1章 誕生 8話 長い夜2
「ぶはぁぁぁ!!タマランわぁ!」
「ふふ、そうだね。」
思いっきり伸びをする俺の横で、裸の友里が頬を赤らめて笑う。
花と杏も裸でサーペントと遊んでいる。困ったようなサーペントが時折こちらを見るが、しっかり遊んでやれという眼を細める。一瞬サーペントがため息をついたように見えたと思ったら杏に湯船に沈められる。手からするりと逃げ出し水の中を器用に泳いで遠くから水面に飛び出す。それをキラキラした眼でまた追いかける花と杏。終わりなき鬼ごっこだ。
風呂は日本の心だ。最高の文化だ。どんなに辛い事があっても、風呂に入れば大抵のことは忘れられる。
しかも超久しぶりの友里とのお風呂だ。最近では、平日は帰りの遅い俺を待たずに友里と花と杏が一緒に入り、土日に俺と花と杏が一緒に入る。一緒に入ろうと言っても、やれ寒いとかやれ狭いとか言うが、実際は若いころに比べて少し体型が崩れた友里が裸を晒すのを恥ずかしがるからだ。今日はなぜOKだったかと言うと、ふみさんがムチャクチャ頑張ってたから恥ずかしいけどご褒美、だそうだ。
どいつもこいつも分かってない。少し体形が崩れたくらいの熟女の良さを。若いころはロリ趣向気味だったのだが歳を取ると熟女の良さがわかってくる。今や俺の守備範囲の上限はうなぎ登りだ。自分の年齢のプラス20歳くらいまではイケる。女性には年齢に応じた美しさがあるんだ。友里のほんの少し重力に負けかけている昔に比べて少し小さくなった2つの丘。全くもってケシカラン。余計にソソル。18禁全開で熱くなっているが仕方がない。仕方がないんだ。
風呂は倉庫にあったフローリング材を重ね合わせ、釘で固定した。ミーティングルームの一つに置き、そこの天井、壁、床、ドア、そして浴槽に、俺が金魔法で撥水性、防カビに優れたセラミックコーティングを施し、完璧なデザイナーズ銭湯が出来上がる。そこに俺の水魔法のクリアウォーターとゲイザーで少し熱めのお湯を満たし、完成だ。窓があるから換気は問題ないし、排水は俺がフローコントロールで窓から一気に捨てられる。ミーティングルームの前に天井から布を垂らし、簡単な脱衣所も作ったし完璧だ。
ただ、男風呂と女風呂を分ける余裕はないので、一つを順番に使うことにした。まずは俺の家族、次に女性が班に分かれて3、4人ずつ。最後に鬼頭が一人で入る。
◆ ◆ ◆
今の時間は夜の9時。
情報収集を終え、お風呂に入りすっきりとした女性陣は各部屋に分かれて早めに休んでもらった。部屋割りも班で相部屋でお願いする。
「お先でーす!」
「おやすみなさーい。」
疲れていたのだろう、みんなすぐに寝たらしい。おしゃべりの声がすぐに聞こえなくなった。
友里も花と杏を連れて寝に行く。
「ごめんね、お先に。あんまり無理しちゃダメだよ、みんなで助けるからね。」
「お父ちゃん、一緒に寝ないの?」杏が甘えモードだ。
「お父さんは杏たちのために、お仕事頑張ってくれてるんだよ。いい子でいなきゃだめだよ。」花がまた聞き分けのいい子発言をして、余計に杏が泣きそうになる。
「はい、はい。寝るよ。じゃあね、おやすみ お父さん。」友里がさっと手を取り、連れて行く。
「「おやすみなさーい。」」
聞き分けのいい子を演じた花の方が泣いていた。妹の杏に頭をよしよしされながら寺沢家に割り当てられた個室に入っていく。こんな怖いことが起こった夜だ。寂しくて不安で当たり前だ。
「おやすみ!」俺は3人を強く抱きしめて、見送るとコーヒーを淹れて、作戦本部の大会議室へ戻る。
◆ ◆ ◆
鬼頭のまとめたレポートに目をやる。風呂から上がったところの鬼頭はとなりでアクエリ〇スをがぶ飲みしている。
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2月11日(月)建国記念日 鬼頭レポ①
「本日の異常事態に関する世界の状況」
