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最強支援術師の英雄譚  〜追放から始まる世界救済〜

作者: 白澤

「アルト! 回復ヒールが遅い! この程度で息切れか、役立たずめ!」


 リーダーであるカインの怒声が、薄暗いダンジョン通路に響き渡る。

 彼の額には汗が浮かび、振るう長剣の軌道は先ほどよりも明らかに鈍い。


 レベル35の剣士であるカインは、この中級ダンジョン『古竜の寝床』の主、レベル40のワイバーンゾンビを相手に苦戦を強いられていた。


 俺、アルト・シュヴァイツァーはパーティ唯一の支援術師だ。レベルは28。

 カインや他の前衛メンバーより低いが、支援術師としては決して低いレベルではない。

 俺は即座に詠唱を開始する。


「聖なる光よ、彼の者を癒し給え――ミドルヒール!」


 淡い緑の光が俺の手のひらから放たれ、カインの背中に吸い込まれる。


 彼の消耗していた体力(HP)が目に見えて回復し、剣の速度が戻る。

 しかし、感謝の言葉はない。

 カインは忌々しげに舌打ちすると、再びワイバーンゾンビに斬りかかっていった。

 これが俺たちのパーティ、『紅蓮の剣』の日常だった。


 Bランクに昇格したばかりの、新進気鋭と目される冒険者パーティ。


 リーダーのカイン(剣士 Lv35)、魔法使いのメイ(Lv33)、重戦士のゴルド(Lv34)、

 そして支援術師の俺(Lv28)。


 平均レベルは高く、連携さえ取れれば格上の相手とも渡り合えるはずだった。

 だが、現実は違う。



 カインは常に自分の手柄を優先し、無謀な突撃を繰り返す。 メイは強力な攻撃魔法を持つが、詠唱時間が長く、敵のターゲットを引き受けるゴルドへの負担が大きい。


 そして俺は、彼らの消耗を回復し、能力を強化ブーストし、防御障壁プロテクションを張り、敵の弱体化デバフを狙う、まさに縁の下の力持ち。


 しかし、その貢献が正当に評価されることはなかった。


「アルト、強化ブーストだ! もっと俺の攻撃力を上げろ!」


「ゴルドさんの防御が! メイさんの詠唱短縮の補助サポートを!」


「敵のブレスが来る! 全員防御オールプロテクション!」


 俺は複数のスキルを同時に、かつ状況に合わせて的確に発動し続ける。

 支援術師のスキルは多岐にわたり、その全てを使いこなすには高い魔力制御能力と戦況判断能力が求められる。


 俺は決して才能がないわけではない。むしろ、複数の支援魔法を同時に、これほど精密に扱える術師は稀だと、ギルドの教官にも言われたことがある。


 だが、カインたちにとって、俺のスキルは「地味」で「当たり前」のものだった。

 回復が間に合えば当然、遅れれば罵倒。

 強化の効果が出ても自分の実力と勘違いし、防御が破られれば俺の魔力不足のせい。


 彼らのレベルが順調に上がっていく一方で、直接的な戦闘経験を積めない俺のレベルは停滞気味だった。それもまた、彼らが俺を「使えない」と断じる理由の一つになっていた。


「よし、仕留めたぞ!」


 長い戦闘の末、カインの一撃がワイバーンゾンビの心臓を貫いた。

 巨体が崩れ落ち、ダンジョンに静寂が戻る。

 メンバーは荒い息をつきながら、その場にへたり込んだ。


「ふぅ……危なかったな。おいアルト、お前の回復が遅いから苦戦したんだぞ」

 カインは疲労も忘れ、真っ先に俺を責めた。


「すみません……ですが、カインさんの突撃が少し早すぎたのでは? 事前の打ち合わせでは、メイさんの魔法に合わせて突入するはずでした」

 俺は普段なら黙っているが、今回ばかりは反論した。


 彼の無謀な行動で、ゴルドは瀕死の重傷を負い、メイも魔力切れ寸前だった。俺の回復ポーションも底をつきかけている。



「なんだと!? このパーティのリーダーは俺だ! 俺の判断に従えないというのか!」

 カインは逆上し、剣の柄に手をかけた。その目は、もはや仲間を見るものではなかった。


「アルト、お前はもう用済みだ」

 冷たい声が響く。メイだった。彼女はいつも冷静だったが、その瞳には侮蔑の色が浮かんでいる。


「お前のスキルは確かに便利だが、決定力がない。回復ならポーションで代用できるし、強化も俺の魔道具で十分だ。お前のレベルの低さが、俺たちの足を引っ張っている」


「そ、そんな……俺は今まで、皆さんのために……」


「うるさい! 言い訳は聞き飽きた!」

 カインが怒鳴る。

「ゴルドもそう思うよな?」


 無言で頷くゴルド。彼はいつもカインに従うだけだ。


 これが、俺の追放の瞬間だった。


 あまりにも理不尽で、一方的な宣告。

 俺は唇を噛みしめた。悔しさがないと言えば嘘になる。だが、それ以上に、彼らに対する失望と、自分の無力さへの憤りが胸を満たした。


「……分かりました。出ていきます」

 俺は静かに告げた。彼らとこれ以上一緒にいても、何も生まれない。


「ふん、最初からそう言えばいいんだ。これがお前の分け前だ。ありがたく受け取れ」


 カインは銀貨数枚と、使い古しの回復ポーション数本を地面に投げ捨てた。

 それは、今回のワイバーンゾンビ討伐の報酬とは到底釣り合わない、侮辱的な金額だった。


「それと、その腰の古臭い魔導書も置いていけ。どうせお前には使いこなせない代物だろう」


 カインの視線が、俺が祖父から受け継いだ唯一の形見である、古びた革表紙の魔導書に向けられる。

 表紙には読めない古代文字が刻まれ、微かな魔力を放っている。


「……これだけは、渡せません。祖父の形見なんです」

 俺は魔導書を強く抱きしめた。これだけは、どんな理不尽な要求にも応じられない。


「チッ、使えない奴が、ガラクタだけは大事にするんだな。まあいい、さっさと失せろ! 二度と俺たちの前に顔を見せるな!」


 俺は銀貨もポーションも拾わず、ただ魔導書を抱えて、黙ってその場を立ち去った。

 背後で彼らの嘲笑が聞こえた気がしたが、振り返らなかった。


 ダンジョンの出口を抜け、夕暮れの空を見上げる。冷たい風が頬を撫でた。

 悔しい。腹立たしい。


 だが、彼らを見返してやりたい、復讐してやりたい、という黒い感情は、不思議と湧いてこなかった。

 そんなことに力を使うのは、あまりにも虚しい。


「……過去は、もう振り返らない」


 俺は呟いた。彼らとの時間は終わった。これから俺が進むべき道は、復讐ではない。

