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後藤紘未&遠山るりか(前編)

 この高校に入ったら、明るい女の子になる。

 桜が咲き乱れる中、そう心に決めて鳩谷学園の校門をくぐった。


 後藤紘未ごとうひろみ、15歳。今年、鳩谷学園高等部に入学した。

 家から学校まで片道2時間かかるため、行きは朝早く、帰りは夜遅くになる。

 どうしてそんな遠くの学校に通うのかというと・・・


 中2の頃、夏休みが終わったくらいの時期にクラス対抗でバレー大会があった。運動神経の鈍い私は、練習中失敗ばかりしてクラスメイトを呆れさせていた。そして本番の1回戦、14-13で相手のクラスが1点取ったら負ける状況だった。サーブをうつ順番が私に回ってきた。

 「後藤ーっ、頑張れーー!」「下手糞の汚名を返上しろーー」などなど、クラスメイトから声援が送られ、プレッシャーがかかった。そして、サーブをうったものの・・・ネットに触れてしまった。その瞬間、相手のクラスの勝ちが決まり、私たちのクラスは1回戦負けをした。

 

 相手クラスが盛り上がっている中、私たちは意気消沈していた。暗い雰囲気のなか、クラスメイトの女子が私に対し、こう言ってきた。

 「あんたのせいで負けたじゃない、クラス全員に謝って」

 すると、堰をきったように他のクラスメイトも、

 「本当、お前はお荷物だよな」

 「いなくてもいいよねーー」などと私に言葉を投げてきた。ひとつひとつの言葉が私の心につきささった。ショックで気が遠くなり、何も考えられなかった。

 「ほら、土下座しろよ」一人の男子がそう言うと、

 「土下座、土下座・・・」全員が私に土下座を求めた。私は放心状態で土下座をした。涙すら出てこなかった。

 「ひゃははは、本当に土下座してやんのーー」

 「あはははははは」

 「なあ、後藤、罰としてクラス全員分、ジュースおごれよ」

 「あ、それいいねー」

 私のせいで負けたのは事実だ。悔しかったがクラスメイトからの命令を聞くしかない。私はクラス全員に注文を聞いて回り、少ないおこづかいでジュースを買って教室に持って行った。仲の良かった子は、私に対して申し訳なさそうにしていた。バレー大会のことはそのうちほとぼりが冷めるだろう、それまでの我慢だと自分に言い聞かせていた。


 ところが、バレー大会から月日が経っても、私に対する命令、いや、嫌がらせは止まるどころかエスカレートしていった。

 移動教室では荷物持ちを命じられたり、体育の授業では露骨に私と組むのを嫌がったり、かと思えば私にボールをぶつけてきたりした。その他、教科書に落書きをされたり、給食に消しゴムのカスを入れられたり、トイレに入っているときに個室の上から水をかけられたり、ひどいときはかけていたメガネを取り上げられて割られたりした。そんな中でも学校に行けたのは、仲の良かった子が陰で私を励ましてくれていたからだ。

 しかし、あるときを境にその子も私を無視するようになった。そんな折、同じ岐阜県に住む中2の子がいじめ自殺したニュースを聞いた。私も触発され、絶望感から高いビルから飛び降り自殺を図ろうとしたが、見かけた人から止められて未遂に終わった。この頃から、学校に行こうとすると吐き気や頭痛、腹痛が襲い掛かるようになり、結局中学卒業まで、学校に行けずじまいで卒業式にも出席できなかった。

 私の人生なんてもうどうでもいい、そんなことばかり考えていたけど、学校にもう一度行けたら、とは思っていた。学校を休んでいる間にたくさん漫画や小説を読み、私と同年代のキャラクターが学校生活を楽しんでいる姿が羨ましく感じられた。もちろん、中学には行きたくないが、もし高校で中学時代の知り合いが一人もいなかったら、自分がいじめられっこだと気付かれず、無難に過ごせるだろう。私はネットで家から通えて遠くの高校があるか検索してみた。公立だと学区内の高校しか行けず、中学の知り合いに出くわしそうなので、私立の高校を探した。すると、鳩谷学園という中高一貫の学校が出てきた。岐阜県内で最も進学実績の高いところで、校舎や制服もいい感じだった。場所も岐阜市であり、自分の住んでいる東濃地区からいい感じに離れている。ここなら知ってる子もいないだろう。

