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2章 黎明  15話 核心

視点を色々と変えてみました。



汗が噴き出る。額からすーっと伝い、顎からポタリと冷たい石畳に雫が落ちる。



このヒト族のおっさん、寺沢とか名乗ったか?パーティが100体以上いるじゃねぇか。

運よく大物見つけたな、こりゃ指揮官アビリティ持ちか、と思って覗いて見りゃあ、未曽有の化け物だった。


ヒト族で【心25】だと!?ブーストさせるだけでレベル300以上必要な値だ。

しかもユニークアビリティ持ち。ユニークなんて初めて見た。どんなスキルなのか?内容は分からんが、一人で国一つを潰せると言われるSSR国家戦略級を超えるとなると・・・世界戦略級?世界のルールを変える力?

ぬわぁっ!アビリティが複数ある!?しかもそのうち一つがSSR。。。何だよ【リセット】って。もしかして即死系か運命操作系か?

一番弱いアビリティがRマネジメントかよ。歴史上の大軍師様が保有していたとされる国家戦略上の最良アビリティ。それが霞む能力保持者か。


そんな存在許されんのか?常識外すぎる。。


スキルはヒト族固有の学問系か?【生物学】?俺にはよく分からん得体のしれないスキルがランク7、補助も【水魔法5】を筆頭に万遍なく器用貧乏型とも言えるが、低ランク魔法でも【心25】の魔力で行使したらすべてが戦略級だな。


それなのにレベルは20そこそこ?

一体何なんだ?まだまだひよっこってことか?伸び代半端ねぇんじゃないか。


近距離に万が一の勝機が残っているが、不意打ちで一撃で殺せるか?討ち仕損じて報復されたら鬼族は絶滅の危機に瀕する。叔父貴がいても、どうにかなる次元じゃない、あんまり好かねぇが、根暗共もじじい共も醜女共もインドの奴らもありったけ集めて討つか?


それとも荒事にならないようにやり過ごすか?



・・・・。



そもそもこいつは何者なにもんなんだ?本当にヒト族か?

純血のヒト族か、久しいな。


まずは探るか。害か無害か。

騙して、奪って、殺して、ヤッて、喰らって、呑んで、寝たら、また騙す。そんなクソみてぇなヒト族から生まれた化け物が俺を、俺たちをどうしようとするか、この目で最期まで見るのも悪くねぇ。タダではヤラせねぇがな。



覚悟。



腹さえくくっちまえば、後は何とでもなる。緊張で生欠伸が止まらねぇがな。

真夜中過ぎ、時刻は丑三つ時。眠くはないが、茨城童子はじっとりとした汗を拭い、遠くへ目をやりながら本日3度目の欠伸をする。



◆ ◆ ◆


「なぁ茨城さん、俺の仲間が荷物積み込んでる間にちょっと話さないか?」


「か、構わねぇよ、なんだ?」


「あんたら鬼人は生れたときから鬼人なのか?それとも初めはヒトだったのか?」


「おかしな事聞く奴だな。生れたときから鬼人だよ。」


「そうか。ずっとこの辺りに住んでいるのか?」


「そうだな、俺は大抵、摂津から駿府くらいまでをプラプラしてる事が多いんじゃねぇかな。」


「そうか、完全に生活圏にいたわけか。。今まで会わなかったのが不思議なくらいだな。普段は何してるんだ?」


「最近は、ずっと暇だったな、ヒト族もほとんど見かけねぇからやることもねぇし、魔獣が増えすぎないように狩りをするくらいだな。」


うーん、全く話が噛み合わない。いくらなんでも大阪や名古屋が行動圏内だったのに、人間を見かけないわけがない。やっぱりパラレルワールド的は異世界から種族ごと転生してきたパターンかな?


