真っ暗な“アビス”の回廊でお昼休憩を楽しむ件
そうして探索を始めた“アビス”の25層目も、すっかり慣れた遺跡タイプのルートだった。まだまだ元気な一行は、途中に立ち塞がる敵を蹴散らして進んで行く。
子供たちの目的は、すっかりコインとリングの回収に切り替わっている。今回の目玉である、宝の地図についてはスッポリ頭から消え去っているみたい。
それはともかく、相変わらず大量に湧き出る大フナ虫の群れは、茶々萌コンビを筆頭にハスキー達が蹴散らして行く。カサゴ獣人も、すっかり慣れた感じで対処して探索はとっても順調な道のり。
今回の水没エリアだが、途中の2ヵ所は大した仕掛けも無し。距離もそんなに酷くなくて、通り抜けるのも労力は必要とせずにまずは安心。
問題は、どうやら中ボスの間の一大水没エリアだった。先ほどと同じく広範囲が水没していて、深い所では人の背が届くかどうかって場所もある模様。
大きさ的には、今回は50メートルプルくらいだろうか。入り口の扉こそ無いけど、奥にはしっかり退去用の扉が見えていて、その隣には宝箱も置かれてある。
「あっ、ここが最後の仕掛けかな……ってか、あれが中ボスで間違いなさそうだね。ウミガメっぽいけど、甲羅に色々とくっ付いてるね。
イソギンチャクに、後はヒトデとかかなぁ?」
「水中の砂の中にも、何かいるかも知れないから気をつけて行こう。って言うより、近付くのもそもそも水没エリアのせいで大変そうだな。
まぁ、水耐性の装備のお陰で、水中の行動に支障は無いだろうけど」
「大きいウミガメさんだね、ウチのキャンピングカーくらい余裕でありそう……ここはもう、ルルンバちゃんのレーザービームか、紗良お姉ちゃんの範囲魔法で良いんじゃない?
相手も動かないし、いつもの速攻で決めちゃおうよ」
中ボスに対して敬意の無い来栖家は、そんな感じで作戦を煮詰めて行く。そして、今回出番のなかった紗良が、《氷雪》スキルで活躍の場を得る事となった。
ついでに周囲も凍らせて、その上を歩いて行こうと呑気な末妹の言葉に。確かにいい案だねと、姫香も乗っかって子供たちは至って呑気な様子。
そして放たれた紗良の必殺魔法は、まさにそんな情景を作り出してしまった。周囲の水ごと凍らされた大ウミガメは、反撃も見せ場も許されず魔石(中)へと変わって行く。
その周辺にも魔石がコロコロと落ちて、甲羅に乗っていた連中は別モンスター扱いだったのかも。一緒にスキル書と甲羅素材も落ちて、ドロップ運はまずまず。
それを喜んで回収に向かう一行と、撃ち洩らしが無いか警戒するハスキー達。護人や姫香も、同じく凍っていない水の中を警戒して油断は無い。
結果、爆散ウニや大エイが2匹ずついたようで、それらを始末するハスキー達。中ボスのドロップ品を回収した一行は、安全の確保された凍った道を伝って反対側の乾いた通路へ。
そして一息ついて、宝箱の中身チェックへと移行する子供たち。その中身だが、鑑定の書や薬品類や魔玉(水)なとば、まぁ定番の品で品数もまずまず。
魔石(中)も8個入っていて、金銭的にも大助かりである。ついでにリングも8個、コインも6枚と目的の品もしっかりと出て来てくれた。
後はやっぱり海産物やら、アビスの塩らしきものが瓶の中に詰め込まれていた。有り難いのだが、量としてはそんなに多くなくて家族で使う程度だろうか。
一番嬉しいのは、妖精ちゃんが反応した水耐性の付いた腕輪だろう。それから水辺で遊ぶ、浮き輪や水鉄砲や水中眼鏡も幾つか出て来てくれた。
それらを回収して、それじゃあ遺跡エリアを出ようかと話し合う来栖家チームの面々。末妹が巻貝の通信機で、同じルートで探索している異世界+土屋チームに連絡を入れている。
その結果、向こうは30分前に5階層を突破してずっと先に進んでいるとの事。お昼休憩は、だから30層を突破した後に取る予定だと告げられてしまった。
「それじゃ、仕方無いね……それにしても、向こうは相変わらず探索速度が速いよねぇ。さすが、ズブガジが前衛を張っているだけあるよ。
ムッターシャとザジも、バカみたいに強いもんねぇ?」
「そうだな……それにこっちは、子供の足に合わせて移動してるしな。その辺は仕方がないよ、それより岩国チームは順調か通信を入れてみてくれないかい?
