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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
2年目の秋~冬の件
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ようやくの週末に“アビス”探索を企画する件



 来栖家の敷地内は、雪こそ積もってないけど朝夕は凄く冷え込み始めている。朝早く起きての家畜の世話も、早起きの辛さと相まって段々と大変に。

 それに加えて、今週は岩国チーム8名が日馬桜町に滞在中である。向こうはさすがに大所帯なので、敷地内に留まる事は遠慮した次第。


 麓に空き家を借りて、更にはキャンピングカーも使って週末の“アビス”探索に備えていたようだ。もちろん、午後には山へと上がって来て、夕方の鍛錬には積極的に参加していた。

 その熱量は、子供たちも思わず感心する程……もっとも、新チームの『地獄への片道切符』は、参加前から死にそうな顔色をしていたけど。


 そして特訓が終わる頃には、ムッターシャ達に(しご)かれて更にに死にそうな顔色に。可哀想だが、貴重な体験をしていると我慢して欲しいと護人は切に願う。

 ちなみにヘンリーやギルのマッチョ組は、訓練を心から楽しんでいた。護人もそれに巻き込まれ、一緒に露天風呂に浸かるまでのコースはやや辟易(へきえき)する程。


 何と言うか、これが人種間のカルチャーショックと言うか、それとも肉体言語の持ち主との思考の差なのかも。ムッターシャはそっち寄りなので、彼らとは馬が合っている様子。

 それが少々、寂しいと言うか引いてしまう護人だったり。


「いやしかし、1週間で彼らを1人前にするには少し時間が足りないかもな。何なら“アビス”探索が終わった後も、連中だけ置いて行ってくれて構わないぞ。

 ウチに泊まれば、モリトにも迷惑は掛からないし」

「ひっ、ひいっ……!」

「うん、良い案だが……彼らも今後は協会のスタッフだからナ、残念ながら簡単にスケジュールを決められないんだヨ。

 まぁ“アビス”探索で、まるで使えないと分かれば協会に申し出るかもダガ」


 それを聞いた小鉄と戸谷は、温かいお湯に()かっている筈なのにガタガタと震え始める始末。どうやら、余程ムッターシャの鍛錬が効いている模様。

 それ以上に容赦のない、ザジが鍛えている女性2人も恐らく同じ感じだろう。見込みがあるだけに、どうしても鍛え方にも力が籠もる気持ちは良く分かる。


 護人はスポンサーでもあるので、その辺は随分と容赦して貰っていると思われる。それでも吸収出来る部分はたくさんあるし、ムッターシャ師匠との鍛錬は素直に為になる。

 とは言え、1週間と限定された鍛錬組手だと、相当に負荷を掛けないとモノにならない。かくして、割と悲惨な現状がこの1週間の間繰り広げられる事に。


 そんな日々ももうすぐ終わり、明日は週末で“アビス”探索の予定日。彼ら『地獄への片道切符』チームには、是非とも活躍して欲しいモノ。

 今日は、遅れて合流した『シャドウ』チームの面々も夕方の特訓に参加していた。岩国チームは、明日には全員が乗り込んで来て、4チーム総がかりでコインとリングの回収を行うらしい。


 それは良い案で、確かに岩国の協会で1つ『ワープ装置』を持っていれば事足りる。後は『巻貝の通信機』とか宝珠とか、交換したいアイテムは色々ある。

 岩国チームもその点は、前情報の解析もバッチリな様子。アップされた動画もチェック済みのようで、明日1日の探索で目的の品を入手すると豪語している。


 来栖家としては、頑張れと応援しつつも一応保険としてのコインも手元に何十枚か持っている。これは前回の“浮遊大陸”の訪問で、“双子の宝石”陣営からプレゼントして貰ったモノ。

 もし万一、岩国チームのコイン集めがかんばしくなかったら、これをそっと寄付するのもやぶさかではない。探索者チームというのは、そう言う意味でも持ちつ持たれつだ。


「それより、岩国チームは水耐性の装備はしっかり行き渡っているのかい? 遺跡エリアはともかくとして、“アビス”の水エリアは凶悪……おっと、そう言えば初期メンバーは経験があるんだっけか。

