冬も厳しくなって来たけど来栖家の懐は暖かい件
来栖家チームが、2度に渡って“宝物庫”を探り当てたって話は、探索者仲間でも有名だった。それが広島の協会本部や、地元の企業の耳に届くのもまぁ当然ではある。
そしてその中に、レアな品があるかもってのも動画を良く確認すればある程度は分かってしまう。その辺の防御が緩い来栖家は、能見さんの編集にある程度は守られている次第。
それでも、彼女も協会職員と言う立場上、自分の所属する組織に嘘はつけない。そんな訳で、来栖家チームが獲得した魔法アイテムのリストは、協会本部まで漏れ伝わる流れに。
それも悪い事ではない、何しろ来栖家の臨時倉庫には、買い手のつかない魔法アイテムが山と積まれているのだ。それが処分出来るだけ、護人としても有り難い。
今回は、そんな話を聞きつけた企業のバイヤーも、一緒に来栖邸へと招く事となった。しかも3社で、名刺を貰ったけど他の県に本社がある大企業も混じっている。
それから新興の、探索者専用のベンチャー企業も1社ほどあるようだ。協会の推薦なので、まぁ身元はしっかりとしているのだと願いたい。
それに加えて、協会本部に所属している職員バイヤーと合計4名。それが仁志支部長と江川の付き添いで、平日の午後に麓から山の上へと登って来たのだった。
はるばる積雪の中ご苦労様と思うが、向こうも仕事なので苦労とも思っていない模様。それどころか、他社より良い品を持ち帰るぞと、各バイヤーの目は爛々と輝いている。
それは来栖家としては頼もしい、何しろ本当に換金してしまいたい品物が溜まって仕方が無かったのだ。これでこそ、厄介事を引き受けた甲斐もあると言うモノ。
“津和野ダンジョン”の遠征レイドの纏め役だが、結局は断り切れずに引き受ける事になりそう。地元のA級チーム『ライオン丸』のリーダーは、雑務処理においては役に立たないと業界ではもっぱらの噂なのだ。
年齢的にも、どうやら護人が探索者の中では年長の部類に入るみたい。年は取りたくないモノだ、そう思いながらその日は協会での用件をこなした護人であった。
ちなみに魔石の換金額は、余裕の700万円越えで半分は銀行振り込みにして貰った。原因は敵の多さと、最後に出た魔結晶(中)数十個が止めとなった模様。
その迷惑料込みで、協会職員にはお土産としてマツタケやキノコ類、それからイノシシ肉を置いて行った。レイド遠征の日にちも決まって、雑務はこれにて概ね片付いた格好に。
ただし来栖家チームは、レイドの纏め役として山陽側の各チームの運搬も任されてしまった。具体的には、まだ愛媛にいる『ライオン丸』と『坊ちゃんズ』の2チームを山陰に送り届ける役みたい。
それから今回も参加予定の、岩国3チームの『ワープ装置』による運搬である。
まぁ、その位は何でもないと思いたい……アビスリングは余計に消費するが、その代金はしっかり支払われるそうだし。問題なのは、やはり12チームを束ねる責任だろうか。
それに関しては、今はキッパリと忘れるべきだろう。ハスキー達が、胡散臭い奴らが敷地内に侵入して来て、警戒している現状だと特にそう。
「ハスキー達、お客さんだから大丈夫だよ……ようこそ皆さん、積雪の中ご苦労様です。中に入って温まって下さい、商談はそれからと言う事で」
「いやいや、今日と言う日を楽しみにしてましたよ。何しろ来栖家チームは、探索で“宝物庫”を何度も引き当てた豪運の持ち主ですからね!
