マフィン 3
「おかしい。ここで奴らは装備を捨ててやがる。残りの気絶してる奴らも」
一つ敵のテントがあると攻め入ったものが、そこには気絶いている通信使が4人が倒れていた。
何か気味が悪い。海岸で戦闘して黒人によく似たもの。
4人ともが後頭部に打撲のような傷が見られる。
「一体どういうつもりなんだ。奴ら仲間割れでもしたんですかね」
「しかし、我々はそちらの山のほうから第7地区のほうに向けて歩いてきましたが。敵との遭遇が見当たりませんが」
このリァーズたちの拠点とされていた場所に合流した各部隊。
しかし、失踪した敵部隊はこのように、いくつかの装備を捨て逃走。
おまけに、味方の通信士を気絶させ、機材もあちこち壊されている。
「もしかして陽動なのかもしれん。奴らは最初各部隊を半数に分けていた。だから、最初の部隊で時間稼ぎをしたと思えばその半数もできるだけ時間稼ぎをしたのではないか、と」
緒方少佐は顔をしかめ辺りを見回す。やはりその証拠というものは見当たらないようだった。
「ならこれは、いくつか人質しかないのでは…」
その言葉にひどく反射的にとらえた孝也。
「この付近の第7仮設地区のものは可能性が高いとみる。あそこもまだ防衛も強くはない」
だが、孝也は次第にひどい行き詰まりが現れ始まる。
何か残るもや。七々原は無事に帰っているのならば。
「孝也」
考え込む彼に横から凛とした声が継がれる。それは、ブラボー部隊の柏木一等軍曹だった。
「いったいなんでありますか」
「これを君に見てもらいたくて」
その厚手の装備の腰から何か布状のもの。見覚えのある水色の切れ端。
しかしそれは何で汚れているのかわからないくらいどす黒かった。
「これは彼女のではないのか」
その反応は正直戸惑うしかない。それが深く動揺しているのは隠すのは無理だった。
「これは、我々が通った山道にあった。それにそこにはまだ新しい出血も。もしかして彼女が」
手のひらには強い圧力が働いた。さらにさらに、握力が上昇。
自分の気持ちがこれほどまでに単純なら、この両腕をもぎたいくらいだった。
こんなの、おかしい。こんなのあんまりだ。
味方の兵士はいくらでも死んでいった。敵の狙撃に合ったもの。榴弾砲に被弾したもの。
だが、そんなもの歴史的数の経過に過ぎない。
なら何のために。いままで守ってきたんだ。いったい、何が切り返されたんだ。
「孝也。まだ彼女の遺体は発見していない。だが、最悪のことが起きたのかもしれない」
「かもしれない、奴らは人質を取ったんだ。汚い手だぜ。過去にも奴ラバ国でテロを起こしたところも女子供かまわず虐殺を」
ただみぶるい。完全に神経にしびれが回り意識が回らない。
冷たくなる体の内部が今にも泡立ちそうになる。
「ならば、こうグズグズしてられん。僧院七々原を人質に取った奴らを捜索に向かえ。この時間ならまだ遠くはいないだろう」
タンチョウは謙虚なまなざしを向け、繁みのほうに隊を送った。自分はおちおちしてられない。その後を追った。
そのころもう日が傾き始める時間帯だった。
あれからなんだか自分を傷つけようとした。だがそんなことなにも意味がないことが分かれば体を包み込む皮膚から生暖かく血がたれ凝結した。
「隊長、早くも奴らがここをかぎ分けられました。どうやら別れた半数と交戦を行ったものとみられます」背後では姿の見れない軍の指揮官らしきものが私をどう苦しめるかを指揮していた。
私は正直自分のことなど考えていない。
「かまわん、ぎりぎりのところまで連れて来い。この女を人質にして、みんな仲良くはここで朽ちればいいんだ」
わいてくる憎悪は唇をかみしむしかならない。自分がこんな身に合ってしまたから。
どんなに甘かったのか。最後に握った砂糖の感触も今は覚えていない。
