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1章 誕生  1話 ここはどこ?



寒い。。。いや寒いを通り過ぎて、痛い。。。


なんで真冬の原付バイク通勤ってのはこんなに寒いのか。

心の中で何度も愚痴りながらも唇はピクリとも動かない。

こんな時に俺にできるのは1秒でも早く会社に着くために渋滞の車の間をすり抜けることだけだ。

動くのを拒否してくる脳からの伝達物質をあざ笑うかのように、10年間繰り返してきた慣れた動きでスルスルと信号待ちの列の最前列に割り込む。


パァァァーーーン!


酷いクラクションが浴びせかけられる。これで今日は3度目だ。

怪訝そうに振り返った俺は高級車セダンの中年男性の血走った眼を見て、即座に目を逸らす。

ヤバいよヤバいよ、ガチでリアルなやつだからぁ、とリアクション芸人が脳裏によぎる。

唇はピクリとも動かない。

なぜそこまで原付バイクを憎むのか、わからない。


ここ数年クラクションなんて鳴らされたことなんて一度もなかったのに

どうして今日に限ってこんなに絡まれるのか、不思議なこともあるもんだ。


俺は懲りずに、スルスルとすり抜け会社へ急ぐ。

遠くで救急車のサイレンの音が聞こえる。これも今日は3度目だ。


◆ ◆ ◆

俺の名前は、寺沢文也てらさわふみや36歳。

スパルタママに無理やり入れられた神戸の名門中学で落ちこぼれるも、何とか2流大学の工学部に滑り込み、一番楽な生産システム研究室で単位だけはちゃっかり押さえて、テニスサークルでコンパ三昧。

からっぽのまま、とある自動車部品メーカーに就職。生産技術本部とかいう製品の製造工程やラインの長期構想をする職種に就いた。専門性はからっきしだが、夢を語る口先だけで、今年、最年少の課長に抜擢された。

うーん、はっきり言って奇跡の連続ですよ。俺のラック残りゼロですよ。


◆ ◆ ◆

会社についてすぐ細目の男がへらへら笑いながら近づいてくる。


「おざっす。ちょっとタバコ吸いません?」


こいつは鬼頭圭介。俺の一つ下の後輩で、世の中はすべて偽善と割り切りで成り立っていると断じる、気持ちのいい奴だ。彼のブラックキャラのファンは多く、同じく来年の最年少課長候補だ。

俺と鬼頭がいれば、生産技術本部は安泰だ、等という役員がいるが、頭がおかしいとしか思えない。


「そういえば、今日はファミリーオープンデーですね。テラさん、家族来るんですか?」


「おお、一応な。娘たちがなぜか毎年楽しみにしてるから。お父さんの仕事してる姿カッコいいって。」


「いいっすねー。お父さんいないところではボロカス言われてますよ、きっと。」


独身の鬼頭は、取りあえず妬んでいる振りをしてくるが、こいつのブラックアタックはほとんどキャラづくりの一環なので、気にしない。


ファミリーオープンデーとは、従業員の家族が自由に会社に来て、お父さんの働く姿を見られるという年に一度のイベントで、食堂がタダで食べ放題なのと、仕事をしながら家族サービスに充てられる働くお父さんのニーズから、中々の好評の福利厚生イベントだ。


◆ ◆ ◆


「おいしい?ハナちゃん?アンちゃん?」


「おお、いっぱい食えよ。なんせタダだからなぁ」


「ハナ、ミックスジュースおかわりしてくるー。」


「アンも!お姉ちゃん待ってぇ。」


「ちょっと走らないの!」


慌てて嫁が追いかける。微笑ましい3人の後姿を見て、心が満たされながら窓の外を見る。


寺沢友里てらさわゆり32歳。

嫁。典型的なO型。活発でおおらかな性格。決して美人とは言えないが、小柄で愛嬌のある彼女を俺はカワイイと思っている。地元のそこそこ由緒正しい家柄の次女で、休耕地を一つ潰してくれたおかげで、20代で家を建てさせてもらったのでお義父さんには頭が上がらない。


