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この空の先へ4

そもそも、私は今何処で、どんな状態なのか

「抱え込んでいる? 意味わかんない」

「つまりだな、お前の中に儂が入り込んでいる、と言えばわかるか?」

「わかるようなわかんないような……入り込んでる!?」

閻魔は、私の額を指差す。

「さっきそこに、違和感があったのだろう?」

「うん、なんか砂粒みたいなものがついてて」

「それが、儂じゃ」


沈黙があった。


「入り込んでるっていうか、引っ付いてるの間違いじゃないの?」

「まあそうとも言うな」

「って落ち着いてる場合か」

からからと笑っている相手を余所に、私の方は、さっきまでの冷え冷えとした気持ちはどこへやら。

「笑うところと違う!」

勢い余って、腕を振り上げてしまった。

そして気が付いた、相手はかなり至近距離にいる。このままだとかなりの確率で、私の手が相手の体の何処か――これまた高い確率で顔付近――に飛んでいく形になるんじゃないか、と。

でも。

私の腕は、するりと目の前の相手の体の中を通過した――つまり、何もない空間を、ただ、横切るのと同じく、何かに触る事もなく。

思わず、掌をしげしげと眺める。


「え?」

「お前な、さっき言った事、聞いていなかったのか」

「さっきって……」

「お前の意識の中だと言っただろうが、この中ではお前も儂も、形を取ってはいるが、実際に触れる事等できんわ」

ほれ、と此方に向いた指先。

これまた何も感じさせず、私の中を通過していく。

「な、何す……」

言葉よりも先に、体が反応した。

そう、相手の手を避け、下がろうとしたのだ。


何故か背筋がぞわりと、違和感を訴えてくる。


相手の指先は、触ってもいない筈の私を、その場に縛り付ける。その瞬間、私の足は、ぴくりとも動こうとしなかった。

頭のどこかで、不思議なものだ、と思った。

さっきと同じ。全く何も感じない、感じさせない筈なのに。


「この通り」

相手はにっこりとして、それから、何かに気が付いた、という顔をすると、何故かその指先を、取り出した黒っぽい布で拭い始めた。

っていうか。

「ちょっと」

「なんだ?」

「なんで拭いてる訳?」

汚れてるとでも言いたいのか、私の中はそんなに粘ついてでもいるのか。思わず手を突っ込まれた(と、思われる)腹のあたりを見てしまう。

でも、何もついている訳はなくて。

「いや、深い意味はないぞ」

相手にも笑ってはぐらかされた。しかし、気になる。

とはいえ。

「さて、あまり時間はないな」

そろそろ、私の目覚め――いったい何度目だ――が近づいているらしい。 ラストスパートだな、と閻魔は表情を引き締めた。

仕方ない、色々な感情は置いておいて、此方も話を聞く事にする。

説明してもらわないと、色々困るし。

「先程の衝突で、儂はちょっとややこしい状態になってしまってな……こうしてお前が眠っている間ならば出てこれるが、それ以外は、お前としか意思の疎通ができん」

「なんでそんな事に」

「説明が難しい、聞くな」

「聞くなって、自分のことなのに?」

「詳細はともかく、結果がわかっておればよかろうが」

要らぬ口を挟むな、と睨み付けてくる相手に、はいはいと折れた。

何しろ時間がない事だし。

「で、どうしたら元に戻るんです?」

「……少々時間がかかる、力を消耗した故」

「回復すりゃなんとかなる、と?」

「よくわかったな、そんなところだ」

どうにも、相手は、今の状況を楽しんでいるのではないだろうか。

しかし、そう聞くのはやめた。そうだ、なんて肯定されたら、今度こそぶちきれる。

いや、既に切れてるけど。



「そういう訳だ、しばらくお前の所に居候させてもらうが、構わんな?」

「滅茶苦茶、構うんですけど?」

これでも、うら若き独身女性である。幾ら眠っている意識下でしか接触できないとはいえ、若い男に見える相手がすぐ傍――比喩でなく本当に傍だ――にいる状態だなんて。

それが親兄弟ならともかく、縁もゆかりもない、属性的にも何の繋がりも持っていない相手である。

プライバシーも何もあったもんじゃない。

「何がまずい?」

ところが。

閻魔というのは、人間ではないだけに、それの何が問題なのか、全くわかっていないのである。

「あのですね、妙齢の女性の一人暮らしの部屋に、若い男と見える相手がいるって、すっごく問題にされると思いません?」

「お前、そういう……個人情報といったか、一人暮らしだなんて、べらべら口にするものではないぞ」

「普段は喋ってない!」

気にするポイントはそこじゃない。しかもなんだ、その保護者みたいな心配面は。

「大体、他の相手にはわからんのだから、お前ひとり承知していればよい、儂は他の者とは接触せん」

「だーかーら! 人から見える見えないじゃなくて」

そもそも、何時も私の中にいるって事は、私の生活思考行動、何もかも見えるって事じゃないか。そんなの耐えられない。

例え同性でも。

折角満喫中の一人暮らしというのに、何が悲しくてそんな状況に追い込まれているんだ。

「例えばお風呂入っていても、見えてるって事でしょ?」

「まあ、そうなるな」

「考え事とか、友達と会話とか、そういうの全部丸見えって事でしょ?」

「確かに、見れん事もない」

「そんなの絶対ヤダ」

「人間は、我侭なものだな……」

そんな溜息つかれても。

至極まっとうな要求をしている筈なんですが。

「とはいえ、このままでは儂はお前の中からは出られんからなあ」

ふうむ。そう言って、額をこつこつと指先で叩いた閻魔は、ならば、と此方を見た。

「お前から許可がない限りは、儂は何も見ん、それでどうだ」

「許可?」

「恐らく、お前が起きている状態でも儂が話せば、声は聞こえるだろう、しかし、お前が呼ばない限り、儂はお前には干渉せんし、何も見ない、それでよいだろう?」

「どうやってそれを信じろと?」

「そりゃあ、儂が言う事を信用してもらうしかないな」

(2013/3/21)

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