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3章 共生  21話 轟露同盟




 俺は、ここウラジオストクに来ています。

 溜まったマイルが切れそうだからとか、ロシア女性を堪能しに来た、とかパンピーの抱く目的ではありません。ロシアNo2、プーテイン大統領の右腕政務官様との外交交渉なのです。高い志と知恵のぶつかり合い。

 未来から転移してきた茨木童子の覚えている歴史的な出来事に、7日間で文明が崩壊した『黙示録』と呼ばれるものがあった。それが今回の超常現象で間違いないと判断した俺は、『黙示録』後に殆どが海に沈んだらしい日本から安心して暮らせる土地への移住が必要だと考えている。そのためには、まだ国としての体裁の残るロシアの後ろ盾があった方がいい。共通の敵である中国への軍事協定をカードとして、中国の一部の土地を入手したい。慎重な交渉が今始まろうとしていた。

 絶対に負けられない戦いがそこには・・・ある!俺は今までで一番の緊張を感じながらも、石畳の道を日本総領事館に向けて、歩いている。ヨーロッパにどこかアジアが入り混じった異国情緒溢れる街並みを見ながら一歩一歩、緊張感とやってやるぞ、という気合がみなぎってくるのを感じる。チーム一丸となって優位な交渉条件を引き出すのだ。


 「わぁ、この肉まんみたいなの、うまっ!」

 「ふあぁ、ロシアってコーヒー安いんですねー。温まるぅ。」

 「寒すぎるぅ、寺沢さん、レジストかけて下さいよー。ロシア最悪ぅ。」

 「お父さーーん、あの人形買ってぇ!」

 「お父ちゃん、疲れた、だっこぉ。」


 「・・・・・・・・・・。」



 領事館は、5階建ての赤茶色のレンガ造りの思ったよりも近代的で大きな建物だ。日本とロシアの国旗におそらくウラジオストク市の旗が揺れている。

 門番に流ちょうなロシア語で面会のアポイントであることを伝えると、すぐに通してもらえる。門をくぐり、小さな外庭を通って建物へと入ると、すぐに女性が目に飛び込んでくる。

 すらっとした長身で驚くほど肌が白く、銀髪に近いブロンドの髪は編み込まれて一つに束ねられており左肩から胸の付け根当たりに垂れ下がっている。碧眼とは対照的な真っ赤な縁の眼鏡をかけており深紅の口紅とよく合っている。真っ黒なパンツスーツがそのモデル顔負けのスタイルを際立たせており、白いブラウスは胸元が大きく開かれていて、大きくも小さくもないまさにちょうどいい膨らみを嫌味なく感じさせてくれる。胸元に光るネックレスにはやはり深紅の小さな宝石が光っていて全体のバランスが取れたセンスの良いキレッキレのキャリアウーマン風である。

 その女性は頬を赤らめながら、小さくお辞儀をすると、流ちょうな日本語で語りかけてきた。


 「えろ遠いとこからようお越しやしたなぁ。うちは政務官エリザベート・ツェペシュの秘書のアリサ・チャイコフスカヤどす。えーーっと、お兄さんが寺沢さんどすか?」


 「・・・・・・。」

 美しいロシアンキャリアウーマンが京都弁、いや、舞妓はん言葉を放っているように聞こえる。幻惑の魔術か!?


 「どないしはったん?うちの日本語おかしいどすか?」


 「あ、いや。申し遅れました、寺沢文也と申します。日本の旧轟市を中心に中部地区の代表を務めております。」


 「こら丁寧におおきに。ほな、早速どすが、こちへどうぞ。」


 完全に先制攻撃を喰らったな。まさか舞妓はんとは。うちの女性陣も完全に意表を突かれている。花と杏がこそこそアリサさんのことを話しているが、可愛いね、とかお母さんの方が可愛いとか、いつものやり取りに心なしかホッとする。

 アリサさんに先導されてエレベータで最上階の5階へと上がる。何だか沈黙が気まずい。エレベータを機に何だか喋りづらくなったのか花と杏ですら一言も喋らない。エレベータを出て廊下を歩く。先を行くアリサさんの引き締まったお尻を思わず目で追ってしまう。歩き方も、何というか非常に艶めかしい。舞妓はんの歩き方はある種の型がある。肩を揺らさず、すぅーっと足を前へ運ぶようにしかしながら大股では決してなく、小さく小刻みにテンポよく進む。