寺沢花てらさわはな9歳。小4

長女。頭がよく優しいが、少しどんくさい。優しすぎるのが災いして1年生の時にイジメられたが、嫁が学校と相手方に殴り込み、何があったか分からないが次の日からピタリとイジメがなくなったらしい。今は苦手な運動を克服しようとバスケ部に入り、レギュラー入り目指して努力している。


寺沢杏てらさわあん6歳。小1

次女。運動神経抜群。負けず嫌いで泣き虫。学年で一番足が速く、マラソン大会でぶっちぎりの1位だったのに、100m手前でゴールしたと思って歩いてしまって二人に抜かれてまさかの3位。1週間泣き続けた。何だかんだでお姉ちゃん子。


生産技術本部のあるビルは、会社敷地内のいくつかの工場に囲まれた中心地にある7階建ての建物で、1階から4階までは様々な実験設備やテスト装置が並んでおり、5階にスタッフ部門のオフィスとミーティングスペースが集まり、6階にカフェテリアといくつかの大会議室がある。7階は半分の敷地に倉庫があり、半分は屋上庭園にする予定だが、現在工事中で立ち入り禁止だ。

今俺たちのいるカフェテリアからは、町がある程度一望できる。人口10万人くらいの小さな町だ。市庁舎以外は大したビルもない。

町のいたる所で、煙が上がっており、救急車や消防車のサイレンが遠くに聞こえる。カフェテリアに流れるジャズの音のおかげであまり気にはならない。



ガシャーーン!!!



突然、後ろでグラスの割れる音でビクッとする。


「おい!俺が先に並んでただろうが!人のジュースを横取りしようってのか!」


振りむけば、嫁がちっちゃいオッサンに怒鳴られている。娘二人は涙目で固まっている。杏なんてお姉ちゃんの腕にギューっと捕まって震えている。

嫁はただひたすら謝っている。


「マジで次に同じことやったらぶっ殺すゾ!」


「すみませんでした!」


青い顔をして戻ってきた嫁から話を聞くと、理不尽極まりない奴だった。「申し訳ありませんが本日残り3名様です」と手作りミックスジュースのウェイトレスが言った時に、ちょうど嫁と娘2人でピッタリだったようで、ラッキーと喜んでいたところ、少し離れたところから、さっきの小さなオッサンが歩いてきて、列に割り込んだそうだ。

普段なら嫁無双しているはずなのだが、オッサンのあまりの異常な雰囲気に、退散したというのだ。まぁ嫁の危機察知能力は信じるに値する。普段から俺のトラブル体質をきっちり中和してくれているから。まぁキレたときはちょっとしたトラブルを天災級にしてしまうのですが。

とはいえ、うちの会社に、そんな厨房ヤンキーみたいなのがいるのが不思議だ。結構真面目で大人しい人が多いと思ってた。



バン!!



「おい!今俺の悪口言ってただろ!」


目の前にいるのは、さっきの小さいおっさんだ。一体この人は何を言ってやがるんですか?なんでそんなに眼が血走ってるんですか?その眼どっかで見た気がするな。


「そんなにこれが飲みたいなら飲ましてやる。」


そう言って花の頭にミックスジュースをドボドボー。俺は目の前が真っ白になる感覚を覚える。



ドガッ!



気づけば俺は立ち上がり、そのオッサンを殴り飛ばした嫁の修羅の背中を見つめていた。

いやぁ友里さん、どんな反射速度で殴れば、そうなる?

俺も視認してからすぐに立ち上がったぞ。

しかし憤怒の修羅のスタンドがうっすらと見えますよ。


「おおおおあ!おばえ!殺す!コロス!」


そう言って腰の工具セットベルトから抜き出したプラスドライバーとマイナスドライバーを両手に持ち、嫁に飛び掛かる。あ、やばい。このオッサン眼が血走るどころか眼から血の涙が流れてるよ。絶対やばい。


ドスッ!!


