雨の怪
雨はいまだに降りやまない。
梅雨入りが宣言されてからこのかた、しとしとと雨が降り続いている。
どうせなら激しく降ってほしいというのに、中途半端に降られてしまっては、余計気が滅入ってしまうものだ。
炊事洗濯、すべてが思うようにいかない。
そして、そんな雨の中、出かけなければいけないのが、一番の苦痛であった。
用事が出来てしまったのだ。それも、外せないような、大切な用事である。
私は傘と、それから大風呂敷に包んだ荷物を手に、外へと出た。
雨はしとしとと降り続いている。
傘にパラパラと雨が当たる音はすこし小気味いいが、それはそれ、これはこれ、だ。私は重い足取りのまま、近所にあるバス停へ向かった。
近所にバス停はその一つしかないのである。それも、付近に何もない、道のど真ん中に、だ。
じめじめとしたいやな空気は、人がいないこともあわさり、重苦しくまとわりついてきた。ほんとうに厄介なものだ。
そして、寂れた停留所が見えてきたところで、私は停留所で待つ何かに気づき、ぴたりと足を止めた。
珍しいことに先客がいたようだ。
真っ青な傘をさし、一人ぽつんと停留所に立つ人影。
おそらくは女性だろう。白いワンピースが、日がささず薄暗い中でぼんやりと浮いて見える。
なんとなく近づくことがためらわれたが、べつにこれといって近づかない理由もなく。私は彼女の隣に立った。
彼女は、顔は傘で見えなかったが、ちらりとこちらをうかがった気配がした。
そのまま互いに、何を話すわけでもなく、バスを待ち続ける。
バスはなかなか訪れない。
彼女は、なぜかこちらが気になるようで、傘越しに強い視線を感じる。
何か気に障ることでもしてしまったのだろうか。
とりとめのない思考が浮かんでは消える。彼女の視線は外れそうもない。
彼女の視線に居心地の悪い思いをしながら待ちぼうけていると、バスがやってきたので、これ幸いと乗り込む。
バスの運転手は、私が乗り込むのを確認すると、早々にドアを閉めてしまった。
彼女は乗らないのだろうか、と、人もまばらなバスの座席に座った後、停留所を振り返ると。
そこには何もおらず、目立つ青い色の傘が、ぽつりとひとつ、落ちているだけであった。
ならば、自分の見た、あの白いワンピースを着た彼女は、彼女から感じた強い視線は、一体なんだったというのだろうか。気のせいにしては、強く記憶と印象に残りすぎている。
驚愕し、窓から呆然と外を見やりながら、ふと、彼女の顔を見ていなかったということに気が付いた。
雨は、いまだやみそうもなかった。




