A級ランク4チームで島根県を横断に至る件
紗良に前日、鏡の入場者登録をして貰った『ライオン丸』と『坊ちゃんズ』のメンバー達は、鏡の中の住居で惰眠をむさぼっていた。それが香多奈に起こされ、ようやくの事起きて来た。
ハスキー達も慣れていないこの空間に、チーム探索の形を崩さず安全チェック。逆に来栖家や異世界+土屋チームは、ヤレヤレと小上がりで寛いでいる。
「えっと、護人さんと紗良姉さんが入って来てから、多分移動が始まるのかな? 津和野からまず目指すのは、太田市の“石見銀山ダンジョン”だっけ?
そこで異世界+土屋チームが間引きに降りるんだよね?」
「そんな話だったかな、ツチヤがそのダンジョン情報をチェックしてくれていたから。それで来栖家チームが、一番遠い湖の近くのダンジョンに潜るんだったかな?」
「そう、名前は“松江フォーゲルパークダンジョン”で宍道湖のすぐ近くだね。その間にある出雲市の“出雲大社ダンジョン”を、私のチームと『ライオン丸』で対処するって話だった筈。
だから結構、今日の間引きは各チームばらけてやる感じだね」
そんな氷室の言葉に、どれもA級ランクのダンジョンだなと、まだ眠そうな表情の勝柴も追従する。それに対して、誰かさんが職場放棄し続けたツケだねと辛辣な末妹の返し。
それを受け、世の中には仕事より大切なモノがあるんだよと、ヒーラー向井も言葉を返す。そもそもこの2チームを引き合わせたのは、末妹の香多奈ではなかったか。
そんなゴタゴタを繰り返している内に、護人と紗良も鏡のシェルターへと入って来た。そして移動が始まったよと、到着の間まで寛ぐように各チームに告げる。
紗良も朝食にしましょうと、ホスト役をこなして各チームを歓迎する素振り。ちょっと寝たい人は、到着までまだ時間があるよと姫香もサポートに忙しい。
賑やかな一行は、お握りとお味噌汁の朝食を遠慮なく食べ始める。4チームも集まると騒がしい程で、どうやら2度寝をする者はいない模様。
そんな訳で、朝ご飯を食べ終わった後もあちこちで歓談がなされる事に。A級チームばかりのこの空間は、傍目から見れば何とも贅沢である。
ところで3つのダンジョンの間引きの取り分けだが、一応は希望を聞いて決定した次第。ズブガジのいる異世界チームは、どう考えても洞窟タイプよりフィールド型の方が良い。
ところが来栖家の子供たちが、花と鳥の公園型ダンジョンを指定してしまったのが運の尽き。まぁ、“石見銀山ダンジョン”の洞窟は、割と広いそうなのでズブガジでも平気だろう。
そんな訳で、来栖家は津和野から一番遠い松江市まで旅行する破目に。それは良いのだが、A級ランクのダンジョン間引きはやっぱり大変そう。
島根の職員によれば、どのダンジョンも魔素濃度はかなり高くなっているそうだ。レイド作戦を後に控えて、あまり疲れたくない護人は今から憂鬱で仕方がない。
とは言え、1度受けてしまったお仕事である……賑やかな道中になったが、それも全て受け入れる事に。本当に、周囲は喋る者や周囲を探索する集団、まだ朝ご飯を食べてる者やペット達をモフる者などで騒がしいったらない。
『坊ちゃんズ』のエースの阪波鈴鹿は、どうやら新入りの仔グリフォンのヒバリが気になる様子。撫でようと追いかけ回すが、ヒバリは絶賛人見知りを発動中。
「鈴鹿ちゃん、ヒバリは意外と狂暴だから突かれないように気をつけてねっ。ヤンチャが過ぎて、家族以外にはあんまり懐いてくれなくて困ってるの。
ミケさんが制裁してくれて、ようやく家の中では大人しくする事を覚えた感じかな?」
「仕方ないなぁ、少しだけミケに触らせてあげるよ……いいよね、ミケ? これがムームーちゃんなら、全然嫌がらないけどスライムに触っても面白くないでしょ?」