 俺は腰の魔導書に触れる。


 祖父が遺したこの本には、失われた古代魔法の知識が記されていると聞かされていた。

 現代の支援魔法とは体系が異なり、習得は困難だが、その力は計り知れない、と。


「俺はこの力で……支援術師として、もっと強くならなきゃいけないんだ」


 カインに言われた「役立たず」という言葉が胸に突き刺さる。


 だが、それは彼らの基準での話だ。支援魔法は、決して地味で無力なだけではないはずだ。

 使い方次第では、攻撃魔法や剣技にも劣らない、いや、それ以上の可能性を秘めているかもしれない。


「そうだ……古代魔法を習得すれば、きっと」


 人を癒し、人を守り、人を支える。それこそが支援術師の本来の役割。

 その力を極めれば、カインたちのような戦闘狂だけでなく、もっと多くの、本当に助けを必要としている人々の役に立てるはずだ。


「俺は、最強の支援術師になる」


 それは、誰かを打ち負かすための強さではない。誰かを蹴落として得る地位でもない。

 ただ、純粋に、人々を、そしていつかは…この世界を救えるほどの力を手に入れる。


 俺は固く決意した。


 追放されたことは、むしろ好都合かもしれない。これからは誰にも遠慮することなく、この古代魔法の探求に没頭できるのだから。


「見てろよ、カイン。お前たちの知らない力で、俺は俺のやり方で、世界を救ってみせる」


 復讐ではない。これは、俺自身の信念を貫くための、新たな始まりの誓いだった。

 俺はしっかりと前を向き、夕日に染まる荒野へと、一人、歩き出した。

 手には、古びた魔導書。これが俺の唯一にして、最強の希望となるだろう。


 ***


 荒野を一人、あてもなく歩き始めて三日が経った。


 昼は灼熱の太陽が照りつけ、夜は凍えるような風が吹きすさぶ。追放されたとはいえ、今までパーティという守られた環境にいた俺にとって、この単独行は想像以上に過酷だった。


 食料は底をつきかけ、水も残り少ない。


 時折現れる低レベルの魔物ーーサンドウォームやロックリザードーーを、久々に使った初級攻撃魔法ファイアボールでなんとか撃退し、その魔石を換金して糊口をしのぐ日々。レベルは28のまま、一向に上がる気配がない。


「このままじゃ、どこかで行き倒れるな……」


 岩陰で束の間の休息を取りながら、俺は腰に下げた古びた魔導書に目をやった。


 祖父の形見であり、俺の唯一の希望。失われた『古代魔法』の知識が記されているというこの本を解読し、力を得なければ、俺に未来はない。


 祖父は俺が幼い頃、遊び半分で古代文字の読み方を教えてくれていた。だが、現代魔法とあまりに体系が違うため、当時は全く興味が持てず、ほとんど覚えていなかった。

 それに、パーティにいた頃は日々の依頼と支援の練習に追われ、この難解な魔導書をじっくり読む時間も精神的な余裕もなかったのだ。


 追放され、全てを失った今だからこそ、この魔導書に向き合える。俺は意を決してページを開いた。

 革の表紙は擦り切れ、羊皮紙と思しきページは黄ばんでいる。そこには、現代では使われていない複雑な文様のような古代文字と、不可思議な魔法陣がびっしりと書き込まれていた。


「えっと……これは……『マナの源流に触れ、万物のことわりを編む……』?」

 一文字一文字、わずかに残る幼い頃の記憶と、現代魔法の知識から類推しながら、必死に解読を進める。


 現代魔法が、マナを特定の現象に変換する「結果」重視の体系であるのに対し、古代魔法は、マナそのものや世界の法則に直接干渉する「根源」重視の体系らしい。


 特に、俺が専門とする支援魔法に関する記述は詳細だった。

 回復、強化、防御……そのどれもが、現代魔法の常識を覆すような概念と効果を持っているようだった。


「これは……初級回復ヒールの魔法陣か? でも、俺が知ってるものとは構成が全然違う……」


 試しに、指先にできた小さな切り傷に、魔導書に記された初級回復魔法の魔法陣をイメージしながら魔力を込めてみる。

 必要な魔力量は、現代の初級回復魔法と大差ない。

 ーー次の瞬間。


「うわっ!?」


 傷口から眩いほどの白い光が溢れ出した。

 それはすぐに収まったが、傷は跡形もなく消え去り、それどころか、荒野の旅で荒れていた指先の皮膚全体が、生まれたての赤子のように瑞々しくなっている。


 ーーピロン♪

 脳内に、レベルアップを知らせる音が響いた。

【レベルが28から29に上がりました】

【スキル:古代魔法知識 Lv1 が Lv2 に上がりました】

【スキル:古代魔法(回復:初級)を習得しました】

「レベルアップ……? 回復魔法を使っただけで?」


 信じられなかった。

 回復魔法は基本的に戦闘経験とは見なされず、レベルアップには直接寄与しない。それが支援術師のレベルが上がりにくい一因でもあった。


 だが、今、俺は自分自身に初級回復魔法を使っただけでレベルが上がったのだ。


「まさか、古代魔法は……経験値効率も違うのか?」

 しかも、この回復効果。初級魔法とは到底思えない。もしこれが中級、上級となれば、一体どれほどの力になるのだろうか。


 俺の胸に、熱いものがこみ上げてきた。これは、すごい力だ。使い方を間違えなければ、本当に多くの人を救えるかもしれない。


「よし、もっと解読を進めよう!」


 俺は俄然やる気になり、魔導書の解読に没頭した。

  古代魔法の知識が頭に入るたびに、【古代魔法知識】スキルのレベルが上がり、新たな古代魔法スキルを習得していく。回復だけでなく、強化や防御に関する初級の魔法陣も解読・理解が進み、それらを行使できるようになった。


【スキル:古代魔法(強化:初級)を行使可能になりました】

【スキル:古代魔法(防御:初級)を行使可能になりました】

【スキル:古代魔法知識 Lv2 が Lv3 に上がりました】


 それらはどれも、現代魔法の同ランクのものを遥かに凌駕する効果を持っていた。

 強化魔法は身体能力を一時的に倍以上に引き上げ、防御魔法は物理・魔法双方に強力な耐性を持つ障壁を作り出す。


 そして、さらに読み進めるうちに、俺は衝撃的な記述を発見した。


「『万物はマナの流れの中にあり、形は移ろい、循環する。故に、理を解し流れを操れば、無から有を生じ、朽ちたものに形を与えることもまた可能なり』……?」


 これは、いわゆる『創造魔法』の領域ではないか?

