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伯爵令嬢セシリアは今日も修羅場に遭遇する

帰ってきた伯爵令嬢セシリアは、修羅場に遭遇する。王妃様の経歴がめちゃくちゃ凄いのですが、陛下との出会いはベタでした。

作者: 木風
掲載日:2026/09/08

 婚約式を数日後に控えた午後。

 私、伯爵令嬢であるセシリア・アースキンは、婚約者である王太子アドリアン・レオポルド・ヴァルディエールとともに王妃様のお茶に招かれていた。


 場所は王宮の奥にある、小さな庭園に面したサロン。

 王族の私室に近い場所らしく、これまで何度か王宮を訪れている私も、ここへ入るのは初めてだ。


「正式に婚約する前に、一度ゆっくりお話ししてみたかったの」


 王妃様はそう言って、柔らかく笑った。

 夜会などで遠目にお姿を拝見したことは何度もあるし、婚約のお許しをもらう際にもお会いした。

 けれど、こうして私的な場で向かい合って話すのは初めてだった。


 アドリアン殿下とは、あまり似ていない。


「母上。セシリアを緊張させないでください」

「そんなつもりはありませんよ」

「この間も、外国からいらした大使夫人を質問攻めにしていたでしょう」

「あれは珍しいお菓子のお話を伺いたかっただけです」

「三十分ずっと?」

「興味深かったのですもの」


 なるほど。

 少なくとも、会話が途切れて気まずくなる心配はなさそうだ。


「セシリアさんは、アドリアンのどこを好きになったの?」

「母上!?」


 紅茶を一口飲む前に、いきなり聞かれた。

 やはり、少しは緊張しておいた方がよかったかもしれない。


「どこ、と申されましても……」


 隣を見ると、アドリアン殿下と目が合う。

 これ以上ないほど、期待に満ちた顔をしている。


「……いろいろございます」

「そこはもう少し具体的に!」

「アドリアン、本人が隣にいては言いにくいでしょう」

「母上が振ったんでしょう。僕は聞きたいです」

「私は言いにくいです」

「よかった。仲がいいのね」


 王妃様が楽しそうに笑った。

 そう見えるのなら、よかった。

 その後は婚約式についての話や、王家に嫁いだ後の生活について、一つずつ説明してくださった。


 思っていたより堅苦しくない。

 公務についても、いきなりすべてを任されるようなことはなく、最初は王妃様について覚えていけばいいという。


「私も最初は何もできませんでしたから」

「母上が?」


 アドリアン殿下が意外そうな顔をした。


「ええ。何も」

「でも母上、外国語も三つ話せますよね?」

「昔からです」

「魔法も使えますし」

「それも昔からですね」

「錬金術にも詳しいでしょう」


 何もできない、とは。

 私は少し考えてから尋ねた。


「王妃様は、ご結婚前からそのようなことを?」

「そうですね。実家でやっておりました」


 まるで何でもないことのように答えた。


「私、姉妹の中ではあまり出来がよくないと言われておりまして」

「母上が?」

「そうなのですか?」


 今度は殿下だけでなく、私まで聞き返してしまった。


「妹の方が可愛らしく、愛想もよくて。両親も妹をとても可愛がっていたのです」


 最近、こういう話をよく聞く……姉妹格差というやつだろうか。


「私は家の仕事を任されることが多かったのですが、何をしても叱られてしまって」

「たとえば?」

「領地の帳簿に合わないところがあったので、調べたことがありました」


 普通だ。


「七人ほど横領している者が見つかりまして」


 前言撤回。普通ではなかった。


「七人」

「はい。ですが、勝手なことをするなと父に叱られました」

「……横領していた方々は?」

「処分されました」

「では王妃様は正しかったのでは?」

「そうなのでしょうか」


 本気で首を傾げている。


「その翌年には、魔石を錬成する錬金術を開発しまして」

「開発……」

「その魔石が準二級でしたの」

「準二級!?」


 アドリアン殿下が聞いた。

 まさか、今では普通に流通している魔石が、自分の母親作だとは思わなかったようだ。


「ええ。おかげで市民に低級の魔石を流通させることができましたが、家の収益が減ってしまい……」

「母上、それは『少し』じゃないです」

「そうなの?」

「かなりやってます」


 私も同意すると、王妃様は困ったように眉を下げた。


「当時は、私もよく分かっていなくて。私、何かやってしまったのでしょうか、と」


 出た……無自覚な天才は、ご自分の才能には気がつかない。


「かなり色々となさっておりますわ」

「やっぱりそうだったのですね」


 二十年以上を経て、ようやく納得されたらしい。


「それで、また叱られまして」

「なぜです?」

「妹が、私ばかりが褒められるのが嫌だったそうです」


 ひどいご家族なのでは?という予感が、確信に変わった。


「それから、私はあまり人前に出ないようにと言われるようになりました」

「……まさか」

「しばらく蔵で暮らしておりました」


 アドリアン殿下がカップを置いた。


「初耳なんだけど」

「言っていませんでしたもの」

「母上、公爵令嬢だったよね?なぜ蔵に?」

「妹が、私を見ると気分が悪くなる。と言うので」


 ひどい……しかも、まだ終わりそうにない。


「婚約者もおりました」

「父上ではなく?」

「ええ。故国の侯爵家の方です」

「どんな方だったのですか?」

「よく夜会で、『お前とは婚約破棄してやる!』と」


 やはり……尋ねた直後、少し後悔した。

 夜会で婚約と婚約破棄はセットなのだろうか。


「破棄されたのですか?」

「いいえ。翌日になると、そんなことは言っていないと」

「よく……とは、何度くらい?」

「さあ……五、六回でしょうか」

