この空の先へ6
とりあえず、同居(?)一日目が終わる……
無事、目が覚めた後で私はとりあえず、家に帰り――久しぶりの外出で、その理由は冷蔵庫がからっぽという切実なものだったので、買い物もきちんと済ませたうえで――グレープジュースの紙パック片手に、座椅子に落ち着いた。
「で、閻魔……さん」
「お前、すっかり、儂相手に『さま』をつけなくなったな」
あ、そういえば。
最初は閻魔さまって呼んでいたはずなのに、気が付けば砕けた口調だった。心の中じゃ、呼び捨てである。
「もしかしてすごいまずいですかね、怒ってます?」
私らから見れば、神にも等しい存在な訳で。
「いや、全然」
ところが、この閻魔は人間(というのも可笑しいが)が出来ていて、おおよそ怒るところを見せない。
あれか。こんなちっぽけな存在にいちいち腹立ててもしょうがないってところか。
何てつらつら考えているが、閻魔は何も言わない。
どうやら本当に、私の思考を読まないでいるらしい――もしくは、読まないふりをしているのか。
その辺りは、信用するしかないのだけれど。
「で、何が聞きたいのだ?」
「って、なんで考えてる事わかった! ってか、読んだ? 読んだな?」
「阿呆か」
心底呆れた声が耳奥で響いた。
「お前達人間は、儂の事を、『嘘をついたら舌を抜かれる』等と言っておる癖に、その罰する張本人が嘘をつく訳がなかろうが」
「あ、あれって本当なんだ」
「さあな」
「え? デマ?」
「残念ながら、教える訳にはいかん、知りたきゃ儂の前に来るまで待つんだな」
「なんだーケチー」
涼やかな笑い声がする。いい顔して笑っているんだろうな、と表情まで想像できてしまう。
「で、結局なんでわかったの?」
先程の私の考えている事の件である。
「話しかけてきた理由が、世間話の相手という訳でもないだろう、少し考えたらわかる」
「あ、そう」
「で、何が聞きたい?」
教えられる範囲で答えるぞ、と言われて、私はそれから、閻魔の仕事している内容や、彼のいる場所の話を……
「弟さんって、似てます?」
「代役が務まるくらいにはな」
……聞かずに、弟さんの話をしていた。
「いい加減、寝なくていいのか?」
「そんな、親みたいな事言わないでよ、大体なんで閻魔が人間生活詳しいんだって」
「とうとう呼び捨てかお前」
「あら、そんな事言ったっけ?」
我ながら砕けきっている。
「まあいい……寝ないのか?」
「べっつに、明日何かある訳でもないし、買い物もしたからね、暫くは出掛けなくたって平気」
食べ物飲み物の心配もなくなった――暫くの間は。大体、今時ネットショッピングが流行っているのだから、わざわざ出向かなくても、届けてもらうって手もあるのだ、急ぎでなければ。その急ぎだって、割増料金で何とかなってしまう、ご時世である。
「この世は、かなり便利なんだよ」
そもそも、行きたくても、何もないけどね。
「全くだな」
そんな心の中を、見たのか否か。
閻魔は、ただ、相槌を打った。
「ねー、酒でも飲もうか、エンちゃん」
「……酒の単語だけで酔ったか?」
(2013/5/10)