鈍い痛みが下腹部に走る。すぐそばに突き飛ばされて倒れている友里が呆然とした顔で俺を見上げているのが見える。遠くで若い女性の悲鳴が聞こえる。力が抜ける。


ドスッ!!


続いて肩口にも痛みが。今度は痛いというか熱い。意識が朦朧とする。目の前に小さなオッサンの真っ赤な目が見えた。友里とは反対方向にギョロリと目玉が動く。視線を追うとミックスジュースまみれの花とその横で固まる杏が見えた。頭がカーッと熱くなる。


「うわあああああああああああ!!!」


目の前のオッサンに無我夢中でタックルする。よろよろと立ち上がり、そうすることが当たり前のごとく自然な動きですぐそこにあるパイプいすを持ち上げる。倒れて後頭部を押さえてうずくまるオッサンに、力いっぱい振り下ろす。

何かがグシャリと潰れる音がする。と同時に耳栓が取れたように静かな時間が終わりを告げる。



「ふみさぁぁぁああん!!!!!」



ドサリとその場に倒れこむ俺が見たのは、友里の泣き顔だった。


左肩から命がドンドン抜けていく感覚。友里が必死で鎖骨あたりを押さえてくれているがダメだとわかる。

横っ腹がどんどん重くなる。あ、俺死ぬんだ。

意識が遠のく。


遠くで、場違いなファンファーレの音が聞こえた。



「レベルアップ!」



女性っぽい人工音声の声が聞こえた。



◆ ◆ ◆



ん?



目が覚めたら、そこは少し薄暗い2畳の部屋の座椅子の上だった。

ん、何が起こった?俺何してたっけ?


目の前にはノートを広げてぎりぎりおけるくらいの小さな木机とその前の壁には60インチほどの黒っぽいガラスの板のようなものはまっていた。キョロキョロしてみたが四方を少し古くて茶色くなった白壁。床は2枚の畳だ。右手には何も入っていない小さな本棚がある。後ろには何もない。右手には木の扉がある。引き戸っぽいな。天井には埋め込みの電球が一つある。天井は黒い竹かな?炭かな?意匠が少し凝らされた旅館のような居酒屋のような雰囲気だ。

はっきり言おう。むちゃくちゃ落ち着く。俺の理想とする書斎だ。狭くて座椅子から手を伸ばせば全てのもの手が届く感じ。天井は高いのに囲炉裏で長年燻されたかのような古民家を思わせる色彩により落ち着きを与えてくれる。白壁が暗くなりすぎない基本の色調を提供し、目の前の無垢の木で作られた机は木の温もりを感じさせる。右手の本棚と左手の引き戸はアンティーク調で時代を感じさせる。ん~、いい仕事してますね。

後はこのステンドグラスみたいな黒い板だな。謎だ。窓かな?少し触ってみると、古民家風書斎には似つかわしくないブィンという電子音とともに青い蛍光色のウィンドウと文字が浮かび上がる。

見ると「キャラクターメイキング」と書いてある。


うーん。しばらく見ていてもよく分からない。なんで突然、訳のわからない部屋で、ゲームを始めないといけないのか?とりあえず画面はそのままにして、扉を開けようとすると画面からピコーンっとアラーム音が聞こえた。画面には

『初期ポイントが残っていますが本当に編集を終わりますか?残ポイント36は消滅します。』

とある。

少し不安になる。というか、勿体ない気持ちだな。まぁ少し遊んでから考えるか。


------------------------------------

名   前:寺沢文也てらさわふみや

種   族:人間

レ ベ ル:1

性   別:男性

職   業:エンジニア

基礎能力 :心 1

      技 1

      体 1

      残ポイント36pt

アビリティ:スキルデザイン ランク2|(ユニーク、アクティブ)

      リセット|(SSR、パッシブ)