 私はお母さんとお父さんに鳩谷学園の高等部を受験したいと話した。私立だし、定期代もバカにならないしで反対されるかと思ったが、お母さんは、

 「紘ちゃんが学校に行けるんだったら、いくらでも協力するわ」と私の話をあっさり承諾してくれた。お父さんもきちんと話をしたら納得してくれた。私はその日から遅れを取り戻すように勉強を頑張り、晴れて合格した。

 

 入学式の日、私はまわりに知り合いがいないかキョロキョロ見回したが、誰もいなかった。―――これで私の人生は"リセット"できる。式の間中、夢にまで見た楽しい学園生活を妄想していた。

 

 入学式の翌日、私はお弁当を食べる友達を探そうとした。が、出身中学の子同士で固まっていたため、私は中に入れなかった。一人で食べようとしていた矢先、

 「ここ、いいかな?」私の目の前に一人の女の子が来た。彼女は遠山とおやまるりか、女子のクラス委員に選ばれた。髪型はポニーテールで長身、利発そうな感じの子だ。

 「うん、いいよ。今一緒に食べる子探してたんだ」

 「じゃあ、一緒に食べようか。後藤さんって電車でここまで来るの?」

 「電車とバスかな」

 「後藤さんとこからだと結構時間かからない?」

 「片道2時間くらい」

 「えー!?通うの大変そうだね」

 「乗ってるときは小説や漫画読んだりしてるから平気」

 「どんなの読んでるの?」

 「ライトノベルとかミステリーものとか色々。遠山さんは本は読む方?」

 「本はあんまり読んでないけど、春休みに読んだのはあるよ」

 「どんなの?」

 「『ヒフリア古書堂の事件簿』っていうの。まだ2巻までしか読んでないけど」

 「私、全巻持ってるよ。もし良かったら貸そうか?」

 「本当!?じゃあ借りようかな。あれ謎解きが面白くてついつい読み進めていっちゃうんだよね」

 「そうそう。にしても1巻の犯人は意外だったと思わない?」私たちは小説の話でヒートアップしていった。同級生と話が盛り上がるのなんて久し振りだ。いじめに遭って以降、ほとんど誰とも話さなかったから。

 

 その次の日、私はるりかに小説本を貸した。

 「ありがとう♪あんまり早く読むと楽しみがなくなっちゃうから、ゆっくり読んでもいい?」

 「いいよ、私もう読み終わったし」

 「それじゃ、お言葉に甘えて。ねえ、部活もう決めた?」

 「ん~、まだ決めてない」

 「私、バレーにした。小学校のときからずっとやってたんで」

 私は顔がこわばった。バレーと聞くと、中学時代の嫌な思い出が蘇ってくる。るりかは、

 「どうしたの?私、何か変なこと言った?」と心配そうに聞いてきた。

 「いや、何でもない・・・」

 「良かった。後藤さんは前は何かやってた?」

 「き、帰宅部」

 「そうなんだ。良かったら、一緒にバレーやらない?」

 「私はいいや」

 「ん~、だったら、一緒に一回見学してみない?」まあ、見学だけなら・・・。私はるりかにOKした。


 私たちは、女子バレー部の練習が行われている日に体育館に行った。

 「すいません、私とこの子で見学してもいいですか?」るりかはバレー部員に尋ねると、

 「いいよ、見ていって」笑顔で承諾してくれた。

 先輩たちが試合しているのを見ているが、大きなミスもなくチームの連携がすごかった。ラリーも長いこと続いていて、どっちが勝つか目が離せなかった。試合に決着がつくと、一人の部員が私たちのほうに向かって行った。

 「ねえ、あなたたち1年生?」

 「はい、そうです」るりかは答えた。

 「私はバレー部の部長で、吉田早樹よしださき。せっかく来たんだから、ちょっと簡単なゲームやってみない?」

 「私はやってみたいです」るりかはゲームやる気満々だが、

 「・・・私は見学だけなのでいいです」私は苦笑しながら断った。早樹は、

 「見てるだけだと面白くないでしょ?」と聞いたが、

 「私、下手なんで・・・」ゲームは絶対やりたくなかった。

 「失敗しても怒らないって。それに本当に簡単な遊びみたいなもんだから、ね?」そこまで言うのであれば・・・。私は首を縦に振った。

 「んじゃ、決定ね。みんなー、この子たちも加えて円陣バレーしない?」早樹が部員に声を掛けると、一斉に集まり円陣を組んだ。

 私たちは大きな円を作って円陣バレーをした。私以外だと続いたが、私の番になると、

 「きゃあああ」ボールを怖がってよけたり、打てたかと思えばおかしな方向に飛んでいったりして、みんなの足手まといにしかならなかった。私が打つ度に反応が怖かったが、先輩たちは、