こっちは一応主催側だし、気は配っておかないとね」
「了解っ、どの巻貝だったっけ……あっ、これかな?」
四苦八苦する通信役の香多奈だが、一行は扉を出て回廊を広場に向けて歩いている所。薄暗い“アビス”の中央の穴は、相変わらず不気味で太陽の光を拒絶しているかのよう。
それでも巻貝の通信機でのやり取りは、何とか上手く行って向こうの4チームも今の所問題は無いそう。安心した来栖家チームは、それならこっちもお昼にしようとお気楽モード。
自販機と移動用魔法陣のある階段広場に辿り着いて、お昼の支度を始める子供たち。ペット達も、周囲を警戒しながらも寛いで休憩に入っている。
ただそれも、紗良が魔法の鞄からお昼を取り出すまでの話。良い匂いに釣られて、途端に真面目顔のハスキー達はソワソワし始める。
そして相変わらずロックオンされた末妹は、お裾分けに忙しい有り様。その点、茶々萌コンビやルルンバちゃんは、大人しく家族が食事を終えるのを見守っている。
そんな家族の紡ぎ出す雰囲気は、“アビス”の巨大な空洞とは真逆にホンワカしていて温かい感じ。その空気は、結局は家族が食事を終えても続く事に。
「それじゃあ、休憩も終わったし午後の探索を始めま~す! ハスキー達も、ご飯を食べて元気いっぱい……ちなみにここは、“アビス”回廊の26層エリアです。
数字を聞いてビックリする人もいるかもだけど、“アビス”は百層以上あるって噂だからね。この階層は、だからまだまだ浅層って感じだね!」
「誰に向かって言ってるの、香多奈……ああっ、撮影してるんだ? 能見さんが使ってくれるといいけど、彼女は自然派の編集をする人だからね。
わざとらしい解説の割り込みとか、バッサリ切られる可能性が高いわよ」
「まあまあ、香多奈ちゃんも最近は自分で編集とか頑張ってるじゃない。そっちで使えばいいんだから、無駄にはならないでしょう。
あっちの動画アップも、なかなか好評なんでしょ、香多奈ちゃん?」
そちらは妖精ちゃんとか今年生まれた子牛とか、専属モデルが売りでサブチャンネルにしては確かに好評である。探索の動画もたまに使っていて、最近は一定の視聴者もついて来た。
それを素直に喜ぶ末妹は、ますます動画の撮影や編集にハマって行っている模様。それはともかく、再び扉の選択へと一行はぶつかる事となった。
ここを間違えると、丸々5層分の苦労が待ち構えている。これは大変なプレッシャーですと、お調子者の香多奈はアナウンス形式での実況が忙しい。
さっさと選びなよと姫香が降るのだが、この姉の暴挙は責任逃れに妹を生贄に差し出す模様ですと実況が煩い。呆れた表情の姫香は、それじゃあ私が選ぶからねと構っていられない感じ。
結局は、ヒバリが嘴で突いた扉を選択し、飛び込んでみた所は大誤算の水エリア。これは失敗しましたねと、解説モードの末妹には案の定の拳の制裁が。
それを涙目で批難する香多奈だが、生憎とフォローはどこからもして貰えず。
「別に失敗したねって言っただけじゃん、批難してないのに何でグーで殴るのよっ! 姫香お姉ちゃんの、乱暴者の筋肉ゴリラっ!」
「撮影は良いけど、ぺちゃくちゃ喋ってたらこっちの気が散るのよっ、バカ香多奈っ! 静かにしていられないんなら、護人さんだって探索の同行を許可してくれないよっ!」
「そうだねぇ、不真面目さんはチームとしても居場所を見つけられないよっ、香多奈ちゃん。それよりしっかり役に立てることを示して、みんなで探索を頑張ろうっ?