      マネージメント ランク3|(SR、パッシブ)

ス キ ル:なし

      残ポイント36pt

------------------------------------


さて、これが今の画面。編集前の状態だ。まずは自分の名前をタッチしてみると説明文が出てくる。

てらさわふみや:

・宇宙の創造主である¥$%6#の問いに答え、人類の終わりの日を救う力を得た人間族の一人。


うん、よく分からないけど、人類を救う力って何だ?文字化け創造主の問いに答えた覚えもない。余計分からなくなってきたな。次に基礎能力にタッチしてみる。


・【基礎能力】

心技体の3つの特性で表される個人の生物としての強さ。鍛錬と共に上昇余地がある。人間の成人の平均値は心4技3体2。過去の英雄クラスで平均値5。

・【心】

脳、精神に関わる能力。一般的に知力や魔力や信仰の強さなどを司る力。

・【技】

反射神経、運動神経に関わる能力。一般的に器用さ、敏捷性などを司る力。

・【体】

筋肉、骨に関わる能力。一般的に力の強さ、体力などを司る力。


ん、ちょっと待て。人間の平均が3?英雄で5?俺の残ポイントって確か36だったよな。アインシュタインの【心9】だったらしい。イチローは【技5】だと。。北極ぐまは【力6】らしい。俺平均で軽く超えちゃうな。もしかして俺って設定間違ったら何とかの巨人のような体形になってしまうのでは。。慎重にやらないと人外の超生物になっちゃうぞ。でも何かワクワクするなぁ、昔オタクやってた頃の血が騒いでますよ。36ってのは俺の歳かな。


・【アビリティ】

その希少性からC、UC、R、SR、SSR、ユニークにランク付けされる特殊能力。

ユニークはこの世界に一個、SSRは100億個に一個、SRは1億個に一個、Rは100万個に一個、UCは1万個に一個、Cはそれ以外の全員が持つ。原則、存在一個が持つアビリティは一つだけである。またこのアビリティは意識せずにごく自然に使われるものと何かがきっかけで使えるようになるものとが存在する。前者をパッシブと後者をアクティブと表される。アクティブアビリティにはランクが存在し、ランダムな経験により上昇する。


さて、色々と突っ込みどころ満載だな。まずユニークとSSRとRがある俺は原則から大きくかけ離れているということ。はっきり言って超チートだな。基礎能力よりももしかしたら、えぐいかもしれない。基礎能力は人間の平均を大きく上回るだけで、他の生物と比較するとそうでもない。例えば「技」と「体」に2極振りしても恐竜には勝てないかもしれない。しかしスキルは違う。原則、生物に関わらずこの世に存在するものは一つしか持ってないのだ。それを俺は3つ。しかもユニークとSSR持ち。これ長期的に見たら相当やばいぞ。

で肝心のアビリティの中身は、っと。


・【スキルデザイン】

基本スキルをあるルールに則り組み合わせ設計することにより、自由に新たなスキルを創り出し習得することができる特殊能力。新たなスキルを設計するためには専用の端末であるこの黒いモニタが必要。ランク上昇する度に、より複雑な組み合わせ設計が可能となるが四則演算による簡易式で求められる多くの【心】エネルギーの消費が必要。最大ランク10。

・【スキルデザインランク2】

単スキルの品質の向上。2つの単スキルの組み合わせ。2つのスキルの組み合わせによる生み出された新スキルの品質向上。


・【リセット】

レベルが上がるたびに生命維持に必要な体内エネルギーを全快する。体内構成物、部位等の欠乏、欠損に関してもそれを補充し復元する。


・【マネジメント】

ランクに応じた数の個体とパーティを構成でき、その経験を共有できる。またパーティメンバーの状態をランクに応じた精度で監視、管理できる。またパーティメンバーに限定するスキルの効果をランクに応じて上昇する。最大ランク10