 「あのぉ、チャイコフスカヤさんはずっとここで働いていらっしゃるんですか?」


 沈黙に耐え切れず当たり障りのないことを聞いてみる。

 アリサさんは、すっと立ち止まり、にこっと笑う。おっっと、急に立ち止まるので、ぶつかりそうになったじゃないか。


 「アリサでえぇどすよ。うちはモスクワどす。うちもウラジオストクは初めてどす。」


 「そうですか。えーっと、アリサさんも遠路はるばるありがとうございます。」


 「いややわ、そんなこと気にせんといておくんなまし。さ、あのどんつきにエリザベート・ツェペシュがお待ちしてます。はよ、行きましょ。」


 そう言うと、また歩き出す。

 うん、そういえば、舞妓はんは歩いたまま喋ることができないと聞いたことがあるな。話をするときは必ず立ち止まって話すらしい。これで決定だ。アリサはんは舞妓はーーーん。年齢的には芸妓はんか?


 コンコン


 「ねぇさん、寺沢はんをお連れしましたどすえ。」


 ガチャリ


 廊下の突き当りの大して豪華でもない普通の扉を開けて中へ通される。質素な政務室だ。大きなソファテーブルが左側に置いてあり、右の壁には等身大の西洋のフルプレートの騎士の置物があり、絵画が飾られている。正面に大理石の政務机が置かれていて、PCのモニターが三つ並んでいる。政務机の奥は全面窓になっていて、部屋は日の光が差し込み、結構明るい。その日差しを眩しそうに見ていた女性が振り返り艶やかな笑みを浮かべる。


 アリサさんとは対照的で、身長は150cmそこそこ。やはり透き通るような白い肌に前髪ぱっつん巻き髪ツインテールを揺らしながらこちらへ近づいてくる。日の光を受けて髪は少し青みがかっているように見える。見た目は若い。中学生と言っても通じるくらいだ。その姿は・・・ゴスロリ?

 黒いAラインスカートワンピースには白いフリルやレースの刺繍がふんだんに施されており白い半袖のブラウスはしっかりと一番上のボタンまでしめられていて、控えめなふくらみの胸元にワンポイントの深紅の薔薇のブローチが退廃的な印象を与える。スカートの裾と黒いハイソックスとの間から見える太ももが背徳感を湧き立てる。ゴスロリ少女は俺をじっと見る。目は黄金色にキラキラと輝き、潤んだ瞳は全てを見透かしているようだった。


 「ようこそお越しやす。うちがエリザベート・ツェペシュどす。外交関係をおおかたやらされとります。」


 きたーーー、舞妓はん!!年齢的にも舞妓はーーーん!白粉おしろいしなくてもいいくらい真っ白な肌で生まれながらの舞妓はん、ナチュラルボーンマイコー!


 「寺沢文也です。日本の中部地区の代表をしてます。今日は宜しくお願いします。」


 「こちらこそ、よろしゅうおたの申します。」


 俺は、ゆかちん、絵美ちゃん、岩田さんをスタッフとして紹介し、友里、花、杏は家族として紹介した。


 「こんな重要な会合に家族を連れて来るなんて非常識だとは思ったんですが、世界情勢が非常に不安定のため、常に行動を一緒にしてるんです。どうかご容赦ください。」


 「そら、そうどすえ。えぇ旦那さんもろて奥さんが羨ましいどす。ええお父さんどすなぁ。」


 そう言って花と杏に顔を近づけるエリザベートさん。

 杏がぴくっとして一瞬消えたかと思うと体がぼやけた。瞬きする間もなく3m程後ろに立っていた友里の足にしがみついている。【縮地法】のバックステップだ。俺では全く目で追えないスピードだな。ステップ距離も随分伸びている。杏もこのところの中国軍殲滅戦で相当強くなっている。近接戦で今度、茨木童子さんに遊んでもらえるように頼んでみようかな。


