今年も遠征レイド中に家長の誕生日が祝われる件
今は無事に“松江フォーゲルパークダンジョン”の間引きを終え、家族で拠点の津和野に戻っている所。遠征レイド中だが、家族は快適に休憩中である。
何しろ鏡のシェルターが便利過ぎる、車での移動中なのに揺れ一つ感じないのだ。しかも運転は協会職員にお任せで、護人もゆっくり出来て満足気。
何故か和洋折衷のシェルター内だが、ここも子供たちがこたつや家具を持ち込んで快適な使い心地となっている。その為に結構な散在をしたが、その程度は1回の探索でお釣りが来る。
それだけ儲けている来栖家チーム、今回の間引きもかなりの稼ぎになる予定。その魔石販売だが、今回の拠点の津和野に戻ったら島根の協会が換金してくれるとの事。
それはともかく、シェルターの和室エリアの小上がりでの団らん中の話題は1点に絞られていた。つまりは護人の誕生日会で、今年もレイド中ながらしっかりやろうとの子供たちの作戦会議。
本人を前にアレだが、もはやサプライズって雰囲気でもない。それより明日は中休みだが、昼からは換金作業や作戦会議やらで雑務が入って来るそうな。
「えっ、それじゃあ予定通りに今日の夜にやっちゃう? 明日が叔父さんの誕生日だけど、午前中だけ祝って午後からお仕事ってのも辛いよねぇ。
それなら、今夜パーティする方が締まりがいいもんね」
「えっと、ちなみにこの後の予定だけど……順番に他のチームを拾って、津和野に戻ってからは完全に自由時間になってるね。
さすがに間引きの終わった当日には、協会も束縛はして来ないみたい」
「このシェルター、他のチームも入れるようにしちゃってるよね……そしたら当然、今夜のパーティも他のチームが乱入して来るじゃん。
む~んっ、家族水入らずでお祝いしたかったなぁ」
それは仕方がないよと、悟った表情の護人はちょっと幸せそう。子供たちがお祝いを企画してくれる時点で、素直に嬉しくて年を取った甲斐もあると言うモノ。
それはともかく、探索終わりの疲労の蓄積した体に、おコタの魔力は強過ぎる。気を抜けば眠り込みそうで、現にミケやムームーちゃんは家族にくっ付いて就寝中。
いいなぁと思わなくもないが、こうやって子供たちの話を聞いている時間も至福である。それを思えば、誕生日パーティの規模なんて小さくても充分だ。
むしろ心がこもり過ぎてたら、うっかり泣いちゃいそう。
そんな事を考えてたら、車が止まって最初の目的地に着いたと紗良が報告して来た。管理者権限で、長女はある程度鏡の外の変化が分かるそう。
それから、こちらも無事に探索を終えた『ライオン丸』と『坊ちゃんズ』の2チームが合流を果たす。それと同時に、途端に賑やかになるシェルター内の生活空間。
「いやいや、さすがA級ランクの間引きは大変だったよ……しかしこの魔法アイテムはいいね、運転手さえ押さえておけば移動の苦労は完全フリーだよ。
本当に、ウチらのチームにも欲しくなっちまうぜ」
「売らないわよ、ウチらの方が家族が多くて移動は大変なんだから。茶々丸なんて、車に乗る度に《変化》で人の姿になってたんだからね。
本当、今までの苦労がようやく報われたよ」
「ルルンバちゃんの魔導ボディなんか、キャンピングカーの後ろに籠をつけて運んでたもんねっ。
あれは叔父さんも、凄く運転し辛そうだったよねぇ」
たしかにアレは大変だったねと、護人は運転手としての苦労を思い出して追従の言葉。今はおコタで微睡む家長は、ミケと軟体幼児をお腹の上に幸せそう。
ハスキー達も近場の土間で、完全にリラックスモードで探索の疲れを癒している。ところが子供たちは、夜の誕生日会の準備をするよと身内で大盛り上がり。
何だ、大将のお祝いかと勝柴も興味本位で寄って来た。それを邪険に払いのける香多奈は、身内のお祝いだから邪魔しないでと割と辛辣。
ついでに、今回の探索で回収したアイテムの仕分けも、紗良は部屋の端っこで妖精ちゃんを交えて行なっている。そんな小さな淑女だが、この鏡のシェルターの部屋でも天井近くに籠の巣を作って貰ってご機嫌な表情。
