オモテ_川崎という男
時刻 二〇:一〇
B1F 娯楽施設
ロビーよりも下の階に作られた娯楽施設はいつもなら騒がしい程の騒音を撒き散らしているが、この時ばかりは人影もなく静けさに包まれていた。
この広い部屋は薄暗く、半分はビリヤード台やルーレット台などが置かれている賭博場になっていて、もう半分はテーブルが幾つも置かれ、端には様々な種類の酒があるバーカウンターになっていて、酒場のような機能をはたしている。
バーカウンターの中で相浦は膝を抱えて座っていた。体は小刻みに震え、相浦はその震えを抑えるように精一杯体を縮ませている。
表情はいまにも泣き出しそうな程、弱々しいものだった。
――なんで……なんであの男がいるの…?
幾ら考えても答えの出ない思考を繰り返していると、相浦の周りが急に暗くなった。
「見―つっけた」
頭上からの声に相浦は体をビクッと震わせてから見上げた。そこには、川崎の顔が厭らしく笑っていた。
「それで、川崎さんはなんだって?」
「ん?あぁ、自分は一人見つけたからそいつをレストランまで連れてくって。それで、俺らは先に四人だけで他を探せってよ。あと、ボスには連絡入れなくても、自分で入れるから余計なことはするなだってさ」
「絶対サボる気だな。あの人の面倒臭がる性格、どうにかしてくれないかなぁ。俺らみたいな下っ端の迷惑も少しは考えろってーの」
「本当、そうだよな。いい加減にしろって感じだぜ」
「ははっ、言えてる」
川崎がリーダーのチームに振り当てられた男達は一階ロビーを歩いていた。それぞれが持っている禍々しい武器とは対照的に、男達は川崎に対しての愚痴で軽く談笑している。
今まで三人の談笑に加わらず、黙っていた男が口を開いた。
「多分、今回は面倒だから俺達に押し付けた訳じゃないと思う」
「おっ、なんか知ってるのか?」
一人の男が興味ありげに尋ねる。
「さっき、命令を受ける時にお前も行ったから分るだろうけど、見つけた奴がまだ中学生位の女の子だったろ?」
「あぁ」
「多分、それが関係あるのかも」
「どういうことだよ?」
尋ねた男は意味を理解できずに聞き返す。
「だから………」
聞かれた男が答えようとした時にまた他の男が何かに気付いた。
「あっ、なるほどな!確か、あの人ロリコンだったよな!?だから、その女の子に何か悪いことでもしようって訳か!」
「正解」
この話を切り出した男がその男を指差した。
「うわっ、マジかよ。あの人も体がでかい割に趣味悪ぃな」
この話にはまだ参加してなかった最後の男が不意に言葉を紡ぐ。
「そういえば結構前なんだけど、僕、川崎さんの噂聞いたことあるよ。確か…あの人、中学生か小学生と援交してるっていう噂を」
「あっ、それ俺も聞いたことある!」
「俺も!」
「あの人の場合は噂じゃなくて、それが真実だろ」
その言葉に全員が笑い出す。その笑い声はロビーを包むように響き渡った。
「噂って言えば、知ってるか?先代が死んだのと藤堂さんがやってきたのは同時期だっただろ?だから、藤堂さんがボスに先代を殺すように吹き込んだって話だぜ」
「確かに、あの人は掴みどころのない人だからなぁ。何考えてるのか全然分かんないし」
「有り得ない話じゃないよな……」
「待てよ。そんなに怖がることないだろ。悪いようにはしないからさぁ。へっへっへ」
川崎は小声で笑い、相浦を追い込んでいく。
――来ないで!やめて!
言葉にならない叫びは誰にも聞かれず、相浦の心の中で木霊するのみだった。
相浦は隅に追い詰められたが、近くにあったからの酒瓶やカジノ用のチップなどを手当たり次第に川崎に投げ付ける。しかし、そんなささやか過ぎる抵抗でも、川崎は僅かに苛立ちを感じていた。
「俺に従えば、悪いようにはしないって言ってるだろ?分からないのかい?」
相浦は投げるものがなくなると、川崎の脇を抜けようと走り出した。しかし、川崎が簡単に相浦の腕を掴み、制した。
「人がせっかく親切に言ってるのに、言葉じゃ分からねぇのか!だったら、体にしっかりと教えてやるよ!!」
川崎の苛立ちは徐々に募り、怒りへと変換されて、それが表情に滲み出ている。川崎は相浦の腕を投げるように離し、相浦の体は軽々と跳んでビリヤード台に打ちつけられた。
相浦は背中を強打し、身動きが取れずにいると川崎が相浦の体をビリヤード台に乗せた。
「悪い子にはお仕置きが必要だよなぁ」
川崎の目はその行為の愉しさと僅かな狂気を物語っている。
――助けて…誰か助けて!
言葉を失った相浦にとって、叫ぶことさえ許されないこの状況にただ泪が零れた。
川崎は相浦の上着を無理矢理剥ぎ取り、はだけさせる。相浦の上半身が露わになり、肌を覆うものは下着だけになっている。
「悪いことをしたらどうなるか、しっかりと教えてやるよ」