 エリザベートさんは少し驚いたような顔をしたが、すぐに目を細め艶めかしい笑みを浮かべながら、杏を見た後、俺を見上げる。


 「えらい足の早い娘さんどすなぁ。なんやびっくりさせてしもたようどす。すんまへん。」


 そう言って、花の頭を撫でる。花は嬉しそうだ。

 杏は少し警戒するように友里の後ろでズボンの裾を握りながら、その様子を見ている。


 


 俺はソファにゆったりと腰を下ろす。両サイドにゆかちんと絵美ちゃんを座らせ、岩田さんにはノートPCで書記をお願いする。交渉中の会話はお互い録音させてもらうこととした。少し離れたところにテーブルと椅子を準備してもらい、花と杏はお絵かきでもしておくように言いつけ、友里がそれを見ていてくれる。


 こういう公式の会合では、いきなりビジネスや政治の話をするのはナンセンス。まずはお互いリラックスできるように他愛のない話をするのがマナーだ。日本人はいきなり仕事の話を始めるので、海外では狭量でせかせかした仕事人間という印象を与えがちだ。

 少し世間話を振ってみるか。


 「ウラジオストクはいいところですね、アジアの文化が少し入り込んでいて、何とも言えないエキゾチックな街並みが綺麗です。」


 「おおきに。と言うても、うちも実は初めてなんどす。」

 と言ってにっこりと笑う。あ、そうなんだ?意外だな。


 「え?そうなんですか?アリスさんも同じことを言っていましたね。ツェペシュさんは、いつから今のお仕事をされているんですか?」


 「ふふふ、エリザベートでええどすえ。実は5日ほど前からアリスと二人一緒にプーテインの旦那さんにお世話になることになったんどす。まだまだ新参もんなんで、しょーもない失敗もようけするんどす。寺沢はんもかんにんえ。」


 「そ、そうなんですか?お若く見えるので気になってたんですよ。」


 ざわっ。

 少し、エリザベートさんから殺気を感じたような気がしたが気のせいか?すぐに背筋に走る違和感は過ぎ去る。杏が少しこっちを気にしている。



 アリスさんが紅茶を運んできてくれた。アールグレイの独特の香りが鼻腔をくすぐる。


 「どうぞおあがりやす。うちは紅茶が大好きなんどす。」


 「ありがとうございます。」


 少し口を付け、唇を濡らす。いい香りだ、気分が落ち着く。


 「寺沢はん、日本はどうどすか?何かえろう大変と聞きましたえ?」


 「えぇ、赤目と呼んでる小鬼の化け物に支配されつつあります。私の解放した中部地区と赤目病の感染が及ばなかった九州地方以外は小鬼の支配する国になりました。日本人は1/10くらいに減ってしまったと思います。私も親族を多く失いました。」


 「そら、えろう難儀どしたなぁ。ちゃちゃ入れてきとった中国もおるし。」


 「そうですね、まぁ私の地区に来た空気の読めない鼠は駆除しておきましたけど、九州の方は今も戦闘中ですね。」


 ぴくり、とエリザベートの眉が動く。


 「ほな、まずは一安心どすな。寺沢はんの軍は、お強いんどすな。」


 「そうですね、ロシア軍程ではないと思いますが、何とか自分の国は守れるくらいは。」


 「いや、うっとこも鼠には難儀してるんどす。」


 感心した様子のエリザベートを見て、切り出す。


 「そろそろ本題に入ろうかと思います。うちの鬼頭から、本日のアジェンダは事前にお送りしてありますが、本日は、ロシアと旧日本国、現在は轟自治区を名乗っている我々と同盟を組んで頂きたく参上した次第です。」


 「うん、資料には目を通しとります。」


 「はい、ありがとうございます。エリザベートさんと良い関係を築きたいので、隠さずに言いますね。頭がおかしいと思わずに聞いてください。私は、今世界は異世界とつながってしまっていると考えています。私は何故か特殊な力を得て、仲間と共に異世界からの侵略者たちと戦っていますが、明後日には地球規模の天災が巻き起こり、最悪の場合、人類が絶滅すると考えています。」


