A級2チームが真冬の日馬桜町を訪れる件
12月も中旬になると、日馬桜町のあちこちには積雪が見られるように。もっと奥に行くとスキー場もある広島の山奥は、毎年こんな感じで冬は大変。
そんな中、夏から秋にかけて愛媛県を拠点に活動していた、A級2チームが田舎町にやって来た。目的は、もちろん島根の“津和野ダンジョン”の間引き参加である。
と言うか、本来は地元の『ライオン丸』が率先して受けるべき事案なのだ。それなのに、帰還命令を何度も無視してまるで悪びれもしないその態度。
当人たちは、揃って春の襲来に浮かれまくってそれ所では無い感じ。それでも探索依頼は、男女2チームで組んで定期的には行なっていた模様である。
それは良かったが、接待中の仁志支部長はどうにも浮かない表情。何しろ目の前にはA級3チームのリーダーが揃って、ある意味異様な光景となっているのだ。
一応は、護人も来てくれて話し合いに関しては順調に進んでくれた。つまりは明日の出発の予定を詰めたり、移動方法を説明したり。
2チームのリーダー、勝柴と氷室はその移動方法に改めて驚いていた。まさか自分達が寄り道していた間に、トップチームはそこまで利便性を高めていたとは。
そんな表情の各チームのリーダーだが、そこまで後悔の色は窺えない。それだけ向こうも、それなりに満たされた日々を過ごしていたと思われそれはまぁ良い。
問題は、やはりA級チーム同士が同じ箇所に留まる事だろうか。
「島根の協会からも、再三お願いが届いたと思いますが……向こうの高ランクダンジョンの魔素の高まりが、もはや洒落にならない程度にまで高まっています。
島根にはB級ランクのチームも少ないですし、A級ダンジョンは放っておかれた状態ですね。これらの放置は、複合&広域ダンジョンの“津和野ダンジョン”以上に酷い事態を招く恐れが」
「そんな事言ったって、A級チームが地元を離れちゃイカンって法律がある訳でも無いし? 俺たちにも都合ってモノがあって、それはチーム全員の相違だったりするからな。
まぁ、さすがに島根に戻るからには、その辺のダンジョンの間引きも請け負うさ。ナオちゃんもそれで良いかな、津和野のレイド前に一仕事増えるけど」
「ええ、別に構わないわ……周囲に迷惑かけたからには、その辺の処理はやっておかないとね。私たちの地元の愛媛は、ある程度の高ランクダンジョンの間引きは終了してるし。
冬から春にかけては、島根に滞在してもいいわよ」
それは素晴らしいと、大仰に喜び顔の勝柴はいつものお調子者の一面が覗きまくり。一方の、ナオちゃんこと氷室は、落ち着いて交渉の席についてますって感じ。
護人としては、この2チームを引き合わせた責任を感じて少々気まずい思い。ただし、勝柴の言うように別に悪い事では決してない。
ただ、島根の協会に多大な迷惑が掛かったのも事実である。その両チームの尻拭いを、今回の遠征レイド前に行なうって感じだろうか。
その計画だけど、2台のキャンピングカーではるばる日馬桜町まで来て貰った2チームは、今夜は鏡のシェルター内に泊まって貰う。そして明日は、そのまま来栖家がそれを所持して『ワープ装置』で津和野入りするって寸法だ。
この鏡のシェルターの優れている点は、中に人がいようと持ち運べる点である。そして盗難防止用に、事前に所有者登録した者だけが触れる事が出来るのも良い。
万一の盗難も起きないし、登録者以外は中に入る事すら出来ないのだ。他の魔法アイテムと違って、盗まれもしないし持ち運べる居住空間の出来上がりである。
この装置について、凄いわねぇを連発する氷室はチームに1つ欲しいわと本音を漏らす。それに対して、俺がダンジョンで取って来てやるよと、大風呂敷を広げる勝柴である。
何と言うか、どこにでもいるお馬鹿カップルに見えなくもない。ちょっと心配になる護人と仁志だが、若い2人に水を差すような助言は躊躇われるのも事実。