 そう言えば、一緒に遠征に言った覚えがあるね」

「そうだナ、2つのチームに分裂する前のメンバーは、初期の遠征に同行しているネ。私とギルや鈴木辺りは、だから内部の情報は見知っているネ。

 しかし残念ながら、コインとメダルは広島の協会に譲渡してしまったヨ」


 そう返答するヘンリーは、水耐性の装備も何とかチームに行き渡っていると請け合って来た。つまりは明日の探索の下準備は出来ており、後は4チームで頑張るのみ。

 一方の来栖家チームは、実はちょっと探索に対する(おもむき)が違う。ずっと以前に“アビス”の34層の宝の地図を入手したので、それを回収する目的があるのだ。


 つまりは、少なくとも35層までは潜らないと話にならない感じ。果たしてそこまで到達出来るかは不明だが、前回は確か25層までは潜った記憶がある。

 そう考えれば、案外と不可能では無さそう?


 そもそも100階層以上を誇る“アビス”ダンジョンでは、30階層もまだまだ浅層であるそうな。少なくとも妖精ちゃんはそう言っていたし、それを信じて挑戦するしかない。

 そんな事を話し合いながら、露天風呂を出て来栖邸へと移動を果たす面々。日の沈んだ山の上は、すっかり寒くなってせっかく温まった体もすぐに冷えてしまう。


 それにしても、無理して男湯を造って本当に良かった。いや、半分はリリアラの伝手で、ノームの大工さんに手掛けて貰ったのだが本当に良い仕事をしてくれた。

 何より、女子達が上がるまでの待ち時間が無くなったのが本当に素晴らしい。冬場は冷えるので、汗を()いたまま外で待っていると、下手したら風邪をひいてしまう。


 今夜の夕食会も、来栖邸での場所の確保が大変そうだ。岩国チームは巨漢の持ち主が多いので、下手をすると廊下まで人が追いやられてしまう可能性も。

 それでも文句が出ないのは、食事の美味しさと招いて貰って文句の言える立場ではないから。これは本当に、敷地内の集会所の建設を急いだ方が良いかも。

 かくして、今夜も来栖邸は客人であふれ返るのだった――




 次の日、来栖邸の敷地内は朝からキャンピングカーの到着で賑やか。岩国4チームが勢揃いして、“アビス”探索の準備に余念がない。

 その中にはルーキーの『地獄への片道切符』の面々もいて、どことなく所在なさそうな表情。それでも、日ごろの特訓から解放されて嬉しそうにも見える。


「本当にこの人数でワープゲートを移動出来るのかい、大将? 疑う訳じゃないけど、だとしたら便利過ぎる魔法装置じゃないか?」

「そりゃあ……三原の惨劇で、獣人軍とホムンクルス軍が使ってた装置だからね。質量は関係ないけど、時間と距離は使ったアビスリングの数によるから注意してくれ。

 あんまりもたもたしていると、ワープゲートが閉じちゃうからね」

「問題無ければ、ちゃんと“アビス”の16階層の広場に全員で到着するよっ。そこから広場の移動用魔方陣を使えば、多分1階層にも移動出来るかな。

 まぁ、難易度の変化は他のダンジョンに較べれば緩やかだと思うよ」


 姫香のその言葉に、なるほどと頷く岩国チームの面々。選べる扉が24あるんだっけと、初参加のメンバーはその規模に今からひるんでいる感じ。

 確かに、そんなダンジョンは日本のどこを探しても存在はしないだろう。ひょっとしたら、世界中でも(まれ)な異界と通じる回廊型通路なのかも知れない。


 その“アビス”の集客方法(?)は独特で、コインを集めたら優秀な魔法アイテムを確実にゲット出来るよと言うモノ。それにまんまと釣られて、今まさに大勢のチームが集結している次第。