 「ドンマイ!」「次いこ、次!」と一々気にしていなかった。気は落ち込んでいたが、責められないことだけは救いだ。

 ゲームが終わると、早樹が私たちの方に来た。

 「どうだった、ゲームは?」

 「久し振りにいい汗かきました」るりかはにこやかにそう言った。

 「あなた、的確にパスしていて素質あるわ。バレー部に入らない?」

 「喜んで」

 「じゃあ、一人決まりね。隣りのあなたはどうだった?」早樹は私に振ってきた。

 「・・・ごめんなさい、やっぱり下手で迷惑かけてましたよね」うつむきながらそう言った。

 「後藤さん、あまり気にしないで・・・」るりかがなぐさめてくれた。すると早樹は、

 「ううん、迷惑だと思わなかったよ。ただ、あなたの場合はボールに慣れることから始めた方がいいかもね」優しくアドバイスした。

 「私、バレー部には入らないです」

 「そうね、無理に入ってとは言わないわ。でも、私もここの部員たちも最初は下手だったのよ」

 「私はあんなに上手くなる自信がないです」

 「みんな失敗を積み重ねて上達していくの。あなたも根気強く練習をこなしていけば、きっと上手くなれると思う」早樹は続けて、

 「とりあえず、始めは壁打ちからでもいいからやってみない?」そのくらいなら出来そうだ。誰にも迷惑をかけないし。だけど、入部して本格的に試合に出るとなると、中学時代の二の舞になるかもしれない・・・。

 「・・・少し考えます」


 私は帰りの電車のなかで、どうしようか迷っていた。絶対入部しない。でも、早樹やバレー部の先輩たちは優しいし・・・。ただ、あくまで勧誘のために優しくしているだけで入部したら途端に手のひらを返したりして。

 『私もここの部員たちも最初は下手だったのよ』『みんな失敗を積み重ねて上達していくの。あなたも根気強く練習をこなしていけば、きっと上手くなれると思う』『とりあえず、始めは壁打ちからでもいいからやってみない?』早樹の言葉は、バレーに苦い思い出を持つ私でも入部を後押しするものであった。それに、私は高校に行ったら"リセット"することに決めていた。明るい女の子になりたい。嫌なことから逃げてちゃ・・・今までと変わらないよね。

 そんなことを考えていると、メールが来た。るりかからだ。

 "お疲れさま☆ さっきは無理に誘っちゃってごめんね(汗)あまり落ち込まないでね" 私はこう返した。

 "もう落ち込んでないって。私、バレー部入部するね"


 こうして、私たち二人はバレー部に入った。練習の前に、体育館5周と縄跳び100回をこなした。

 「私、これだけでもうくたくた~」運動不足の私はすぐバテたが、

 「まだまだこれからだって、私、先輩とトスの練習してくるね」るりかはまだ体力があり余ってそうだ。

 私は一人で壁打ちをしようとした。私は低い位置にボールを打ち、跳ね返ってきたのを壁に打ち返した。これは続けられた。この調子でボールに慣れることが出来るかも、そう思っていると、

 「お、この前よりは良く打てているね」早樹が私に話しかけた。

 「はい、壁相手なら何とか出来そうです」

 「じゃあ、次は私とやってみない?」

 「今はちょっと・・・」言い終わらないうちに、早樹はボールを投げてきた。私は思わずよけた。

 「今みたいにボールを投げるから、私に返してみて」早樹はボールを拾いながら言った。私が怖がっているのを見て、早樹はボールを低い位置で手加減しながら投げた。私は何とか下から打って返すことが出来た。こうして、投げては返し、投げては返しを繰り返した。だが、ちょっと高い位置に投げられると、ボールが変な方向に飛んでいった。

