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初めての依頼は別れさせ

 夏休みに入り、とうとうこの日がやってきた。仕事の手伝いだ。僕は乗り気じゃない。なぜか父も乗り気じゃない。

 依頼人はウサギの宇宙人。名前はウルサミアという。依頼内容は彼氏と別れたいだそうだ。

 初め見たときはびっくりしたけど、ウルサミアさんはほぼウサギだった(服は着ている)。違うところは二足歩行というところと喋る(翻訳機能なるものがあるらしい)というろころだけ。あ、体長が一五〇センチくらいあるところも違った。

 衝撃的過ぎて頭が回らない。依頼も面倒くさい。仕事の手伝いも面倒くさい。そしてウルサミアという名前も面倒くさい。もうウサ美さんでいいや。


 それより、そんな見た目でここまでどうやって来たのだろう。家まで来るのに他の人に見られていないだろうか。近所の人にでも見られたら騒ぎになるどころじゃない。


 「もうね、彼ね、いつも熱血過ぎて暑苦しいの。この前だってデートしてたとき、私は宇宙の中心で愛を叫ぶ(恋愛ものの映画らしい)が見たいって言ったのに、勝手にグロッキー・ザ・ファイナル(熱い映画らしい)のチケット予約しちゃうし、その後なんてジムで一緒に筋トレしようなんて言い出すのよ。最初はワイルドで格好良かったから付き合ってみたんだけど、全然ダメね。合わないもの。やっぱり種族が違うと合わないのかなぁ? ねぇどう思う? ねぇねぇ」


 僕の心配とは裏腹に、ウサ美うるさい。訊いてもいないことを説明しなくていい。そして返答を期待するな。


「そうですか、それは大変でしたね。ですが安心してください。この私の息子、空太が見事貴女の依頼を遂行いたします」


 待て、なぜ僕がメインで仕事する話になっているんだ。僕はあくまで手伝いであって、依頼を遂行するのは父のはずだ。

 僕は即座にツッコミを入れようとしたが、何を思ってかウサ美さんは僕の手を両手で握ってお礼を言った。口ではお礼を言っているが、有無を言わさぬ赤い目で僕を射抜く。目は口ほどにものを言う。


 こ、断れない……。


 そうして僕がメインで父が手伝う形になってしまった。

 まず、僕は作戦会議をしようと提案した。やるならしっかりやらないと。それに対して父のテンションが跳ね上がった。

 探偵っぽい探偵っぽいと言っているところからすると、探偵っぽいからテンションが上がっているのだろう。宇宙探偵なのにこの程度でテンション上がるなんて今までどんな流れで仕事を解決していたのだろう。まともではないことは確かだ。

 さて、作戦を練る前に情報収集が先だ……と思う。ウサ美さんの彼氏の情報が必要だ。


「私の彼はライネスって言うの。鋭い牙がかっこよくて、金色のたてがみなんて王様って感じ。それにマッチョでたくましいの。だけど暑苦しくて自分勝手。そのくせレストランでパフェとか頼むのよ」


 パフェくらい頼んだっていいじゃないか。ライネスさんがパフェ食べちゃいけない法律でもあるのか? いや、そんなのはないはず(宇宙の法律は知らないけど)。

 父はパフェがツボにはまったのか爆笑している。自分だって昨日パフェ食べていたくせに。

 とりあえず、ライネスさんの情報をまとめると、鋭い牙、金色のたてがみ、王様。この三つでどんな宇宙人なのか想像ができそうだ。僕の脳内には某サファリパークのCMが再生されていた。

 ほんとにほんとにほんとにほんとに……。ライオンだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!