本日ほぼ同刻に世界各国で全く異なった、しかし何かしらの超常的な事態が同時多発テロ的に発生している。
代表的な国の状況をまとめる。
・アメリカ
グランドキャニオンに突如、空を飛ぶ黒いトカゲのような群れが現れ、空を覆いつくした。
ドラグーンと呼ばれる黒い中型の空飛ぶトカゲの群れはラスベガス、ロサンジェルス周辺で猛威を振るっている。アメリカ空軍がこの撃退に当たっている。撃墜したドラグーンの死体周辺は激しい悪臭と強い刺激臭がし、周辺数kmは近づけないような状態となっている。
・中国
突如、国家主席が世界征服宣言。地球は全て優れた中華人民の指導の下でこそ幸せを享受できる、という思想の下、現在はロシアに進軍中。
ロシア
中国に侵攻されているロシアには、あまり内部の被害は報告されていない。ゴシップ誌に吸血鬼現るという見出しの記事があり、ファンタジー的な要素として念のため注意しておく程度だ。
・イギリス
ロンドンで人食い人種が急増している。人食い人種は常人離れしたタフさを持ち、殴っても切りつけてもまるで不死身のように立ち上がり、また人を襲う。襲われ、傷を受けた者達は人食い人種になってしまい、また人を襲う。まるでゾンビ映画のよう。ロンドン以外では今のところ被害報告はなし。
・ヨーロッパ各国
各地に様々な特徴を持った半人半獣の化け物が、1万人の規模で田舎に押し寄せている。身体能力が異常に高く、襲われた地方の村がいくつか壊滅した。
一部書き出す。
ドイツ :牛の頭を持つ獣人。ミノタウロス。怪力。
フランス:豚の頭をもつ獣人。オーク。貪欲。
イタリア:ヘビの体を持つ獣人。ラミア。狡猾。
スペイン:鹿の頭を持つ獣人。セント君。利口。
・アフリカ
飢餓に飢える子供たちが何人か集まり、絡まりあって一つの塊になる奇病がいくつかの国で確認されているが詳しいことは分かっていない。
・オーストラリア
西海岸を中心に大型クルーズ客船や小型漁船などの船舶の沈没事故が1日で大小20件以上も発生。詳しいことは分かっていない。
最後に、日本の各地の状況をまとめる。
・赤鬼
日本では各地に眼を充血させ、突然人を襲う「赤鬼」が大量発生。政府は、外出を極力控えるよう国民に呼びかけている。また、新種のウィルスの可能性があるとして医療チームを発足させ、「赤鬼病」対策検討を開始している。
・通称「赤鬼病」
男性の感染報告しか確認されておらず、患うと激しい破壊衝動と性的欲求が高まる。男性には刃物や鈍器で襲いかかり、女性には強い性的な暴力本能に従い襲うようになる。
・被害地域
もっとも被害が大きいのは中部地方で、中部地方を中心に東西南北へ被害が拡大している。
まだ九州、中国、四国、東北、北海道に被害は出ていない。関東・近畿地方では数件報告されている。
・中部地方詳細
名古屋の町は、その機能をほとんど麻痺させてしまっている。現在は自衛隊が出動し、地域住民の安全確保に努めているが、暴徒と化した赤鬼の数は今なお増え続けている。
・Dテック周辺
我々の会社Dテックのある轟市では局地的な被害にとどまっており、市全域の被害までには至っていないが、Dテック本社および市役所ビルが赤鬼の巣窟と化しているようで、現在この2箇所への道は警察により封鎖されている。数日以内に愛知県警ならびに轟警察署による市役所解放の計画があるという情報が流れているが真偽のほどは定かではない。
以上
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色々な写真も貼り付けられてポイントを短く整理した出来のいいレポートだ。
世界、終わったな。。人類の反撃は行われるのか?
比較的、楽観的に感じられるのはヨーロッパ圏か。獣人が襲ってきた、とあるが軍事的行動をうまくとれば、問題ないかもしれない。計画的な爆撃で終わりじゃないか?