「よし、大部隊は配置につけ。奴らをかい離うちにしてやる。おい、女ついてこい」
無理にひかれた腕は無神経のごとくしなる。
そいつは私の人としての意識がいないかのように運ばれる。ただ、ひかれるような躰はあちこちに浅い傷や組織に達した傷などもつけらえれた。
正直血を多く失いすぎて意識が薄れてきたころだった。
「接触まであと距離100メートルです」すぐ隣からの敵兵の声だ。
もう100メートルまで切れるのか。孝也もういい私のことは忘れて。
最後に作ってあげたマフィン、作る気がなくてごめん。
「奴らは予想通りあの谷を越えるようです。一斉射撃の準備を」
止まらない。乾ききった体なのに涙が止まらない。
水分を失った口の中は血の味を噛みしんだ。
逃げてみんな。これはわななの。
「あと5メートル。隊長殿ご命令を」
かすかにみなれた軍服の一連。それらがこの足元の谷をくぐろうとする。
ここからじゃ視界が悪いがはっきりとわかる孝也がいる。
彼はこちらに向かっている、確実に。
こんなに望んじゃいない。線上に向かう兵士の目。狂いがなく死を対等に生きたものの目だった。
その舞台はこちらに一列で積んで隊列を組んでいる。明らかに隙だらけだ。
黒人たちはアサルトライフルを構え、その焦点につかれる。その光景を自分は見るのを拒んだ。とてもつらかった。
あの時マフィンを食べていた隊長が先頭だ。息をのむ。
あと数センチ。
私の体がどういう反射を使ったのかはわからない。どうしてそんなことをしたのかはあとから自分があがいても遅かった。
枯れ枝を踏みつける以外に辺りは静かだったが、誰かの声が響いた。
いや、声なんかじゃないくらいにひどくかすれ、まるで宇宙外の恐声の様に。
辺りは騒然とした。上に大気中の武装した兵士たちは視点を変えた。
そして私は気づいた。喉が引き裂かれるように痛い。喉から何らかのドロッとした塊が通った。
奴らはみんな私のほうに視線を合わす。焦点は私のほうに重なった。
そして私の背後にたつ、巨漢の隊長らしきものが、私の数倍はある腕を腰に持ってきた。
もうわかっている。
黒光りすく傾向が私を睨みつけるかのようにとらえた。
すべて私がやったんだ。
あの時私が孝也たちに叫んだんだ。
そう警告。だけど、それはもう反射に過ぎなかった。
このことで私の首は確実に吹き飛ばされる。こいつの銃口が過ぎそこにある。
そして刹那耳元でさき飛ぶかのような銃声。
(さよなら甘かった私の人生)
七々原の乾いた瞳から流れ落ちた涙。
すべてがそうとっていいのか不審だった。
隊長の言うとおりに隊列を並べて谷を下っていく。
これは明らかに不利な状況じゃないのか。ここでおれが屈するところではなかった。
いつだって隊長の目は真剣だった。硬を高く見るような雰囲気で。
茂みが深くなり的に死角がとられやすいところまで行く。ここまでくればさすがに危ないのか。
だが、やはり隊長は足を止めない。サイドの物陰からごくきわめてながらも、草の揺れる音がした。きっとそうだった。
耳を澄ませると同時に、視覚は隊長をしっかりととらえる。あたりの仲間も心配の足取りだった。
そして俺たちは前方に構えていた銃そのままで、不自然に見られないように持ち替えた。
奴らに警戒されないように、そして、すぐ腰のサイドアームズに手をかけた。
そして皆が身構えた瞬間だった。
枯れ枝を踏みつける以外に辺りは静かだったが、誰かの声が響いた。
「早く逃げてぇ!」
いや、声なんかじゃないくらいにひどくかすれ、まるで錆びついた戦車の砲頭がきしむ様に。
だが、その声はいくら怪物や無生物のようであっても、聞き逃しはしなかった。
「七々原!」
そして本当に何があったのかわからなかった。
まず聞こえたのは一発の銃声。その推測する着弾場所はおそらく七々原の声がした方だった。
