雪とコーヒーとソーセージ
あれは寒い冬の日だった。
一面真っ白になった公園。
あの日の私たちの出会いは、ロマンチック。という言葉からだいぶかけ離れたものだった。
例えるなら、恋愛映画のセットをバックに撮られるコメディ映画。
「お魚ソーセージ。食べます?」
「……はい?」
これが、私たちが交わした最初の会話だ。
私は泣いていた。
昨晩降った、都会の汚れた雪が積もったベンチで。
12月24日の夜に女が一人で公園のベンチで泣いているということは、つまりそういうことだ。
ついでに言うと、雪の中には9号の指輪が埋まっていた。
そのとき私は、寒くて寒くて仕方なかった。
何か暖かいものが飲みたかったが、動くという行為が頭の中になくて、
ただひたすら過去の思い出を振り返り、その合間に「寒いなぁ」とも思いながら涙を流していた。
「寒いなぁ」と3度目くらいに思ったのと、先ほどの会話をしたのは同時だった。
「お魚ソーセージ。今ちょうど買ってきたんです。」
「いや……いいです。」
「……そうですか。」
「……」
「……」
「隣、座っても?」
「あ、どうぞ。」
彼はベンチに積もった雪を軽く払い、隣にスーパーの袋を置いて私の隣に腰掛けた。
今思えば私たちの距離は3センチくらいしかなかった。初対面なのに。
そして彼は初対面の女の3センチ隣でお魚ソーセージを食べ始めた。
つくづく変な男だ。
「……あの」
「はい。」
「ほんとにいりませんか?お魚ソーセージ。」
「いりません。」
「そうですか。」
「……あの」
「はい?」
「お魚ソーセージより暖かい飲みものが飲みたいんですけど。」
「あぁ。ごめんなさい。それは買ってないんです。」
「……そうじゃなくて」
「え?」
「普通はそう言われたら買ってくるでしょう。自動販売機すぐそこにあるんだから。」
「自分で行けばいいじゃないですか。」
「私は動きたくないんです。」
「僕もです。」
「……あなたって変な人ですね。」
「そうですか?」
そんなこと、初めて言われましたよ。
「何してんの?」
彼の声が耳に入ってくる。振り返ると、ベランダの窓を少し開けて顔をだしていた。
片手に湯気のたちこめた暖かそうなコーヒーを持っている。
「雪、降ってるから見てるの。」
「風邪引くよ。そろそろ中入りな。」
「うん。」
大人しく彼に従い、ベランダ用のサンダルを脱いで部屋に入る。
思っていたより体は冷えていたらしく、入った瞬間暖かい空気に大きな安心感を覚えた。
「はい。これ。」
彼が持っていたコーヒーを差し出す。
「ありがとう。」
一口飲むと、体の中も安心感でいっぱいになった。舌に残るほろ苦さが心地いい。
「最初はくれなかったのにね。」
思わず笑うと彼は不思議そうな顔をした。
「なにが?」
「あったかいコーヒー。」
「え?」
「ふふ」
なんでもないよ。
降り続く雪は、外をあの日と同じように一面真っ白に染めていた。