日本は中部で何かが起こっているんだな。
政府中枢の集まる東京でなかったのが、せめてもの救いか。
いずれにしても、赤鬼はドンドンその数を増やしている。ゴブリンの事もあるし、拙速を尊ぶ、でいくか。
「鬼頭、引き続き情報収集は宜しくお願いするとして・・・この状況どう思う?」
「信じられませんね。世界の終わりキターという感じです。世界各地で何かが起こった。それが真綿を絞めるようにじわりじわりと広がっていく。かなりまずいですね。ヨーロッパの派手な侵略なら、軍事的な対処はしやすいかもしれませんが、イギリスや日本で起こっている指数関数的に被害が増大するバイオハザード系はやばそうですね。作戦は急いだほうがいいかもしれません。中国の侵略もきっと何かが裏にあると思います。各国自分のことで精一杯でしょうから、ロシアに頑張ってもらうしかないですかね。中国人はどこにでもいるんで、世界各地で混乱に乗じてテロ行為が始まるとかなりやばそうです。核戦争にならなければいいんですが。」
鬼頭の洞察は鋭い。
「そうだな、俺も同じことを考えていた。3日かけてゆっくりビルの制圧をやると言ったが、それでは手遅れになるかもしれない。俺はこれから単独で4,3,2,1階と一気に今晩のうちに制圧しようと思う。」
「ちょっ、マジですか?いくら寺沢さんがチートでも後方支援なしだとヤバくないですか?」
「うん、だから鬼頭にはここで後方支援をお願いしたいんだ。お前も部隊の状態をVR映像みたいな感じで見えるだろ?それを見て、絶妙なタイミングで部隊の追加投入の判断をしてほしい。頼めるか?」
「もちろん、いいですけど、そこまで急ぐ理由をまだ聞いてないですよ?」
「うん、いや、さっきゴブリンを解体して、妙なことがわかったんだ。あいつらには生殖器がない。オスでもメスでもない中性なんだ。どうやって繁殖するのか、全く見当もつかない。もし無からドンドン生み出されるとしたら、時間をかければかけるほどヤバくなる。数の暴力で際限なく来られたら、警察くらいじゃ抑えきれないと思う。まず間違いなく赤目とゴブリンには何かしらの関係がある。赤目は怖くないが、ゴブリンは正直言って怖い。だから数が増える前に叩きたい。それに、このビルで俺と遭遇したゴブリンは何か喋っていた。何か聞き出せたら、今起こっている状況の本質が見えてくると思うんだ。」
「うーん、確かに際限なく増えるとやばいですね。それにしても明日の朝でいいんじゃないですか?」
「そうだな、確かに少し焦ってるかもしれないけど、遅すぎたら、どうしようもなくなるかもしれないし、今リスクを取る時だと思う。『故に兵は拙速を聞く、未だ功の久しきを覩ざるなり』だ。」
そう言うと、家族の笑顔を思います。
「・・・守りたいんだ、家族を。お前たちを。」
「ふーーん、OKです。寺沢さん、めっちゃカッコいいですね。引き際を見誤らないでくださいよ。」
「わかってる。じゃあ、ちょっくら行ってくるわ。」
MPの回復をしながら、最大限まで増やしておいたカイマンの群れを引き連れて、非常階段の扉を開く。
「俺に何かあったら、友里たちを頼むぞ。」
「もうフラグ何本立てりゃ気が済むんですか。ちゃんと戻って家族は自分の手で守ってください。」
「ふっ、そうだな。んじゃ軽く行ってくるわ。朝飯までには戻るよ。」
「うーいっす。」
ときおり寝室のほうから、女子たちのうなされた声が漏れてくる。サンライトでは深層心理にまで根を張ったトラウマのような深い傷までは治せないんだろう。俺の仲間たちにこんなつらい想いをさせている元凶は、見つけたら絶対許さない。手を出したことを後悔させてやる。
俺は静かに階段を下りていく。階段には電気がついておらず、足元の小さな常夜灯が薄暗く辺りを照らしていた。たまに使っていた普通の階段が、まるで奈落のそこに続いているような気がした。
◆ ◆ ◆
「よし、だいたい片付いたな。」
気を引き締めて挑んだ割りに、制圧は順調だった。
