プロローグ
SFってなんだろう、最近そんなことを思う。宇宙人が出てくればそれはSFになるのか。そんな安易な考えでいいのか。そんな安易な考えでいいのなら、僕のいるこの世界はSFになるのだろうか。……わからない。
これは僕が宇宙人と出会った話。
それはつい最近のことだけど、正確には生まれたときにはもう会ってはいた。宇宙人だと知ったのは一か月前のこと。そう、夏休みに入る一か月前のこと。僕は生誕十五年を迎えた日のことだ。
僕は宇宙人が存在するなんて信じていなかった。
世の中がもうすぐブラウン管テレビと決別を果たそうとしているこの時代に、僕にも宇宙の技術があれば「今更ブラウン管なんてありえねぇし」なんて言えたかもしれない。そして地デジ対応にするための費用や手間だってかからずに済んだかもしれない。
これがどういうことなのかわかるだろうか。
僕の家では未だにブラウン管が現役なのだ。もうすぐ八ビットゲームハード専用テレビとして第二の人生――第二のテレビ生を送ることになる。
決して古いものが好きということはない。反抗期だったころの僕の周りでは、やれハイビジョン画質がヤバイだの(お前の目がヤバイのかもしれない、病院に行け)、やれ人狩り行こうぜだの(リアルでお前を狩ってやろうか)。新しいものに現を抜かす奴らが多かった。僕だってそんな話がしたかった。だけど家ではもっぱら八ビットゲームハードで髭の配管工を操作していた。そんな僕じゃ、できても笛を見つけるためのルートしか話せない。
そのせいで古いものが嫌いになった。だけど古いものが悪いわけじゃない。そんなことはわかっていた。だから僕は嫌いでも憎めなかった。このときもしも憎んでしまっていたならば、ブラウン管も八ビットゲームハードも粉々に砕け散っていただろう。反抗期のときは過剰な反応をしてしまうものだ。
原因はひとえに稼ぎの少ない父のせいだ。一体どんな仕事をしているのか知らなかった。僕の誕生日にそんな稼ぎの少ない父がこう言った。
「お前も十五になるのか。そろそろ教えてもいいか。…………俺な、宇宙人なんだ。しかも仕事は宇宙探偵だ。ははっ、すごいだろ……」
稼ぎが少ないことで僕や母が大変だったことを自覚していたのか、終始元気がなかった。
なんだよ宇宙人って、なんだよ宇宙探偵って。嘘を吐くなら宇宙刑事くらい言ってくれよ。
これだけだったらまだマシだったかもしれない。いや、この時点で僕的にはアウトだけど。
「あなた、もっと自信を持ってください。宇宙探偵だって立派なお仕事じゃないですか。空太だってあなたの仕事を見れば尊敬しますよ。そうよ、いっそ夏休みにあなたの仕事を手伝わせてみればいいじゃないですか」
などと母まで僕をだます演技を披露する。
いつの間にか僕は父の仕事を手伝う羽目になっている。
一体全体、この親は息子をだまして何が楽しいのか。このときはそう思っていた。そして話が進むにつれ、何だかマジな雰囲気(二人は最初からマジだったかもしれない)を醸し始めた。
話をまとめると、どうやら父が宇宙人だということは本当で、さらに宇宙探偵というのも本当らしい。そして宇宙探偵とは名ばかりに、やっていることは何でも屋みたいなものらしい。
さて、ここで疑問なのが父の見た目が普通の人間であることだ。宇宙人と言えばタコ型やグレイなどがあるけど、宇宙人であるならその証拠が欲しいところだ。もちろんその場で訊いた。
返答は鏡の宇宙人だとのこと。予想の斜め上だ。しかも変身能力という便利システム搭載だという。これで証拠になるだろと言って、その場で変身した、母に。
ワァオビックリ、ダブルハハオヤッ!
これでどうだ、という声は父だった。正直気持ち悪い。ちなみに母は地球人だそうだ。普通に人間って言ってくれ。
そうなると、僕は宇宙人と人間のハーフということになる。今までそんなそぶりを見せたことなかったぜ。僕自身知らなかったしね!
ということで、僕にもその変身システムは搭載されているらしく、やれると思えばできるらしいのでやってみた。
…………できた。
淡白な反応でごめんなさい。そんな風に誰かに謝りたい。
今この家には母が三人いる。トリプルハハオヤッである。僕の中で母がゲシュタルト崩壊しそうだ。
そして僕はこの能力を使って、父の仕事を手伝うことになりました。めでたしめでたしめでたくない。
この仕事のせいで僕の夏休みは散々なことになったのだ。
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