水エリアを引き当てたけど順調に探索は進む件
なおもヒバリに小言を言う末妹だが、リードに繋がれた仔グリフォンは意に介さずな態度のまま。それよりこれ外して、自分も戦いに参加させろと鼻息も荒い。
さっきの水エリアの突入の際の、溺れかけた記憶はどこへやらのおチビである。もちろん、その願いは家族からスルーされて現在の来栖家は26層エリアを探索中。
ここは太陽の光も限りなく届かない、海底渓谷エリアとなっていた。両側は切り立った断崖となっていて、お陰で進む方向は分かりやすくて助かっている。
その代わり、壁の部分には亀裂やら穴ぼこも多く見受けられて、待ち伏せの敵も多いかも。さっきヒバリが見事に倒した、毒を吐くアメフラシもそうだったと思われる。
「全くもう、お転婆さんだねぇヒバリってば……敵にビビるよりはいいけど、茶々丸みたいに猪突猛進だと前衛陣が苦労する事になるよっ。
姫香お姉ちゃんなんて、こんな優しく叱ってくれないからねっ!」
「まぁ、まだ子供だから仕方ないよねぇ……せめて《巨大化》スキルが上手く使えてくれたら、こっちの心配も薄まるんだろうけど。
あとは、ヒバリちゃんが覚えてるのは『飛翔』スキルだっけ?」
空を飛ぶのはいいけど、戦いに関係するスキルじゃ無いよねと香多奈の意見は手厳しい。そんな話の間にも、前衛陣はマーマンの群れを相手に奮闘中。
それぞれが武器を手にしていて、水中ならではの鋭敏な動きだがハスキー達も負けてはいない。半ダースほどの敵をあっという間に片付けて、どうやらこの層も難易度的には急激な上昇は無さそうで何より。
ホッと息を吐く護人だが、後衛陣も薄暗いエリア探索に気は抜けない。数多い亀裂や穴ぼこの、全てを前衛陣はチェックを出来ている訳では無いからだ。
そんな訳で、たまに亀裂から出現するアメフラシやウミヘビ型のモンスターを、後衛陣の護衛役の護人は処理して行く。それをお手伝いするルルンバちゃんと、すっかり護衛気取りが身についたヒバリである。
微笑ましいのだが、リードを操る末妹は割と本気で大変そう。まるでヤンチャな大型犬を散歩させる幼女みたいで、隣の紗良も気にかけているが対応策も思いつかず。
完全にスイッチの入った仔グリフォンは、自分にも敵をよこせと荒ぶる始末。そして仕舞いには、ミケにお説教されて完全に沈黙してしまった。
さすがミケさんと、感心する香多奈は来栖家のエースに心から尊敬のまなざし。その半面、ミケは水エリアに完全に苛立つ素振りで、さっさとここを出で欲しい模様である。
肩を貸す長女も、あやすのが大変そう……そんな諸々の事情を含みながら、前衛陣は3度目のマーマンの襲撃を退け終わる。今の所ドロップは魔石のみ、期待のリングやコインは無し。
「それにしても、暗いうえに地面も歩きにくいエリアだねぇ……陽の光なんてほぼ届いて無いし、壁も地面も穴ぼこだらけで大変だよっ。
その点、ルルンバちゃんは平気そうで羨ましいよっ」
「紗良と香多奈も、歩くのが大変ならルルンバちゃんの後部座席に乗ると良いよ。恐らくは、この調子で5階層続くだろうからね。
敵の待ち伏せも考えると、なかなかタフなエリアかも知れないね」
「出て来るマーマンは、それほど強くはない感じだったよ、護人さん。穴の中の待ち伏せ部隊は、完全に前衛をスルーしてるみたいだから厄介だよね」