4階、3階、2階と危なげなく、進んだ。開発中の実験装置が疎らに並ぶ4階、試作品を組み立て、性能を検査する、150cmくらいの高さの比較的小さな装置が並ぶ3階、試作部品を製作するための、切削機、研磨機、樹脂成形機など2mくらいの高さの中型の装置が並ぶ2階。どのフロアもレイアウトは同じでフロア中央に東西を縦断する中央通路が走っており、そこから南北方向に枝葉のように装置が並ぶ。階を降りるごとに装置が大きくなるので、見通しが悪くなり死角ができ、難易度が少しずつ上がっている感じはしたが、大差なかった。出没する赤目はとにかく知能が低い。オニヤンマで大体の位置取りを把握した後にカイマンを中央通路から進軍させる。サーペントは天井の配管を等間隔でで進軍し、上方から熱湯ブレスで撹乱。赤目はただ奇声を上げて真っ直ぐ突っ込んでくるだけなのだから、カイマン、サーペントの連携で一網打尽だ。俺は最後方で見守るだけだった。
レベルもひとつ上がってレベル9になった。
今回はゴブリンと会話ができるように、というか自ら尋問できるように、芸術1の言語スキルを取得した。
新設計スキルは枠は温存。前回創った大砲ぶっ放し【ショットガン】があれば、ほとんどの敵は殲滅できそうだし、もう少し基本スキルをあげて、選択肢を増やしてから選んでも大丈夫だと考えた。熱さに強いゴブリン相手でもカイマンのアイスクラッカーを有効に使えばまったく問題ないだろう。
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名 前:寺沢文也
種 族:人間
レ ベ ル:9
性 別:男性
職 業:エンジニア
基礎能力 :心 23、技 10、体 6
アビリティ:スキルデザイン ランク2|(ユニーク、アクティブ)
リセット|(SSR、パッシブ)
マネージメント ランク3|(SR、パッシブ)
ス キ ル:棒術2、
物理1、化学1、芸術1、生物5、
水魔法4、土魔法3、日魔法2、金魔法1、ユニーク8
残ポイント3pt、残ユニークスキル枠1
パーティ :
・直轄部隊39名
ファミリー、
制圧班1、2、偵察班1、ファンネル1
5階護衛班1、2、3、
6階護衛班1、2
7階護衛班1、2
・本部ビル防衛中隊 鬼頭組15名
情報班1、情報班2
パトロール班1、救護班1
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カイマンたちに殺されていくかつての知人たち。4階より階下で働く人たちはいわゆる現場のおっちゃん。5階には大卒や院卒のいわゆるホワイトカラーが集まっているスタッフ部門なのに対し、中卒や高卒で就職し、現場で試作品や実験装置を作ってくれる匠の技を持った職人タイプのブルーカラーのおっちゃんたち。
若いころ・・・お客さんへの試作品納品の前日に自分の実験装置が壊れて、どうしてもその日のうちに直さないといけなかった時など、いやな顔ひとつせず、保全係のおっちゃんたちが徹夜で直してくれた。貸し1な、とか言って楽しそうに汗を拭きながら装置を直す姿に、感謝の気持ちでいっぱいになった。その朝おっちゃんたちと中央広場の芝生の上で食べたおにぎりとインスタント味噌汁は死ぬほど旨かったなぁ。そんなおっちゃんたちが獰猛で無慈悲な俺の作り出したワニに捕食されている。
あぁ、あそこにいるのは、通称寺沢組の若手メンバー達だ。5年程前に、俺の無茶苦茶な夢のようなライン構想に共感してくれて「こんな面白い発想できる人、寺沢さんだけですよ!一緒に世界をあっと驚かす生産ラインを作りましょう」と言って自ら志願して2年間寝食をともにしたプロジェクトメンバー。俺は昔から、うまくいく保証のないチャレンジを平気で口に出してきた。結果、社内には明確な味方と敵がいる。保守的で失敗を恐れるタイプは俺のような目立ちたがり屋が出世していくのを疎ましく思い、足を引っ張ってくる。しかし共感してくれる人たちは、まるで信者のように、俺を慕って付いて来てくれる。そのときも見事、国際学会賞を受賞した俺のことを、まるで自分の事のように心から喜んでくれた。戦友とも言える奴らだ。今は俺の下から巣立ち、各グループのリーダー格として現場をまとめ上げてくれている。そんな寺沢組のメンバー達が食いちぎられ、肢体がバラバラになっていく。
どのフロアにも生存者はいなかった。元から製造現場である4階より下の階には女性が少ない。1フロアに1人か2人しかいなかったはずだが、皆、乱暴された挙句に事切れたのだろう。絶望の中で苦しんで無念の目を見開いたまま動かなくなっていた。
・・・くそっ、どうしてこんなことになってしまったんだ。一体俺たちはこれからどうなるんだ。外の世界も徐々に赤目が増殖しているんだろう。早く手を打たなければ。でもどうやって?