まぁ、来栖家的にはこのチビ妖精も、立派な家族の一員なのでお世話は当然である。そうして今回の魔法アイテムは、意外と少なかったが良品は多い印象。
そんな、今回の“松江フォーゲルパークダンジョン”の魔法アイテムはこんな感じ。
【鳥柄のケープコート】装備効果:隠密&着脱&耐性up・中
【安寧のクッション】使用効果:安寧&疲労除去・永続
【浮遊の羽毛】使用効果:安寧&疲労除去・永続
【ヒクイドリの鉤爪】装備効果:炎属性&不折&貫通・大
【老トレントの錫杖】装備効果:魔力up&魔法攻撃up&MP量up・大
【老トレントのフード】装備効果:隠密&着脱&器用up&魔力up・特大
【天女の櫛】装備効果:聖属性&魔力回復&バリア効果&魔力up・特大
その他:『強化の巻物』(防御)×1、『強化の巻物』(耐性)×2、『鑑定プレート』(植物専用)×1、『魔法の鞄』(空間収納)×1、『風鉱石のインゴット』(風耐性)×2
確かに魔法の鞄や鑑定プレート、効果が特大の魔法アイテムも2つと良品は多いかも。換金性の高い品物も含まれていて、安寧効果の羽毛系の品も使い心地は保証付き。
後は、ワイバーン肉や鳥肉は家族で消費、Tシャツやマグカップや縫いぐるみなどの品々は青空市行きだろうか。他にも球根や苗、園芸用品も幾つか回収出来た。
そちらは家使いでも良いし、同じく青空市で売ってしまっても良い。長女などは、今夜はこのお肉で唐揚げとステーキを用意しようと献立に思いを馳せている。
そんな来栖家の子供たちの様子を眺めていた『ライオン丸』のメンバーだが、櫛が出たのかと興味津々。聞けば島根の地は、日本神話に溢れていてダンジョンもその設定を拾う事が良くあるらしい。
「スサノオノミコトとクシナダヒメの神話でな……まぁ、ヤマタノオロチを倒すためにスサノオの妻のクシナダヒメは、櫛になって旦那を支えたって話さ。
そんな訳で、島根のダンジョンは魔法アイテムに良く櫛が出るし、モンスターでヤマタノオロチが出る場合もたまにあるんだよね。
そうなると、かなりの強敵なんでA級ランクのチームでも苦労するんだよ」
「へえっ、それは知らなかったな……まぁ、綺麗な櫛だし効果が特大の良品だから、チームで使うかも知れないね。
そっちが欲しかったら、何かと交換してあげても良いけどさ」
「あっ、姫ちゃん……櫛をあげる行為は、縁起を担ぐ人は割と嫌がるから注意だよっ。櫛は苦死に繋がるから、落ちてる物とか拾っちゃ駄目なんだって。
まぁ、逆に敬愛や愛情の表現とされる場合もあるそうだけど」
真逆じゃんと、混乱する姫香だが縁起担ぎってそんなモノである。そもそも呪いの品でもない良品の装備なので、贈り物として悪い意味など持ちようもないとも。
その紗良の説明を聞いた勝柴が、愛情の表現との文節にビビッと来たようだ。何とか予約出来ないかなと、個人での購入に前向きな態度を示して来る。
そうこうしている内に、異世界+土屋チームが無事に一行に合流を果たした。こちらも間引きを完遂したようで、さすがの実力派チームで何の心配もなかった模様。
ザジや柊木は上機嫌で、回収品も凄いぞと成果を話したくて堪らない感じ。来栖家の子供たちに動画の視聴会を持ち掛けるのだが、姫香はそれは後にしてと素っ気ない態度。
何しろ今夜の夕食には、しっかりと護人の誕生日会を開催したいのだ。それを聞いたムッターシャや土屋は、そう言えばそうだったねと理解を示す。
それからプレゼントは用意して来たよと、子供たちのご機嫌取りなど。つまりはみんな、参加する気満々でどうやら家族水入らずとは行かない模様。
「もうっ、仕方無いなぁ……それじゃあ、みんなで部屋の飾りつけ手伝って。お料理が出来る人は、紗良お姉ちゃんの手伝いしてねっ。
えっと、ケーキは市販のを買ってあるんだっけ?」
「1個買ってあるけど、これだけ人数が増えると絶対に足りないよねぇ……仕方ないから、あり合わせでもう3つ位作ろうか?