 「『喪失ロストの7日間セブンデイズ』どすな?」


 「!!??ご存知でしたか!?」


 「うん、まぁ。同盟は問題ないどすが、寺沢はんが信頼できるお人かどうかを試させて欲しいどす。」


 「どうやったら信頼してもらえますか?」


 「簡単どす。寺沢はんのお力を見せてもらえまへんか?信頼は対等なもん同士でこさえるもんどすやろ?」


 彼女はトップである俺の値踏みをしたいのだろう。組む価値があるか?力を見せる、というのは、トップとしての力。頭の回転や指揮力を意味するのだろうが、そんなものは所詮しがない会社の課長クラスのものしか持ち合わせていない。さて、どうしたものか。


 「うーーん・・・わかりました。」


 俺は少し悩んで、わかりやすいものがいいと考え、立ち上がって窓際に行って辺りを見渡す。少し先の職員用らしい駐車場に車が十台程停まっている。よし、安そうなボロい車を4台ほどぶっ壊しちゃおう。お金なんてあってないようなもんだから、あとで弁償すればいいよな。窓を開け、手のひらを突き出す。冷たい空気が部屋に流れ込む。


 「今から、魔法と呼んでいる異世界の力の一端をお見せします。」


 「ん、お願いします。」


 「では・・・・。ショットガン!」


 目の前の空間にコンクリートのような石の塊がゆらりと現れる。そして、俺、大いにビビる。【ショットガン】って数日前に使ったっきり使ってなかった石の弾丸を飛ばすオリジナル魔法なんだが、石が前見たときよりもほんのちょびっと大きくなってる。。。確か前はボーリング玉くらいだったよな・・・?こんなんじゃなかったよな?石の塊は直径2m近くある。俺の身長よりも大きい塊が4つ。5階の窓の外で揺らめく。ゆっくりとスローモーションのように石が動き出す。いや、そう感じるだけだ。石が出てきてから動き出すまで1秒も経っていない。これは・・・ヤバいかも。


 ボボッ!!


 その場から音を置き去りにして駐車場の安そうな車めがけて飛ぶ石の塊。速度もおかしい。以前は目で辛うじて追えたぞ。全く見えん・・・。気が付けば、音速を遥かに超える速度で駐車場に到達したのであろう石は着弾と同時に弾け飛び、周囲に小さな石の弾丸をまき散らす。


 目の前には土煙に包まれた駐車場だった場所。停まっていた車は、直撃を受けて粉々なもの、ぺしゃんこなもの、曲がりくねって横転しているもの。大きな4つのクレーターから今ももくもくと土煙が上がる。


 「あぁ・・・。やべっ。」


 幸い、領事館ということもあり、周囲に人はおらず大事には至っていないようだが、駐車場は消え去った。遠くで悲鳴が聞こえる。

 ちらりと振り返ると、アリスさんとエリザベートさんが目を丸くして口を開けてその光景を呆然と見つめていた。二人とも、少し尖った八重歯がカワユス。


 「す、すみません、やりすぎました。」


 「ん、んああ、だ、だいじおへん。。」


 気丈に振る舞いながらも、驚きを隠せない様子のエリザベートさんはソファへ再び腰を下ろし、紅茶に口を付けている。少し手が震えているようだが顔をピンク色に紅潮している。ビビらせすぎちゃったかな。


 「アリスはん、職員に後片づけをお願いしといて。ほったらかしたらあかんえ。」


 「は、はい。ちゃっちゃと片づけさせてきます。」

 アリスさんは急いで部屋を出ていった。



 「試すようなこと言うてかんにんえ。うちもホンマの事言わなあかんね。」


 「ホンマの事?」


 「実は、うちとアリスは人間ちゃうの。寺沢はんの言う異世界のもんなんや。鬼の一族でも変わり種の『吸血鬼族』どす。ある日、突然お城の中庭で魔素爆発が起こって、全部で8人の仲間がこっちの世界に来たんどす。」


 「マジですか・・・。まぁ慣れた、というか、気にならなくなりましたよ。今までの常識なんてあってないようなもんですからね。吸血鬼って昼間も問題ないんですね。イメージと全然違いました。んで、ロシアでのエリアべートさん達の立ち位置は?」


 「うちら『吸血鬼族』はお天道様の光が苦手なんどすが、うちらみたいなのを『克服者』言うてお天道様の下でも生きていけるんどす。今は、うちらのリーダーがロシアの大統領を魔法で操っとります。リーダーは表には出てきまへんが政府、財界、軍部など主要メンバーは殆どうちらの奴隷どす。表向きはロシアは何も変わってまへん。」