 無から物質を創り出す魔法など、神話やおとぎ話の中にしか存在しない、伝説級の魔法だ。現代では完全に失われた技術とされている。


 だが、この魔導書には、その基礎理論と、いくつかの簡単な魔法陣が記されていた。

 物質の基本構造にマナで干渉し、その構成を組み替える……あるいは、周囲のマナを集めて新たな物質へと変換する。そんな途方もないことが書かれている。その基礎理論を理解したことで、新たなスキルが芽生えたようだ。


【スキル:古代魔法(創造:基礎修復・強化)を習得しました】

【スキル:鑑定 Lv1 を習得しました】

「まさか、こんなことまで……」


 俺は試しに、近くに転がっていた、誰かが捨てていったのか、刃こぼれして錆びついた古い短剣に、魔導書にあった『修復・強化』の魔法陣を応用してみることにした。


 古代文字で構成された魔法陣を慎重にイメージし、短剣に向けて魔力を注ぐ。

 すると、短剣が淡い光を放ち始め、錆がみるみるうちに消え、刃こぼれが修復されていく。

 それだけではない。刀身は鈍い銀色から、まるでミスリル銀のような輝きを放つようになり、明らかに強度が増しているのが分かった。


「すごい……本当にできた……!」

 俺は興奮を隠せなかった。


 支援魔法だけでなく、創造魔法まで。この古代魔法は、俺が想像していた以上の可能性を秘めている。これなら、本当に『最強』の支援術師になれるかもしれない。


 ーーその時、遠くから悲鳴が聞こえた。


「なんだ?」

 音のする方へ駆け出すと、視界が開けた先に、小さな村が見えた。

 そして、その村を……無数の緑色の影が取り囲んでいた。


「ゴブリン……! それも、この数は!」


 ざっと見て百は超えているだろう。ホブゴブリンらしき大型の個体も混じっている。

 村は粗末な木の柵で囲まれているだけで、とてもこの大群を防ぎきれるとは思えない。

 村の入り口では、数人の村人が錆びた剣や農具で必死に応戦しているが、多勢に無勢。次々とゴブリンの棍棒に打ち倒されていく。


「助けなきゃ……!」


 俺は迷わず駆け出した。

 追放されたばかりで、レベルもまだ低い。それでも、見過ごすわけにはいかない。

 俺は古代魔法の力で、人々を救うと決めたのだから。


「下がってください!」

 俺は村の入り口で奮戦していた村人たちに叫び、彼らの前に躍り出た。


「な、なんだお前は! 子供は引っ込んでろ!」

 傷だらけの壮年の男性が怒鳴る。


「子供じゃありません! 支援術師です! ここは俺に任せて!」

 俺は両手を地面につけ、魔力を集中させる。

 イメージするのは、強固で、広範囲な防御壁。


「いでよ、守護の礎!ーー古代魔法(防御:フォートレス・ウォール!」


 詠唱と共に、俺の周囲の地面から眩い光の柱が何本も立ち上り、それらが瞬時に連結して巨大な半透明の壁を形成した。村の入り口全体を完全に覆う、高さ十メートルはあろうかという巨大な障壁だ。


 ドゴォォン! バキィィン!


 突進してきたゴブリンやホブゴブリンが次々と障壁に激突し、弾き飛ばされる。

 棍棒や粗末な剣による攻撃も、障壁には傷一つ付けられない。


「な……なんだ、これは……!?」

「壁が……魔法で壁が現れたぞ!」


 村人たちが唖然として俺を見る。


「まだです! 皆さん、下がって負傷者の手当てを!ーー古代魔法 ヴァルキリー・ブレス!」

 俺は障壁の内側にいる村人全員に向けて、広範囲強化魔法を発動する。


 光の粒子が降り注ぎ、村人たちの身体能力が一時的に大幅に向上する。疲労は消え去り、力がみなぎってくる感覚に、彼らは再び驚きの声を上げた。


「すごい……力が湧いてくる……!」

「怪我も……痛みが引いたぞ!」

「よし……次は回復だ!」


 俺は倒れていた負傷者たちに駆け寄り、次々と古代魔法(回復:初級)を施していく。

 初級とはいえ、その効果は絶大だ。骨折すら瞬時に繋がり、深い傷も跡形もなく消えていく。


「な、なんという回復魔法だ……神の御業か……?」

 先ほどの壮年の男性が、信じられないものを見る目で俺を見つめる。


「神じゃありません。ただの支援術師です」

 俺は微笑んで答えた。


 ギャアアア! グギィィィ!