「ニャンコちゃん……」
ヨダレを垂らさんばかりの鈴鹿に、若干引きながら姫香が声を掛けて、膝に丸まるミケを人身御供に差し出す。まだ食事中の男衆は、仕事前のエネルギー補給に忙しそう。
そんな中でも、ムッターシャと勝柴は賑やかに会話を楽しんでいた。リーダ同士、何か通じるモノでもあるのかも知れない。
他のペット達に関しては、まだこの異空間に慣れないのか周囲を探索して安全チェックに余念がない。『坊ちゃんズ』の他のメンバーは、独自に他の建物を探索中。
これがシェルターだと聞かされて、その破格な能力に開いた口が塞がらない面々である。個人所有でこれは凄すぎ、協会所有でもちょっと信じられないかも。
そんな話をしてる間に、いつの間にか1時間半が経過していたようだ。来栖家の紗良が、最初の目的地に着いたみたいと皆に知らせて歓談は一時中断された。
そして異世界+土屋チームが、探索準備をしてシェルターから外へと出て行く。周囲からは、頑張ってねとの声援が湧き起こり、送迎ムードもアットホーム。
愛想の良いザジと柊木が、行って来るニャと手を振り返している。土屋は紗良から巻貝の通信機を受け取って、真面目顔で行って来ると勇ましい返答。
そうして一番最初に出て行ったムッターシャが、すぐに戻って来て最後に出て行こうとしていたズブガジを止めた。この鏡のシェルターは、何と魔導ゴーレムも収納自在だったのだ。
「ちょっと待て、ズブガジ……出口が車の後部座席だ、このままお前が出たら、車が破壊される。しかも盗難防止の魔法のせいか、俺の力では鏡を移動出来ない。
確か管理者はサラだったな、鏡を車の外に移動してくれないか」
「あららっ、大変……そんな機能があったんだ、確かに人が入ったまま盗まれたら大変だもんね。すぐに移動するから待っててね、ズブガジちゃん」
紗良の言葉に、大人しく頷きを返す魔導ゴーレムのズブガジであった。どうも山の上の生活で、彼は人間との密なコミュニケーション能力を得たよう。
そんなハプニングがありながらも、第一弾のA級探索者の配置は完了した。後は太田市の、“石見銀山ダンジョン”の間引きを頑張れば良いだけ。
異世界+土屋チームがいなくなったシェルター内の居住区は、幾分か寂しくなってしまった。順調に行けば、あと30分後に出雲市の“出雲大社ダンジョン”に到着する予定。
そう告げられた両チームは、ボチボチ探索準備を始める模様。この辺は、腐ってもA級ランク……普段おチャラけていても、間引きの実力は問題なさそう。
ちなみに今回の“出雲大社ダンジョン”の間引きも、2チームで当たるそう。難関ダンジョンってのもあるけど、この両チームは探索でも相性は良いとの話。
紹介した立場の香多奈は、何とも微妙な表情である。どうしようと、コッソリ妖精ちゃんに相談しているが、ほっとケと素気無い対応をされている。
そんな『ライオン丸』と『坊ちゃんズ』の両チームも、無事に30分後に鏡のシェルターを後にした。今回は念の為にと、外まで一緒した護人と紗良も問題無く戻って来た。
それから残った面々に、ここまでの旅は順調みたいだよと報告する。とは言え、残されたのは今や来栖家チームのみの状況。
「あと30分くらいで到着だってさ……ここからは山陰自動車道に乗れるから、意外と早く到着するそうだよ。
私達もそろそろ、探索の準備を始めなきゃね」
「そうだね、仮にも他の県のA級ランクのダンジョンに挑むんだもんねっ! でもまぁ、今回はレイド作戦じゃ無いからかえって気楽かもね。
探索に入るのは、ウチのチームだけなんだし」
「それもそうだな、とは言え前情報もあまり無いダンジョンだから注意して行かないとな。“松江フォーゲルパーク”は、植物と鳥がメインの動植物公園だからね。
