マフィン 1
空気は穏やかじゃない朝だった。少々小汚い木々がむき出しの一小屋。
そこに配置された木材のベッド。そこにはまだ新しいとも思われる純白のシーツが何かをくるんでいた。
かすかな誇りの粒子の漂うこざっぱりとした部屋。鼻に、口にかすかに入り込んでくるような粒子。
そんなことはどんな朝も同じだった。どんな世界でも朝日は来る。
照らされた、シーツに真影がきざまれる。
そして、電気切れのおもちゃのぬいぐるみがうごくようにシーツが微動する。
引かれたシーツから蒲公英色のカールの髪が表す。 その長髪に包まれた細い肢体。
そこ、美雹に包まれたかのような白い肌。西欧顔の女性が姿を現した。
まだ、寝ぼけてなのか、まぶたがまだ開けないない。
だが、ゆっくりとしなやかに体を起こす。イネ科の植物にしなやかな曲線を描く背中。
それは丈かのように、次第にゆっくりと起こしていく。
満開の夜空のような瞳を上に向けいっとき、天井を見つめる。
それからなにかスイッチが入ったかのように動き出す。
別途から足を下ろし、洗面台の方へ。
薄汚れた鏡を眺め、それから蛇口をひねった。
豪快な音の割にまともな水の出であった。そして野猪の水浴びのように顔を洗う。
それでも虚ろな顔は変化がないまま、洗面台から離れていった。
彼女は細い腕で削ぐそこにあったクローゼットに手をかけた。開いて中から純白なエプロンを手にした。
その場で、着ていた寝巻きを脱いでいく。うっすらと、曲線の描いたクビレが見える。
力の入るような場所などなさそうな細身の体だが、昨夜の出来ことが嘘のように思う。
レモン色のシャツを人形の着替えのように着用し、その上から、漂白に波打つエプロンを身につけた。
手馴れた手つきで背中でリボン結びをした。
自分の姿を等身大の姿鏡で確認をする。そこには、人形のような布にエプロンを着整った女性の姿が。
彼女。七々原 甘美。 昨晩、リァーズの兵士を捉えた本人だった。
なぜ、七々原 甘美は、そこまで執念をついやすか。
その瞳には忘れることのできない記憶を持っていた。
昨晩、一体の地帯に仕掛けおくことにした。
それにかかった、兵士たち一人ずつとらえていった。
それは、彼女の中で残暁に潰していったブルーベリーの果実のように。
それはつぶれていった。
このあたりの一室殺風景なところだが、そこに甘く鋭く漂う香り。
有機物の糖が焼き付き、糖質のスポンジに焦げ目をつけ始めそこから膨張していく生地。
やがて、熱火を浴びたイースト菌が発酵、反応。鉄板上に焼かれていく。
オーブン内にオレンジ色発光色がそのままの素材を照らしたてる。
やがて膨らんできて焦げ目を立てる。いい感じのマフィンの完成だ。
手のひらサイズ。それくらいのカップが交差に計36個焼かれていた。
そのオーブンに手をかけるのは弾力性のあるかのような手袋。公の部分にはかわいらしく猫のアップリケが張られてある。
オーブンの少し着濁りのついた戸を開けると、焼いてる最中とは違う甘さの濃いにおいが漂う。
すべてが甘露に包まれて一室のテーブルに運ばれたマフィン。
それぞれが個性があるかのように活発に見えた。このパンケーキは実に気質がいいようだった。
しかし、それに白く漂白な手を持っていき、口へ運ぶ。
つくった本人、甘美の表情はまだと意識が遠くにあった。あまり美味しそうな表情をしない。
まるで味のしない食パンをかじっているかのように。
しなやかなは身を描いて食道を通った。丁度一つを食べ終えた。
彼女は一息ついたのか、テーブルに置いてあった、貴品質なロイヤルカップに紅茶を注ぐ。
ゆっくりと滴る液体から、漂う湯気。これにも甘く鋭いようなにおいがする。
カップを血の気の薄い唇につけて、少量を流し込む。
一滴一滴を感じるかのように、液体が彼女に流れ込んでいく。
だが、それでも彼女の虚ろの目は変わらなかった。
なにかに、執着のがないかのように、また彼女はため息がついた。
それから、残りの35個の焼きたてのマフィンたちはかわいらしいバスケットに入れられた。
上から、白いレース場の布をかぶせられ、中が分からない。
それを手にして彼女は外へ出る。
すべて甘く感じた甘味も、またここで知らしめられる。
雑音のように響き渡る金属音。静かに起きたはずの朝が。
ここまで、侵害される。 家魂エンジン音と、乾燥しきった道を通るジープなど彼女にはただ甘味に邪魔な存在。
ここはもう、彼女がお菓子を作るキッチンではない。
もう、近い国との交戦が行われている、毎日汚く汚らわしい軍事基地。
そんな、場所の中心に佇むのが彼女の木製で建てられた、甘いアトリエ。お菓子屋なのであった。
※
どこを向けてもほぼ同じ風景といってもいい。
古く崩れかける煉瓦群。それぞれ風化して、いくつかの兵士たちがいすいている。
こんな場所は砂塵が多くて、糖類が傷んでしまう。
それを保護するかのように、大事に抱えるバスケット。
甘実は、この日が容赦なく降り注ぐのにそう疲れた様子がない。
長年、戦場に向き合い、命かながら生き延びた経験もあってサバイバル強いだった。
純白なエプロンが照り付ける太陽に反射した。
岩陰に潜む兵士たちはそれを目に入った。甘美を目撃した兵士は多かった。
だが、その多くはどうとも動かない。
と、いうのもこの道は良く彼女の使う通行場所。
毎日といっていいほど、彼女はお菓子をこっちに運んでいる。