 ゴブリンたちは依然として障壁を叩き続けているが、突破できないと悟ったのか、徐々に混乱し始めている。


「あの……あなたは一体……?」


 怯えたような、それでいて感謝に満ちた瞳で、一人の少女が俺に話しかけてきた。

 年の頃は十六くらいだろうか。亜麻色の髪をした、素朴だが可憐な少女だ。彼女も腕に怪我をしていたが、俺の魔法で既に完治している。


「俺はアルト。旅の支援術師だよ。君は?」


「わ、私はリリア……この村の者です。助けていただいて、本当にありがとうございます……!」

 リリアと名乗った少女は、深々と頭を下げた。


 その時、ゴブリンたちの後方から、一際大きな雄叫びが上がった。


 見ると、巨大な棍棒を担いだ、ゴブリンキングと思しき個体が現れた。レベルはおそらく35前後。カインと同等か、それ以上だ。


「まずいな……あれはさすがに、今の俺じゃ……」

 古代魔法は強力だが、俺自身のレベルと魔力量には限界がある。あのゴブリンキングを倒すほどの攻撃力は、今の俺にはない。


 だが、俺は支援術師だ。直接倒す必要はない。

 俺はニヤリと笑うと、新たな魔法の詠唱を始めた。


「ーー古代魔法(弱体化:愚者の行進フールズ・マーチ!」

 紫色のもやがゴブリンキングとその周囲のゴブリンたちを包み込む。

 それは、対象の知能と判断力を著しく低下させる古代魔法だ。


 ーー次の瞬間。


 ゴブリンキングは、突然味方のゴブリンに棍棒を振り下ろし始めた。


 命令系統を失ったゴブリンたちは恐慌状態に陥り、同士討ちを始め、我先に逃げ出していく。

 あっという間に、村を取り囲んでいたゴブリンの大群は瓦解した。


 残ったのは、呆然とする村人たちと、何が起こったのか理解できずに立ち尽くすリリア、そして、少し魔力を使いすぎて息を切らしている俺だけだった。


「……勝った、のか……?」

 誰かが呟いた。


「ええ。もう大丈夫ですよ」

 俺は微笑んだ。これが、古代魔法の力。これが、支援術師の戦い方だ。

 村人たちは、堰を切ったように歓声を上げ、俺を取り囲んだ。


「ありがとう、兄ちゃん!」

「あんたは命の恩人だ!」

「まさに奇跡だ……!」

 賞賛と感謝の言葉。追放された時には決して聞けなかったものだ。


 俺は少し照れくさかったが、同時に、自分の選択が間違っていなかったことを確信した。


「アルトさん……あなたは、本当にすごい魔法使いなんですね」

 リリアが尊敬の眼差しで俺を見る。


「いや……俺はまだ未熟だよ。もっともっと、この力を磨かないと」

 俺は首を振った。古代魔法の力はまだほんの一部しか引き出せていない。そして、世界には、もっと大きな脅威が存在するかもしれないのだから。


 過去は振り返らない。

 俺は、この最強の古代魔法で、世界を救う。その決意を新たにするのだった。


 ***


 ゴブリンの襲撃から救った村 名はボルンというらしい。

 この村で、俺は数日間世話になった。



 俺が古代魔法(創造)で仮設の家をいあああくつか建て、リリアが薬草の知識で負傷者の手当てを手伝ったこともあり、村人たちは俺たちを恩人として手厚くもてなしてくれた。


「アルトさん、本当にこのまま行っちゃうんですか? 村に残りませんか?」


 出発の朝、リリアが少し寂しそうに尋ねる。

 村長はじめ、多くの村人から残ってほしいと懇願されたが、俺は断った。


「ありがとう、リリア。でも、俺にはまだやるべきことがあるんだ。この古代魔法の力を、もっと理解して、使いこなせるようにならないと」


 ボルン村での一件で、古代魔法の絶大な力とその可能性を再認識した。

 同時に、今の俺のレベル(Lv29)と知識では、まだその真価を引き出せていないことも痛感した。


 世界には、ゴブリンキング以上の脅威がいくらでも存在するだろう。それらに立ち向かい、人々を救うためには、さらなる成長が必要だ。


「それに、俺の噂が広まれば、面倒なことになるかもしれないからね」


 俺は苦笑した。規格外の魔法を使う謎の支援術師。そんな存在が、良からぬ輩の注意を引かないはずがない。追放されたばかりの俺としては、しばらくは目立たず力を蓄えたい。


「……分かりました。でも、私も一緒に行きます! アルトさんの旅、少しでもお手伝いしたいんです。薬草の知識なら、役に立てると思います!」

 リリアは強い意志を込めた目で俺を見つめた。


 正直、一人旅の気楽さは捨てがたい。だが、彼女の真剣な申し出を無下にはできなかった。それに、薬草の知識は確かに助かる。


「……分かった。一緒に行こうか。ただし、危険な時は俺の指示に必ず従うこと。いいね?」

「はいっ!」

 リリアは満面の笑みで頷いた。

 こうして、俺とリリアの二人旅が始まった。


 ボルン村から最も近い中規模の街、交易都市バルドーネを目指す。道中、俺は魔導書の解読を進め、リリアは周囲の薬草を採取しながら、互いに知識を教え合った。


「この『月光草』は夜にしか咲かないけど、鎮痛効果が高いんです」


「へえ。じゃあ、この古代魔法(回復:補助)の『鎮静のルーン』と組み合わせれば、痛みを完全に消せるかもしれないな……試してみるか」

 二人旅は思った以上に快適だった。


 話し相手がいるだけで孤独感は和らぎ、リリアの明るさは俺の心を軽くしてくれた。

 バルドーネに到着したのは、ボルン村を出てから五日後のことだった。


 活気のある大きな街だ。城壁に囲まれ、多くの商店や宿屋が軒を連ねている。冒険者ギルドも王都に次ぐ規模らしい。


「まずはギルドで情報収集だな。あと、換金と物資の補給も」

 道中で倒した魔物の魔石や、リリアが集めた薬草を売れば、当面の旅費にはなるだろう。


 バルドーネの冒険者ギルドは、予想通り多くの冒険者で賑わっていた。

 屈強な戦士、ローブ姿の魔法使い、軽装の斥候……様々な者たちが行き交う中、俺とリリアは少し場違いな感じがした。


 依頼掲示板を眺める。

「周辺のゴブリン討伐(推奨レベル15)」「鉱山までの護衛(推奨レベル20)」「迷子の猫探し」……

 今の俺たちにこなせそうな依頼もあるが、いかんせん報酬が安い。

「アルトさん、あそこに高ランク依頼の掲示板がありますよ」

 リリアが指差す先には、Bランク以上の依頼が張り出された区画があった。

 興味本位で覗いてみる。


「ワイバーンの討伐(推奨レベル35)」「遺跡の深層調査(推奨レベル40)」……

 さすがに今の俺たちには無理だ。


 ふと、いくつかの依頼の「失敗報告」が目に留まった。

 『パーティ名:紅蓮の剣 依頼:オーク・キング討伐(推奨レベル35)

 結果:失敗(重傷者2名、任務放棄)』


 『パーティ名:紅蓮の剣 依頼:廃坑の調査(推奨レベル30)

 結果:失敗(罠により装備大破、撤退)』


「……やっぱり、苦戦してるんだな」

 またしてもカインたちの名前だ。


 俺がいた頃は、俺の支援込みでギリギリこなせていたランクの依頼で、立て続けに失敗している。


「あの、『紅蓮の剣』って、もしかしてアルトさんが前にいた……?」

 リリアが心配そうに俺の顔を覗き込む。ボルン村で少しだけ話したのを覚えていたらしい。


「ああ。でも、もう関係ないよ。過去は振り返らないって決めたから」

 俺は努めて平静を装って答えた。彼らがどうなろうと、俺には関係ない……はずだ。


「それにしても、支援術師が抜けただけであんなに弱くなるもんかねぇ」

「いや、噂じゃあのパーティ、リーダーがかなり無茶するらしいぜ。前の支援術師がよっぽど優秀だったんだろ」

「追い出したって話じゃないか。自業自得だな」


 周囲の冒険者たちの声が聞こえてくる。

 やはり噂は広まっているようだ。

 そして、その内容は概ね俺に同情的で、カインたちには批判的だった。


 少しだけ、胸のつかえが下りたような気がした。

 その時、ギルドの奥から、職員に案内されて一人の男性が現れた。


 年は五十代だろうか。高価そうなローブを纏い、知的な鋭い目つきをしている。ただ者ではない雰囲気を漂わせていた。


 男性は周囲を見渡し、やがて俺の姿を認めると、まっすぐにこちらへ歩いてきた。


「君が、アルト・シュヴァイツァー君かね?」

 落ち着いた、それでいて威厳のある声だった。


「は、はい。そうですが……あなたは?」


「私はグラン・ベルク。王都魔術師ギルドの最高顧問を務めている」

 最高顧問!? なぜそんな大物がこんなところに? しかも俺を名指しで?


「少し話がある。奥の部屋へ来てくれたまえ」

 有無を言わせぬ口調に、俺とリリアは顔を見合わせ、促されるままに後をついていった。


 通されたのは、ギルドマスターの執務室のような豪華な部屋だった。

 ソファに腰を下ろすと、グラン氏は単刀直入に切り出した。


「アルト君。君が使うという『奇跡の魔法』について聞かせてもらいたい」


「奇跡の魔法……?」


「ボルン村での一件は、私の耳にも届いている。瞬時に巨大な障壁を創り出し、瀕死の者を完治させ、敵を混乱に陥れたとか。そんな芸当、現代魔法では不可能だ。我々は、それが失われた『古代魔法』ではないかと推測している」