「茨木さんの世界ってどんな人達が住んでたの?鬼とヒト以外にも種族はいた?」


「はぁ?お前・・・すげぇ知識持ってたり、凄まじい理解力あると思わせといて、そんなことも知らねぇのかよ。いくら辺境に追いやられてた時代が長いって言っても、それくらい知っとけよ。」


―――――――――― 茨木童子の話を要約すると、

茨木童子の住んでいた世界には大きく【ユーロニア】、【アフィカ】、【エスランカ】の3つの大陸があって、様々な種族が入り混じる。生物の頂点、支配層に君臨するのは、大きくは【亜人】と【魔物】に大別される。【亜人】とは、鬼人、獣人、屍人、魔人、森人、土人、巨人、小人、魚人、蟲人、竜人、等、昔のヒト族の面影を残し、変異したかのように異種の力を宿してる者たち。ヒト族よりも能力が高くなっている種族もいるし、劣化している種族もいる。【魔物】とは、魔獣、妖獣、聖獣、妖鳥、霊鳥、妖虫、妖樹、神樹、幻魔、妖魔、悪霊、精霊、龍、等分類は多岐に渡り、人の面影は一切なく、動物や虫や植物をベースに変異した種や、無機質な岩や鎧等が自我をもった種、精神体そのものが実体を模した種等、様々らしい。亜人はコミュニティを持ち、集落から街、国を持つが、魔物は最小限の群れを作る程度で単体行動することが多い。


茨城童子たち鬼人族が支配していたのはユーロニア大陸の東端に位置する【ワノクニ】。ヒト族は知能が高く手先の器用であるため、主に衣食住の生産系家畜として小鬼たちに使役されているらしい。




「それより、テメェらこそ、いつこの科学の力を取り戻したんだ?随分昔にロストしたはずだろ?こそこそ隠れて古代文明を復活させてたってわけか。まぁ、あのクソ旨ぇラーメンレシピを復活させたのはファインプレーだがな。」


!?何か変な事言ったな、今・・・・


「茨木さん・・・あんたの生きている今は何年だ?」


「んなこと、俺はいちいち覚えちゃいねぇよ。亜歴1200年くらいじゃねぇのか?」


「亜歴??・・・なぁ、簡単に茨木さんの覚えてる歴史や思い出に残ってることを教えてくれない?」


「別にいいぜ。変な奴だな。」






―――――――――― 絶句した。



多分、かなり真実に近づいたんじゃないだろうか。


茨木童子の語る話は、初めはおとぎ話のようでもあり、俺が認識している鬼退治の話とは少し違った視点で、鬼が良い者、人間が悪者の話だった。歴史の解釈問題にも似た現象だな。戦争には善悪はなく、ただ主張が違うだけだということか。


それが徐々に核心に迫る部分に触れるようになる。


生まれて間もない時代にヒトに騙され、寝床を襲われ、茨木童子の属していた鬼一族は、その大半を失った。騙されて睡眠薬入りの酒を飲まされ、家族を目の前で殺され、尊敬していた師は自分を助けるために犠牲になり、自分も腕を切り落とされながらも命からがら逃げだした、ヒトを憎み、復讐を誓った若かりし頃の苦い思い出。

ヒト族が繁栄を極め、その他の種族は、世界の支配の歴史から追いやられた不遇の時代の話。深い山の奥でひっそりと暮らしていた頃、魔素マナを消費することを忘れ、科学による天然資源の浪費を繰り返したヒト族に降りかかった、天然資源の極端な減少と魔素マナの極度な飽和という世界のアンバランスが生んだ『力の決壊』による天災『黙示録』。長い時を経て築き上げたヒト族の文明がたった7日で失われた『喪失の7日間ロストセブンデイズ』とも呼ばれている。そんな世界の勢力図を一瞬で塗り替えた話。

世界再構築と群雄割拠の500年を超え、ようやく世界の塗り分けが大よそ完了し、国と言われる規模の組織の体を為し始めてから数百年が経った亜人の時代の話。昔、日本と呼ばれていた『倭の国』は複数の鬼人族が支配する国となった。それ以外にも世界各地は多種多様な亜人の支配領域として安定に向かっていた、という話。