くそっ、くそっ。
少しそのときは冷静さを欠いていたかもしれない。2階までまったく危なげなく制圧してきたので、油断していたのかもしれない。漫然と考え事をしながら、おもむろに1階の非常口を開けて、カイマン達を突入させてしまった。オニヤンマでの偵察を怠った。たった一つの工程を飛ばしてしまった。それが致命的なミスになった。
中央通路に進軍したカイマン達に無数の矢が降りかかる。
先頭の3体のプロットが黒くなり、消滅する。
「っ!!???」
そこに見えたのは横幅3mの中央通路に雑然と並ぶ醜悪な赤黒い生物の一団。
両サイドに座る鍛造やプレスといった高さ5m級の大型設備の陰にもいくつ赤黒い影がある。
目の前に薄汚い笑いを浮かべたゴブリン共が立ち並ぶ。俺の仲間たちを人でなくした元凶。怒りで目の前が揺らぐ。そのとき、左肩に刺すような痛みが走る。
言葉通り汚く薄汚れた矢が俺の左肩に突き刺さっていた。
すぐ両サイドに潜んでいただろう鉈を持ったゴブリン何匹かが斬りかかってくる。
目の前の中央通路では弓矢を持ったゴブリンたちが横の設備の陰に隠れるように動き、その後ろから20匹はいるであろう奴らが奇声を上げて突っ込んでくる。
「全部隊!中央通路から後退!!両サイドに分かれて設備の間に潜んでいるクソ共を殲滅しろ!」
そう叫びながら、切りかかって来る両脇のゴブリンの振り下ろしの鉈をバックステップでかわすと同時に俺の周りで浮遊していたホーネットたち(ファンネル)が高硬度の針を射出する。俺は、顔面を押さえへたり込む矮小なそこにある頭の位置を確認し、右足を中心にしてくるんと一回転する。右手に持った鉄パイプが遠心力を伴って、正確に頭を砕く。4つ。ほんの一瞬の間に4つの汚い頭を更に小汚く潰されたモノが目の前に転がり痙攣する。
俺は左肩の矢を抜き取り、目の前から五月蝿い声を上げながら迫り来るゴブリンの集団に向け、ゆっくりと一人、歩き出した。
「居てくれたか。クソ野郎共。。」
ボソリとつぶやく俺は、どんな表情だったんだろう。花と杏にはとても見せられない程に邪悪な顔をしていたかも知れないな。右の唇が吊り上っているのがわかる、笑っているんだ、俺。
冷静、とは言えないな。これは、そう歓喜だ。目の前にいる醜悪な異形のもの。こいつらが俺の大切なものを壊した元凶だ。為すすべなくおれ自身の手で介錯したかつての仲間たち。救い出せても未だに心に深い傷を抱える仲間たち。今度は俺の番だ。何の抵抗もできずに蹂躙され搾取される側の気持ちを教えてやる。後悔というものが理解できるか?お前らのクソのような脳みそで?んなことは知らん。死ね。まずはそれからだ。
ふぅっと小さく、そして深い息を出し、叫ぶ。
「お前ら!皆殺しだあぁぁあっ!!!!!!」
街中に響くような、短く激しい咆哮が轟く。世界を変えてしまった黙示録、その初日の夜に小さな小さな人類の反撃の狼煙が日本の小さな街の一角で起こっていたことを人類が知ることになるのはずっと先のことであった。