 「あー、後藤さん。ひじはまっすぐにね」

 「後藤さん、ひじを曲げない分、ひざはちゃんと動かして」早樹からゆっくりボールを投げてもらい、ボールの方向に体を向けて打つようになった。ただ、ひじやひざが早樹の言う通りに出来ず、変な方向に飛んでいくことも少なくなかった。

 こうして、なかなか上手く打てないまま、早樹は練習を切り上げた。

 「今日は休んでいいよ。さっき言ったことを忘れないようにね」心なしか、苦笑いしているように見えた。私とるりかは先輩たちの試合を見ていた。


 「お疲れ~。一緒に帰ろ」るりかが声をかけてきた。

 「お疲れさま。私、やっぱりバレー部やめようかな」

 「え~!?この間よりボール怖がらずに打てていたのに・・・」

 「私、素質ないからさ、遠山さんみたいに」

 「そんなことないって。・・・そうだ、今から二人で練習しない?」

 「遠山さん、疲れてない?」

 「私は大丈夫だって。後藤さんは?」

 「私は・・・」部活を辞めたら、嫌なことから逃げる自分から変われなくなる。でも早樹に迷惑かけられないし・・・。

 私はかなり疲れていたが、るりかと練習することにした。場所は校舎の裏。体育館よりも大分スペースが広い。るりかはボールを持ってきた。

 「私がボール投げるから、さっき部長とやってた時みたいに返してみて」私はるりかからのボールを下から打つことで返したが、やはり変な方向に飛んでいった。見るに見かねて、るりかは、

 「とりあえず、フォームとかあまり考えずに、ボールを確実に拾って返してみようか」と提案してみた。私はボールを見渡しやすくするために後ろに下がった。るりかからボールが投げられた。私はボールが飛んでくる方向に体を向け、下から打った。フォームは何も考えなかった。

 「後藤さん、今のフォーム、完璧だった!」私は意識してなかったが、るりかが言うには、足の開き具合・ひじやひざの形や角度が完璧だったとのこと。フォームを意識しなくても、ボールを取ることだけ考えればいいのか。私はちょっと自信がでてきた。

 「どんどん投げてきて!」私が言うと、

 「じゃあ、いくね!!」るりかはさっきより速い球を投げた。私はボールを取ることに夢中になった。気がつけば19時を過ぎていた。

 「ごめん、家が遠いのに遅くなっちゃって」るりかが謝ると、

 「ううん、つきあってくれてありがとう。私、部活頑張ってみる」私はすっきりした顔でそう言った。

 「じゃあ、また明日ね」るりかは帰っていった。私は逆にさっきより疲れがとれて、まだ体力が残っていた。私はボールの壁打ちと、ボールを下から上に打っていく練習を一人で行った。一区切りつけて休憩しようとしたら、21時になっていたので、ボールを戻して帰った。


 次の部活の練習日、私は早樹とボールの打ち合いをした。

 「この間よりだいぶ自然に返せるようになったじゃない。フォームも上手くなったわね~」早樹は笑顔で私を褒めた。私はるりかと目が合い、お互いピースサインした。

 でも、るりかは何で私にこんなに優しいんだろう・・・。


 しばらく経って、高校入学してから初の中間試験の結果が貼り出された。100位までしか名前が掲載されないおらず、私の名前はなかったが、るりかは何と3位だった。

 「遠山さん、頭いいんだね」

 「そう言われると嬉しいな。でも名前載ると、次に順位が落ちたとき怖いから油断できないんだよね」

 

 ある日、身体測定とスポーツテストが同日に行われた。

 「身長167cmなんだ、いいなあ。私、159cmしかないよ」私はるりかの身長を聞いてそう呟いた。

 「バレーやってるから大きいのは有利だけど、もう少し小さくなりたいかな。後藤さんくらいの身長になりたかったよ」

 「スポーツテスト、バレーやってるから中学のときより成績が良くなったの」

 「へえ、いいなあ。私そんなに変わらないよ」

 「どれ、ちょっと見せて」私はるりかのスポーツテストの結果を覗き込んだ。

 『50m走:7.2秒、ハンドボール投げ:25m、立ち幅跳び:240cm・・・』私はそっと視線を外した。

 「・・・遠山さんってスポーツも出来るんだ」

 「まあ、体動かすの好きだからね」るりかはにこにこしながらそう言った。


 学力も運動神経の良さも私には到底かなわない。るりかはこんな私に気を遣ってくれるのか謎だ。

 気になることはもう一つある。るりかは毎週火曜日、私が一緒に帰ろうと誘うと、

 「ごめん、今日は無理」と断り、さっさと帰るのだ。他の曜日はOKなのに。

 ある火曜日にるりかを誘うと、案の定断られた。私はるりかに気付かれないように、後をつけた。るりかは、お仏花と線香を買い、墓場の方に向かった。そして、お墓にそれらをお供えして手を合わせて沈黙していた。るりかが帰ろうとすると、私は、