 さらに絶望的なことにマッチョである。たくましいのである。隣で爆笑している人なんて骨しか残らないかもしれない。


「それであなたはどうやってパフェ君と別れたいのですか?」


 父がライネスさんをふざけた呼び方で呼ぶ。パフェ君はバカにし過ぎだ。ここにライネスさんがいたらどうなっていたことやら。


「私的にはすっぱり別れたいな。中途半端に別れて、ストーカーにでもなられたら困るし。朝は毎日おはようのメールするし、あっちが暇になると『何してる?』ってメールが毎回来るのよ。ほんと自分勝手!」


 そこまで訊いていない。ウサ美うるさい。自分勝手なのはどっちもどっちだ。


「それじゃあ私の提案なんですが、空太に新しい彼氏のふりをしてもらって、パフェ君の前で見せつけてやるというのはどうでしょう」


 それはまずい。僕自身に被害が及ぶ。それだけは避けたい。ライオン相手に勝てる自信は僕にはない。

 すぐさま僕は提案に異議を唱える。それではその場限りでおしまいだ。一回で諦めるとは思えない。依頼が終わったらどうするんだ。


「私はその提案でいいわ。すぐに新しい彼氏探すし、その場限りで十分よ」


 僕の異議は却下される。依頼は依頼人の意見が優先されるのだ。

 本当に自分勝手だな。





 あれから三日後。僕は謎のウサ耳付きアダムスキー型UFOにさらわれて、ウサ美さんの星に来ている。草いっぱい広がる緑の公園。周りはウサ美さんみたいな宇宙人がうようよしている。はっきり言って区別がつかない。どうにか来ている服で判別している。


 そして僕は今、ウサ美さんの隣で彼氏のふりをしている。これからライネスさんがくるらしい。

 僕の見た目はウサ美さんと一緒だ(この星では人間の姿はまずいらしい)。多少の違いはあるらしいが僕にはわからない。

 それにしてもライネスさんが遅い。ここで待っているより、どこかカフェでまちませんかと提案する。

 ウサ美さんも待ちくたびれたみたいですぐに了承してくれた。


 カフェに入ると、早速ウサ美さんがライネスさんに場所の変更のメールを送った。これで大丈夫だろう。

 それにしても、父は先にきているはずなのに一向に会わない。と思ったら、少し離れたところでパフェを頼んでいるスーツの姿の父(ウサギ星人? に変身している)がいた。あのスーツは父のものだ。いつも仕事に行く前に来ているのを見たことがある。それにしても、よくもまぁライネスさんをバカにできたものだ。


 ウサ美さんはさっきからメールをしている。どうやらライネスさんから返事のようだ。それを見てウサ美さんはあからさまに表情を変える。嫌な顔。

 どうしたんですかと訊くと、メールを見せてくれた。ライネスさんがすでにこのカフェにいるらしく、今この状況を見て怒っている内容だ。

 いったいどこで見ているのだろうかとキョロキョロと周りを見渡すと、父の隣のテーブルで同じくパフェを食べているタンクトップを着たライオンがいた。なぜ父を見つけたときに気づかなかったかわからない。すごく目立つのに。


 父の席にパフェが追加されたと同時に、同じくライネスさんの席にもパフェが追加された。

 父は隣も同じくパフェが来たことが面白かったのか、楽しそうにライネスさんに話しかけていたが、ライネスさんは怒りをぶつけるかのように遮二無二パフェに喰らいついていた。

 パフェを食べ終わったライネスさんがこちらに近づいてきた。ウサ美さんは気づいていない。アイコンタクトを送るが気づかない。それのせいでライネスさんが何と勘違いしたのかすごい形相になってしまった。


 まずい、まずい、まずい!

 このままじゃマジで危ない。


「おい、そこのもやし野郎」


 低く硬いドスの聞いた声が危険信号のように頭に響く。

 ここでやっとウサ美さんがライネスさんに気づく。

 お願いしますウサ美さん、ライネスさんの怒りを鎮める一言を!