貯め込んだお宝は、さぞかし素晴らしい物ばかりでしょう」
「……あれが例のハスキー犬ですか、毛並みからして他の生き物と格が違いますね」
寄り集められたバイヤーの、性格もそれぞれ違って、口の回る奴から動画視聴をこなして来た者まで様々みたい。とは言え全員、A級探索者に敬意を払って行儀が良いのは何より。
それでも中には、こちらの支度金に見合う品物が本当にあるのかって、そんな挑発的な視線もチラホラ。何しろ悪天候の中、はるばるこんな田舎まで来たのだ。
手ぶらでは帰れないぞと、各々の目がそう語っている。
ハラハラしている仁志支部長や江川は、何事もなくこの商談よ終わってくれって心持ちなのかも。護人としては、波風を立てる気は本当に全く無い。
ただまぁ、勝手に《心眼》がそんな皆の腹の内を読んでしまっているだけ。
その点は家の中のペット達も同様で、多少ピリピリした空気が流れるのは致し方が無い。紗良がお客たちにお茶を出して、姫香やお泊まり組は商談のサポートに控えてくれている。
何しろ売り物の数が多いし、人や物が多いとこっそり万引きなどと不埒な輩もいるかも知れない。そんな面々を見て、調子の良いバイヤーがお綺麗な娘さん達ですねぇとお世辞を飛ばす。
それに全く表情を変えない、姫香や陽菜はある意味アッパレ。紗良や怜央奈は、ある程度は愛想よく応じる術を心得ているのはさすが。
ちなみにみっちゃんは照れまくって、陽菜にわき腹を物凄い勢いで小突かれていた。最年少の香多奈は、小学校に出掛けていて現在はここにはおらず。
ある意味、口が軽くてトラブル気質の末妹がいなくて良かったと、護人は内心で失礼な事を考える。ただしその相棒の妖精ちゃんは、何が始まるんだと梁の上で観察中。
このチビ妖精の突飛な行動には、ある意味一番に注意をすべきかも。ただまぁ、お客が怒って帰る位なら、それ程深刻な事態ではないとも思う。
「それじゃあ、一息ついた所でメインの買い取り品をそれぞれ仰って下さい。その在庫を、倉庫から出して並べて行きますので。
一応はこちらから鑑定プレートをお貸ししますが、不安ならご自身での鑑定をお願いします」
「分かりました、それじゃあ協会としては……そうですね、まずはやはり水耐性の装備と、出来れば魔法の鞄の在庫が知りたいですね。
ついでに、中級エリクサーも売って頂ければ幸いです」
「私の方は、アクセサリー全般ですかね……魔法の品で小物を扱ってるんですが、これが探索者以外の顧客にも好評なんですよ。
福岡に3店舗あるんですが、いずれは広島にも出店する予定でして」
そんな話は聞くだけ無駄だが、まぁ向こうの要望は分かった。それを聞いて、姫香と陽菜がそれぞれ品物を取りに来栖邸の倉庫へと向かって行く。
ちなみに残った2人のバイヤーは、それぞれ“魔法の掛かっていない武器防具”と“モンスター素材及び貴金属”を所望した。それを聞いて、思わず心中でガッツポーズの護人である。
何しろ貴金属に関しては、ダンジョン産の回収品は意外と多かったりするのだ。向こうも喜ばれると思って宝箱に詰めてくれてるのだろうが、どっこい現代ではなかなか現金化が難しい。
大手の企業も買い渋る程で、魔石や薬品の方が10倍嬉しがられる始末。そんな訳で金や宝石が、来栖家の箪笥の肥やしになってしまうと言う現状が。
そこに来て、救世主のような中年男性のバイヤーの出現である。この人は軽口も叩かないし、紗良に出されたお茶の飲み方もとっても上品だった。
少々探りを入れて見ると、最近はようやく金の価値も持ち直して来たそうだ。宝石も同じく、今は海外との取引が途絶え気味でダンジョン産が幅を利かせているとの事。
それは何よりだ、是非とも末永い付き合いをこちらからも望みたい。ところが最初にやって来たのは、紗良とみっちゃんの“魔法の掛かっていない武器防具”の品々だった。
魔法の鞄に入れて持って来たのだが、まあ馬鹿みたいに出て来る……『宝物庫』の武器庫からの回収品もそうだが、普通の探索での入手も何気に多い。
まずはミスリルの武器や防具が色々。剣や斧やトライデント、それから手甲や胸当て、デザインも軽妙な感じのモノが多い。合計すると15点くらいだろうか、まずまずの品揃えである。
