本日2度目の“アビス”中ボス戦を無難にこなす件
そんなこんなで、来栖家チームは無事に29層を突破して30層へ到達した。後は中ボスの間をクリアして、肝心の宝物庫へのルートを確定するのみ。
その辺は宝の地図を読み解いて、20以上ある扉から違和感を見つけ出すしかない。上手く行くかは不明だが、“アビス”の特性上1度潜ったら5層はクリアしないといけない。
つまりは、1度間違ったら確実に2時間以上のロスを覚悟しないといけない訳だ。そうなると、今日中にもう一度チャレンジは難しくなって来そう。
そう姫香に言われて、末妹の香多奈は大変だと今更ながら慌てている。そして頭の良い長女に泣きついて、一緒に正解を見付けようねと他力本願を発動中。
それを紗良の肩の上で、ヤレヤレって表情で見詰めるミケである。老猫からすれば、香多奈はいつまでも手の掛かる子供ねって感情なのかも。
まぁその感情は、護人にしても同じではあるが。
「取り敢えずは、水エリアの最後の層を頑張ろうか。前衛陣も大変だろうけど、引き続き先導を頑張ってくれ。
後ろは少々ゴチャついてるが、気にしないで良いからね」
「了解っ、護人さんの方も大変そうだけど、チビたちの面倒を頑張ってね。まぁ、ヒバリとムームーちゃんが今後独り立ちすれば、このチームももっと強くなるよ。
そしたらミケも、安心して引退出来るかもね」
「えっ、ミケさんはずっといて貰わなきゃ困るよっ! 私が新チームを結成した時にも、顧問としてチームに招く予定なんだからねっ!
ミケさんってば、引退なんかずっと先だよっ!」
本気でそう思っている感じの末妹に、姫香などは呆れた表情。高齢者を労わりなさいよと、ミケの身を案じて半分怒っている感じも受ける。
ただし、香多奈の気持ちも分からなくもない……大好きだから、ずっと一緒にいるんだと言う純粋な感情。どちらが良いとか悪いとか、その判断は恐らく一生つかないのだろう。
そんないつもの姉妹喧嘩など無視して、ハスキー達は30層の海底渓谷を進み始める。薄暗くて進み辛いエリアだが、さすがに5層目だし彼女達も慣れた様子。
そして早速出て来たマーマンの群れを、武器とスキルを駆使して駆逐して行く。その作業もすっかり慣れた感じで、助太刀の茶々萌コンビも手柄を立てようと慌ててるのもいつも通り。
そして安全を確保して、後衛の準備が整ってるのを察して再び進み始める。姫香も真面目顔で中衛の位置に陣取って、目指すは中ボスの間である。
30階層など、文句なくチーム的に今までで一番の深層である。アビスでも26層以降は、今回が初の挑戦で心配が無いと言えば嘘になる。
それでも、チームは順調に最深層を更新して行っている。
それに対して後衛陣の両端チームは、引き続き好調で大きな事故もなし。とは言っても、1層で片側の壁の亀裂に潜んでいる敵は平均2体から3体程度。
つまりは10分に1回位の遭遇率で、危険もそんなには無い。それでも楽しんで敵を駆逐している、ヒバリ&妖精ちゃんチームと軟体幼児は大したモノ。
確かに探索者には向いている、そして今後の更なる成長にも期待大である。今の所は心配ばかりが先に立つ保護者の面々だが、将来は頼りになる相棒に育つかも。
今もヒバリが大フナ虫の巣を発見して、一気に討伐に騒がしくなる始末。実はムームーちゃんの方も、前の層で似たようなシーンがあったのだが、その時は範囲魔法で駆逐して問題は無かった。
それも護人のアドバイスあっての事だったけど、そんな魔法を持たないヒバリは処理に大わらわ。それでも一歩も引かない仔グリフォンは、嘴や前脚を駆使して討伐に励む。
騎乗している妖精ちゃんも、《女王冠》まで使用して手下の兎の戦闘ドールと共にそのお手伝い。やっぱり慌てている見守り役の後衛陣だが、手助けするまでには至らず戦闘は終了。