 魔法で操ると言うと、魅了系チャームの魔法かな。特殊アビリティかもしれないな。

 「『吸血鬼族』はどんな種族なんですか?」


 エリザベートさんは丁寧に説明してくれた。


 『吸血鬼族』は下位、中位、上位と最上位の4段階の支配階層に分かれているらしい。

 下位吸血鬼レッサーヴァンパイアはヒト族と蝙蝠の獣人であり、食事として動物の血を好んで吸う。知力もやや低い。夜行性で、昼間は洞窟や家屋の中から出てくることはない。

 中位吸血鬼エルダーヴァンパイアは見た目はほぼ人間と同じ。下位吸血鬼レッサーヴァンパイアが300年以上生きると進化する。一般的なヴァンパイアのイメージ通りで、太陽の光が苦手で、基本的に夜しか行動せず、昼間は暗室から出ない。

 上位吸血鬼エンシェントヴァンパイアは中位吸血鬼と見た目は変わらないが、中期吸血鬼が2000年以上生きると進化する。今こちらの世界に転移した8名は全て上位種である。上位種の中でも才能あふれる者が稀に『克服者』となる。上位種は『吸血鬼族』全体の1%以下しかおらず、非常にレアな存在である。

 吸血鬼公ヴァンパイアロードは『克服者』が5000年以上生きるとなれることもあるらしい。その進化条件は一族の中でも全くの不明らしい。エリザベートの知る限り、歴史上一人だけだと言う。


 『吸血鬼族』は魔法全般を得意とし、特に月魔法を好んで使う。吸血鬼といいながらも血を吸うのは中位以下の吸血鬼であり、上位以上の吸血鬼は殆ど吸血行為を行わない。特殊能力として、近くに生体がいれば、息をするように個体のエネルギを吸収するアビリティを持つようになると言う。吸血自体はなくても困らないけど美味しくて大好きなデザートのようなものとして、特に若い異性の血を好んで吸う事はあるらしい。


 上位吸血鬼エンシェントは貴族階級であり、エリザベートの住んでいた場所もお城のように大きな建物だったそうだ。エリザベートとアリスは実は姉妹で一緒に住んでおり、他の6人の貴族仲間で集まっていたところに魔素爆発が起こってこちらの世界に転移したそうだ。エリザベートとアリスともう一人の3人が上位吸血鬼エンシェントの中でも『克服者』で、あと5人は相変わらず昼間が苦手らしい。共にロシア中枢に紛れ込んで、国を裏から操ろうとしているようだ。


 こちらも事情は隠さずに話した。茨木童子のことも。



 「今回の同盟は、うちらからもお願いしやす。こないにスゴイお力を持った寺沢はんとお近づきになれたことがうちらの宝どす。」

 そう言って顔を赤らめて

 「んでも、条件というかお願いがあるんどす。」


 「なんでしょう?私たちにできる事ならできる限りのことはさせて頂きますよ。」

 にっこりと笑って言う。エリザベートが言いづらそうにして中々切り出さないのを見かねて、アリスが口を挟んでくる。


 「うちら二人とも、寺沢はんの魔力に押し倒されてしもたんどす。ほんのちょびっとでえぇので血ぃ吸わさせてもらえへんやろか?体が・・・下腹の奥の方が火照ってしょうがないんどす。」


 「え?俺の血ですか?」


 こくりと大きく同時に頷く、美人姉妹。じーっと見つめてくる目がキラキラしているぞ。。


 「あ、でも血吸われたら俺も吸血鬼になっちゃうとか?」


 「そんなもん迷信どす。」

 「ありえまへん。」


 一切の邪念を取り払い、ただ真っすぐに見つめてくる美少女二人。

 友里に助けを求めて振り返ると、自分で判断しなさい、という感じでそっぽを向かれてしまった。

 うん、怒ってるな。


 「申し訳ないですが、血を吸わせてあげるというのは、ちょっと・・・。」


 「そないなこと言わんとぉぉ、お願いどすぅ。」

 「あぁぁ、あかんえ、そらえげつないわぁぁ。」


 泣き崩れ落ちる美少女たち。

 友里が後ろで、目を手で覆いながら、深いため息をついている。俺の方へヒラヒラと手を振る。

 