その点は確かで、ツグミも全部の待ち伏せポイントは把握出来ずに苛立っている模様。それは仕方ないよと、姫香はフォローして後衛陣にも了承を貰っている。
茶々丸に関しては、割と微細な敵の待ち伏せも何割かは見極めている感じ。たまに穴ぼこに突っ込んで行っては、萌と一緒に隠れている敵を倒して回っている。
そうこうしている内に、次のゲートを海底渓谷の突き当りに発見。ここのエリアは20分程度で、支道もなく1本道で踏破する事が出来て良かった。
そう安堵する一行の前に、妖しい歌声が聞こえて来た。それは眠気を誘うような、武器を降ろして休息したくなるようなそんなメロディに感じられる。
何事と周囲を窺う一行だが、どうやら渓谷の断崖の上の突き出た岩石に何者かがいる模様。座り込む茶々丸やヒバリに驚く一行だが、ツグミの対応は素早かった。
影渡りで素早く移動して、襲撃であぶり出されたのはマーメイドだった。お付きの武装マーマンも2体いて、それに気付いたルルンバちゃんが魔銃でフォローする。
姫香もお手柄だよと褒めつつ、敵の凶悪な待ち伏せへの対応に動き出す。とは言え、残りのマーメイドもツグミが咬み殺した後である。
そんな感じで、最後の待ち伏せも何とか被害を出さずにクリア出来た。茶々丸とヒバリは叩き起こされて、ムームーちゃんも寝てないデシと弁解に必死。
そしてマーメイドがドロップした魚肉に、一行はこれは食べて良いモノかって議論に突入。一般的に、人魚の肉は不老不死をもたらすなんて迷信もあるのだ。
高橋留美子先生の漫画などが有名で、その内容はギャグではなくヒューマンドラマ。とても『うる星やつら』を描いた人とは思えない、重い内容の漫画である。
試しにと、ハスキー達の鼻面にお肉を持って行く香多奈だが、特に妙な反応はされず。食べて良いなら食べちゃうよと、コロ助などは舌なめずりをする始末。
それを見た紗良は、安全ではあるのかなと小首を傾げている。
「一応は安全そうだね、まぁ積極的に食べようとは思わないけど。一応は捨てずに持って帰りましょうか、護人さん?」
「そうだな、ハスキー達の反応を信じれば毒では無さそうだが。取り敢えず持って帰って、後でどうするか考えようか」
「そうだね、植松の爺婆に食べさせて、長生きして貰うって手もあるしね!」
明るい顔で物騒な事を口にする香多奈だが、爺婆に長生きして欲しいって性根はアッパレかも。護人としては、それを許可するか否かは難しい判断ではある。
そんな感じの26層だが、他は特に大きな事故もなく踏破するに至った。分岐も無い1本道だったので、水エリアと昏いってのを除けば難易度は高くはなかった。
ゲートは発見しているので、最後にその周辺に泳いでいた巨大河豚を、レイジーが可変ソードで真っ二つにする。向こうの膨れ上がっての針防御も、ワンコの刀捌きには敵わなかった模様。
そして問題のドロップが連続して、再び来栖家が頭を悩ませると言う。つまりはフグ肉で、これは果たして食べてしまって良いモノか否か。
フグはもちろん毒持ちで、その致死性は日本人なら誰でも知っている。ある地域ではテッポウとも呼ばれていて、つまりは当たれば死ぬって意味らしい。
そんなウンチクを語る紗良は、この手の怪しい食材はどちらかと言えば否定的みたい。来栖家の台所の主的な存在なので、その気持ちは護人も良く分かる。
「まぁでも、家には毒消しポーションもあるから、毒に当たってもすぐに薬品飲めば平気なんじゃないかなっ?