 やはり、専門家が見れば分かるものなのか。隠していても無駄だったようだ。


「……はい。俺の使う魔法は、祖父から受け継いだ魔導書にあった古代魔法です。まだ習得し始めたばかりですが」


 俺は正直に認めた。


「やはりそうか!」グラン氏は膝を打った。

「ならば話が早い。アルト君、君に頼みたいことがある。いや、これは王国……いや、大陸全体の命運がかかっていると言っても過言ではない依頼だ」


 グラン氏の表情が、一気に険しくなる。


「現在、大陸各地で原因不明の異変が頻発しているのだ。豊かな土地が次々と枯れ果て、魔物は凶暴化し、時には大規模なスタンピードとなって街を襲う」


「それは……」俺は息をのんだ。そんな大問題が進行していたとは。


「我々も原因究明に全力を尽くしているが、現代魔法では手掛かりすら掴めない。だが、もし君が本当に古代魔法を扱えるのなら……この異変の原因を突き止め、解決できるかもしれない。古代の文献には、同様の現象を示唆する記述も残っているのだ」


 世界規模の危機。古代魔法。そして、俺への依頼。

 話が大きすぎて、すぐには現実感が湧かなかった。


「なぜ、俺なんですか? 王都には、もっと高レベルで経験豊富な魔術師や賢者がいるでしょう?」

 俺は疑問を口にした。


「もちろんだ。だが、彼らの誰もが原因を解明できていない。必要なのはレベルや経験ではないのかもしれん。失われた知識、すなわち古代魔法だけが、この事態を打開する鍵だと、私は考えているのだ」


 グラン氏の目は真剣だった。


「君に、この世界の未来を託したい。もちろん、相応の報酬と、王国からの全面的な支援を約束しよう。どうだろうか?」


 断る理由はなかった。俺は人々を救うためにこの力を得たのだ。それが世界規模であろうと、やるべきことは変わらない。


「……分かりました。俺で力になれるなら。支援術師として、全力を尽くします」


「おお! 引き受けてくれるか! 感謝する!」

 グラン氏は心底安堵したように言った。


「ただし、条件があります」俺は付け加えた。「俺はどの国にも組織にも属しません。あくまで自由な立場で協力させていただきます。それと、彼女、リリアも同行させてください」


「うむ、構わん。君の身分は保証しよう。リリア君の同行も許可する」

 こうして、俺は王国の最高顧問から直々に、世界の危機を救うという途方もない依頼を受けることになった。


 追放された地味な支援術師が、最強の古代魔法で世界に影響を与え始める。

 ーーこれは、過去を振り返らず、ただ前を向いて人々を救うと決めた俺の、新たな物語の幕開けだった。


 ***


 王国の最高顧問グラン・ベルク氏からの依頼を受け、俺とリリアは王都へと向かうことになった。

 バルドーネから王都までは馬車で五日ほどの距離だ。道中の安全は王国騎士が保証してくれるという。


「アルト殿、道中はこの資料に目を通しておいてくだされ。」


 出発前、グラン氏から分厚い書類の束を手渡された。

 大陸各地で発生している異変ーー土地の枯渇と魔物の凶暴化ーーに関する調査報告書だった。


「原因究明の手掛かりになるやもしれん。特に、異変が顕著な地域の共通点や、古代の文献に残る類似現象の記述などがまとめられておる。私は一足先に王都へ向かうとしよう。」


「ありがとうございます。しっかり読ませていただきます」


 俺は礼を言い、書類を受け取った。


 王都へ向かう馬車の中、俺はその報告書を読み込み、リリアは隣で薬草の効能をまとめた手帳を整理している。


 報告書には、被害状況、発生時期、地理的特徴などが詳細に記されていたが、どれも断片的な情報ばかりで、異変の核心に迫るような記述は見当たらない。現代魔法による調査では、異常な魔力反応などは検出されなかった、と結論付けられている。


「やっぱり、現代魔法じゃ分からない何かがあるんだな……」

 俺は改めて古代魔法の重要性を感じた。


 魔導書を紐解き、古代魔法の観点から報告書を読み直してみる。


 古代魔法の理論によれば、この世界はマナの流れーー『地脈』と呼ばれるエネルギーラインーーによって支えられている。地脈が正常に流れていれば土地は豊かになり、魔物も自然の摂理に従う。しかし、何らかの原因で地脈が乱れると、そのバランスが崩れるという。


「土地の枯渇と魔物の凶暴化……これは、地脈の乱れが原因と考えて間違いなさそうだ」

 俺は呟いた。


 さらに魔導書を読み進めると、『瘴気』に関する記述を見つけた。

 古代魔法でいう瘴気とは、単なる毒気ではない。生命力を蝕み、精神を蝕む、微弱だが悪質な『負の魔力』の流れを指すらしい。地脈の乱れによって、普段は地中深くに封じられている瘴気が地表に漏れ出すことがあるという。


「この瘴気が、土地を枯らし、魔物を凶暴化させている……?」


 報告書の記述と照らし合わせると、辻褄が合う。

 瘴気は現代魔法では感知できないほど微弱なため、調査でも異常なしと判断されたのだろう。


「原因は掴めたかもしれない。でも、どうすれば……」


 地脈の乱れを正し、瘴気を浄化する。そんな大規模なことができるのだろうか。

 魔導書には、地脈に干渉する魔法や、浄化の魔法についても記述がある。だが、どれも高度で複雑な魔法陣と膨大な魔力を必要とするようだ。


「今の俺のレベル(Lv29)じゃ、まだ力不足かもしれないな……」

 俺は少し不安になった。


 五日後、俺たちは王都に到着した。


 巨大な城壁に囲まれた壮麗な都だ。活気はあるが、どこか空気が重いような気がするのは、異変の影響だろうか。


 グラン氏の案内で、俺たちは王城内にある魔術師ギルド本部へと向かった。


 最高顧問の執務室に通され、俺は道中で考察した異変の原因 ーー地脈の乱れと瘴気ーーについて説明した。


「なんと……地脈と瘴気とな! 古代の文献でしか見たことのない概念だ。それが原因だったとは……!」

 グラン氏は驚きと興奮の入り混じった表情で俺の話を聞いていた。


「しかし、アルト君。原因が分かったとして、それを解決する手立てはあるのかね? 地脈への干渉や瘴気の浄化など、現代魔法では不可能に近いのだが」


「古代魔法には、そのための術が存在します。ただ、非常に高度な魔法であり、今の俺にどこまでできるかは……」

 俺が言い淀んでいると、リリアが隣で口を開いた。


「アルトさんなら、きっとできます! あの村を救った時みたいに!」

 彼女の真っ直ぐな瞳に、俺は勇気づけられた。


「……やってみます。まずは、特に異変が深刻な地域へ赴き、実際に地脈の状態と瘴気の濃度を調査させてください。古代魔法には、それらを感知する術もあります」


【スキル:古代魔法(感知:地脈・瘴気探知)を習得しました】

 魔導書を読み込んだことで、新たな感知スキルも習得していた。


「おお、それは頼もしい! すぐに調査団を手配しよう。護衛の騎士と、私の右腕である調査主任の魔術師エルリックを同行させよう。私は王都に残り、情報の集約と対策の立案にあたる」


 グラン氏は迅速な対応を約束してくれた。


 数日後、俺、リリア、そして調査主任のエルリック氏(壮年の落ち着いた魔術師だ)、護衛の騎士二人の計五人で、最初の調査地である王都南方の『嘆きの平原』へと向かった。


 かつては豊かな穀倉地帯だったというその場所は、報告書通り、見渡す限り赤茶けた大地が広がり、枯れた木々が墓標のように点自在する荒涼とした風景に変わり果てていた。空気も淀んでおり、息苦しささえ感じる。