そんな明日に向けての会合は、何とか30分で終わって一行は協会を出て冬の寒空の下へ。これから来栖家のキャンピングカーに控えている、紗良に2チームの登録作業をして貰わねば。
他にも遠征レイドに向けての諸々の作業はあるが、勝柴の様子がちょっとヘン。護人を駐車場の端っこに呼び出して、どうやら相談事がある模様。
そんな駐車場では、2チームのメンバーと来栖家の子供達が賑やかにお喋りをしていた。学校終わりの香多奈も合流しており、その騒がしさは2割増しと言った所。
しっかり者の紗良は、既に他のメンバーの登録を終えてくれていた。これで後は、2人のリーダを登録すれば、来栖家のお仕事は完了する。
「ほら、呼ばれてるぞ勝柴君……さっさと登録を終えて、シェルターの中を見てみるといいよ。1泊する分には、恐らく何の不便もない良い宿泊場だよ。
登録者以外は絶対に入って来れないし、セキュリティも万全だ」
「いや、それより俺の相談を聞いてくれよ、護人の旦那……今回は彼女達が、俺たちの地元に来るって一大イベントなんだぜっ!?
こ、これってプロポーズを受け入れたって事になるのかなっ?」
そんなの知らないし興味もないが、いつもは不真面目な勝柴にしては大真面目な表情である。茶化すのも可哀想だし、いやしかし既にプロポーズまでしていたとは。
他の男衆もどこかソワソワしているし、これは本当に一大イベントに発展する恐れも。そうなると、本当にこの2チームは1チームに統合される可能性も。
それが良い事なのか、協会にとってマイナスなのかは護人としては関係ない。しかし結婚の相談とは、既婚者にすれば良いのにと護人は思うが仕方がない。
ここは真面目に、既婚者の探索者を紹介して人生の厳しさを教えるのが良いかも。
そんな訳で、ここからは協会の装甲ジープを借りての移動を少々。大人数では向こうに迷惑なので、今回も勝柴と氷室のみを同行させる事に。
まぁ、護人の護衛としてレイジーとムームーちゃんは、切っても切り離せない存在ではある。そうして積雪の残る道を進む事5分程度、車はようやく古びた民家へ到着した。
あらかじめ電話で来訪を告げていたお陰で、そこの家主たちは一行の歓待の準備をして待っていてくれていた。何しろA級チームのリーダー3人である、錚々たる顔触れには違いない。
家の主の森下はやや緊張気味だったが、その妻の美亜は愛想良く一行を持て成す素振り。それから妹の恋歌が、1歳になる赤ん坊を抱いて登場。
「いらっしゃい、私の旦那は今仕事で外に出てるんだけど……まぁ、何のお持て成しも出来ませんが、どうぞゆっくりしてって下さいね」
「いやいや、お構いなく……今日は何と言うか、電話で話した通りに既婚者の生の声と言うか、本音をこの若い2人に聞かせたいと思ってね。
そんな訳で、3人とも忌憚のない意見を宜しく頼むよ」
「本音ですか、それはまぁ……確かに結婚に対して過剰に憧れているのなら、大いに期待を裏切る結果になるかもですねぇ。
特に結婚をゴールだと思ってる、夢見がちなカップル相手だと」
そう言う森下は、大きくため息をついて妻の美亜に睨まれて首を竦める仕草。ただまぁ、言ってる事は分かるよと姉妹からも賛同の声が。
まずは結婚は、確かに大事で人々から祝福されるイベントではあるが、そこは決してゴールではない。結婚をしたから幸せになれるなんて、そんな幻想は捨て去った方が良い。
そう口にする妹の恋歌は、子供が出来たらそれに拍車が掛かるからねぇと我が子を見遣る。確かに赤ん坊が生まれたら、一家の中心はそちらに集約してしまう傾向が。
旦那の扱いは二の次になるし、お世話がそもそも大変である。夫婦間の新婚時代の甘い関係など、当然ながら空の彼方へと吹っ飛んでしまう。
