藍より青し
今の若い方はご存知ないだろうが昭和枯れすすきと言う歌をうたっていたさくらと一郎、逃げた女房にゃ未練はないがと言うフレーズの浪曲子守唄を歌っていた一節太郎、最近だと純烈やテツandトモなどが中央のテレビではなく地方の温泉ホテルなどの営業でビルが建つほどの収入を得ていると言う。
お前はなんの話をしているのかと思っている方も居るだろうが、今回は刺青の話をしようと思う。
実は刺青の彫師も地方営業をしている者が案外と多い。
東京は浅草の、とか石川県は金沢の名人上手に彫ってもらえれば良いのだが、なかなかそんな風に上手くは行かない。時間もお金もかかるし何よりも彫師のスケジュールが合わない。3年待ち5年待ちは当たり前の世界である。ふらっと行って立ち食いそばを食うようには行かないのである。
そこで超1流とまでは行かないが2流どころの彫師が地方巡業する。宮城に1ヶ月、福島に2ヶ月という風に滞在して、その地元のヤクザの背中に刺青を入れる。
初見は図柄を見せて何を入れるかを決め、筋彫りを入れる。これが大体4~5時間といった所で、これが痛くて続きを入れない者も案外と多い。
そして色を入れていくのだがいっぺんに全部は入れられない。体が耐えられない。だから訪れるごとに少しづつ入れていって完成までに3年ほどかかる。金額的には私の若い頃で300万円ほどだったので今は500万円ぐらいするのではないだろうか?
私も色んな刺青を見てきたが高利貸しのKを半身不随にしたSの刺青は凄かった。胸から両の手首にかけて昇り龍と下り龍を彫っていたのだが、酒を飲んだり風呂に入ったりすると色が変わる。しかも通常の刺青とは入れる手法が違うらしく図柄の龍が体にへばりついているように異常なほど盛り上がっていた。
若い方はご存知ない、で思い出したがむかしは今と違いサウナや銭湯は刺青を入れている者も普通に入れた。むしろ地方ではサウナはヤクザが行く所で、カタギは滅多にサウナになど来なかった。
かくいう私もよくサウナに行った。どういうツテ繋がりがあるのか知らないが映画館とサウナのタダ券は頼みもしないのに負けの込んだUNOのように手元にどんどん溜まっていった。
まぁしかしサウナは良い。タバコ(ハイライトだった)はタダだし周りがヤクザばっかりだから情報交換や仕事の頼み事などもやり取りできる。
「なんだなんだ!ここのサウナは龍とか鯉とかばっかりウジャウジャ泳いでやがるな!」
と、常連の老ヤクザが入って来るなり憎まれ口を叩くとすかさず
「河童にだけは言われたくねぇよ!」
と返されたりする。
背中を見ると口から血泡を吐いて長ドスを振り回し生首と尻子玉を抱えた河童が描かれている。
「おう、そこの若いの。河童に尻を見せると掘られるから気を付けろよ」
などと声をかけられた事があった。これは後で知ったのだが河童は男色家の隠語で、この老ヤクザは実際にこの頃はまだ現役で掘りまくっていたらしい。
刺青に関する思い出やエピソードがまだまだ尽きないので、これは何度か続編を書こうと思う。