フグって高級食材なんでしょ、食べないのは勿体無いよっ!」
「う~ん、それは果たして正しいお肉の食べ方なのかなっ? お腹壊すの前提に調理するって、私としてはそれは避けたいんだけどなぁ」
「お腹壊すってか、フグの毒って確か神経毒だった気がするな……呼吸困難になって、死ぬ事もあるって話を聞いた事があるかな。
こんな時は、どうすればいいんだろうなぁ」
悩む家族に、近くを飛んでいた妖精ちゃんが呆れた表情で近寄って来た。それから、鑑定すればいいダロと的確な助言をして、何となく得意げな表情に。
その手があったかと手を叩く一行は、確かにちょっと間が抜けている気も。魔法アイテムの鑑定には慣れてはいたが、食材を鑑定するのは意外と盲点だった。
そんな訳で、スッキリした表情の一行はゲートを潜って次の層へ。そこの景色も海底渓谷で、薄暗くてある意味不気味さが漂って来る。
その辺から巨大魚がヌッと出現しても、まぁ不思議ではないシチュエーション。そうはさせじと、今回も先行偵察に赴くハスキー達はとっても真面目。
そして数分後、そんな巨大で不気味な深海魚には遭遇せず……ただしマーマンや大クラゲ、それから待ち伏せアメフラシとは何度か戦闘をこなす事に。
このエリアでも、再び勢いを取り戻したヒバリはピーピーといっぱしの戦士気取り。仕舞いには妖精ちゃんが背中に騎乗して、さあ行けと騎士ごっこを始める始末。
その為だけに、従者の『白兎の戦闘ドール』を取り出して、ご機嫌に壁側を歩いている。そして亀裂に潜んでいる敵を見付けては、ヒバリと一緒に討伐を楽しむ素振り。
これには護人も完全にさじを投げて、好きにさせてあげなさいと末妹に通達する。妖精ちゃんの戦闘ドールはとっても強いし、その上に新スキルの《女王冠》まで使う周到振り。
これで対するのは、精々が毒を吐く能力位しかないアメフラシである。最初は心配していた香多奈も、ご機嫌な相棒を見て次第にまぁいっかって表情に。
何しろ、当のヒバリも完全にストレス発散の上機嫌モードなのだ。
そんな感じで進む27層の探索だが、足場が悪いのと雰囲気が不気味なの以外は順調に進んで行った。後衛陣は、真横で繰り広げられるごっこ遊びに、半分以上集中力が削がれていたモノの。
前衛陣は絶好調で、下手をすれば姫香の出番も無い位の無双振り。水エリアのハンデも、器用に咥えた武器を操るハスキー達には関係ない。
それは出て来る敵が、マーマンや大クラゲばかりだった事にも起因しているかも。数もそれほど多くないし、これには茶々萌コンビもストレスが溜まっている感じ。
とは言え姫香も、加減して茶々萌にも手柄を分けてあげなさいとも言いにくい。戦闘を加減して油断を覚えたら、いつか痛い目を見るに決まっている。
そんな前衛と後衛の、奇妙な進行は20分程度続いた挙句に次のゲートで終焉となった。ここでの見所と言えば、茶々萌コンビが大エイに突っ込んて憂さを晴らした場面くらい。
険しい足場が続いていた所、不自然に砂場が出現したので姫香も警戒していた所。興奮した仔ヤギが、これはボクの獲物とばかりに突っ込んで行ったのだ。
そして踏んづけられた待ち伏せ大エイは、怒りにこちらも砂を撒き散らして暴れ回る。周囲は舞う砂で一時視界不良になったが、最終的に生き残ったのは茶々萌コンビだった。
そしてその後、危ないでしょと姫香から小言を貰う茶々丸はいつも通り。後衛から近付いて来た紗良が、そっと怪我チェックを行うのも、まぁいつも通り。
そうしてそれ以外は順調に進んだ探索は、ゲートを潜って次は28層である。ちなみに茶々萌が倒した大エイは、魔石(小)と一緒にリングを5個ドロップしてくれた。
それを手にした萌が、怪我チェックのお礼とばかりに紗良に戦利品を手渡すのもいつもの事。物静かな仔竜だが、実は家族からとっても可愛がられていたりするのだ。
お隣さんからの評判も、何気に高い萌は実は秘かな人気者。もっとも、ハスキー達やミケは気性が荒く、他人は触らせて貰えないって理由も割と大きい。
その点萌は、フワモコでは無いけど触っても抱きかかえられても文句は言わない。そんな訳で、子供や女性を中心に萌の人気は山の上どころか小学校でも高かったり。
今では、コロ助と一緒に末妹の護衛竜として小学校でも名高い萌である。その人気は、小学低学年のおチビさんたちも、休憩時間には触りに訪れる程。
ただまぁ、家族からはちゃっかりさんとの扱いなのは如何なモノか。
――これも茶々丸と行動を共にする、副作用だと本人は思っていたり?
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