・【マネジメントランク3】

通称【課】。4人の最小パーティ、通称【班】を4つまでパーティ化したものを【係】と言い、4つの【係】をさらに4つまでパーティ化可能。管理レベルは半径100m。生命維持レベルを3段階で把握、位置把握。班、係、課、室、部、カンパニー、ファーム、ユニオン、ステーツ、ネイション。


うん、ユニークスキルぶっ壊れてるな。好きな特殊能力を作り放題とか。長期戦略とセンスに依存するが、相当凄そうだ。スキルが基本的に何があるのか、よく調べて、その無限の組み合わせからどんな効果を生み出せるのかを検討しないと。これって、俺が工程設計者だから、なのかなぁ。創造主、イカスじゃねぇか。ただしこの書斎でしか新しいスキルは生み出せないわけね。

あとレベルリセット。これってレベルアップしたら死にかけてても生き返るって仙豆状態?そういえばレベルアップするとHPとMPが満タンになるゲームもあったなぁ。


「あ!あぁぁぁ!!!」


やべ、ボッチなのに声出しちゃったよ。そうだ、俺ってキモイおっさんに刺されて死にかけて、死に物狂いで友里と花と杏を守って、それで、、。服は破れて固まった血だらけなのに、体のどこにも傷がない。腹にも肩にも。もしかして無傷で生き返れるんじゃ?やばっ。涙出てきた。またあいつらに会える。あいつらの笑ってる顔が見れる。奇跡が起こるような話だけど、もしかしたらもしかするかも。そうなれば、一刻も早く戻らないと。

あ、Sレアのマネジメントは何となくOK。まぁ世界の危機なんだったら、そのうちパーティとか組むこともあるでしょ。戻って友里と花と杏の安否が確認できるようになるのは大きいな。

さて、あとはスキルか。スキルの文字にタッチしてみる。


・【スキル】

鍛錬により習得可能な技能。ランクは最大10。

大別して【戦闘系】【生産系】【魔法系】に分けられる。

【戦闘系】には、【格闘】【剣術】【棒術】【射撃】の4種の中分類がある。

【生産系】には、【物理】【化学】【生物】【芸術】の4種の中分類がある。

【魔法系】には、【月】【火】【水】【木】【金】【土】【日】の7種の中分類がある。


【戦闘系】【生産系】はランク上昇に伴い、そのスキルの精度、品質、量が上昇する。一方、【魔法系】は、スキルの精度、品質、量に加え、各ランクに一つ魔法が存在し、その使用が可能になる。

ポイントを消費し、各中分類のランクを上げることで、その分野に限定して基礎能力の著しい上昇が得られる。ランク1にするには1ポイント、ランク2にするためには2ポイント、ランク3にするためには3ポイント必要。つまりランク0から最大ランク10にするためには1+2+・・+10=55ポイント必要となる。初期ポイントは1。

レベルアップするごとに1ptのスキルポイントが得られる。スキルポイントを消費してスキルを習得できる。一度消費したポイントは還元できない。スキルポイントは貯蓄可能。


ちょっと待て。初期ポイントは1とあるが、俺のキャラクターシートには36とある。。つまり俺はレベル36スタートみたいなもんか。チートx3だな。チート初期能力+チートアビリティ+チートスキル。。

しかも、この世には全部でこれだけのスキルしか存在しない。しかし俺だけ自由にスキルを創り出せる。

こういう場合、一点突破型の極振りが強いとされているが、俺の場合は選択肢を広げるために深さと広さの両立が必要だな。T型とかπ型とか言われる人物像を目指すというわけか。面白い。かかってこい、創造主。実用性と利便性を兼ね備えた、世界を救える可能性を秘めた美しいキャラクターシートを作り上げてやるぞ。


