腕や足は出来たとしても、胴体までは確実に不可能だ。だが、ランダムは殺された人間の胴体までもが引き千切るという形で分かれていた。つまり、これも代償の絵なしには不可能ということだ。この二つを考慮すれば、あの男がランダムであったなら、代償の絵は確実に持っていたという訳だ」
「あっ……確かに…そうかもしれないなぁ……」
考え込む市ノ瀬を置いて、塚矢は先に歩を進めていった。




