1章 誕生 7話 長い夜
俺たちは全員で6階のカフェに集まっていた。
まずは赤目の死体をすべて5階の作戦本部横の冷凍室に放り込み、床一面の血を俺の水魔法できれいさっぱり掃除をした。カフェテリアの客席の大部分はバリケード作成に充てた。残った客席は30席ほどだ。
あと、売店の食糧は全て、5階のミーティング室の一つに移動させた。アイスクリームや飲み物用の冷蔵棚はさすがに面倒だったので、そのままにしてある。
時間は夕方6時前。すでに外は真っ暗で、建物内は常夜灯がついているので歩けなくはないが、かなり危なっかしい。外を見ると、普通に設計棟や事務棟に明かりがついているので、不審には思われないだろうと判断し、間引いて明かりをつけてある。
「はい、お待たせしました。」
定食カウンターの向こうから呼んだのは、田中千晶。このカフェテリアで唯一の生き残りで、チーム最年少の16歳。このカフェテリアで働いていたこともあり、今後は食事担当として活躍してもらうこととなった。明確な役割を与えられ、かつ自分の強みを活かしてチームに貢献できるということが嬉しいらしく、生き生きとしているように見える。相当辛い目にあったはずだが、精神ダメージを和らげる魔法のおかげか、真剣なまなざしで料理を盛り付ける様子からは、不安は感じられない。根が強い子なんだろう。俺とは一回り以上違うが、こういう芯が強い子は信頼できる。
マドンナ3人衆のひとり、高坂えりも化学スキルを付けたこともあり、料理担当をお願いした。化学2になれば調理師となり、かなりの料理が食べられるようになると期待している。二人で12人分の料理の準備は大変そうに思えるが、実は昼の残りを出すだけなので、すぐにできた。しかも定食も3種類から、麺類もうどんと拉麺から選べて、まったく不自由がない。
どうやらファミリーオープンデーということもあり、かなりの在庫があるらしく、既に作られている料理だけで予定の3日は3食欠かさず食べれそうだ。冷蔵庫や冷凍庫にもかなりの量があるらしくやはり何か月かは食事には困りそうにない。
「千晶ちゃんのごはんおいしい!」
杏が屈託のない笑顔で唐揚げを頬張っている。
「うん、でもお母さんの唐揚げの方がおいしいよねー、お父さん?」
花は友里の方をチラッと見てすかさずフォローを入れる。花はいつもこうだ。家族のことをいつも一番に考えた言動をする。もしくは全体のバランスを取ろうとする。悪意はないが、それが人を傷つけることがあるという事実を分かっていない。それが昔イジメられた原因だと思う。いつも正しいことを言うし行動しようとする。それ自体は悪くはない、でも長いものに巻かれたり、誰かが傷ついていても庇わずに黙っていることも時には必要だと思う。社会で上手に生きる、そういう狡さが花には全くない。
「あぁ、そうだな。」
「ありがと、花。でも千晶ちゃんの料理もホントにおいしいよ。」
いつものことながら花の機知に両親は愛おしさと不安を感じる。
「私もお母さんが一番だと思ってるもん。」
そして杏が泣き出す。いつものパターンだ。杏は素直でまっすぐな子だ。まだ幼いこともありストレートな言葉で気持ちを表現する。杏も家族のことが大好きなので、お姉ちゃんがいい子すぎると、自分が意地悪な子であったかのように悔しさでいっぱいになり泣いてしまう。負けず嫌い特性をあらゆる場面で発揮するのだ。だからすぐ泣く。それもひっくるめて、可愛いんだ。
杏の頭をよしよしと撫でる花とそれを見て呆れるように暖かい目で見る俺と友里。
「仲のいい家族なんですね。なんか羨ましいなぁ。私も子供が欲しくなってきましたよー、寺沢さぁん。」
家族団らんを、クソビッチ本多が台無しにしてくる。こいつのKYスキルは計算だ。KYな振りをして計算し尽くされた言葉をぶち込んで、俺の反応を楽しんでいるんだ。キャラシートにドSと書いてあったのを俺は知っている。そのうえで、女はMで尽くす方がモテることを、男社会の中で習得したピクシーことスト〇コビッチなのだ。間違いなく、友里の嫌いなタイプだ。だからできるだけ本多をスルーする。
「無視しないでくださいよぉ」
メロンを机に乗せて、上目遣いでみるんじゃねーよ。そういうことを何で嫁の前で平気でできるんだ?とにかくこいつは男に好かれて、女に嫌われるタイプだ。友里だけでなく、親友のゆかちんも侮蔑の目で見ているのだが、女の目は一切気にならないようだ。こいつの処理は鬼頭に任せよう、とチラッと視線を送ると鬼頭は小さく首を横に振った。誰か助けてくれ。。。