ヒトがその栄華を失ったように、亜人の時代も少しずつ異変が訪れていた。増えすぎた亜人の密集地域では、魔素濃度が薄くなり、その生命維持が困難になる種族も出てきた。そんな中、魔素を必要とせず、天然資源の消費を生命の糧とするヒト族が再度台頭してきた。亜歴1000年を超える頃には亜人の国とヒトの国は均衡した。貪欲なヒト族が何百年と戦争を繰り返す『混沌の時代』を迎えていた。

今はその混沌の時代の真っただ中で、茨木童子はある日突然、ヒト族の街に少数の赤鬼族ゴブリンたちと飛ばされてしまったらしい。自衛のために滅多に行わない繁殖を指示した、という訳だ。



俺の表情がみるみる青くなっていくのが、余程楽しかったのか、茨木童子はポンポンと軽快に話が進む。小気味よく刻まれるテンポの良い音楽のように、人類滅亡の歴史がおとぎ話やパニック映画のように、語られていく。


―――――――――― 多分タイムスリップだ。しかも俺ではなく、数多の亜人族が一斉に世界各地に。

それを茨木童子は全く気付いていない。まぁ転生1日目でラーメン紀行してたくらいだから、わかろうともしていないな。

それよりも恐ろしいのは、天災『黙示録』もしくは『喪失の7日間ロストセブンデイズ』とも呼ばれている出来事。俺の最悪とも思える予想が正しければ、今、世界各地で起こっている怪現象は、この黙示録の一端なのではないだろうか・・・。天変地異も起こり得る。時間との勝負。7日目に何か起こるのか、7日かけてジワリジワリと人類が滅ぶのか。どちらにしても、できることを全力で後悔しないようにやってみるだけだ。


そうあの時に見た夢のように・・・・・



◆ ◆ ◆


「はぁぁ・・・・」


深く長い溜息をつく。


そこまで自分勝手なのか。


世界の均衡には必要な種なのだ。しかし好きになれない。あまりに利己的で、欺瞞と虚偽に侵された種。


私が多く干渉することはできない。頼りなく今にも倒れそうな世界を持続可能な自律的な構造へと戻し、自衛と自浄を行えるようにしなければ、近いうちに価値を生まない、ただただ無機質な球体となってしまう。それだけは避けたい。




種すべてにメッセージを見せた。

再生を担ってもらう個を選定するための一次試験のようなものだ。

そこから適正を見極めて、最終的には百から千程の個に救世の使命を与えようと思っていた。


まさか一次試験合格者がたったの3人しかいないとは、想像していなかった。


そこまで自分勝手で種の存続への使命をDNAレベルで理解していない愚かな種。

いっそ滅びを待つか。そう思わせるほどに苛立たしい。


仕方がない。3個の中で最も適性の高そうな一人に、強い力を与え、残り二人を保険として、事を為すしかあるまい。


また、一つ大きなため息を吐き、『創造主』はその人間と相性の良い能力を与えるためのシステムを構築する作業に入った。



◆ ◆ ◆


その日は、変な夢を見た。


「世界統一クイズ大会!最終問題です!!」

大きな金の蝶ネクタイをした関西の大物お笑いタレントが俺の座っている挑戦者席に向かって、叫ぶ。


「寺沢さん、今のお気持ちはいかがでっか?」


「うーん、何とかここまで来れました。何とかクリアしたいです。」


「おっしゃ、ほな、気合入れていきまひょー!問題です!!」


切れのいい効果音が鳴る。


「もし、明日で世界が滅ぶとしたら、貴方はどう過ごしますか??シンキングタイムは1分です!!」


「っ!!!???」



これは難しい質問だ。


最期は寿司が喰いたいな。でもやっぱり友里と花と杏と家族で熱い風呂に入って、暖かい布団に入って家族4人で安らかに眠るように。。。


いや、違う。真面目に考えろ。


それで本当に後悔しないか?