「これが……土地の枯渇……」リリアが息をのむ。


「報告以上だな……」エルリック氏も険しい表情で呟く。


 俺は集中し、古代魔法(感知)を発動する。

 目を閉じると、地面の下を流れるエネルギーのライン地脈の微かな流れと、そこに纏わりつくような、不快な『負の魔力』瘴気の存在を感じ取ることができた。


「やはり……地脈の流れが極端に滞っています。そして、濃い瘴気が大地全体を覆っている……これでは、どんな植物も育たないでしょう」

 俺は感知した結果を伝えた。


「なんと……本当に感知できるとは……!」

 エルリック氏が驚愕の声を上げる。彼は王都ギルドでも指折りの実力者(レベル45)だが、彼の魔力探知では何も異常を見つけられなかったのだ。


「アルト殿、この状況を改善することは可能だろうか?」

 騎士の一人が尋ねる。


「やってみます。範囲が広すぎるので、完全に元通りとはいかないかもしれませんが……」


 俺は魔導書にあった『土地浄化・活性化』の古代魔法を試すことにした。


「聖なる流れよ、その源泉を開き、穢れし大地を洗い清め給えーー古代魔法ガイア・ブレッシング!」


 両手を大地にかざし、魔力を注ぎ込む。

 すると、俺の手を中心に、柔らかな緑色の光が波紋のように広がっていった。


 光が触れた大地から、淀んだ瘴気が霧散し、赤茶けた土が徐々に黒々とした潤いを取り戻していく。枯れていた草木の根元からは、小さな緑の新芽が顔を覗かせ始めた。


 効果範囲は半径百メートルほど。完全な回復ではないが、明らかに大地が生命力を取り戻し始めている。


「おお……! なんという魔法だ……!」

「大地が……緑が蘇っていく……!」

 同行者たちは目の前の光景に言葉を失い、ただただ感動していた。


 ーーピロン♪

【レベルが29から30に上がりました】


【スキル:古代魔法(回復:中級)を習得しました】

【スキル:古代魔法知識 Lv2 が Lv3 に上がりました】


 レベルアップ。やはり古代魔法は経験値効率も桁違いのようだ。


 俺は達成感と共に、少し魔力を消耗したことによる疲労を感じていた。この規模の魔法を広範囲に、ましてや大陸全土に行うのは、今の俺には不可能だ。


「根本的な解決には、地脈の乱れそのものを正す必要があります。そして、瘴気の発生源を特定し、封じなければ……」

 俺は今後の課題を口にした。


 その後、俺たちは同様に異変が深刻な他の地域ーー枯れた森や、魔物が凶暴化した山岳地帯ーーも調査した。


 どこも原因は同じ、地脈の乱れと瘴気だった。


 俺は各地で【大地の祝福】を発動し、一時的ながらも土地を癒していく。その度にレベルは上がり、古代魔法への理解も深まっていった。


 各地での俺の活動は、瞬く間に噂となった。


 『枯れた大地を蘇らせる奇跡の魔法使い』『古代魔法を操る若き賢者』

 人々は俺を称賛し、期待の眼差しを向けるようになった。


 そんな旅の途中、調査に必要な古代文献の情報と、補給のために立ち寄った街のギルドで、思いがけない再会があった。


 ギルドの資料室へ向かおうとした俺たちの前に、見慣れた……いや、見慣れていたはずのパーティが現れたのだ。


「……アルト?」

 声をかけてきたのは、かつてのリーダー、カインだった。


 しかし、その姿は以前の自信に満ちたものではなく、どこかやつれ、卑屈な光さえ宿しているように見えた。隣にいるメイやゴルドも同様に覇気がない。装備もどこか古びている。


「よ、よう……久しぶりだな。元気そうじゃないか」

 カインはぎこちない笑顔で言った。


「……カインさんたちこそ」

 俺は平静を装って返した。彼らの凋落ぶりは噂で聞いていたが、実際に目にすると、わずかに心が痛んだ。


 だが、同情はしない。これは彼らが選んだ道だ。


「アルト、頼む! 俺たちのパーティに戻ってきてくれないか!」

 カインは突然、頭を下げた。


「お前がいないと、俺たちはもうダメなんだ! 高ランクの依頼はこなせないし、評判もガタ落ちだ! なあ、頼むよ! 今までのことは謝る! だから……!」


 必死の懇願。もしこれが追放された直後だったら、少しは心が揺らいだかもしれない。

 だが、今の俺は違う。


「お断りします」俺はきっぱりと言った。

「俺は過去を振り返りません。あなたたちとの関係は、あの日に終わりました。それに、俺には今、やるべきことがあります。世界を救うという、大きな仕事が」


 俺の言葉に、カインたちは唖然とした。


「せ、世界を救う……? なにを馬鹿なことを……お前ごときが……」

 メイが嘲るように言ったが、その声には力がなかった。


「信じられないなら、それで結構です。ですが、邪魔だけはしないでください。俺は、俺の信じる道を行くだけですから」

 俺は彼らに背を向け、リリアと共にその場を立ち去った。


 後ろでカインが何か叫んでいたが、もう俺の耳には届かなかった。


 過去との決別。そして、未来への決意。

 俺は、この古代魔法で、必ず世界を救う。


 そのために、まずは瘴気の発生源を突き止めなければならない。俺たちの調査は、まだ始まったばかりなのだ。


 ***


 大陸各地の異変調査を始めてから、半年が経過した。


 俺、アルト・シュヴァイツァーのレベルは38まで上がり、【古代魔法知識】スキルもLv5に到達。魔導書の解読はさらに進み、扱える古代魔法の種類と威力は格段に増していた。特に【古代魔法(創造)】は飛躍的に向上し、単純な修復・強化だけでなく、ある程度の複雑な構造物ならば無から生み出すことも可能になっていた。


 リリアも薬草師としての知識を深め、時には俺の古代魔法(回復:補助)を手伝ってくれる頼もしい相棒となった。調査団のエルリック氏や騎士たちとも、幾多の困難を乗り越える中で強い信頼関係が築かれていた。


 各地での俺の活動ーー【大地の祝福】による土地の浄化と活性化ーーは一定の効果を上げ、一時的にせよ異変の進行を食い止めることに成功していた。人々からは「救世主」「生ける伝説」と称賛されることも増えたが、俺の心は晴れなかった。


 根本原因が解決していないからだ。


 調査を進める中で、地脈の乱れと瘴気の発生源が、大陸中央部に位置する禁断の地、『原初の谷』にあることが判明した。そこは、神話の時代に邪悪なる存在が封印されたと伝えられる場所。現代では強力な魔物と危険な瘴気が渦巻き、誰も近づくことのできない魔境と化している。


「やはり、原因は『原初の谷』の封印にあったか……」


 王都に戻り、調査結果をグラン氏に報告すると、彼は重い表情で頷いた。


「古代の文献によれば、かの地には『大いなる厄災』そのものが封じられているという。その封印が、長い年月の間に弱まり、内部から瘴気が漏れ出し、地脈を乱しているのだろう」


「封印が弱まっている……ということは、いずれ完全に破られる可能性も?」

 俺の問いに、グラン氏は沈痛な面持ちで答えた。


「その可能性が高い。いや……最新の観測結果によれば、その時は、もう間近に迫っているのかもしれん」

 彼の言葉通り、報告の数日後、それは起こった。


 ーーゴゴゴゴゴゴゴ……!!