俺と鬼頭がさっさと食べ終わっても、女子たちは料理を食べながら、延々とおしゃべりに興じていた。女子同士の食事中のおしゃべりにはついていけない。この生き物は、おしゃべりメインで食事はサブだ。
鬼頭が終わらない女子トークにしびれを切らし、切り出した。
「寺沢さん、俺の能力教えてくださいよ。」
ぴたりと女子トークが止まりみんながこっちを注目している。やるな、鬼頭、さすがだ。
「よし、皆も大体食べ終わったみたいなので、片づけたら作戦本部に戻るか?」
食器洗いを水魔法で一瞬で終わらせた俺を見て、千晶ちゃんが尊敬の眼差しを向けてきた。そのうちこれくらいなら千晶ちゃんもできるようになるよ、と言うと、更に目を輝かせていた。
皆で5階の作戦本部に戻る。
俺は、ホワイトボードに表のようなものを書き、全員の名前とアビリティとスキルを書き連ねていく。
そして一人ずつ丁寧に説明をしていった。
それぞれのアビリティの特性。当面はその特性に合ったスキルの一極振りにすること。チーム全体で重複なくしておくこと。等。
みんな一生懸命メモを取っている。
「つまり、俺は寺沢さんの劣化版だってことですね?」
鬼頭が凹んでいる。日頃の反動でイジリすぎたか?
「劣化版というのは納得いきませんけど、チームにとってはかなり嬉しい誤算じゃないですか?指揮官のいる部隊を寺沢さん直下以外にもうひとつ組めるのは作戦の実行速度が相当上がります。これは敵方の連携を未然に防止できるため、戦力は変わらずとも、作戦遂行速度は倍増しますね。」
さすがだな。ったくこいつは優秀すぎて怖いわ。俺が現場で確認しながらやろうと思っている思考に、現場を見ずに到達してくる。うぜぇ。しかし味方にしたら、こんなに心強い奴はいない。
「その通りだ。鬼頭、期待しているぞ。チームのためにもお前自身も強くなってもらわないとな。」
「はい。でも俺は前線には出ませんよ。俺が前線にいる時は、チームがすでに崩壊しているときですね、きっと。」
うん、全くその通りだ。後方から指示を出す参謀として期待しているという意味だしな。さて、
「あとは皆の要望を聞いておきたい。今後の成長は、どういう風にしていきたい?一応メンバー一人ひとりの希望を聞いたうえで、俺が判断する。おい、鬼頭エクセルでまとめてくれ。」
「こんな感じ?」
すでに俺が書いたホワイトボードのメモは整然としたエクセル表になっており、「チーム寺沢メンバー表」というタイトルでデスクトップに保存されていた。仕事早いわ。
「そうだ。それをモニターに映してくれ。」
そういうと会議室の壁のプロジェクタのスイッチを入れ、鬼頭がまとめたスキルシートが映される。
俺のは多くて書くのが面倒なので、適当だ。手の抜き方が上手なのもリーダーの資質の一つなので、悪くはないが、何かムカつく。
-------------------------------------------------------
名前 スキル アビリティ
寺沢 たくさん すごいの3つ
友里 火1 R修羅
花 木1 UCシャーマン
杏 格1、棒1、
剣1、射1 SSR雷神タケミカヅチ
鬼頭 月1 Rプロジェクトリーダー
えり 化1 C健康志向
ミドリ日1 C巫女のバイト
さとみ水1 C胸騒ぎ
ゆか 芸1 Cレースクイーン
本多 物1 C理系女子
日高 金1 C金の亡者
千晶 なし なし
-------------------------------------------------------
「俺から最後に付け加えておくと。基本的にみんなには後方支援になってもらうつもりでいる。前衛は俺のペット達が勤めればいい。みんなは自分たちの命を最優先に考えて行動してほしい。酷い言い方かもしれないが、ペット達とお前たちでは命の重さが違うんだ。でも親としては非常に心配で残念なんだけど杏だけは強力なアビリティの特質上、将来的に前線に出てもらう前提で育てる。まだまだ幼いので、将来を見越して、という意味でな。とにかく、守られるという立場ではなく、全員が全員を守る、という意識を持ってほしい。そのために自分自身の役割を明確に理解して、その責任を果たすこと。逆にそうでいてくれないと、遅かれ早かれここは全滅する。みんな頼むぞ。」
「「「「はい。」」」」
そのあと、要望として出たのは、全員が武術スキルが欲しいということだった。
そうか。やっぱり自己防衛は最低限できるようになりたいわけね。その危機意識は大切だ。いい傾向だと思う。