「そんなに!?」

「最初の頃は悲しかったのですが、三回目くらいからは、またかしら、と」


 慣れるものではないと思う。


「それに、私はあまり優先順位が高くなかったようで」


 なんだろう。

 聞き覚えのある言葉が増えてきた。


「約束の日に来ていただけないことも多かったですし、妹の方が大切だと言われることもありました」

「その婚約者、ひょっとして妹君とも?」

「気がつけば、わたくしより仲がよくなってましたわね」


 アドリアン殿下の顔が険しくなった。


「母上、よくそんな男と婚約続けてたな」

「家同士の決めたことでしたから。昔の私は、嫌だと言ってもよいのだと知らなかったのです」


 王妃様は穏やかに言う。

 そこだけは、少し胸に残った。

 けれど、その余韻に浸る暇など与えてくれない。


「最終的には、妹に家を追い出されました」

「妹君に!?」

「お姉様なんて、この家には必要ありません、と。両親も一緒になり、そこまで言うなら、と」


 ひどい……先ほどから、ひどいという感想しか出てこない。

 何度ひどいと思ったかわからないほどだ。


「それで王妃様は?」

「出ていきました」

「そのまま、何も持たずにですか?」

「少しのお金と着替えは持たせてもらいましたよ」


 それは、追放と言うのではないだろうか。

 アドリアン殿下が額を押さえている。


「母上の実家の話、聞けば聞くほどひどいな……どおりで母方の実家と没交渉なわけだ」

「でも、そのおかげで陛下に出会えましたから」


 王妃様の顔が、少しだけ柔らかくなった。


「国境へ向かう街道を歩いていた時でした。雨が降ってきて、私、どうしていいか分からなくなってしまって」

「そこで陛下と?」

「ええ」


 ちょうどその時、サロンの扉が開いた。


「私がどうした?」

「父上」


 陛下だった。


「仕事が早く終わったから来てみたんだが」

「ちょうど、陛下と出会った時のお話をしていたところです」

「ああ、あれか」


 陛下は空いていた椅子に座り、当然のように菓子を取った。


「どういう出会いだったのですか?」

「道端に、ずぶ濡れの美人が座ってた」

「父上、もう少し言い方がありませんか?」

「事実だろう?」

「それで?」


 アドリアン殿下まで身を乗り出している……どうやら殿下も詳しくは知らないらしい。

 王妃様は少し恥ずかしそうに視線を伏せた。


「陛下が、馬から降りてきて……」


 そこまで言って、陛下が笑った。


「見つけた。俺の花嫁」


 私は陛下を見ると、アドリアン殿下も陛下を見た。

 王妃様だけが静かに紅茶を飲んでいる。


「……初対面ですよね?なぜ花嫁だと?」

「一目惚れ」

「父上……」

「何だ」

「いや……」


 アドリアン殿下が何とも言えない顔をしている。

 王妃様は懐かしそうに微笑んだ。


「私も当時は、何を仰っているのか分かりませんでした」

「普通はそうですわ」

「でも行くところもなかったので、ついていきました」

「ついていったのですか!?」

「悪い人ではなさそうでしたから」

「判断が早い!」

「王子だったからな」

「身分の問題ではないと思います」


 そのまま本当に陛下の国へ来て、いろいろあって結婚したらしい。

 離宮にいらっしゃる側妃は、王妃様が体調を崩された際に迎えた方で、現在も特にわだかまりなく、良好な関係だという。


 ずいぶん簡単、というか雑にまとめられた。


「殿下はやはり陛下似ですわね」


 私が言うと、アドリアン殿下が即座にこちらを向いた。


「僕は初対面でそんなこと言ってない!」

「そうでした。『おもしれー女』でしたわね」

「それは魅了されてた時だろ!?」

「おもしれー女?」


 陛下が反応した。


「父上はそこ拾わなくてください!」


 王妃様が口元を押さえて笑っている。

 私は紅茶を飲んだ。


 今日一日で、ずいぶん多くのことを知った気がする。

 婚約破棄。

 虐げられ。

 蔵。

 横領摘発。

 私、何かやってしまいました。

 妹からの追放。


 そして最後に、俺の花嫁。

 王妃様、一人に詰め込みすぎではないだろうか。


 お茶を終えて、私はアドリアン殿下と王宮を出た。


「母上の昔話、すごかったな……僕も知らないことが多かった」

「そうでしょうね」

「……セシリア?」

「少し疲れました」

「僕もだ」


 庭園を抜ける途中、例の水槽の前を通りかかった。

 数匹の鯖が、今日も元気に泳いでいる。


 そのうち一匹がこちらを向くと、ひらひらと、ヒレを振ったような気がする。


 私は見なかったことにした。

 今日はもう、十分だった。

お久しぶりのセシリアは、やっぱり次々に修羅場に遭遇します。

また、短編を公開できればと思っているので、お待ちいただけると嬉しいです。

【作者お気に入り追加はコチラから】https://mypage.syosetu.com/2924274/

ブックマーク、★★★★★、よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

もし、こんな修羅場を見てみたい!などありましたら、感想でもらえると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
王妃さま・・見事なテンプレでした!w そして、山田君~と叫ばれる前に撤退は◎です!
多分王妃陛下の故国は衰退してるし実家は没落してる。  なぜならよくあるパターンだから。
セシリアは、引き寄せの能力でも持っているのでしょうか。まさか舅&姑がこのような方とは。いや、この二人の間に生まれた王子が凄いのか。やはり能力は遺伝。いつか生まれる二人の子どもたちにも遺伝、、、。 と…
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