共同生活でのお互いの見えなかった欠点が見えたりと、そんな事はまぁ些細なモノだ。夫婦が同じ方向を見て人生を歩まないと、あっという間に破綻する関係なのだ。
でなければ、“大変動”以前の離婚率の高さはちょっと異様かも……何しろ、3組に1組が離婚していて、皆に祝福して貰って式を挙げた経緯を汚す破目に陥っているのだ。
「しかも2人は、同じ探索者で職場が同じって事でしょう? 四六時中一緒なのは、果たして良い事かどうか……。
恋愛感情なんて、精々が数年って話もよく聞くからねぇ」
「夫婦ってのは、言って見れば最小のチームを組むようなモノですからねぇ。それで困難に立ち向かえるのなら、組む甲斐もありますけど。
その相方が足を引っ張り始めると、そりゃあ解消しようって話も出て来ますよ。いや、決して脅す訳じゃないんですけどね?」
「いや、充分にビビらせて貰いましたけど……」
そう正直に口に出す氷室に、勝柴はそんなと悲壮なリアクション。ここまで言われても、彼は結婚への幻想を捨て切れていない模様だ。
いや、それだけ彼が氷室のナオちゃんを愛しているのなら、それは素晴らしい事ではある。その後も神崎姉妹と森下は、親戚付き合いが増えるよとか想定される事象を羅列する。
ただまぁ、長い人生において、より良きパートナーが近くにいるのは素晴らしい奇跡には違いない。そう話を締めくくる恋歌に、勝柴は感極まった表情に。
対する氷室は、コレが長い人生のパートナーかって視線を隣の勝柴に送っている。こんな時も、女性の方が現実的なのかと護人は額に冷や汗を掻く思い。
それはともかく、護人と森下は何となく同性の勝柴をプッシュして、これはいい男だよと擁護の構え。結婚なんて勢いだよと、森下はやはり美亜から冷たい視線を貰う発言。
そんな美亜も、実はようやくのおめでたが発覚したそうな。それがご近所に知れ渡って、ご老人たちが毎日野菜やら差し入れを持って来るようになったとの事。
そんな祝福もあるんだよと、誇らし気な恋歌の言葉に。ここは良い環境なのかもねと、感心した様子の氷室は自分の将来ビジョンを考える素振り。
子育ては下手したらノイローゼになるから、周囲の環境はとっても大事だよと力説する恋歌。その点、この田舎町はベテランがお節介を焼いてくれて、大変助かっているとの事。
「旦那の義母さんも良い人で、本当に助かってるのよね……この子は夜泣きも酷いし、毎日寝不足で大変なんだから。
やっぱり子育て経験のある人って、頼りになるよねぇ」
「あなた達も、結婚して子供が出来たら育てる環境は選んだ方がいいわよっ。夫婦2人で全部やろうと思っても、それは絶対に無理なんだから!
そうそう、護人さんもこの際だからそろそろ身を固めたら? 植松のお婆ちゃん、会うたびに護人さんが結婚しないって愚痴って来るのよねぇ」
変な所から話題が飛び火して、護人は余計なお世話だと内心でこちらも愚痴モード。香多奈がせめて中学を卒業するまではねと、デリケートな問題を抱えている事を口にすると。
それは確かに大事かもと、女性陣にはその内情を理解して貰えて良かった。家族が増えるって事態は、確かに全てが諸手において歓迎出来るって訳でも無い。
多感な年頃だと、見知らぬ母親が突然出来たなんてショックな事態には違いない。知り合いならまだ許容出来るかもだが、知らない女性だと大好きな叔父さんを取られたとトラウマになるかも。
護人の旦那も大変だねぇと、勝柴からも同情されるが余計なお世話である。それよりも、結婚するにしてもしないにしても、このA級2チームの恋愛事情は尾を引く予感が。
それならば、せめてハッピーエンドに収まるのが美しい気も。
――他人事ながらも、そんな事を思う護人だった。
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