・・・・・・・。




「はい!タイムアップです!それでは最後の問題、正解をどうぞ!」


俺はマイクに向かって、強い目線をカメラに向けながら、意思を込めて答える。


「世界が滅ばないために、俺にできることを、全力で後悔しないようにやります。最後の1秒まで。その後もずっと家族や大切なものと生きたいから。そうできると信じて、頑張ります。」


「・・・・・ファイナルアンすゎぁー???」




そこで夢から覚めた。

答えが正解かどうかくらい発表したところで目が覚めたらよかったのにな、と消化不良だった。




この夢の話は、世界を震撼させた。

なんせ、世界60億人が、形式は様々だが、同じような夢を同じ日に見たのだ。

世界の終焉が迫る、パニックにならないように各国政府は情報統制を強化、新興宗教も現れて、世界は妙な盛り上がりの方向へ歩き出した。

世界の摩訶不思議事件簿として、ワイドショーやバラエティ番組などを総なめにした。ある種の娯楽のような話題へとすり替わっていった。


何が正解だったのか、という正解を知らない人間たちによる議論が3か月程続いた。ネットの世界でも、世界人気回答ランキングが常時発表されその投票率は80%を超えた。トップは『恋人や家族と静かに過ごす』で10億票近く集めた。しかし半年経ったころには飽きてしまった視聴者やネットユーザが離れていくにしたがって、記憶から消えていった。


俺の回答は世界で3票しかない珍回答として紹介されたりもした。しかもいい歳こいたおっさんがまるで世界を救うヒーローのような回答だったため、職場や友達から弄られるだけの黒歴史となった。残りの二人は、一人がハンガリー人の20代の警備員で、一人はアメリカ人の10代の女の子だった。俺たちはSNSでお互いを少し慰め合ったが、すぐに連絡は取らなくなった。


最低の夢の思い出。。。



◆ ◆ ◆


しかし、今、あの夢が現実のものとなろうとしている。

しかも期せずして俺は珍回答通りの行動をしている。


「ふっ。」


自嘲気味に笑う。


「あぁん?何が可笑しいんだ?」


「ん?あぁ悪い。ちょっと思い出し笑いってやつだ。なぁ、茨木さん、変な奴だと思わないで聞いてくれ

。今は西暦2027年だ。平安京が794年にできたはずだから、大体、1200年ちょっと経っている。何か変だと思わないか?」


「・・・!!」


「俺が思うに、あんたらの生きていた時代は、西暦に直すと3200年くらいか?亜歴1200くらいと言っただろ?俺が思うに、あと数日で世界規模の天災が完結し、人類がほぼ壊滅する。違うか?」


「・・・・。」


茨木童子は腕組みをしながら額に汗を滲ませ、アスファルトの端をじっと見つめている。先ほどまでの楽しそうな様子は微塵もない。


「ここは過去なのか?確か日本が世界戦争に敗れた後の100年の時代か?俺たちは?・・・何のために?」


「分からない。あんたらがこの時代に来るのも、人類滅びの一つなんじゃないのか?まぁ、今はそれは考えていても仕方がない。なんせ俺たちには時間がない。あと6日のうちに、やれることをやる。」


「そ、そうだな。俺は帰り方でも調べてみるか。とんでもないとこで迷子になっちまったなぁ。道理で他の鬼の気配を感じられない訳だ。俺以外は殆どあっちに置いてきたってわけか。」


現時点俺たちに答えを知る術はない。まずは拠点に戻って、今後の作戦を話し合うのが、いいだろう。



「「お父さーん!!」」

「準備できたからそろそろ行こうって、お母さんが呼んでるよー。」

花と杏が呼びに来る。

どうやら好きなものを取り放題と分かって、子供たちは皆、寝ずにはしゃいでいたらしい。夜中の3時だというのに目を輝かせて元気いっぱいだ。


「おっ?お前の娘か?いい目をしてるじゃねぇか。」


「そうだろ?この子たちを守るためなら、俺は何だってするよ。」





「さて、帰りにちょっと寄り道して、作戦本部に戻りますか。」



もうすぐ2日目の夜が明ける。多くはない生存者たちを引き連れて、一行は帰路につく。北の空には星を覆い隠す雲が立ち込めていた。




伏線を色々一気に回収しすぎました。。

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