 「遠山さん、ここにいたんだ」と呼びかけた。

 「あ、もしかして跡つけてきた?」るりかはちょっと困惑した顔で聞いた。

 「ごめんなさい、ちょっと気になっていたから」

 「ううん、私も言わなかったから後藤さんをもやもやさせちゃったんで」

 「ご家族の方のお墓?」

 「・・・後藤さん、実は」

 「?」

 「私、中学のときにクラスメイトの女の子を見殺しにしたの」

 「!?どういうこと?」

 「2年前、県内で中学2年の女の子が自殺したニュースあったの知ってる?」

 「聞いたことある・・・」知ってるも何も、私はそのニュースを聞いて自殺しようと試みたことがある。

 「あの子、私と同じクラスの子で、最初はいじられ役みたいな感じだったんだけど、次第に他の子からのいじりがエスカレートしていって・・・」私も中学時代、ちょっとした嫌がらせがエスカレートしていじめになったのを経験したのでよく分かる。るりかは続けて、

 「ただ、その子すごい気丈で、どんなにいじられてもニコニコしていたの。でも、ある日クラス委員だった私は、その子から深刻な顔で『相談がある』と言われたんだ。その時はバレーの交流試合が控えていて練習に忙しかったから、試合が終わったら相談にのる予定だったの。だけど・・・」

 「相談にのってくれるのを待たずに死んじゃったんだ・・・」

 「・・・そう。あの時、相談にのっていれば最悪の事態は防げたのに・・・」るりかは目に涙を浮かべてそう言った。続けて、

 「あの子はいつもニコニコしていたけど、一瞬すごく悲しげな目をしていた。私が気付いていれば今頃は・・・」

 「遠山さんにそんな辛いことがあったんだ・・・。クラスメイトが死ぬなんてすごいショックだよね。でも、遠山さんがそうやって人の心の痛みに気付けたから、きっと彼女の死は無駄ではなかったと思うよ」るりかは顔を上げて私の話を聞いた。私は続けて、

 「私の中学のときのクラスなんて・・・」私はハッとしてそれ以上言うのを辞めた。

 「え、後藤さん、中学のクラスで何かあったの?」るりかは泣きはらした目でそう聞いた。

 「いや、何でもない・・・」私はそれ以降、何も言わなかった。


 翌日、るりかは何もなかったかのように私に挨拶してきた。私もるりかの中学時代の過去には触れないようにした。私たちは今までどおり、仲良くしていた。

 そんなある日、トイレに行こうとすると、私のクラスの女子たちが手洗い場で噂話をしていた。私はトイレに入らず、立ち聞きした。

 「にしても、遠山さんって頭もいいし運動神経もいいし、すごいよね」

 「しかもめちゃくちゃ性格いいしね。あの子を悪く言う人誰もいない」

 「でも、何で友達が後藤さんなんだろうね。どう考えても不釣り合いじゃん」

 「後藤さんって何かトロそうだよね。・・・ねえ、知ってる?私の知り合いに聞いたんだけど・・・」

 「何?」

 「後藤さんって中学のとき、すごいいじめに遭っていて、登校拒否してたんだって!」

 「え、そうなの!?」

 「だからわざわざ遠くのここまで通っているんだ~」

 「遠山さんも同情して後藤さんに話しかけてるんじゃない?」

 「あー、そうかも。そういえばさー」・・・私は気が遠くなっていった。ぼう然としながら、私は教室に戻り、カバンを取り出した。体調不良と担任に告げ、早退した。

 私は家に帰るなり、ベッドに倒れこんだ。携帯を確認すると、るりかからメールが届いていた。

 "何も言わずに帰っていったけど、体調大丈夫?"


 私はこう返信した。

 "もう私に近づかないで"

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