急いで視界を取ろうとするが、さすがに次元状に無理があった。
そのすぐ丘の上にみえたもの。
凛としなやかな肌に塗られたかのような黒ずんだ凝血。
白を中心とした色の上にひどく切り刻まれ、所々焦げ茶色に変色をしたエプロン。
シナッと気力をなくし、重力に耐えれないレモン色のロングカールの髪。
そして、それは確実に俺のほうを見ていた、輝きをなくした乾ききった碧眼。
七々原は大粒の涙ななぜか流れていた。
しかしなぜ。
「た、隊長!」その上からくれるような声が。
よくみると、七々原の周りにはキャンプで見たような黒人の兵士たちが待機していた。
これはまずいのではないか。
だが、それの音は容赦しなかった。
また同じ銃声が走った。
この銃を使ったのは。そう、先頭に立っていた隊長だった。
それと同時に丘の上の兵士が一人、糸の切れたマリオネットのように倒れこむ。
そして、またしても。しかし、それはもう交戦状態だった。
地の利が悪いが、気づけば俺以外の仲間は敵を撃っていた。七々原の方向に。
彼女は身をかがめ、その場で小刻みに震えていたのが分かった。
隊長は知っていた。彼女の囮に取っていたのはおびき出すためだった。そして相手が供えた罠にわざわざ足を入れた。
そんなガンマンみたいな一騎打ちができるのは隊長だけだった。
そして終わった。そんな戦いは、俺が口を開け、迷っていた間に終わっていた。
正直恥ずかしいが、人質救出作戦は完了だ。
俺はうずくまるお姫様を出迎える役だった。
久しぶりのぬくもりだった。これは彼の。
だが、本当に久しぶりだ。たぶん幼少の時以来かなこんなに抱かれたのは。
「ありがとう七々原」なぜか感謝される。
私の記憶の中で破損ことはなかったはずだ。
「私孝也には何もしていなかった。お菓子作りだって最近やる気なくて」
「でも、俺たちにわざわざ作って持ってきてくれたんだろ」
それはさすがに不意を突かれた。どうして、そんなに私にしてくれうるのだろうか。
また一層力が強くなる、彼も私も、まだ足りないが、彼の暖かさを久し振りに味あえた。
「七々原。私からも、礼を二つ言っておく。一つは砂糖をありがとな」
前方に仁王立ちした中年の白神の男性が言った。隊長だ。
「いえ、砂糖はただ口の中の乾燥を伏せごうとしたら、途中落としてしまったんです」
しかし、阿古までばらまいてあいつらに回収されなくてよかった。
「隊長!もしかして、七々原の場所、本当は分からなかったんですか!」孝也が私を抱く両手をほどいて吠えた。
「確実に分らなかったわけではないよ。ただ、この子がどう人質に取られたか簡単なシチュエーションができた。それともう一つ、君があの時とっさに不意を突かなければ反撃が難しかった」
きっと私に銃口が向けられていた時のことだろう。
あれは不思議だった。私はとっさに死の覚悟をした。銃声もすぐそばで聞こえた。
だが、血を吐いて死んだのは、あっちの方の隊長だった。
「隊長。今の聞いててなんだか悪しいところが多かったんじゃないですか。ほんとに助けれ…イタッ」
「うるさいぞ、孝也!貴様はわしが突破口を開いたというのに、何ぽかーーんと口をひらいとったんだ!」
二人は軍で言う兵士と隊長。なのにそのやりとりが異様に活気があふれていた。
それにつられたのか、私の頬が引きつる。
このあふれてくる、暖かさ。今まで手で包んでいたパンなどの懐かしさ。
私は忘れていた。
ただ、毎日お菓子製造マシンのように焼くだけだった。
私には私の作る手があった。そしてその楽しみはやはり食べてもらえるものがいるから。
孝也は私のほうを向き活気のある笑顔を作った。
そして私も笑った。この笑顔も作るのは久しぶりだった。
また、おいしいって笑顔で言ってくれるように頑張りたい。
そうやってまた、私の甘く願い争いへの幸福は続いた。