 「あ、あのぉ、そこまで言うなら、ほんの少しだけなら・・・。」

 両手を差し出しながら、言うと


 「え!?ホンマに!?」

 「お兄さん!流石や。漢やわぁ。」

 パァーっと明るい笑顔を向けてくる。涙目でこの笑顔のロシアン美少女は反則だ。


 即座に俺の差し出した手を握りしめ、すっと体を寄せてくる。


 「ほな、遠慮なく上がらせて頂きますぅ。」

 「頂きます!」


 「え、ちょ、ちょっと腕から吸うんじゃ?」

 左右の首筋に、甘い吐息が当たる。アリスはともかく、エリザベートは精一杯の背伸びをしないと届かないだろう、俺の首筋なんて。なんでそんな吸いにくいとこから?あ、あぁぁ。

 吸血される感覚というのは、血液検査や献血とは全く別物の甘美な行為であった。愛撫に近い。

 左右の胸に美少女二人が絡みつき、そこから首筋にかぶりつく。足腰に力が入らなくなるような優しく艶めかしい吸血行為に、悪くないな、と思った瞬間、背筋に悪寒が走る。後方から完全に【修羅】を発動させた友里が自分自身と葛藤しているのがわかる。世界のためと理解はしていても目の前で愛する夫が淫靡な行為をしているのが許せないのだろう。


 

 「もうオシマイ!!」

 そこに花が割って入り、吸血鬼二人を止めようとする。俺の血に夢中になっていたエリザベートもアリスも全く気にする様子もなく、吸い続ける。


 「ねぇ、もうやめてあげて!お父さんがかわいそうダヨ!」

 無理やりエリザベートを引きはがそうとする。が、エリザベートは目の前の餌を取り上げられた犬のように威嚇のようなしぐさで花を振り払う。


 ドン!!


 振り払った程度なのだろうが、それは吸血鬼の力。花は簡単に吹き飛ばされて倒れ込む。倒れながら、涙を目いっぱいに浮かべる花。


 ぶわっ!


何かが突然燃え上がるような音と共に部屋中に立ち込める凶悪な気配。


 「「「!!!」」」

 俺、アリス、エリザベート3人同時に危機を悟る。ここにいては死ぬ。咄嗟にアリスとエリザベートは俺から離れ、部屋の隅へ飛ぶ。俺は即座に花のところへ飛び、倒れた花に治癒魔法をかけつつ、多重障壁を範囲凝縮させて俺の周り半径2m程に展開しつつ、。

 「キュア!テラフィールド!」


 

 ゴウゴウという音と共に、赤く燃え上がる炎のオーラに包まれ、双眸も真紅の炎をまとっている友里が拳を握りしめて床から10cm程浮いていた。超高温による上昇気流の影響か?

 近くにいた杏とゆかちん、絵美ちゃん、岩田さんは熱い熱いと騒いでいる。


 「落ち着け!友里!花は大丈夫だ!【修羅】を解除しろ!」


 アリスとエリザベートが窓際の右隅と左隅で口元から垂れる血を拭いながら、友里を睨みつける。一瞬の油断も禁物だ。今の友里は何をしでかすかわからない。エリザベートの頬を汗が伝う。


 友里の両掌に魔力が集中し始める。その掌はそれそのものが高純度の炎のように揺らめき、部屋の両隅にいるアリスとエリザベートに向けられる。友里が小さくされどよく通る強い口調で呟く。


 「花に謝りなさい。」


 瞬時に状況を理解した美少女吸血鬼が目にも止まらぬ速さで俺に抱かれる花の前に滑り込むと理想の謝罪フォルムを形作る。


 「「堪忍えぇぇぇ!!」」


 長年人類が追い求めた神の怒りをも鎮める究極の土下座がここに完成を見たのであった。



<参考>今回の修羅モードにより、友里の魔力は主人公の魔力を瞬間的に超えました。


寺沢友里ステータス

()内は今回の【修羅】発動時


レベル:43

心6(+24)=30

技3(+3)=6

体2(+2)=4


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