それから重オーグ鉄製の剣や槍やハンマーは、重厚なデザインで品数は一番多かった。紗良だと持ち方も覚束ないが、みっちゃんがそれをカバーしてくれている。
こちらは鎧セットも数点あって、さすがのみっちゃんもその扱いには手を焼いていた。護人も手伝って、それらをバイヤーさんがチェック出来るように並べて行く。
これらの品数は、全部で35点と凄く多かった。この辺りで、バイヤーさんの顔が蒼褪めて行ってる気が。ただし、まだお勧めのメインが鞄に残っている。
それがダマスカス鋼の剣が6本とアダマン製の武器が数種類、それからオリハル製の長剣が2本だった。これらは、魔法が掛かっているかのような輝きで本当に素晴らしい。
その品揃えには、他の関係ないバイヤーさん達も呆気に取られている様子。それはともかく、次はコッチに並べるねと、倉庫から戻って来た姫香が商品を並べ始めた。
そちらは魔法のアクセサリー関連を集めて来たらしく、その品揃えは圧巻だった。とは言え、地元の協会に売ると文句を言われるので、溜まってしまうのは致し方が無い。
青空市の企業の買い取りも、所詮は薬品類や素材系がメインである。上限も50万円程度で、たまに大きい魔石を売るとそれだけでお終いなのだ。
今回はそんなストレスを解消するように、姫香も容赦なく品物を並べて行く。まずは魅了耐性のついた『金のブレスレット』に、回収率の高い『ルビーの指輪』と『サファイアの指輪』が数個ずつ。
『ダイヤの首飾り』や『ダイヤの指輪』も良く回収するので、ギルドで配っているけどまだ在庫がある。性能は良いのに広まらないのは、何とも残念な限り。
「この辺は割とメジャーな魔法アイテムだねっ、良く出るしウチも溜まって行く一方だったんだよね。買い取ってくれるのは嬉しいな、まだまだたくさんあるから。
首輪とか腕輪もあるけど、混ぜちゃってもいいのかな?」
「こっちはどうだ、コインとダイズだが見た目はお洒落だぞ? これも魔法アイテムで合ってるんだよな、これらはどんな効果があるんだ、姫香?
ついでに蹄とかも、何かお洒落だから持って来たが」
陽菜の言うのは『ラッキーコイン』や『魔法のダイズ』で、これらはいわゆる詐欺用のアイテムだ。ついでに『幸運の蹄』は所持者の幸運度を上げる魔法アイテム。
そして姫香の言っていた首輪や腕輪は、『知の首輪』と『灰色ウナギの腕輪』で革製の外見はシックではある。ただし、どちらも効果は(中)なので、買い取り希望価格は40万円前後になってしまうかも。
それからまだまだ、お洒落なアイテムが目白押し……アクセサリー系の魔法アイテムは、確かに人目を惹くので一般人受けもしやすいかも知れない。
一般の市民も、襲われる可能性も高い昨今では、お洒落な装備系アクセサリーは需要が高いかも。良い目の付け所だなと、姫香はバイヤーの軽口が気に入らないのは別として感心する。
それから机の上に並べて行く品々、『魅惑のリボン』や『椿のブローチ』は何ともモチーフが可愛くて素敵だ。逆に『頑健のペンダント』や『焚火のブローチ』は、見た目は無骨だが性能は『頑健』や『筋力アップ』が付くので実用的。
『光の指輪』など、大粒の真珠が中央に輝いていてとっても綺麗。それを言えば、『雪結晶のイヤリング』など雪の結晶を模していて儚くて美しいデザインだ。
特に『雪結晶のイヤリング』は、効果は(中)で魔力回復効果まで付いている。
家族で使えって話だが、紗良は魔力回復効果が(特大)の『聖なるロザリオ』を所持している。それなら香多奈にとも思うが、末妹にイヤリングは早過ぎるので却下。
そんな事を考えながら、そろそろ机に置くスペースが無くなった頃。例の口の軽いバイヤーは、悲しそうな声音で全部の買い取りは無理かもと言って来た。
残念、まだまだトンボや蜘蛛や土竜のモチーフのペンダントがあるのに。
――その頃には、残った2名のバイヤーも顔面蒼白状態に。
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