「武器で今手に入るのは、包丁、鉄パイプ、くらいだから、剣術と棒術が即戦力のスキルだ。どうしたい?俺は棒術を取ったが、それは強力な魔法が使える、とう前提だ。俺としては全員に射撃を取ってほしいと思ってる。銃を使えるようになれば生存率が飛躍的に向上すると思う。恐らく一番強い。武術スキルは杏以外は基本一つだ。例外はなし。どんどんレベルが上がりにくくなるのは間違いないので、一極集中で伸ばすべきだと思う。」
誰も近接武器を上げたがらなかった。正解だ。人類の最大の発明品は銃だ。いとも容易く、人を殺傷できる。戦場の方程式を塗り替えた近代兵器。ゴブリンとかが登場したファンタジーなこの世界でも間違いなく通用すると思う。力に依存しないし、うまく立ち回れば安全圏にいながら攻撃をし続けられる。
ってゆうか、確かに包丁一つでさっきのゴブリンと戦う気になんてならないわな。俺のチート能力があって初めて成り立つってもんだ。全員分の銃をどうやって入手するか、はとっておきのアイデアがある。このビル全域もしくは会社敷地内全域を制圧した後、銃を入手するための作戦を進めたい。いずれにしても、まだみんなには秘密だ。
「女性陣の言う通り俺も、銃射撃一点張りでいいと思います。それより、取得できるスキルや魔法の説明をお願いしますよ。今後の自分のキャリアプランと部下育成プランを検討しておきたいので。」
鬼頭はしたたかな奴だ。
「わかった、実はまだランク5までしか分かっていない。ただ、生物だけは俺が生物ランク5まで伸ばした時点でレベル8まで見えるようになった。ランク9以降はランク8に到達してから解放されるのかもな。」
そう言いながら俺は鬼頭と代わり、エクセルファイルに直接書き込んでいく。
-------------------------------------------------------
・月魔法
1ダークネス :暗闇を創り出す
2ペイン :精神的苦痛を与える
3サイレント :周囲の音を遮断する
4ポイズン :毒を創り出す
5インビジブル :透明にする
・火魔法
1イグニッション :火花、火種を生み出す
2フレイム :炎を生み出す、火炎放射器
3ファイアアロー :炎の矢を放つ
4パワーエナジー :基礎能力を上昇させる
5ファイアボール :火の玉を放つ
・水魔法
1クリアウォーター :新鮮な水を生み出す
2フローコントロール :水分の流れを制御する
3ゲイザー :熱湯を創り出す、間欠泉
4アイスメイキング :氷を創り出す
5アシッド :酸を創り出す
・木魔法
1スネア :草を制御する
2クロース :紙、布などを創り出す
3スモッグ :霧を創り出す
4トレンティック :木を制御する
5フェアリートーキング:遠距離で会話を可能とする
・金魔法
1コーティング :金属の膜を創り出す
2メタル :金属を生み出す
3プロセッシング :金属の形状に変化させる
4レアメタル :希少金属を生み出す
5エンチャント :様々な付帯効果を与える
・土魔法
1リッチソイル :新鮮な土を生み出す
2クリアエア :新鮮な空気を生み出す
3スリングショット :石の弾を放つ
4ウィンドコントロール:気体を制御する
5クリエイター :土や鉱物の形状を変化させる
・日魔法
1サンライト :聖なる光を創り出す
2キュア :外傷を治療する
3レジスト :様々な耐性を与える
4プロテクション :聖なる加護を創り出す
5リジェネレイト :自然治癒力を増加させる、
HP、MP、バッドステータス
・生物
1微生物 :ミドリムシ等
2単純生物 :ミミズ等
3昆虫 :カブトムシ等
4爬虫類 :トカゲ等
5魚類、両生類 :金魚、カエル等
6小動物 :うさぎ、小型犬等
7鳥類 :カラス、鷲等
8大型動物 :ライオン、熊、くじら等
・物理
1木工作 :木製の道具を設計製作する
2精密造形 :すべての加工を精密に行う
3建築 :小型の建物の設計製作
4機械 :自転車などの設計製作
5電気 :白物家電など設計製作
・化学
1漢方薬 :漢方薬を作成する
2調理師 :料理を極める
3樹脂、繊維 :樹脂や繊維を創り出す
4薬学 :薬を創り出す
5毒物 :毒を創り出す
・芸術
1言語 :全ての言語の読む書く話す
2話術 :話術、交渉を極める
3美術 :美術を極める
4服飾 :服飾を極める
5グラフィック :映像を極める
・格闘、棒術、剣術、射撃
1玄人 :黒帯、初段など
2チャンピオン :世界チャンピオン級