まだ、朝の9時ともいえる時間だが西から降り注ぐ日光もさすがに強い。
だが、どんな荒地だろうとも彼女は無用に歩み続ける。一切あかない口元。
乾燥した唇を少し、唾液で湿らす。喉が水分をほしがっている。
だが、目的まであと1キロ近く。
彼女は、もう自動的に足を動かすようにしている。
そして、乾燥したような場所から一変したかのように、緑が目に入る。
木々が生い茂る山地に到着した。それでも足を止めない。
陰場が増え涼しくなり始めても、止まる気配はない。
ただの自然の中でのピクニックではないようだった。
全面パノラマに広がる新緑の中にひとつ目立つようなものが。
布状な人間の加工したようなものが骨組まれている。
キャンプのように大人数が移住するかのような場所がそこにはあった。
やはり人がいるのか、大人の声があちこちからする。中には連発的に心臓につきさるような拳銃の音も。
そしてそのあとに、ひどく怒鳴りけらされる罵声も聞こえる。
薄汚れた、三角点との間を抜けてそのキャンプ地に彼女は入った。
「七々原!なんでおまえがここに…」
突然、その前にいた渋井オリーブ色の野戦服に身を包んだ集団の一人が叫んだ。
声はまだ高く、その集団の中でまだ10代一番若い少年だった。
彼は、甘美を見るなりひどく驚いて彼女のそばへと急ぎ足で駆け寄る。
「もう、またきたのか。ここはもう昨日みたいな場所ではないんだぞ!」
けたましく跳ね上がった声、男は本気で彼女にひている。
彼はどうやら七々原甘美の知人のようだった。
その声を聞いて周りにいた、軍服の兵士たちが振り向いた。
「…マフィン、作った」
甘美はてに持っていたバスケットを彼の前に差し出した。
彼の喧騒な表情が硬くなり、一瞬怒鳴る体制となった。
だが、そのため息が一気に抜けるかのように息を吐いた。
「わかったよ、いつもありがとな、七々原」
先ほどの表情とは違い力が抜けた顔そのマフィンの入ったバスケットを受け取った。
「おお、いい香りだ。今日はマフィンか、孝也。よかった、菓子屋の彼女がいて」
一人、無常髭の生やした40代の男性が彼に並ぶ
「彼女じゃありません。ただの幼馴染です」
彼に対して言い切る孝也という男性。彼女の表情を少し伺いつつバスケットに目をやる。
「なぁ、七々原。いつも、菓子を作ってくれるのはいいけどな、こんな危険な場所まで来なくても。あと一か月でお前のところに戻るのだからな」
「一か月も、孝也の命がなかったら…」
唐突の衝撃の一言だった。その場にいた数名のおとなたちも突然いられたかのように沈黙。
孝也も表情を濁した。
「はっは、そりゃ傑作だ。確かに孝也何坐は一か月も持たねぇかもしれねぇ」
将校の階級を胸に飾る、ものが隣で吠えるように言った。
「お、恐ろしいこと言わないで下さいよ、それより七々原、このまま第08地区に帰れるか」
第08地区は、七々原の移住地区である。
比較的に一般な、環境が支給されているが、それほど一般の都会ほどの贅沢はない。
「わかった。今日はそのままかる」
「おい、今日はって、今までは普通に帰らなかったのか。最近リァーズの奴は、海兵部隊が進軍してるというのに」
だが、七々原の瞳は変わらず、昨日の夜のことを思い出してみた。
確かポケットに、昨日は隠した兵にからとったものが。
「おい、それは海兵部隊のベテランの勲章じゃないか!一体それはどうしたんだ!」
興奮の色の収まらない兵士たちがぞろぞろ七々原を囲んだ。
「昨日、夜。森では隠した。海兵部隊だったのか。やたらと釣れ安かったぞ。そいつら」
「七々原。いい加減そんな危険なことはやめろ!お前の執念は分かるが、お前のけがをしたとなればおれは島を失うより悲しいんだ!」
孝也のその言葉にさすがに、七々原は響いた。
自分がそんなに思われていたなんて。でもここで奴らなんか許せなかった。
彼女の抱く復讐心は、どんなものよりも厚かった。
「とりあえずだ、ここの地区ももう激しい戦闘地区になる。早く離れたほうがいい」
「わかった。もう少しで帰るところだ。とりあえず、孝也必ず、いきってかえって…」
弱い声であったが、孝也も七々原の心情が読めたのであろう、深刻な顔を立てうなずいた。
野崎孝也と七々原甘美は幼馴染であった。
この陽岬島に二人は生まれた。昔は、島の資源も豊かであったが、それを求めて、隣近国とのもめごとが激しくなっていた。
そしてそれから、孝也は徴兵に駆り出さられ、今は軍人のもとで働いている。
「次の作戦区間、ここの地区は激しい戦闘になる。孝也、送ってやれ」
孝也の共感と思われる将校の勲章を飾るものが奥から声をかけた。
だが、甘美にとっては、それは大きなお世話だったのだろう。足早とその場から離れることにした。
「七々原、一人で帰れるか」あとをかけて、孝也が言った。
「大丈夫。私を誰だと……」
「戦力外なお菓子屋だよ」
それから、甘美はすねたのか、顔を合わさずこのキャンプを後にした。
もしかしたら、これで孝也に会うのが最後なのかもしれない。
なのに、甘美は思っている。
私は一体何をやっているのか。ずっと無駄なこと。
私は甘い砂糖で焼いて。
後の兵下たちは、無機物な鉄の塊を放つ。生まれるのは市と悲しみだけだというのに。
ずっと思っていたこと。私のこの甘い掌でも、国がやさしく包まれていれば。
そんな、ことが彼女の夢であった。