それがダンジョン化して、出て来る敵もそんな感じらしいよ」
その護人の言葉を引き継いで、情報屋の紗良が例によってウンチクを語り出した。しじみで有名な宍道湖のすぐ近くに、そのテーマパークは存在するらしく。
そして驚いた事に、“松江フォーゲルパーク”はダンジョン化した今も経営を続けているそう。それもこれも、入り口ゲートが邪魔にならない場所に出来たお陰っぽい。
それにしても商魂逞しいと言うか、アッパレな経営陣には違いない。すぐ近くにダンジョンゲートがある中で、客商売を続けているのだ。
それだけ管理も大変で、繊細さを求められる筈……実際、来栖家チームに払われる間引き料に関しては、過去一番に高額である。
香多奈などは、それを知ってこの依頼を受けた可能性すらある。ともかくそのお陰で、2時間半近くの移動時間を強いられてしまった。
朝早く出掛けたお陰で、探索は9時からスタートは何とか守れそう。だとしたら、10層程度は確実に間引きしないとA級ランクの名が廃るってモノ。
探索準備を行いながら、そんな事を話し合う子供たちである。具体的には探索着に着替えて、ペット達に檄を入れてのテンション上げを行う末妹。
別にテンションはそこまで上げなくても良いのだが、何となく末妹の手管に乗ってしまうペット達である。茶々丸やヒバリなど、早く敵を連れて来いってなハイ状態。
ハスキー達に関しても、チームの役に立つぞとそんなノリは嫌いではない。チームのムードメーカー役の香多奈だが、実は少女が一番ハイテンションと言う。
それを諫める姉達は、毎度の仕方無いなって表情で一応理解はあるみたい。何しろ家族旅行は楽しいし、しかもそれにダンジョン探索まで乗っかるのだ。
これで浮かれるなと言うのが、まず無理な相談だ。
「あっ、もう到着したかなっ……みんな、準備が出来たらシェルターから出る準備を進めるよっ。特にルルンバちゃんは、合図した後で外に出て頂戴ね。
でないと、車内に詰まって送迎車を破壊しちゃうからね」
「紗良姉さんは、何で外の状況が分かるの? それも管理者特権みたいな感じなのかな、ちょっと不思議ではあるよね」
「そうだね、今後もこの鏡のシェルターにどんなことが出来るのか、しっかり見極めなくちゃね。でも、これで叔父さんも運転手から解放されて良かったよねっ!
これなら遠征も、もっとバンバン受けても大丈夫かなっ」
確かに護人としては、疲れる運転業務から解放されて大いに気は楽になった。とは言え、末妹の言うようにこの先バンバン遠征レイドを受ける気にはならない。
今回の、島根のA級ランクのダンジョン間引きでさえ、口を滑らせてしまったなと言う思いが強い。異世界+土屋チームにまで前日業務を受けさせてしまって、本当に申し訳ない思いの護人である。
とは言え、今日を乗り切れば明日は休みを1日挟む事になっている。連日の探索にならなかったのは本当に良かった、何しろ今回は、A級ダンジョンのハシゴである。
そんな事は関係なく、呑気に楽しそうな子供たちは本当に探索を楽しんでいる感じがして凄い。これが若さかと、護人は呆れるやら羨ましいやら。
ペット達もそのテンションは同じで、ヤル気の熱量は子供たち以上に高い模様。その代表の茶々丸とヒバリは、今回はどんなやらかしをしでかすのやら。
そんな不安も抱えながら、さて冬休み最初の探索の開始である。
――場所は“松江フォーゲルパークダンジョン”、バリバリのA級である。
『ブックマークに追加』をしてくれたら、ルルンバちゃんが部屋の掃除をしてくれます♪
『リアクション』をポチッてくれれば、ミケが頭を撫でさせてくれるかも!?
『☆ポイント』で応援しないと、茶々丸に頭突きされちゃうぞ!w