3達人 :極めし者、宮本武蔵など
4伝説 :人類の限界
5超人 :人を超えるレベル
-------------------------------------------------------
「これって。。。。」
「すごい。。」
みんな目を丸くしている。まぁ、魔法職も学者職も戦闘職もランクが上がるとドンドンとんでもないことになっていくからな。個人的にランク1の当たりは芸術スキルの言語かな。全ての言語ってのが凄い。多分ゴブリンが何言ってるのかも分かるようになるんだろう、きっと。次レベル上がったら絶対取らないとな。組織の長が直接話すシーンが今後、必ず出てくるはずだしな。
皆が皆、希望に目を輝かせて、話し合っている。羨ましがったり、自慢しあったり、励ましあったり。
そんな中、友里が俺に寄りそう。
「よかったね、ふみさんのお蔭でみんな元気になってるね。」
「うん、そうだなぁ。女の子たちは特に辛い目にあった子たちが多いからね、できるだけ希望を与えてあげたいと思ってたんだ。」
「そうだね。」少し迷うような表情の後、友里が真剣な眼差しで何か言いたそうにしている。
「どうした?何か悩みでもあるの?」
「う、うん。私のスキルってのだけど、日魔法も身につけたいな、と思って。花と杏のことが心配なの。特に杏は敵と戦うこともあるかもしれないんでしょ?泣き虫のあの子には酷だと思う。でも神様が与えたすごい能力があるのも分かるし、ふみさんの決めたことにあまり口出しはしたくないんだけど。。だからせめて花と杏の傍にいて、傷ついたら癒してあげたいし、守ってあげたい。だから、それができる日魔法を身につけたいの。ダメ?」
俺は驚いていた。いつも楽観的でナンクルナイサー的な典型的O型の友里が、先のことを考えている。それほどに不安な状況なんだ。自分が無双すぎて普通の感覚を失っていたのか、一番身近で何でも分かっていると思っていた友里のこんな簡単な心の変化を見落とすなんて。どうかしてる。
「ダメな訳ないだろ。これからは友里は日魔法を中心に伸ばすよ。大丈夫、友里はいつでも花と杏の傍にいてあげて。」
「うん、ふみさんの傍にもね。できるだけで構わないから。」
ぬぁっ!こいつこんなに可愛かったか!?結婚して10年以上経つのに、ますます好きになる。本当に俺は良い伴侶に巡り合えたと思う。
すぐ隣で、満面の笑顔で杏が凄まじい回し蹴りを宙に放っている。
「見て見て!お父さん!ドラゴンボ〇ルみたいでしょー!」
花は俺と友里の間に割り込んできて俺の足にしがみついてブンブン服を引っ張りながら
「お父さん!早く花のペット欲しいよ!早く早く!」
相変わらず、周りでは仲間たちがスキルについて、笑顔全開で盛り上がっている。
・・・。家族を守り、仲間を守る。大切なものを守るために自分の力を使う。これが今の俺の矜持だ。世界を救うなどと大それたことは今はまだいい。ブレずに、優先順位を見失わず、自分の目の前の大切なものを幸せにするために、頑張る。それでいい。きっと間違ってない。
「さて、みんな盛り上がってるところ申し訳ないんだが、7階に行って木材をできるだけたくさん持ってきてくれ。フローリング材のようなのが大量にあったはずだから。集めたら物理持ちの本多の指示でできるだけ大きな、そうだな4m四方くらいのできるだけ大きな箱をミーティングルームの中で組み上げてくれ。」
みんな不思議そうにしていると、花が叫んだ。
「わかったぁ!お風呂作るんだぁ!」
みんなの顔が更に明るくなる。
「よく分かったな、花。すごいぞ!そうだ。でっかいお風呂を作るんだ。それでみんなで入るんだよ。」
「「やったぁぁ!!」」
花と杏が大喜びする。友里も顔が綻ぶ。
「えー!?混浴なんですかぁ?私らの裸見たいだけでしょぉ、寺沢さん、えっち。」
残念ビッチ本多が何かのたまったが、スルー。
「家族みんなで入ろうね。楽しみだな、大浴場。」
「うん、うちだと狭くて最近お母さんと一緒に入れなくて、お父さんいっつも拗ねてるもんねぇ。」
花が恥ずかしいことを大きな声で言う。みんなが生暖かい目で見てくる。
「ほら、急げ、みんな!そのあとも休むなよ、情報収集レポート終わらせないと風呂抜きだぞ。」
誤魔化すように、みんなを送り出す。
ブーブー言う女性陣が小走りに木材を取りに行く。その後ろ姿には希望が詰まっていた。
ようやく、簡単なスキル表をアップしました。説明回です。
組み合わせてどんなスキルがあるといいか、アイデアあればお願いします<(_ _)>