「うわぁ、無理やり終わらせた感が酷いねぇ……ヒバリもあちこち傷付いてるし、やっぱり戦闘はまだ早いかもねぇ。
まぁ、妖精ちゃんの手助けもあるし、最後までやらせてあげようか?」
「そうだねぇ、こうやって頑張る姿勢を見せてるんだし。ほらっ、ヒバリちゃんこっちにおいで……痛い所を治してあげるからね。
妖精ちゃんは、幸いにも傷は無かったようだね」
たかられた瞬間に、ちゃっかり戦線を離脱した妖精ちゃんに傷は無くて何より。何しろ彼女はナリが小っちゃいので、小さな傷でも負ったら大変である。
そんな感じで進む後衛陣だが、護人に見守られて頑張るムームーちゃんもそれなりの活躍を見せていた。そしていつの間にか、前衛陣はその歩みを止めており。
どうやら既に、中ボスの間の前へと辿り着いたみたい。つまりはこの戦いを終えれば、晴れてこの水エリアとお別れする事が可能って意味だ。
長かったような短かったような、張り切っていたヒバリやムームーちゃんには確かに疲労の色が窺える。チームが進行を停止して、さて誰が戦うかの作戦会議。
疲労の色が濃いのは、見守り役だった護人や子供達も同じ事。それを見て、空気を読んだ姫香が自分が行くよと立候補をしてくれた。
30層の中ボスの間は、明確なフィールド指定こそ無いけどゲート前には中ボスらしき影が。それはノコギリ型の突起物を有したエイで、何だかとっても獰猛そう。
そしてもう1匹、やたらと銅の長い深海魚が悠然と泳ぎ回っている。あれはリュウグウノツカイかなぁと、物知りの紗良が解説をしてくれた。
深海魚はともかく、ノコギリエイはその見た目からして手強そう。ハスキー達も当然参戦するようで、それならまぁ安全だと思われる。
「それじゃあ行って来るね、レイジーは炎系のスキルが使えないけど大丈夫だよね。茶々萌コンビは、あまりはっちゃけ過ぎちゃ駄目だからね」
「気を付けてな、姫香……中ボスの間だけ地面が砂地だし、潜んでいる敵もいるかもだぞ。いやしかし、ヤン茶者はチーム内に1匹で充分だと改めて思ったよ」
「本当だよね、ヒバリのヤンチャ振りはそれ以上かもっ……? 帰ってから、もうちょっと厳しく躾けをしてやらなきゃだね。
叔父さんも紗良お姉ちゃんも、ペットには優し過ぎるんだから!」
痛い所を末妹に突かれて、何も言い返せない護人と紗良である。それを尻目に、行って来るねと明るく中ボス戦へと赴く前~中衛陣の面々。
フィールドに入るなり、中ボス2体はすぐさま反応して向かって来た。盾役をこなそうと前に出るコロ助だが、その踏み込んだ砂場から追加の大エイが何体か出現する。
やっぱりいたよと、それをタゲる遅れて突っ込んだ姫香とツグミ。茶々萌コンビも同じく突っ込んで、その角と敵のノコギリをかち合わせて酷い事になっている。
レイジーも『可変ソード』を巧みに操って、水流を産み出そうとしていたリュウグウノツカイをあっという間に真っ二つに。それから、横取りは良くないなと仲間の戦いを見守る構え。
姫香とツグミは、隠れていた大エイを簡単に倒す事に成功。何しろタゲはコロ助が取っていたので、その隙を簡単に突く事が出来たのだ。
一番派手にやり合っていた、茶々萌コンビとノコギリエイの死闘だが、こちらも恙無く終了の運びに。恐るべき敵の武器も、1つしか無かったので萌の横槍には為す術もなかった。
それでも満足そうな茶々丸だが、角が欠けて割と悲惨な状況である。早く姉さんに治して貰いなさいと、それを見た姫香の方が慌てている有り様。
取り敢えず中ボスの討伐も終え、後は宝箱のチェックを行なうのみ。ちなみに中ボスは、魔石(中)を2個とスキル書を1枚落としてくれた。
宝箱は普通の大きさで、色も銀色とまずまず良さそう。中からは薬品類や魔玉(水)や、魔結晶(中)が9個と割と大量の品が出て来てくれた。