 王都全体を、激しい揺れが襲った。


 それは単なる地震ではなかった。大地そのものが呻きを上げ、裂けようとしているような、破滅的な振動。


 窓の外を見ると、王都の上空が、不気味な紫色の瘴気で覆われ始めていた。


「始まったか……! 『原初の谷』の封印が、ついに……!」

 グラン氏が叫ぶ。


 ギルド本部には、各地からの緊急報告が次々と舞い込んできた。


『嘆きの平原にて、大規模な地割れ発生! 地下から大量の瘴気が噴出!』

『枯れた森周辺の魔物が暴走! 近隣の街へ侵攻開始!』

『大陸各地の地脈が異常活性化! このままでは大規模な地殻変動が……!』

 まさに、世界の危機。


 放置すれば、大地は裂け、瘴気が大陸を覆い尽くし、暴走した魔物が文明を蹂躙するだろう。人類の、いや、この世界の終わりが始まろうとしていた。


「くそっ! どうすれば……!?」

 騎士団長が歯噛みする。


「全魔術師に通達! 王都の防御結界を最大出力で維持せよ!」

 エルリック氏が指示を飛ばすが、それは対症療法に過ぎない。


 パニックに陥る人々。絶望的な状況。

 その中で、俺は静かに決意を固めた。


「グランさん、エルリックさん。俺に考えがあります」


「アルト君!? 何か手立てがあるのか!」


「はい。おそらく、この危機を止められるのは古代魔法だけです。俺が『原初の谷』へ向かい、地脈の暴走を鎮め、可能なら封印を修復・強化します」


「な……!? 無茶だ! あの場所は今、瘴気の濃度が極限まで高まっているはず! 生きてたどり着くことすら……!」

 エルリック氏が俺を止めようとする。


「それでも、行くしかありません。俺には、そのための力があるはずです」

 俺は腰の魔導書に手を当てた。この半年の旅で、俺はこの本の力を信じられるようになっていた。


「リリア、君は王都に残って、皆さんと一緒に避難誘導を」


「い、嫌です! 私もアルトさんと一緒に行きます!」

 リリアは涙を浮かべながらも、きっぱりと言った。


「足手まといになるかもしれません。でも、アルトさんが一人で危険な場所へ行くのを見てるなんて、絶対にできません!」


「リリア……」


「アルト殿、我々も共に行こう!」護衛だった騎士たちが申し出る。「道中の魔物は我々が引き受ける!」


「そうだ。我々もアルト君の魔法を信じている。君一人に世界の命運を背負わせるわけにはいかん」エルリック氏も覚悟を決めた表情で言った。

 仲間の強い意志に、俺は頷いた。


「……分かりました。一緒に行きましょう。でも、絶対に無理はしないでください」


 俺たちは、グラン氏に見送られ、急遽用意されたワイバーンで『原初の谷』へと飛び立った。


 眼下に広がる王都は、既に一部が崩壊し、瘴気に覆われ始めている。一刻の猶予もなかった。

 『原初の谷』に近づくにつれ、瘴気の濃度は増し、ワイバーンですら飛行が困難になっていく。空からは、瘴気の影響で凶暴化したグリフォンやガーゴイルの群れが襲いかかってきた。


「ここは我々に任せろ!」

 騎士たちが剣を抜き、エルリック氏が援護の魔法を放つ。


「リリアは回復を頼む!」


「はい!」


 俺は彼らに戦闘を任せ、ワイバーンの背で魔力を集中させた。


 目指すは谷の中心、最も強く瘴気が噴出している地点。そこに、封印の核があるはずだ。

 激しい空中戦を切り抜け、俺たちはついに谷の中心部上空へとたどり着いた。


 眼下には、大地が大きく裂け、底なしの闇のような亀裂から、禍々しい紫色の瘴気が間欠泉のように噴き出している。その中心には、辛うじて形を保っている巨大な石碑ーー古代の封印ーーが見えたが、その表面には無数の亀裂が走り、今にも砕け散りそうだった。



「あれが……封印の核……!」


 地脈のエネルギーが暴走し、封印を内側から破壊しようとしているのだ。

 そして、亀裂から漏れ出す瘴気が、さらに地脈を乱し、世界全体に悪影響を及ぼしている。


「アルト君、どうすれば!?」エルリック氏が叫ぶ。


「俺がやります! 皆さんはここで待機していてください! これは、古代魔法でしか干渉できない領域です!」

 俺はワイバーンから飛び降りた。


 古代魔法(防御:浮遊レビテート)でゆっくりと降下しながら、魔導書の最後のページを開く。そこには、この時のために用意されていたかのような、究極の古代魔法が記されていた。


 それは、攻撃でも防御でもない。

 世界そのものを調律し、安定させるための、超大規模な『支援』魔法。


「まずは、この瘴気を……!」


 俺は両手を広げ、浄化の魔法を詠唱する。


「万物を蝕む負の淀みよ、清浄なるマナの奔流に還れ!ーー古代魔法(回復:聖域浄化ホーリー・パージ)!」


 俺の体から、太陽のような眩い黄金の光が放たれ、周囲の濃密な瘴気を一瞬で消し飛ばしていく。

 浄化の光は谷全体へと広がり、一時的に瘴気の噴出が弱まった。


「すごい……瘴気が……!」上空からリリアの声が聞こえる。


「まだだ! 次は地脈の安定化!」


 俺は封印の核である石碑の真上に浮遊し、魔導書に描かれた複雑怪奇な魔法陣をイメージする。それは、大陸全土の地脈に干渉するための、巨大な魔法陣だった。


「星々の巡りよ、大地の律動よ、そのことわりをここに示し、荒ぶる流れを鎮め給え!ーー古代魔法(創造:天盤地軸のアストラル・アクシス)!」


 俺の足元に、光り輝く巨大な魔法陣が出現した。

 それは幾何学的な文様と古代文字で構成され、まるで星図のように複雑な軌道を描きながら回転している。魔法陣は大地に深く根を張り、乱れた地脈のエネルギーを吸い上げ、調律していく。


 ーーグググググ……!