土屋さんが、意外とお菓子作りが上手でしたよね?」
「むっ、任せておけ……まぁ、何が出来るかは素材次第だが。昌、そんな訳で料理助手につくように」
了解っスと軽い返事の柊木は、この一連の騒ぎを明らかに楽しんでいる様子。『坊ちゃんズ』の女性陣にも、料理の出来る人材を募って皆で楽しもう的なノリである。
幸いにも、この鏡のシェルター内の台所は、土間の一部に存在していてかなり広い。数人が動き回っても充分平気で、『坊ちゃんズ』からも2人が参戦表明。
それから紗良の指示の下、大量の唐揚げやワイバーン肉のステーキが製作されて行く。ついでに副菜のポテトサラダや、野菜のお味噌汁や酢の物なども鋭意製作中。
唐揚げのついでに他の野菜も揚げて、その点来栖家の貯蓄に不足は無し。こんな遠征にも、しっかりと魔法の鞄に自家製野菜を持ち込んでいる周到さ。
その間、パーティ会場(仮)の小上がりは、香多奈や妖精ちゃんによって飾り立てられて行く。その色紙の飾りは、和香や穂積や遼に手伝って貰って、クリスマス用に作ったモノ。
前借りは了承してあるが、お隣さんがこのパーティに参加出来ないのは残念だ。まぁ、クリスマスパーティは間違いなく一緒だし、その点は安心かも。
そんな末妹の助手には、何故か『坊ちゃんズ』のエースの鈴鹿が立候補。高い場所への飾り付けには、長身の彼女はとっても役に立っている。
妖精ちゃんも飛べるのだが、如何せんパワーが無い悲しさが邪魔をする。本人が楽しんでいるので、敢えて香多奈も仕事を取り上げたりはしないけど。
そんな中、護人は見事に睡魔にやられて就寝中。それを起こしちゃ駄目だよと、姫香や香多奈は家長の寝てる間に準備を済ませる気満々である。
他の面々も、護人はともかく一緒に寝ているミケの機嫌を損ねたら、命の危機だと理解している。そんな訳で、場は良い感じに静かになってくれていた。
そうこうしていると、台所からは物凄く良い匂いが……朝からずっと探索を行っていたメンバー達は、総じて飢えて台所をチラ見する回数も増えて行く。
その間にも、姫香が机の上の準備を始めて、香多奈がお皿やお茶碗を台所から運んで来る。ここまではいつもの夕食風景だが、小上がりを覗き込むハスキー達はお洒落な飾り立てをされていた。
茶々丸やルルンバちゃんも同じく、色紙で作られた帽子や首飾りでハッピー感を演出している。それは周囲の大人達も、強引に着用を義務つけられている始末。
そのために、パーティ感は否応なく満たされて良い感じ。香多奈も大満足で、寝ている護人やミケやムームーちゃんにも帽子を被せて行く。
そしていよいよ、本日の主役(?)のご馳走の山が運ばれて来た。お待たせっとの言葉に、高速で頷く一同は血に飢えたゾンビの群れのよう。
それから本当の主役を揺り起こした姫香は、護人に色紙の首飾りを付けて周囲に目配せ。あらかじめ伝えられていた面々は、一斉にお誕生日の歌を奏で始める。
それに合わせて、紗良がメインのケーキを運んで来た。
――寝ぼけ眼の護人は、その温かなロウソクの光に魅了されるのだった。
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