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代償の絵  作者: 水芦 傑
25 years later
23/50

オモテ_再会


「いいねぇ、その表情。そそられるなぁ」

 川崎は厭らしい笑みを存分に浮かべている。相浦はそんな川崎から視線を逸らし、横を向いてどこかを見ていた。いや、既に抵抗する気力さえ失った相浦にとっては何かが見えているのかさえ定かではない。

 川崎が嬉しそうに相浦に覆いかぶさろうとしたその時―――――

バリンッ!!

ガラスの砕け散る音がこの娯楽施設内に響き渡り、川崎は相浦に覆いかぶさりながら倒れ、そのまま地に伏した。

「何やってるんだよ、この変態」

目をつぶっていた相浦には何が起きたのか、理解できなかった。恐る恐る力強くつぶっていた目の力を解き、ゆっくりと目を開いた。

その視界にまず飛び込んできたのは爽やかで柔和な笑顔をこちらに向けている男、漣の姿だった。

「大丈夫だった?」

 相浦は首を一度だけ縦に振り、答える。

「そう。良かった―――」

 漣が言葉を紡ぎ終わる前に相浦は漣に抱きついていた。

強く、強く。

今までの恐怖を漣にぶつけるかのように。

「やっぱり、怖かったんだな。でも、もう大丈夫だよ」

 漣は子供をあやすかのように相浦の頭を撫でる。

「とにかく、この男が起きる前に早くここから逃げよう」

 相浦は抱きついたまま漣を見上げ、頷いてから離れた。漣と相浦が駆け出そうとした、その時―――――

二人の後ろから銃声が響き、銃弾は漣の右腕を僅かに掠めた。

 漣と相浦が同時に振り返ると、そこには頭から血を流し、顔の半分が血に染まった川崎が虚ろな目でこちらを睨み据えていた。その右手にはハンドガンが握られっている。

「てめぇら二人とも、ぶち殺してやらぁぁ!!」

「くそっ!!」

 漣の表情が一瞬にして強張り、銃を怖がることもせずに向かっていく。川崎は更にもう一度引き金を引き絞ろうとするが、それより数瞬早く駆け寄った漣がハンドガンを横に叩く。銃口は漣から逸れ、放たれた銃弾は壁を抉る。

 漣は更に二歩踏み込んで、川崎の血で濡れた顔面に思い切り殴り飛ばした。川崎は後ろに軽く転がっていき、そのまま気絶した。

「ったく、今日初めて着たジャケットが台無しじゃねぇか。あーぁ、これじゃあもう着れないよなぁ」

 川崎に言葉を吐き捨て、漣は踵を返す。漣はビリヤード台の影で縮こまっている相浦に歩み寄って手を差し伸べた。

「さ、早く逃げよう」

相浦は一度頷いてから漣の手を借りて立ち上がり、二人は駆け足で娯楽施設を後にした。



 エレベーターが三階に到着したことを告げた。エレベーターの扉がゆっくりと開き、相浦と漣が降りてきた。

 漣は相浦を自分の部屋まで連れて行こうと三階に連れてきたのだ。

 二人が廊下へと出て、歩を進めようとしたが、先を歩いていた漣が不意に足を止める。相浦は漣の真後ろで考え事をしながら歩いていた為、漣が立ち止まったことに気付かずにぶつかった。

 漣が立ち止まったのは視線の先には二人の男女、市ノ瀬と塚矢が佇んでいたからだ。相浦も漣の影から奥を確認すると、突然二人のもとへ一目散に走っていった。

「ちょっと待て」

 漣が相浦の腕を掴もうとしたが、それよりも僅かに相浦の走り出しが早かった。

「ちっ」

 漣は舌打ちをして、相浦の後を追って走り出した。相浦は二人の内、塚矢に向かって走っていき、着いた途端に抱きついた。

 漣も相浦から僅かに遅れて二人のもとに行き着いた。

「仁巳ちゃん?」

 塚矢は抱き付いてきた相浦を見下ろした。相浦の両眼は少し潤んでいたが、塚矢に顔を埋めていた為、そのことに気付く人は誰もいない。

「お前、この子のことを知ってるのか?」

「うん。この船に乗る時、一緒だったから。それで、君は誰?見た限り、この船を襲った人達じゃないみたいだね」

 塚矢は漣に対して軽く笑顔を見せた。この笑顔にどんな意図があるのかは分からないが、何かしらの意図が存在することは確かだろう。

「あのことは知ってるんだな。俺は漣剣伍。この子が変態に犯されそうになってたとこを助けて一緒にここまで逃げて来たんだよ。それよりこの子、余程脅えてるのか、一言も喋らないんだ。大丈夫かな?」

「あぁ、それは違うよ。仁巳ちゃんは喋らないんじゃなくて、言葉が喋れないんだよ。それと、仁巳ちゃんを助けてくれた事、俺からお礼を言っておくね。ありがとう」

「礼を言われるようなことはしてないつもりだよ。俺にとっての人助けは半分自分の為っていうのもあるし……」

――ありがとう…か。

漣は僅かに、そして一瞬だけ暗い表情を見せた。漣にとっての人助けは償いという意味を持っていることを塚矢の一言で改めて感じたからだ。

「そうだ。俺達も自己紹介しておくよ。君が助けたこの子が相浦仁巳ちゃんで、そこに立ってるのが市ノ瀬渚ちゃん」

「よろしくね」

「それで俺が塚矢琢磨って言うんだ。よろしく」

 漣は黙って聞いていたが、塚矢が言葉を紡ぎ終わるとすぐに厳しい顔に変わった。そして、その視線は塚矢でも市ノ瀬でもなく、その先を見詰めていた。

「自己紹介するのはいいけど、もうそんなことしてる時間はないみたいだな」

 塚矢はすぐに漣の言葉の意味を察し、今までずっと抱き付いていた相浦を引き離して振り返る。それに釣られて市ノ瀬も振り返った。

「もう話はいいのかしら?」


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