「あらライネス、もう来てたの。これ、私の新しい彼」


 その発言はライネスさんの怒りメーターをマックスへ跳ね上げたと思われた。だけどこの場で暴れないで僕の胸ぐらを掴み、表へ出ろといい残して店の外へ出ていった。

 ドキドキが止まらない。殺られると思ったが、きっとあのパフェのおかげだろう。


 さて、逃げますか。


 ウサ美さんにトイレへ行くと断り、トイレの窓から逃げようとする。

 どうでもいいけど、トイレへ行く途中、父の方を見たけどパフェ五つ目に突入していた。

 トイレには小さい窓が一つあるだけだった。どうにか通れそうだ。

 窓に手を掛けて身体をグイグイと外に出していく。

 どうにか上半身は通り抜けた。あとは下半身だけだ、と思った矢先、腰で挟まって動けなくなってしまった。

 一気に押し込んでみようとするが進まない。一旦退くにも押し込んだせいでさらにきつく挟まってしまった。

 このままではまずい。外で待っているライネスさんが待ちくたびれて戻ってきてしまう。

 ちょうどそのとき、誰かがトイレのドアを開ける音が聴こえた。まさかライネスさん!?


「何している空太。早くパフェ君のところに行ってこい」


 父の声だ。

 パフェ食べていた人がパフェ君とか言うな。というか状況を理解しているのか?

 もしもライネスさんのところに行ったら死んでしまうかもしれない。


「おらぁ! 何逃げようとしてんだ!」


 今度は別の声が窓の外から聴こえる。今度こそ見つかった! 早く抜け出さないと!


「空太、引っ張るぞ」


 早くして、じゃないと僕の人生が終わる!

 ライネスさんが怒りながら走ってくるのが見える。まさに恐怖の塊。

 恐怖の手が僕の身体を掴む寸前、勢いよく後ろに引っ張られた。

 た、助かったけど、急いで逃げないとライネスさんが店に戻ってきてしまう。

 まだ外でライネスさんが叫んでいるところをみると、店の入り口から逃げられそうだ。


 僕は、今からこの窓から出ますと言い、窓からは出ず、すぐにトイレから出て店の入り口からも出た。

 だけどライネスさんもそこまでバカじゃなかった。すぐにこちらへ向かってきている。

 僕の方がリードしているからこのまま逃げ切れるだろう、なんて甘い考えだった。

 ライオンの足だ。すぐに追いつかれた。


「逃げるんじゃねぇ。正々堂々勝負しろ」


 胸ぐらを掴まれながらそんなことを言われたら断れるわけがない。

 こんな道のど真ん中で勝負する羽目になるなんて。

 見物人は父とウサ美さんとその他大勢。このウサギたちは喧嘩が大好きなのだろうか。見世物じゃないっての。


「勝負内容は、交互に一発ずつなぐり合って立っていた方が勝ちだ。いいな」


 よくないです。全然よくないです。圧倒的に不利じゃないか。なんて言えず、勝負が始まった。

 先攻(どうやって決まったかは不明)、まずは自分勝手なライネスさんからの攻撃。

 ものすごい太い腕を後ろでチャージ。その後のフルスイング。

 軽く二、三メートルは吹き飛んだと思う。一発でKO。

 そこで意識はなくなった。





 目が覚めたときは自分の家にいた。

 僕が眠っている間にことが終わったらしい。

 ウサ美さんが来て、その後どうなったかを説明してくれた。

 どうやらウサ美さんはライネスさんにあの勝負で惚れ直したそうだ。僕はただのやられ損な気がする。……頬が痛い。

 種族の違いは愛の力で何とかすると言っていたが、最初からそうして欲しかった、僕に被害が及ぶ前に。

 父はこの結果がわかっていたといっていた。種族の違いなんて関係ないと。

 父と母を見ればそれは何となくわかる。わかるけど、あの二人は別なんじゃないかなとも思う。自分勝手な二人だし。


「俺たちだって自分勝手だぞ」


 そうだった。だから僕の夏休みがこんな散々なことになったんだった。


「あなた、これで空太もあなたの仕事の大変さがわかったはずですよ。尊敬されますね」


 大変なのはわかったけど、尊敬はしない。


「どうだ空太。俺の仕事は」


 面倒だし、やられ損だし、大変だし……。さらに達成感すらない。


「空太はまだあなたの仕事の素晴らしさがわかっていないみたいだわ。次の仕事も手伝ってもらいましょうよ」


 ナナナナ、ナンダッテー!


 ……はいわかってます。何を言っても断ることができないことくらい。

 次はもっとうまく、父が変なことを言う前に事を運ぼうと思う。

お読みいただきありがとうございます。

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