ほらっ、水の精霊さんを呼んで活躍のチャンスだよっ?」
そう優しく長女に諭された香多奈は、そうだったと勇ましく鞄から召喚用の杖を取り出す。何の備えも無いヒバリなど、この水エリアに明らかにパニクっている模様。
予備の水耐性の装備を取り出す紗良は、頑張れと《精霊召喚》を唱える少女を応援する。その甲斐あってか、ピヨッと突然水の中から妖精ちゃんサイズの精霊が出現した。
やったぁと喜ぶ末妹と、ようやくパニックから抜け出すヒバリ。仔グリフォンは戦力として数えられておらず、そう言う装備は一切支給されてなかったのだ。
それに関しては、護人も紗良も反省して今後は何か対応しなきゃと話し合っている。引き続き探索に連れて行くのなら、戦闘ベストを着せるなり魔法アイテムを追加で持たせるなりしてやらないと。
敵の数や罠に引っ掛かったりした際に、危険に見舞われる事だってあるかも知れない。そんな話し合いの最中に、水の精霊は全員に水属性の付与を行ってくれた。
その効果だが、相変わらず素晴らしいの一言に尽きる。
「凄いよね、この魔法って……水耐性の装備よりも、明らかに1ランク上だよねぇ。それより香多奈ちゃん、MPの方は大丈夫だった?
念の為に、MP回復ポーション飲んでおこうか?」
「ちょっとクラっと来たかも……一応飲んでおくね、ありがとう紗良お姉ちゃん。ヒバリっ、自分で歩いていいって言ったけど、離れちゃダメでしょっ!」
「あれっ、何か岩の裂け目に潜んでるみたいっ……ヒバリ、それってモンスターでしょっ!? うわっ、何か敵がカラフルな毒を吐いたっ?
大丈夫なの、逃げてヒバリっ!?」
一行が排出されたのは、水エリアの海底渓谷のような場所だった。陽の光はうっすらでほぼ無い状態で、紗良やルルンバちゃんが光源を用意してくれている。
そんな中、突然にヒバリが岩の裂け目に嘴を突っ込んで、何やら戦いを始めてしまったのだ。香多奈が叱ったその時には、周囲にカラフルな毒みたいな物体が散布されていた。
慌てて退避を命じる姫香と、妹分を心配して現場に突っ込む茶々萌コンビ。ツグミもフォローしようと近付くが、その時には既に毒の散布は消滅していた。
どうやら敵の本体を、ヒバリが嘴で刺し殺してしまったらしい……思わぬ戦場での初戦果に、得意げに翼を広げて勝利の舞を踊り始める仔グリフォンであった。
それを見て、茶々丸も蹄のスキップでお祝いの踊りに参加するのは微笑ましい限り。萌が冷静に、岩場に手を突っ込んで魔石(微小)を取り出してくれた。
やっぱり敵はいたようで、ヒバリの初キルに家族は褒めて良いのか怒るべきか頭を悩ませる。普通は褒めるべきだろうが、調子に乗られると後々がとっても怖い仔グリフォン。
特にこの子は、お調子者のヤン茶々丸属性の血を引き継いでるみたいだし。取り敢えず末妹の香多奈は、リードを繋ぎ直して危ない真似はしちゃダメだよと諭す素振り。
戦いはお兄ちゃんとお姉ちゃんに任せて、アンタは目で見てお勉強しなさいと優しい語り掛け。隣で覗き込む紗良は、『回復』スキルを掛けて毒を抜き出す作業に忙しい。
とは言え、誰も気づかなかった近くに潜んでいた敵を発見したのは、大いなるお手柄ではあった。護人もその点は評価しながら、次からは周囲の大人に知らせなさいと一言。
もっとも、勝利の舞いに忙しいヒバリは限りなく無反応と言う。
――そんな騒動からはじまる、来栖家チームの水エリア探索なのであった。
『ブックマークに追加』をしてくれたら、ルルンバちゃんが部屋の掃除をしてくれます♪
『リアクション』をポチッてくれれば、ミケが頭を撫でさせてくれるかも!?
『☆ポイント』で応援しないと、茶々丸に頭突きされちゃうぞ!w




