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プロローグ




 こぽこぽこぽ。


 水晶玉を模した水槽に空気が入った。今は何も飼っていないので綺麗な水だけが循環している。下から淡い青色の光を照らして光らせるのが彼の好みだ。彼はこの部屋を一等気に入っており、今ではここで過ごす時間が一番長い気がする。

 シックなこげ茶色の壁になじむようタンスもテーブルもイスもすべて色をあわせて選んだらしい。ガラス棚には綺麗に並べられた魔力瓶が光っている。特別な日や行事ごとで使うものらしく、変わった薬品の配合と魔力を込めてあると言っていた。色とりどりの魔力瓶は自慢したがるのがわかるほど美しかった。

 彼はアンティークが好きなので、ここには控えめな大きさのシャンデリアが吊られている。「このシャンデリアが一番僕の魔力と馴染んだんだよ」と嬉しそうに帰ってきた日をよく覚えている。このシャンデリアは魔力を媒体にして光るので、これにやわらかな光が灯るたび、彼に包まれているような気持ちがして落ち着くのだ。




 私は丸テーブルの上にナイフを置き、彼の様子をうかがった。


「まだ痛む?」


 綺麗な蒼の瞳を食い潰して伸びてきた蔦は、今や彼の足もとにまで及んでいる。発症した頃はこうすればすぐにひっこんでくれたのに、もう痛みを和らげることしかできない。


「いいや、だいぶ楽になったよ。ありがとう」

「………嘘。やせ我慢しないでください」

「ははっ、君には隠せないか」

「もう少し出しておきますね」

「………あまり無茶しないでくれ。僕は君の身体の方が心配なんだ」

「何言ってるんですか。それはお互いさまでしょう」


 彼の額に浮かんだ脂汗をタオルで拭うと、嘘を見抜かれたからか辛そうに肩を上下し始めた。

 代われるなら代わってあげたい。何故この人がこんな奇病に侵されてしまったのだろう。どうして神様は私の大切なものばかり奪っていくの。


「大丈夫。私が傍にいますから」

「頼もしいね。もうこんなに大きくなったんだなぁ」

「いつまでも子供扱いしないでくださいよ」

「ふふ………こればっかりは仕方ないさ。例えいくつになっても、僕は君のことが可愛くてたまらないんだから」

「もう」


 少々不服だったが、同時にむずがゆさも感じた。優しい手つきで頭をなでられるとふわふわした心地になる。いくつになってもこの人に頭をなでてもらいたいと思ってしまうのだから、私はどこまでも子供なのだろう。


「じゃあ反対の目は閉じてください」


 彼はわずかに顔を曇らせたものの、瞳を閉じてありがとうと呟いた。




 ナイフで裂いた肉の隙間から、真っ赤な血が蔦に落ちていく。







 こぽこぽこぽ。

 水晶玉の水槽に空気が入った。





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