 ちなみに、ギルド『日馬割』の方は来栖家チームと異世界+土屋チームが参戦する事に。凛香りんかチームも行きたがったけど、水耐性の装備が貧弱過ぎて断念する事に。


 来栖家チームから貸し与えても良かったのだが、水エリアに当たったらそれも心許ない保険である。そんな訳で、凛香チームにはもう少し実力がつくまで待って貰う事に。

 もちろん桃井姉弟や(りょう)の新人ズは論外で、敷地内でお留守番である。そちらも仕方ないと言うか当然で、もう少し保護者同伴の探索が続きそう。


 それはともかく、ハスキー達を先頭に“鼠ダンジョン”への移動が始まった。後に続く面々は、軽く雑談をしながらそれに続いて田んぼのあぜ道を進んで行く。

 その一団の最後尾には、ルルンバちゃんとズブガジの重量級コンビが。その手前を歩く小鉄や彩夏さやかは、背後のプレッシャーに顔が引き()っている。


 どうやらこの1週間の敷地(もう)ででも、この意思を持つ魔導ゴーレムには慣れなかったよう。恐らくは、子供の多さとかペット達が訓練に参加するのも違和感だった筈。

 それはもう、こちらからしたら当たり前の風景なので慣れて貰うしか無い。非常識な空間だと、そんな意識も既に山の上のメンバーには無いのだから。



 賑やかな集団は、いよいよ“鼠ダンジョン”のゲート前に集まって、紗良が『ワープ装置』を起動させたのに合わせて突入を果たす。騒がしくしながら、何とか全員が無事に転移に成功。

 そして改めて周囲を窺うと、そこは既に“アビス”の16階層である。薄暗い回廊が左右に拡がっていて、今にも何か恐ろしい怪物が出て来そうな雰囲気。


 とは言え、ここは安全なのは何度かの探索で既に分かっている来栖家チーム。護人や姫香は、ここが初めてのメンバー達に転移ゲートやコイン交換機の説明を始める。

 話し合った結果、『ヘブンズドア』と『グレイス』チームは、この16層から探索をスタートさせるとの事。一方の『シャドウ』と『地獄への片道切符』チームは、転移ゲートを使って6階層まで移動して探索を開始するそう。


 来栖家チームと異世界+土屋チームは、逆に21階層に繰り上げてから探索を始める予定。何しろ34層に用事があるのだ、途中はなるべく端折はしょるに限る。

 それでも15階層位なら、夕方までに到達は可能だろう。そんな目論見もくろみでの21階層スタートだけど、さてどうなる事やら。


「それじゃあ、各チームに『巻貝の通信機』を2個ずつ配っておくかな。分断の罠とか凶悪なのもあるから、チーム同士でも持っておくのがベターだと思う。

 定期連絡は、各チームが回廊に出た瞬間がいいかな……ちなみに、岩国チームのまとめ役は鈴木リーダーでいいのかな?

 こっちは多分、子供の誰かが通信役になるだろうけど」

「岩国チームの安否確認は私が代表で行なって、それをまとめて定期連絡を来栖家チームにした方が良いかな。

 でないとチーム数が多過ぎて、混乱しそうな気がするから」

「それでいいと思ウ、貴重な物を貸してくれてありがとウ、護人リーダー」


 そう几帳面に礼を言うヘンリーは、マッチョながら気遣いは日本人を上回っている気さえする。そして渡された通信機を見てビックリ、それには誰が片割れを持っているか分かるようにネームプレートが付与されていたのだ。

 これは紗良の手仕事で、さすが気配りマスターの来栖家長女である。確かに2つも3つも通信機を持つと、誰からの通信か分からなくなってしまう。


 そんな前準備を全てこなして、ようやく各階層へとワープ魔法陣で散っていく各チーム。来栖家的には、4度目となる“アビス”攻略である。

 しかも今回は、最深層&宝物庫の探索に挑むと言う重荷が課せられているのだ。生半可な覚悟では、手痛いしっぺ返しを受ける可能性が大きい。

 そう家族に告げる護人に、気を引き締めて行くよと姫香の追従。





 ――それに元気に応じる、末妹やペット達なのであった。








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