―代償と救済―
呪われし二枚の絵画。
この二枚は風景画である。
二枚の絵は人に取り憑き、呪われていると囁かれている。この絵が誰によって描かれたのか、なんの為に描かれたのか、そしてどうして人に取り憑くのかは一切不明。
一枚は取り憑いた人間に不幸と幸福を与えるという。
不幸とは寿命にある。
その絵に取り憑かれてから三百六十五日後、つまり一年後には死を迎える。どんな状況でも、これを拒むことは不可能である。
幸福とは強大な力。
その絵に取り憑かれた人間は人を、いや、地球上に存在する総ての生物を越える力を手中に収めることができるという。その力は生物という域を越えていた。それは、つまり地球上で最強の思考物体になることを示す。
その為か、この絵は人々の間でこう名付けられた。
代償の絵―――――と。
この絵の不幸から逃れる為には同時に幸福を手放さなければならない。
この絵は定められた一年の中で他の人間に移すことが可能なのだ。それを行えば、寿命は所有前に戻る。但し、絵を移す際には一つの制約がなされている。
それは絵の所有者のみが移す権限を持つということ。絵の移動は絵の所有者が了承した時に初めて行われる。逆を言えば、絵の所有権を与えられる側の意思は関係ない。
その他に代償の絵には二つの制約が存在する。
一つはその絵の紋様が必ず所有者の肉体の一部に刻まれること。所有者が所有権を持った最初に自身でその場所を決められるが、その後に他の部位に移すことは出来ない。そして、代償の絵の所有権を得る際に肉体の一部に刻まれる紋様の場所を指定しない場合は、所有権を渡す者が触れた場所にそのまま刻まれる。
もう一つは所有権を持つことが許されるのは一生で一度のみ。所有者になった者がもう一度絵を自身に取り憑かせようとすれば、その人間は死を迎えることになる。
絵の所有者が死を迎えた場合、その所有権は一番近くにいる人間に移る。
そして、もう一枚の呪われた絵画。
それもまた、肉体の一部に絵の紋様が刻まれる。
しかし代償の絵とは違い、不幸も幸福も与えられず、それ以上の制約もない。
ただ一つ、ある力が与えられるのみ。それは代償の絵に宿る力に唯一対抗できる力、いや、抑える力だ。代償の絵の力を皆無にし、その権限を剥奪するという。
この絵はこう呼ばれる。
救済の絵―――――と。