こうして何時間かかったか分からない程の試行錯誤を重ねて、練りに練ったキャラクターが完成した。

キャラ作成中に気づいたことがある。この部屋にいると腹が減らない。喉も乾かない。便意も睡魔もない。疲れもない。不思議な書斎だ。しかも落ち着く。


------------------------------------

名   前:寺沢文也てらさわふみや

種   族:人間

レ ベ ル:1

性   別:男性

職   業:エンジニア

基礎能力 :心 23

      技 10

      体 6

      残ポイント0pt

アビリティ:スキルデザイン ランク2|(ユニーク、アクティブ)

      リセット|(SSR、パッシブ)

      マネージメント ランク3|(SR、パッシブ)

ス キ ル:棒術2

      物理1

      化学1

      生物5

      水魔法3

      土魔法2

      日魔法1

      ユニーク1

      残ポイント6pt

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まず基礎能力だが、単純に見た目が変わりすぎるのが怖かったので影響の少なそうな【心】極振り。でも世界を救うには英雄級の体力は最低限欲しかった。【体6】でホッキョクグマと同等、もし見た目変わるとしたらぎりぎりの線だ。にしても【心23】って、IQ600とかだな。これはこれで人としてどうなんだろう。まぁ仕方ないよね。


スキルは、まずは生き残るためのスキルを集めた。

まずは食糧確保だろう。


生物スキルはまさしく生き物を創り出し使役するスキルなのだが、ランク4では爬虫類レベルまでしか作り出せない。ランク5から魚が作り出せる。これは大きな違いだ。ただ、少し気持ち悪いので、早くランク6にしてウサギ程度までの小動物を創り出せるようにしたい。創成した生物の寿命は同じ個体でも自然界の1割程度だそうだ。短命なのは、命を作るという禁忌の代償なのかもしれない。生物の分類はかなり細かく規定されているようだが正直専門外でよく分からないので、おいおい勉強するしかないな。

・【生物学6】:生物知識、生物創成|(微生物、単純生物、昆虫類、爬虫類、魚類)


次に水魔法。人間は水なしでは3日と生きられない。間違いなく必須スキルだ。ただし、水魔法はランク1で新鮮な水を創り出せる。ランク3に拘ったのはお湯だ。100°の熱湯。これはもちろん風呂のため。人

生の潤いに風呂は欠かせない。しかもこの2月の真冬には必須だ。まだ見ぬ敵への防衛手段にもなる。

・【水魔法3】:クリアウォーター、フローコントロール、ゲイザー


次は念のためだが、空気が汚染された場合のことを考えた。新鮮な空気が常に提供されているのは生死に関わる。また土魔法は大地を操るというよりも自然を操る魔法に近いようだ。空気の制御も土魔法の範疇らしい。夢はやはり空を飛ぶことだろう。できれば伸ばしていきたいな。制空権を取ることは近代戦術の基本だしね。

・【土魔法2】:リッチソイル、クリアエア


最後に寒さ対策として火種を。ここで火魔法とかなり悩んだが、将来的なスキルの自由度の観点とお日様の健康的な光の必要性から判断した。人工的な太陽光を創り出せるサンライトってのは、照明の面でも助かる。もちろん料理にも使います。少し面倒だが、虫メガネを使えば火も起こせるし、当面は大丈夫だろう。たき火生活が必要な程サバイバルな世界になってる時点で、そんな世界を救うのは相当難しいけどね。

・【日魔法1】:サンライト


ここまで揃えれば、まず自然の力に殺されることはないだろう。


ここからは防衛手段。

棒術。はっきり言って現代日本で剣なんて手に入らないでしょ。棒は定義が広く、ハンマーも棒の適用範囲らしいので、低レベル期は一番良さそう。格闘も捨てがたいけど、リーチを取って安全にやり過ごしたいので、やっぱり棒術で。

