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極の細道  作者: 江泉 敬
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選挙はカネになる

 私がヤクザ組織と関わりを持って一番強く感じたのは政治と建設と賭博と風俗、飲み屋はヤクザと密接に関わっている、と言う事だった。その中でも今回は選挙について話そうと思う。

おそらく今でも地方都市、いや、片田舎の町会議員の選挙などでは暗黙裏にカネをバラ撒いていると確信を持って言える。

 そうでなければ選挙資金などと言う物は存在しないし、事実選挙になればそんな資金では足りなくて議員さんは資金調達に奔走する。悲しいかなカネで人は動くのである。

 選挙資金の話で私が聞いた中で凄いと思ったのは、かの有名な笹川良一さんに頭を下げてカネを調達した議員さんが事もあろうに協力関係にあるヤクザと麻雀をやってスッテンテンになってしまったと言うもの。再度借りに行ったら賭け麻雀で負けた事がバレててメチャクチャ怒られた。本当かどうかは知らないが【どこかの議員】ではなく自分の見知っている議員さんだったから信憑性は高いと思っている。まぁ本人には聞けないし今更聞こうと思ってもとうの昔に亡くなっている。


 サントリーオールド、通称ダルマと呼ばれるウイスキーをご存知だろうか?

真っ黒な瓶に白くて大きなラベルが貼られた本当にダルマのようなフォルムのウイスキーだ。

選挙の際、組の若い衆や準構成員はこの空き瓶をバーや酒屋に行って貰って来る所から仕事が始まる。

何の為に?有力な有権者に届ける為だ。ではなぜ未開封のボトルではなく空瓶を持って行くかというと、未開封とは言えウイスキー1本ではせいぜい5千円ぐらいの値段しかしないし、そもそも酒を飲まない人がそれを貰っても嬉しくもなんともないからだ。

 選挙事務所とは別の詰所で関係者が万札3~5枚をビニール袋に入れて、更にそれをボトルに入れる。私たちはボトルとリストを受け取って有権者の家に届ける。なぜ裸現金とか封筒に入れて渡さないのか疑問に思って年長者に聞いたらニヤリと笑いながら言われた。


「それは選挙違反だからさ、この黒いボトルなら問題が起きても【間違って渡してしまった】で通す事が出来る。まぁ警察もそのへんは分かってるから大っぴらに現金を渡さなけりゃ問題にならんのさ」


 なんだか良く分からない理屈だが、どうやらそういう【しきたり】になっていると言う事だけは分かった。

さて、届ける際にも決まった文言を相手に伝えなくてはいけない。


「いつもお世話になっております。これはつまらないものですが、よろしければ【割って】飲んでください」


 と言うものだ。水割りと瓶を割るのをかけて言うのだそうだ。

猫に鰹節ではないが日頃お金がなくてピーピー言ってるような若者がこの瓶をくすねる可能性も上の方は分かっていて必ず2人もしくは3人で届けてリストにチェックを入れる徹底ぶりだった。と言うよりも長い選挙活動の歴史の中で培われた知恵なのだろう。

日当は1日1万5千円から2万円の間ぐらいで条件や支持貢献度によっては3万円ぐらい貰える若者も居た。

主な仕事は付け届けの使い走りや演説妨害者、活動妨害者の排除だった。逆に対立候補者への妨害もあったが候補者本人を攫ったり脅したりと言うのはしてはいけないルールとなっていた。

決められた時間帯で動く以外は詰所で出される弁当やつまみ(常に置いてある)を食いながらゴロゴロして緊急時のために待機していた。

 私はこういう経験をしたからこそ言えるのだがデモや座り込み、特に【自分には全く関係のない事に対する抗議活動】をしている者の大多数はこのような生活をしている。もうこれは断言できる。

毎日仕事をするよりもよっぽど良いカネを貰い、タダで呑み喰いできるのだ。そうでなければなんの能もない田舎のおっちゃんおばちゃんが○○反対とか毎日出来るわけがない。若者なら自分の生活を打ち捨ててそういった活動をする者も居るだろうが、子供も家族も居る連中が毎日これやってて暮らしはどうなるか。破綻するに決まっている。それが破綻しないと言う事はつまりカネが出ていると言う事だ。冒頭でも書いた通り、悲しいかなカネで人は動くのである。

 選挙の手伝いをしていてとても思い出深かった事を最後にひとつ。

投票日前夜、全員が見回りに行って帰ってきた時にいくつもの大きなお盆で塩おにぎりが出された。詰所には他においしい物が常にたくさんあったから手を付けようとする者はほとんど居なかった。

だが私はおにぎり、それも塩おにぎりが選挙の詰所で出された事にある意味感動した。

選挙では確かにカネをバラ撒きはしたが、本来は質素を旨とする政治家なのであろうと思ったのだ。

私はそのおにぎりを皿に3つ取ってかぶりついた。

・・・ここで終われば多少は良い話で締めくくれるかも知れないのだが、元より私の話は良い話ではない。

 かぶりついたおにぎりの中に舌に触る物があった。取り出すとそれはサランラップに包まれて小さく折り畳まれた1万円札だったのだ。まだ誰もその事実に気が付いていない。私はお盆を2つ部屋の隅に持って行って片っ端からおにぎりを割った。万札はすべてのおにぎりに入っている訳ではなく3~5個にひとつぐらいの割で入っていた。

私が15万ほどポケットに入れた頃に数人が気付いて騒ぎ出した。騒ぎは暴動になるほど広がって行き、おにぎりの争奪戦で殴り合いが始まっていた。労多くして功少なし、ではないがつまらない事で怪我をしたくないし手に入れたお金を奪われるかも知れない。

万札を充分手に入れていた私は争いに参加する事なく詰所から抜け出した。 




セブンスターに火をつけて煙を吐きながら人は悲しいなぁなどと思ったりした。

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