他にも珊瑚の置き物やフグの飾り、各種インゴット類と立派な槍が1本。この辺は魔法のアイテムのようで、妖精ちゃんもヒバリに騎乗したまま頷いている。
最後に巻貝の通信機が1セットに、アビスリングと金色のコインが5枚ずつ。これでリングは40枚を突破、コインも25枚と順調に貯まっている。
それを鞄に詰め込む末妹は、とっても嬉しそうな表情で何より。反対に茶々丸の治療を終えて合流した長女は、ペット達のヤンチャ振りには頭を悩ませている様子。
「それは仕方ないよ、叔父さんも紗良お姉ちゃんも甘やかしさんなんだから。私はそもそも、元から舐められてるから言うこと聞いてくれないし。
だって、コロ助にすら命令を無視されるんだよっ?」
「ヒバリはその内、私がキッチリ再教育するよ……コロ助はアンタの問題なんだから、そっちは知らないけどさ。ムームーちゃんに関しては、護人さんに任せるしかないわよね。
ただまぁ、妖精ちゃんが探索に積極参加し始めたのは良い事じゃ無いかな?」
姫香的にはそうらしい……来栖家チームは人数が多いとは言え、ペットに指示出しをする者は意外と少ない。後衛だと護人がメインで、そこが増えると助かるのは当然だ。
末妹はなおもぶつくさ言ってるが、信頼を得ないとペット達も言う事は聞いてくれない。飼い主だからとその立場に胡坐をかいていると、裏切られる事だってあるのだ。
確かに仔グリフォンのヒバリに、戦闘参加はまだ早いかも知れない。ただまぁ、探索に連れ出しているのは、そう言う将来を見据えての事でもある。
ヤンチャも言い換えれば積極性なので、悪い資質ではないって見方もある。そんな訳で、姫香はチーム内の新要素も一応は冷静に捉えているつもり。
ペットの資質は、飼い主が多少言い聞かせた位で矯正される事も無い。それならば、その資質に見合った立ち位置を与える工夫をこちらですれば良い。
茶々丸にしてもまさにそう……ハスキー達の後ろにつかせて、先輩たちの賢い戦い振りを見習って欲しい意図はまだ適っていないけれど。仔ヤギの成長に従って、いずれはそうなると姫香は心底から願っている。
まぁ、それも見抜いたと思ってる資質が合っていればの話だが。
そうして2つ目の扉もクリアに至って、ゲートを潜って再び“アビス”の回廊へ。時刻は午後の3時前で、続いて探索を行うにも微妙な時間ではある。
ただし、今回のメンツはどのチームもヤル気は満々で、中途半端な時間に戻ろうと提案する者はいない。そんな訳で、来栖家チームも続けてもう1つほど扉を選択する予定。
末妹は巻貝の通信機で、異世界+土屋チームや岩国チームと連絡を取り合っている。そして他チームも、今の所は大きな支障はないよと家族に元気に報告を返す。
それは何よりと喜ぶ姉達は、31階層への階段を見付けてかしこまった表情に。この“アビス”の3分の1まで降りて来た事に、ある種の感慨を抱いている模様。
「さて、後は宝の地図から入るべき扉の情報を確認する作業だねっ。ハスキー達も、怪しい扉があったら知らせて頂戴ねっ。
まぁ、具体的に何が怪しいかは私も分かんないけど」
「本当だねぇ、どれが扉の情報かも書かれてないもんねぇ……私としては、この記号みたいなのはフェイクかなって思うんだけどどうだろう?
案外読み解くと、どっかに数字が出て来てそれに対応する扉が正解とか?」
インテリな紗良の言葉に、なるほどと分かったような返事を返す香多奈。本当は分かって無いのは周囲からは丸分かりだが、それを指摘しないのが大人の優しさ。
ところが妖精ちゃんが、ここが正解だなとある扉を指し示した。
――果たしてその真相は、一体どこに記されているっ!?
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