本気で戦力を伸ばすなら、物理スキルと射撃スキルの2点張りだけど、ボウガンで物理5、銃を作れるのって物理7だよ、、ちょっと厳しいですよ。何より魔法の一部で攻撃手段はカバーできるはず。状況にもよるが、赤目のおっさんが大量発生したりしたら、ハンドガンくらいじゃ、どうせ詰む。兵器レベルを作るのには物理カンストしないといけないだろうし、ちょっと厳しそう。数で押されるようなゾンビ映画状態が最も怖く、面制圧能力を高めたい。となると広範囲魔法を設計していく方がいいんじゃないかな、と思う。イメージはあるので状況が最悪になるまでに、生活基盤と防衛中心のレベリングが大切かな。

・【棒術2】:薙刀世界チャンピオンクラス


あとは最低限のクラフトスキルとして、物理1と化学1。物理は簡単な罠づくりに、化学は病気になった時のために薬学知識が欲しい。日魔法にも回復魔法があるので被るかなと迷ったが、魔法一本足だと不測の事態に詰むのが怖いので、柔軟に対応できるようにした。

・【物理学1】:物理知識、機械工作(木工作)

・【化学1】:化学知識、化学生成(漢方薬)


そして最後に俺特製のスペシャルスキル。生物学5の爬虫類創成と水魔法3の熱湯魔法ゲイザーを重ね合わせ、同時3体創成する魔法。

|(生物学4+水魔法3)x3÷ランク2=11

おそらくMPの消費チックな現象は多くなるようだが、創成したペットがある程度複雑な命令を理解して行動してくれるなら、いい護衛になるんじゃないかな。俺が別行動するときに、友里たちを守る兵士が欲しいもんな。使えなかったらリッチなお風呂のおもちゃになるケドね。

・【水生物魔法11】:ゲイザーサーペント|(熱湯属性の大型の蛇3体創成)


最終的に、今後の状況に柔軟に対応できるように6pt程残しておく。

さて、書斎でやるべきことはやった。「よし!」と気合を入れて、扉を開ける。


扉の先には半透明の階段が10段ほど空に向かって続いていた。空というよりも360°パノラマの映像で空間一杯に友里の巨大な泣き顔と端の方に硬直している花と杏が少し映り込んだ静止画に包まれている。先には会社のカフェの無機質な天井と蛍光灯が見える。映像は霧がかかったように霞んでいる。主観映像を一時停止したようだな。不思議と、これが俺が書斎に行く寸前に俺が見ていた景色だと、理解した。階段を一段ずつ上り、13段目の階段を上り終えたと同時に眩しい白い光に包まれる。


「んっ」


「・・・ふみさん・・・?」


気が付いた俺に信じられない、という顔で見る友里の顔がそこにあった。


「あぁ、どうした?そんな目腫らして。」


「えっ、えっ?大丈夫なの?こんなに血が出て・・・・・あれ?ウソ!止まってる。」


「おう!詳しいことは後で話す。まずはここを離れよう。ちょっとマズイことになると思う。」


何事もなかったように友里の膝枕から、ひょいっと立ち上がった俺を見て、固まっていた花と杏が机を超えて飛びついてくる。


「お父さん!!!!!!!」


俺は力いっぱい二人を抱きしめた。そして、目の前で父親が刺し殺されるという恐怖が、ただのドッキリだったんだと耳元で説明した。我ながらウソが下手すぎるな。


「全然面白くない!!もう2度としないで!」

と花がポカポカ頭を叩いてくる。杏はやっぱり無言で俺の肩に顔を埋めて泣いている。


「さぁ、行こう。」


人ひとり殺したのに、心があまりざわわしないな。意外と平常心を保っている。もちろん意識して死体を見ないようにしてるんだが。まぁ、そのうち捕まるかもしれないけど、明らかな自己防衛だよな。目撃者もたくさんいるし、何とかなるか。

他の社員が呆然としている中、不思議と俺の家族は、何も言わず俺と一緒に歩いてくれた。3人が3人とも俺の手を握りしめていた。2度とその手を離さない、と言うように。


背中の方から、カフェテリアの責任者らしき男が何やら電話で叫ぶのが聞こえたが、構っていられない。


窓の外では遠くの方でいつまでもサイレンの音が響いていた。


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