 地響きが起こり、噴き出していた瘴気の勢いがさらに弱まる。大地を覆っていた不気味な揺れも、少しずつ収まっていくのが分かった。


「やったか……!?」騎士の一人が叫ぶ。


「いいえ、まだです!」俺は叫び返した。「地脈は安定し始めましたが、封印そのものが壊れていては、いずれまた同じことが起こる! 封印を修復・強化します!」


 俺は最後の仕上げに取り掛かった。


 創造魔法の応用。物質の再構成と超強化。


「砕けし護りよ、古の誓いと共に再び堅牢なる礎となれ!ーー古代魔法(創造:神代の石壁ディバイン・ウォール)!」


 俺は両手を封印の石碑にかざし、ありったけの魔力を注ぎ込む。

 石碑の表面を走っていた無数の亀裂が光と共に塞がり、その材質が、まるで金剛石のように強固で神々しい輝きを放つものへと変質していく。

 同時に、石碑を中心に新たな防御結界が幾重にも展開され、封印は以前よりも遥かに強固なものとなった。


「……これで……!」


 全ての魔法を終えた瞬間、俺は激しい消耗感に襲われ、意識が遠のきかけた。

 莫大な魔力を消費したのだ。レベル38とはいえ、世界規模の古代魔法の連続行使は、俺の限界を超えていた。


「アルトさんっ!!」

 リリアの悲鳴が聞こえる。


 落下していく俺の体を、ワイバーンに乗った騎士が間一髪で受け止めてくれた。


「アルト殿! しっかりしろ!」


「見事だ……君は、本当に世界を救ったのだぞ……!」

 エルリック氏の声が震えている。


 薄れゆく意識の中、俺は空を見上げた。


 あれほど濃密だった瘴気は完全に消え去り、空には穏やかな青空が戻りつつあった。大地の揺れも完全に収まっている。


「俺は、やったんだ。」


 追放された、地味な支援術師だった俺が。


 最強の古代魔法で、この世界を救ったのだ。


 復讐のためではない。名誉のためでもない。

 ただ、人々を助けたい、この世界を守りたい、という一心で。


 ーーああ、これが、俺のなりたかった『最強』なんだ。


 満足感と共に、俺の意識は深い眠りへと落ちていった。


 そばには、涙ながらに回復魔法をかけてくれるリリアと、安堵と称賛の表情で見守る仲間たちがいた。


 ***


 俺が意識を取り戻したのは、それから丸一日が経過した後のことだった。


 見慣れない、しかし清潔で上質なベッドの上。窓からは明るい陽射しが差し込んでいる。


「アルトさん! 目が覚めたんですね!」

 ベッドの傍らでうたた寝をしていたらしいリリアが、俺の気配に気づいてぱっと顔を上げた。その目には安堵の涙が浮かんでいる。


「リリア……ここは?」

 掠れた声で尋ねると、彼女は慌てて水の入った杯を差し出してくれた。


「王城の……いえ、今は魔術師ギルド本部の一室です。アルトさんは丸一日眠っていたんですよ。もう、心配したんですから!」

 そう言って、リリアは再び涙ぐんだ。


 俺はゆっくりと体を起こした。


 魔力を限界まで使い果たした疲労感はまだ残っているが、体はリリアの献身的な看病と十分な休息のおかげか、だいぶ楽になっていた。


「そうか……俺は……」


 『原初の谷』での出来事が鮮明に蘇る。

 暴走する地脈、噴き出す瘴気、そして、俺が放った三つの古代魔法。


「アルト君、目覚めたかね!」

 ドアが開き、グラン氏とエルリック氏が入ってきた。二人とも、安堵と興奮が入り混じったような表情をしている。


「グランさん、エルリックさん。あの後、世界は……?」


「うむ、君のおかげで、危機は完全に回避された」

 グラン氏は深く頷いた。


「『天盤地軸の陣』によって大陸全土の地脈は安定を取り戻し、瘴気の噴出も完全に停止した。『神代の石壁』によって強化された『原初の谷』の封印は、もはや揺らぐことはあるまい。各地の土地の枯渇も徐々に回復に向かい、魔物の凶暴化も収束しつつある」


「君は文字通り、この世界を救ったのだ、アルト君」

 エルリック氏が、尊敬の念のこもった眼差しで俺を見る。


 その言葉に、俺は静かに息をついた。

 よかった……間に合ったんだ。俺の力が、本当に役に立ったんだ。


「それで……今後のことなのだがね」

 グラン氏が少し改まった口調で言った。


「アルト君、君の功績は計り知れない。国王陛下も君に謁見し、直接感謝の言葉を述べたいと仰せだ。望むなら、王国付きの最高位魔術師としての地位と、相応の爵位、そして望む限りの報酬を用意しよう。君ほどの力があれば、もはや支援術師ではなく、『大賢者』あるいは『救国の英雄』として……」


 破格の申し出だった。


 追放された時には考えられなかったような名誉と地位。これを受ければ、俺は二度と誰からも見下されることのない、文字通り「最強」の存在として認められるだろう。


 だが、俺は静かに首を振った。


「お気持ちは大変ありがたいのですが、お断りさせていただきます」


「な……なぜだねアルト君!?」グラン氏が驚く。


「俺は支援術師です。英雄や賢者になるつもりはありません。それに、俺はこの力を、特定の国や組織のためだけに使いたくはないんです」

 俺は自分の心に従って答えた。


「古代魔法の力は、まだ完全には解明されていません。今回の異変は収まりましたが、世界のどこかには、まだ古代魔法でしか癒せない傷や、解決できない問題があるかもしれない。俺は、この力で、そういう人々を助けていきたいんです」


 俺の言葉に、グラン氏とエルリック氏はしばらく黙り込んでいたが、やがてグラン氏が深くため息をつき、穏やかな笑みを浮かべた。


「……そうか。君らしい答えだ。残念ではあるが、君の意志を尊重しよう。だが、王国は君への感謝を忘れない。いつでも君の活動を支援する用意があることを覚えておいてくれたまえ」


「ありがとうございます」俺は頭を下げた。


「アルトさん……」

 リリアが心配そうに俺を見ている。


「リリア、俺はまた旅に出ようと思う。この古代魔法の知識を深めながら、困っている人を探して」


「……はい! もちろんです! 私も、どこまでもお供します!」

 リリアは力強く頷いた。


 数日後、俺とリリアは、多くの人々に見送られながら王都を後にした。


 グラン氏からは、王国各地のギルドで便宜を図ってもらえるよう特別な身分証と、十分すぎるほどの活動資金を受け取った。爵位や地位は断ったが、これで旅の心配はなくなった。


 俺たちの旅の目的は、以前と変わらない。

 古代魔法の探求と、人助け。

 だが、その意味合いは少し変わったかもしれない。


 以前は、追放された自分自身の存在意義を証明するため、という側面もあった。

 だが、今は違う。俺は、この『最強の古代魔法』の力を、ただ純粋に、より良い未来のために使いたいのだ。


 追放という過去は、もう見ない。

 あの出来事がなければ、俺が古代魔法に目覚めることも、世界を救う旅に出ることもなかったかもしれないのだから。


 俺の隣には、信頼できる仲間がいる。


 手には、無限の可能性を秘めた古代魔法の魔導書。


 そして、胸には、世界を救うという確かな経験と自信。


「さあ、行こうか、リリア」

「はい、アルトさん!」


(完)



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